目玉のURはモスクワですが、クラースヌィイ・カフカースの通常衣装で全部持っていかれた感があります
──中央歴1643年3月6日午前8時、ムー北方海域海中──
冷たい海、体の芯から冷えそうな海中には鋼鉄の体を持つ巨鯨が群れを成して身を潜めていた。
《すごい数…話には聞いていたけど、こんなに数を揃えられるなんて侮れないね》
海中に潜む巨鯨の1体、鉄血潜水艦『U-552』が頭上をゆっくりと通り過ぎるグ帝艦隊のスクリュー音に耳を傾けながら誰ともなく声をかけた。
KAN-SENは訓練次第でメンタルキューブを用いた共鳴交信により通信機を使わずとも言葉を交わす事が出来るのだが、その能力は一般的な通信が不可能な潜水艦KAN-SEN達にとっては必須となっている。
《本当よね。でもかなり鈍足だから待つのも飽きちゃうわ》
U-552の言葉は何処かに、されどそれほど離れていない位置で待機しているであろう重桜潜水空母『伊404』によって拾われた。
《伊404、久しぶりの実戦なんだからこれぐらい余裕のある作戦の方がいいんじゃない?……とは言ってもあたし達も訓練と教導ばかりで実戦は久しぶりなんだけどさ》
つまらなそうな伊404の言葉に応えたのは、ユニオン潜水艦『ヘリング』だ。
彼女の言う通り潜水艦KAN-SEN達は異世界においては彼女達が必要となる海戦が今まで殆ど発生しなかった為、今までは訓練や新たに潜水艦を導入する国家への教導ばかりをやっていたという事もあって大多数が久しぶりの実戦である。
しかし、久しぶりの実戦とは言っても彼女達の士気と練度は一切衰えは見られない。
むしろⅡ型艤装に換装された者はもちろん、それ以外の潜水艦達も大容量蓄電池やシュノーケル、チタン合金製耐圧殻と行った艤装自体の大幅なアップグレードを施した上で潜水艦の主力兵装である魚雷も北方連合製の誘導魚雷SET-65となっている。
《ふ…ふふふふ…これ以上後続の艦は居ないみたい…。仕掛けるならこのタイミングだね……うへへ…》
サディア潜水艦『トリチェリ』の言葉に潜水艦達が一斉に頭上へ意識を向ける。
彼女達が頭上を過ぎ去るグ帝艦隊を見逃していたのは何も大艦隊に圧倒されていた訳では無い。
敵艦隊を背後から刺す事で動揺を誘い、退路を断つ事が彼女達の任務だ。
《よし、じゃあやろうか。連邦海軍の方には私が打電する》
攻撃開始の雰囲気を読み取った鉄血潜水艦『U-47』が水中通信用魔信を用いてモールス信号で同じ海域に潜むロデニウス連邦海軍の潜水艦へ攻撃開始を伝達する。
KAN-SEN同士なら先述の方法で意思疎通が可能だが、通常の人間が運用する通信機との意思疎通は不可能である。
しかし、魔信は電波ではなく大気中・水中に漂う魔素を媒体として伝わるため、電波が届きにくい水中であっても通信が可能なのだ。
とは言っても大気中よりも伝わり難い事に変わりなく、音声通信は途切れ途切れになってしまうため、モールス信号を用いる事となっている。
《魚雷発射。ここからの攻撃、予測出来る?》
重桜潜水艦『伊58』が一番槍を務めた。
発射されたSET-65はスクリューから発生する泡、キャビテーションが弾ける音目掛けて自ら針路を修正しつつ航行し、深度15mを維持したまま目標艦のキャビテーション音が最も大きくなった位置、つまりスクリューの直下を通り過ぎた辺りで信管が作動した。
──ズンッ……ギィ…ギィィィ……ゴボボボ…
