シェルブールにアローマンシュにラントレピード…
ラントレピード、中々にフェチな部分を攻めてきましたね
──中央歴1643年3月6日午後9時、ムー北方海域──
夜空に眩く輝く照明弾の光とその下で全速力で向かってくるグ帝艦隊の姿を重桜戦艦『武蔵』は金色の鋭い眼光で見据え、指揮官が座乗するエンタープライズへと通信を繋げた。
「指揮官、敵艦隊が照明弾を打ち上げながら此方に接近しているわ。汝が望むのなら撃ち倒してみせるわよ?」
重桜戦艦としてはもちろん、KAN-SEN中でも最強格の戦艦として彼女は敵艦隊を殲滅する気満々だ。
《出来るのか?》
「愚問ね。この武蔵の力、指揮官は味わった事があるでしょう」
《確かにな》
通信越しでも指揮官が苦笑している事が分かる。
というのもアズールレーンとレッドアクシズによる抗争時、指揮官率いる艦隊が武蔵率いる艦隊に出会し、指揮官が座乗する指揮艦に武蔵の砲撃が直撃した事があるのだ。
それにより指揮艦は沈没し、以後指揮官はKAN-SENの艤装に座乗するようになったのである。
《だがお前一人じゃ流石に無理だろう。武蔵、迎撃艦隊の旗艦を任せた。僚艦は…今送った》
指揮官から送信されたリストを空中投影ディスプレイに映し出し、確認する武蔵。
「ほう、これは…」
リストにはユニオン戦艦筆頭のニュージャージーや大和型に匹敵する主砲の持ち主であるジョージアを始めとして、ロイヤルのライオンやプリマス、鉄血のウルリッヒ・フォン・フッテンやゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン等々…錚々たる面子が揃っており、それだけで大国の海軍を殲滅出来るであろう戦力だ。
「これ程の戦力を任せてくれるなんてよほど妾を買っているようね」
《当然だろ?かの大和型を見縊る奴なんかうちには居ないさ。だろ?》
《そうだな、指揮官。彼女が艦隊を率いるのなら私も心強いな》
航空隊の大半を撤収させたエンタープライズが近くに居るらしく、指揮官が同意を求める言葉に彼女がそう応える。
ユニオン屈指の武勲艦であるエンタープライズから評価される事自体は悪い気はしないが、上官として敬愛し、男として恋慕している指揮官が自分以外と楽しげに話しているというのは少々面白くない。
そこで武蔵は一計を案じた。
「それはそうと指揮官、こういった大きな作戦の後は持ち回りで長期間の休暇が与えられる筈よね?」
《あぁ、今回も何事も無ければそのつもりだが…》
「なら指揮官、汝の休暇に合わせて妾も休暇を取るわ。いいわよね?」
《それは…あ、あぁ、大丈夫だ》
非常に困ったような指揮官の返答だが、彼の事だからリーム王国攻撃に参加した北連艦達とも同じ約束をしてしまっていたのだろう。
返答に間があったのは予定を確認し、空いた時間を捻出していたらしい。
「…休暇の全てを汝と過ごす事までは求めないわ」
《そ、そうか?じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ》
何処か安心したような指揮官の言葉に今度は武蔵が苦笑した。
しかし、1日か2日程度だろうが指揮官と休暇を過ごせるとなれば俄然気合いも入るというものだ。
「では参ろうか…迎撃艦隊旗艦武蔵、ここにあり!怯みも焦りも無用!」
──ボォォォォォォォッ!
