──中央歴1643年3月6日午前11時、ムー北方海域上空──
「エンタープライズ、エンゲージ。フォックス・ワン」
──バシュゥゥゥゥゥゥゥッ!
F-4Kに搭乗し発艦したエンタープライズは自艦のレーダーと潜水艦隊からの情報を元に割り出した敵艦隊の位置へと急行し、自機のレーダーで敵機を捉えAIM-7による攻撃を開始した。
レーダーに映る敵機との距離は25km…目視では捕捉が難しい距離だが、レーダーなら問題無い。
しかも現在はエンタープライズより発艦したEA-6からなる部隊VAQ-136がグ帝のレーダー及び通信周波数をピンポイントで妨害しており、グ帝側はエンタープライズ達には気付いていない事だろう。
「……ターゲット、ダウン。ネクストターゲット、ロックオン」
空戦と言えばこれまでは互いを目視できる距離で激しい機動を繰り返しながら機銃を撃ち合うというのがセオリーだが、空対空ミサイル…特にAIM-7のような中射程空対空ミサイルの実用化により空戦スタイルはレーダーで捕捉し、ミサイルを発射するというものへと様変わりした。
「エンタープライズ、フォックス・ワン」
──バシュゥゥゥゥゥゥゥッ!
始めにロックオンした敵機がレーダースコープ上から消えた事を確認すると、再びAIM-7を放つ。
後はその繰り返しだ。
胴体下半埋め込み式パイロンに4発、主翼下に2発のAIM-7を装備したエンタープライズが駆るF-4Kは目視距離外から6機の敵機を叩き落とした。
おそらく敵機はレーダー受信警戒装置なぞ装備していないだろう。
そうなれば敵パイロットは狙われている事も分からず、マッハ3で突っ込み近接信管を作動させたAIM-7の破片によってズタズタに引き裂かれた筈だ。
「……ふぅ、何処となく味気無いな」
ユニオンの英雄であるエンタープライズだが、戦いが好きな訳ではない。
しかし、骨身を削るようなドッグファイトが楽しくなかったかと言えばそれは嘘になるだろう。
既にレーダーに映る敵機は大幅に減っており、がむしゃらにエンタープライズ達の方へ突っ込んで来ている。
目を凝らせばプロペラが陽光を反射してキラキラと光っている事が確認出来る辺り、敵も此方を視認する事が出来たのだろう。
「来たか…よし、各機。敵航空機が此方に気付いたようだ。これからは格闘戦だ。敵味方入り乱れての格闘戦では性能差を過信する事は禁物だぞ」
《グレイゴースト、誰にモノを言っているんだ?格闘戦ともなれば我ら重桜の十八番だぞ》
増槽を捨て身軽となったエンタープライズ機の真横に並んだのは加賀から飛び立ち、加賀自身が操縦する艦載機…その姿はF-8に似ているが、いくつかの差異がある。
F-8よりも鋭く前に突き出したレドームに、インテークの下端も前方に突き出し、胴体下部には大面積のベントラルフィンが設けられていた。
これこそF-8の大規模改修機『F-8V スーパークルセイダー』だ。
本機は従来の格闘戦を主軸としたF-8のコンセプトそのままに中距離空対空ミサイルの運用能力を持たせた物であり、20mmバルカン砲を内蔵し格闘戦に対応している他、スペイターボファンエンジンから抽出した圧縮空気を主翼上面に噴き出す事により離着艦性能を向上させた事で加賀のような非Ⅱ型艤装空母でも無理なく運用出来るのだ。
「確かにそうだな。こういうのを重桜では…『馬の耳に念仏』と言うんだったか?」
《それを言うなら『釈迦に説法』だろう…まあ今はいい。使い慣れんミサイルを使って気疲れしていたところだ。思う存分暴れさせてもらうぞ》
──ゴォォォォォッ!