海中を揺さぶる轟音が鳴り響き、金属が擦れる不快な音と大きな泡が弾ける音がする。
艦底起爆により極めて短いスパンで激しく上下の力が加わった目標艦ことグ帝の戦時急造空母ランレスは真っ二つに折れ、急速に沈んで行った。
《おお〜!輸送船か何かだろうけど1発で轟沈させられるなんて流石は最新鋭の魚雷♪これなら港に潜入して爆薬を仕掛けなくてもいいね〜♪》
ランレスが沈没し、海底へ沈みゆく際に発生する圧壊音に耳を傾けながらサディア潜水艦『レオナルド・ダ・ヴィンチ』が新兵器の威力に感嘆する。
しかし、味方が沈んで何の反応もしない程グ帝艦隊は無能ではない。
《敵艦隊増速…うわわっ!爆雷!?これじゃ私達は追い付けないよ!》
先ほどまでゆったりと航行していたグ帝艦隊であったが、蜂の巣を突いたような慌てようで増速し、加えて無数の爆雷を投下し始めた。
これに面食らったのは鉄血潜水艦『U-101』である。
如何に彼女達が大改装を受けたとて基礎設計は変わらず、水中速力は10ノットにも満たない。
鈍足の戦時急造空母でも少しばかり増速すればそれだけで振り切られてしまうし、爆雷を投下されれば水中に雑音が鳴り響き敵艦を探知する事も誘導魚雷を使用する事も出来ないし、運が悪ければ爆雷により撃沈されてしまうかもしれない。
しかし、彼女達は知らないがグ帝の爆雷はアズールレーンより低性能な潜水艦…ケイン神王国の潜水艦を想定して設計している為、信管の深度設定が浅く、弾殻の強度も低い。
そのため100m以上深く潜れるUボートや伊号潜水艦達に対しては全くの無力だ。
《こういう時はカヴァラ達の出番だね!皆は後から着いてきて!原子力潜水艦隊、出撃だー!》
もちろん彼女達も手を拱いている訳ではない。
アズールレーン潜水艦隊に所属する一部のユニオン潜水艦はⅡ型艤装に換装され、原子力潜水艦となったKAN-SENが存在する。
そのうちの1人、『カヴァラ』は水中速力25ノットの快速を以て同じく原子力潜水艦となった『アーチャーフィッシュ』『フラッシャー』、グ帝艦隊追跡任務から合流した『デイス』を率いて水深250mという深海域からグ帝艦隊を追尾する。
そしてグ帝艦隊を狙うのは彼女達だけではない。
《連邦海軍潜水艦隊より入電だよ!「我々も追撃に参加する。成長した潜水艦隊の活躍をご覧あれ」だってさ!》
鉄血潜水艦『U-1206』がロデニウス連邦潜水艦から送られてきたモールス信号を平文に直してカヴァラ達に伝達する。
ロデニウス連邦海軍の潜水艦隊はこれまでUボートを元にした『1型潜水艦』を運用していたが、Ⅱ型潜水艦艤装の開発に目処が立った頃から原子力潜水艦の建造を開始しており、先進11ヶ国会議開催時には就役させたのである。
──ゴォォォォォ…
非Ⅱ型艤装潜水艦KAN-SEN達を追い抜いて行く5隻の潜水艦、ロデニウス連邦海軍の『アープ型原子力潜水艦』は北方連合で開発された『671型潜水艦』を元に建造されており、30ノットを超える水中速力に高い静粛性を兼ね備えた現時点では世界最強と呼んで差し支えのない性能だ。
もちろん、魚雷はSET-65誘導魚雷…グ帝の稚拙な対潜戦闘では傷一つ付けられないだろう。
──ズンッ…ズズゥン…
闇雲に降り注ぐ爆雷の轟音の中、原子力潜水艦達は攻撃の機会を窺いながら追尾を続行するのだった。
拙作は戦後艦の中に名前を引き継いだ艦が居ればⅡ型艤装という形で出して居るんですが、そうなるとモスクワが中々に縁起が悪い感じになるんですよねぇ…