流石に20話は使わないと思いますが…
──中央歴1643年3月6日午後3時、ムー北方海域──
「距離方位算出…空母か、よかろう。クレオパトラ」
《はい、ライオン様。お呼びでしょうか》
グ帝艦載機による決死の空襲もピークが過ぎだ頃、アズールレーン艦隊の一角でロイヤル最強と名高い戦艦『ライオン』が自身の側仕えであるメイド隊所属の『クレオパトラ』へ呼びかけた。
「敵の空母を捉えた。座標を共有する」
《かしこまりました。では私の対艦ミサイルで攻撃を致します》
本作戦において戦艦は艦隊決戦の切り札ではなく、搭載した大型かつ高出力のレーダーを用いた索敵と多数装備した対空兵装による艦隊防空の中核としての役割を担っている。
もちろん、自慢の巨砲を振るう機会が無くなってしまった事は少なからず不満だが、少なくとも彼女達は不満があろうが自身に与えられた責務を全うする事に全力を傾けている。
《ミサイル発射管、よし。対艦ミサイル、発射致します》
──バシュゥゥゥゥゥゥゥッ!
クレオパトラの舷側、三連装魚雷発射管に代えて搭載された対艦ミサイル発射管から白煙の尾を引きながら対艦ミサイルが発射される。
クレオパトラ達、巡洋艦級のKAN-SENに装備されたのは北方連合製艦対艦ミサイル『P-70』だ。
本機は本来は潜水艦から水上艦艇を攻撃する為に開発された物であるが、水上艦艇からも発射出来るように改良された結果、こうして巡洋艦以上の艦船に装備される事となったのである。
そんなP-70の強みはなんと言ってもその威力だ。
ミサイル艇や駆逐艦に搭載されているP-15の弾頭は約450kgとなっているが、P-70の弾頭はなんと1トンと倍増している。
これにより戦艦や大型空母にも致命傷を与える事が出来、更に射程は最大で70kmと戦艦主砲のそれを大きく上回る。
「……命中だ。敵艦隊上空で観測中の加賀も標的が爆発炎上していると言っている」
《いえ、これも索敵を行って下さったライオン様のご助力あってのこそです》
敵艦隊との距離は60kmを切った辺りだが、この距離でも対艦ミサイルは恙無く命中し、敵空母を爆発炎上せしめた。
しかし、ライオンはどうも腑に落ちない。
戦艦や巡洋艦、駆逐艦が突撃するならともかく、空母まで接近しているというのはどう考えても合理的ではない。
故にそれを解決する為に、指揮官へと通信を繋げた。
「こちらライオンだ。指揮官よ、先ほど敵空母らしい反応に対して対艦ミサイルを発射、直撃させたのだが…敵空母が戦艦達と共にこちらに突撃しているのは何故だと思う?」
《ライオン、それは妙な話だな。んー……俺が思うに少しでも対空砲火を濃密にしたいのかもしれないな》
「それは分かるが…そうすれば空母が損害を受け、艦載機を収容出来なくなる恐れがある。それを加味すればいくら防空火力が欲しいと言っても…」
《おそらく連中は艦載機が生き残るとは考えていない》
「は?」
指揮官の返答にライオンは怪訝な表情を浮かべつつも、レーダー情報を僚艦に共有してモニターを操作し攻撃を指示する。
《連中が此方に差し向けてきた艦載機は殆どが艦爆と艦攻だった。おそらくは此方の航空戦力、対空火器を相当な脅威と見なしたんだろう》
「馬鹿な!?それではパイロットを死にに行かせるようなものではないか!」
《その通りだ。だが、結果として此方は駆逐艦と空母を失い、損傷を受けた艦も少なくない。最新鋭のレーダーや対空火器を装備した俺達が、だぞ?おそらく敵の司令官は大損害を前提として、此方の処理能力を上回る空襲を仕掛ける事で俺達を消耗させる腹積もりだ。並大抵の胆力じゃないな》
「……それでは今後の戦略に響く」
《それも承知の上だろうさ。だが、それを受け入れてでも俺達を潰したいんだろう。どれだけ犠牲を払おうが、俺達を潰せさえすれば少なくともムー大陸を征服するぐらいは出来るだろう。何せムー支援の為には海上輸送を盤石とする必要がある…俺達が第三文明圏以東の防衛を優先せざるを得ない状況になれば、ムーを泥沼の陸戦に引き込んで消耗戦を強いて無理矢理勝ちをもぎ取りに来るだろうな》
「度し難い」
ライオンはロイヤルの中でも最上級の地位にあり、為政者としての視点を持ち合わせている。
故に如何に国家の利益の為とは言っても膨大な人命の死を前提とした作戦を実行するグ帝に対する強い嫌悪感を抱いた。
《そんな連中がムーを支配してみろ。ムー人は連中の肉壁に使われ、俺達が支援した軍事技術を利用して攻撃してくるだろう。そうならん為にも連中はここで俺達に牙を剥けないようにするんだ》
「承知した、指揮官。そうならない為にも全力を果たそうではないか」
《心強い限りだ》
指揮官の言葉にライオンは一層気を引き締め、モニターへと相対する。
既に敵機は大きく数を減らし、僅かな生き残りも撤退するような動きを見せていた。
「もう上を気にする必要は無いな。では…噛み千切ってやろう」
眼光を鋭くしたライオンは、その名に恥じない闘志と牙を覗かせるのだった。
──同日、同海域──
「……」
エンタープライズの艦橋で指揮官はモニターを監視しながら考え込んでいた。
(敵艦載機は殆ど撃墜し、生き残りも撤退を始めている。それに此方の艦載機による空襲と対艦ミサイルで敵艦隊はかなり数を減らした。半数…ってのは言い過ぎだが、少なくとも3割は無力化した事に違いない。だが…)
エンタープライズのレーダー、そして散発的な攻撃を加える味方艦載機からの観測情報から敵艦隊は出血をものともせずに…それこそ空母までも突撃を敢行している。
普通ならここまで一方的な被害を受けたとなれば、士気が崩壊し撤退を考える頃合いだが、その気配は無い。
(よほど敵の司令官は信頼されているようだな。……厄介この上ない。これじゃあ秘密兵器を使うタイミングが掴めん)
眉根を顰めながら指揮官は艦長席に深々と座る。
敵艦隊の数は未だ優勢であり、このまま艦隊決戦ともなれば不測の事態も発生するだろう。
特に懸念なのがムー艦隊である。
(確かにムーは強くなった…だがそんなムーが、俺達も加勢した上で大打撃を受けたとなれば世論に大きな衝撃があるだろう。下手をすればグ帝のレイフォル支配を容認する事と引き換えに停戦する事になるかもな)
指揮官が考える通りの事態となれば面倒な事この上無い。
ムーは海軍戦力回復の為に多額の予算を必要とし、その皺寄せを受けて陸軍・空軍の装備更新が滞る恐れがある。
そうなればムー防衛が精一杯となり、グ帝をムー大陸から追い出すという最低限の戦略目標は達成不可能となるだろう。
「いつだ…いつ切り札を切る…」
被害をものともせずに迫りくる敵艦隊の反応を睨みつつ、指揮官は思考を巡らせるのであった。
次回はいよいよ艦隊決戦に突入出来る…と思います、多分