高らかに汽笛を鳴らし、向かってくるグ帝艦隊と相対する武蔵。
それに呼応するように彼女の僚艦となったKAN-SEN達が集結し、艦首の向きを揃えた。
《武蔵ぃ〜、ハニーとデートの約束をしたみたいね?抜け駆けするなんて水臭いじゃない》
「早い者勝ちよ。汝も指揮官と逢引したいのなら今の内から声をかけてはどうかしら?」
ニュージャージーからの冷やかしにそう応える武蔵であるが、ニュージャージーはあっけらかんとした様子でこう返した。
《私なら作戦開始直後にはデートの約束を済ませてるわよ♪私と同じタイミングでハニーに声をかけてた子もいっぱい居るから武蔵はかなり後の方じゃないかしら?》
「……手が早すぎるわよ」
《兵は神速を尊ぶ、って言うじゃない♪》
《そうだぞ、武蔵よ。それにロイヤルにはこんな諺がある。"恋と戦争は手段を選ぶな"と》
2人のやり取りに割り込んだライオンがどこか得意げにそう述べる。
因みにライオンを始めとしたロイヤルKAN-SEN達はグ帝の動きを察知し、本作戦を見越して一ヶ月前には指揮官の予定を押さえていた。
「…ふぅ、汝らの耳聡さはよく分かったわ。だけど今は敵を撃ち倒す事が先よ」
《よろしくてよ。戦場の作法を見せて差し上げましょう》
ロイヤルの諜報力に舌を巻きつつも気合を入れ直し、僚艦にそう告げた武蔵。
それに応えるのは、やや遅れて戦列に加わった鉄血戦艦『ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』であった。
《んお"ぉ"…こんな規模の夜戦なんて空前絶後…♡新しい作品のモチーフにもってこいじゃない♪》
《さっさと終わらせよう!そして夜のおやつの時間にしないと!》
《進みましょう。私たちは勝てますから!》
戦列に加わったKAN-SEN達から次々と届く戦意に満ちた通信に武蔵は満足そうに頷き、今一度照明弾に照らされたグ帝艦隊を見据える。
距離は40kmは切って間もなく30km…互いに接近しているため、直ぐに近接戦闘となるだろう。
そうなる前に可能な限り敵を削っておきたい。
「主砲用意!」
武蔵の指示を受け、戦艦KAN-SEN達が主砲をグ帝艦隊に向ける。
威力の大小はあれど、射程自体はそれ程変わりない。
この距離なら十分に届くはずだ。
「撃てぇぇ!」
──ドッ……!!
それは轟音すらも超越した砲声…20隻近い戦艦による一斉射は海上を発砲炎で赤く照らし、一瞬ながら海面を凹ませる程の衝撃波を発生させた。
しかし、そんな派手な一斉射は敵に居場所を知らせているようなものだ。
「…来たわね。敵艦隊発砲、各自回避を!」
グ帝艦隊からも特大の発砲炎が迸り、砲弾が闇夜を斬り裂いて飛翔する。
流石の武蔵でも直撃は避けたい為、彼女は増速しながら舵を右に切った。
──ズゥゥゥゥゥン……
海中を通じて響く轟音、そして発砲炎とは違う赤黒い爆炎。
おそらくは誰かの砲弾が敵艦隊の何かしらに直撃したのだろうが、それらを確かめる余裕は無い。
──ヒュゥゥゥゥゥ…
「近いっ」
砲弾の落下音から自身の近くに着弾すると判断した武蔵は身構えつつ上空に目を向けた。
──ドゴォォォォンッ!!
「っ!?」
直撃こそしなかったが、武蔵の右舷側に幾つもの巨大な水柱が上がり、艤装が大きく揺れる。
武蔵の6万トン超の巨大な艤装をこれ程揺さぶる砲撃…それは彼女の姉と以前行った演習でも味わった事がない衝撃であった。
「まさか…グレードアトラスター級を超える戦艦が!?全艦へ、敵艦隊に未確認の新鋭艦が存在する可能性がある!おそらくは妾の主砲を超える威力だ!」
武蔵の主砲…つまり46cm砲を超える主砲を備えた未知の敵戦艦の存在に、KAN-SEN達を始めとした世界連合艦隊の間に緊張が走ったのだった。
執筆に使ってるスマホを新調したのですが、サイズが変わったり処理能力が高くなったりしてまだ慣れません