アフターバーナーを点火し増速した加賀搭乗機と彼女が管制する飛行隊は向かってくるグ帝の戦闘機、残存した若干数のアンタレスとアンタレス改の編隊とも言うのも烏滸がましい集団へと突撃した。
「……流石は一航戦だな」
加賀の活躍は正に鎧袖一触と呼ぶに相応しいものであり、エンタープライズは思わず苦笑してしまった。
目視でもレーダースコープ上からも敵機の姿が次々と消え、ものの10分程で最も大きな集団は雲散霧消してしまった。
しかし、これはある意味で当然の事だ。
もちろん性能差はあるが、ジャミングによるレーダー・通信を封じられたグ帝側に対して加賀側はジャミングをかけられていない帯域を用いたレーダーを用い、そもそも空母KAN-SENである彼女は艦載機を文字通り手足のように操る事が出来るため通信の必要もない。
「おっと…」
──ゴォォォォォッ!…ヴゥゥゥッ!
僅かに生き残った敵戦闘機がエンタープライズ機を狙って来たが、彼女は吶喊しながら銃撃する敵機を軽々と回避すると胴体下部に吊り下げたガンポッドにより危なげなく撃墜した。
《32戦攻隊、攻撃開始!》
エンタープライズ達によりグ帝艦隊上空の制空権は殆ど連合軍側のものとなったタイミングでムーの32戦攻隊のアクアホークがグ帝艦隊先鋒の上空へ突入、主翼に懸架したウォールアイ誘導爆弾を投下した。
──ドンッ!ドンッ!ドンッ!
「流石ムーの精鋭だ。既に敵艦隊は壊滅状態だな」
敵艦隊は命中率が低い水平爆撃と見て油断し、回避運動を行っていなかったせいで投下された爆撃の殆どが直撃し、文字通り壊滅状態となっていた。
特に一際大きな空母…捕虜への尋問でペガスス級と呼ばれていると判明した大型空母はその広大な飛行甲板のほぼど真ん中に被弾し、破孔から炎と黒煙を吐いている。
これでは空母としては死んだも同然、もはや脅威とはならないだろう。
因みに都合良く飛行甲板のど真ん中にウォールアイが着弾しているが、これには理由がある。
というのもグ帝艦隊は出撃前に士気高揚の為に主力艦の甲板にグ帝国旗の赤丸に白十字を描いていたのだが、これが仇となった。
ウォールアイはTVカメラによりコントラストの違いを捉えて誘導する為、グ帝国旗の色合いは正に"的"として働いてしまったのである。
《こちらグラーフ・ツェッペリン。これより後方の敵艦隊を攻撃する》
補給の為に引き返す32戦攻隊と入れ替わるようにグラーフ・ツェッペリン所属のA-7部隊がより後方に位置する敵艦隊…主力艦隊と思われる大艦隊が見えるが、A-7は主翼に懸架した大型のロケット弾らしき兵装を発射する。
発射された兵装は白煙の尾を引きながら飛翔、そのまま吸い込まれるように古びた巡洋艦に直撃、艦上に大火災を起こさせた。
「演習で使ったが中々の威力だな」
今回初の実戦投入となった空対艦ミサイル『RB-04』はその威力を敵艦隊の各所で発揮する事となる。
──ドゴォォォォンッ!ドンッ!ドンッ!
A-7の編隊から次々と発射されるRB-04はグ帝艦隊をまるで玉ねぎの皮を剥くように外側から瓦解させて行く。
「敵艦隊への攻撃は順調だが…あれは…」
グ帝艦隊を外縁から攻撃するアズールレーン航空隊だが、グ帝艦隊外縁は旧式艦艇が多くを占めており、中心部に近い主力艦隊に属する空母からは次々と艦載機が発艦しているのだが、どうにも違和感がある。
見るに艦載機の殆どが爆撃機や雷撃機であり、それらを守るための戦闘機は数少ない。
一見すると護衛が居ないこれらはカモに思えるが、如何せん数が多い。
攻撃を終えたA-7も迎撃に参加しているが、1000機に届きそうな数は脅威だ。
「これでは迎撃能力が飽和してしまう…それが狙いか!此方エンタープライズ!指揮官、大量の艦載機が発艦した!私達だけじゃ迎撃しきれない!」
《了解。こっちはこっちでどうにかする。そっちは出来る事をやってくれればいい》
「了解!」
指揮官の指示を仰いだエンタープライズは艦隊の負担を可能な限り減らすべく、大量の敵艦載機へと向って突撃するのだった。
この前インフルエンザになってから鼻の奥にずっと違和感があって本当にモヤモヤするんですよねぇ…