331.超空の巨星【1】から始まって今までですから…1年2ヶ月!?
──中央歴1643年3月7日午前10時、ムー北方海域──
日も随分と高くなった頃、グレードアトラスターは異世界国家連合艦隊へと単艦で向かっていた。
当初はカバルの言葉に従う形で深夜に向かうとしていたのだが、異世界国家連合艦隊の司令官からお互いに漂流者や負傷者の救助を行なってから会談を提案された為、こんな時間になったのだ。
「……随分と理性的な相手ですね」
全ての砲を最大仰角とし、10ノットという低速で航行した上で戦時外交旗を掲げたグレードアトラスターの艦内でラクスタルがポツリと呟いた。
異世界国家連合艦隊の司令官の配慮により漂流者や重傷者を死の淵から救えたばかりか、戦死者も弔う事が出来た。
これは兵の士気や艦内の衛生環境的にも、何よりも人道の観点から見ても非常にありがたいものである。
「うむ、やはり異世界の人々は我々が思うような野蛮人ではないようだな」
ゆっくりと航行する艦上でカイザルはどこかやるせない様子で応えた。
バルチスタ海戦での一件から異世界国家との戦いに疑問を覚えていたカイザルだが、こんなにも話が分かる人々を相手に戦い、あまつさえ結果として多くの味方を死なせてしまった事は彼の心に影を落としていた。
もし、帝国がパガンダ王国の一件で異世界人を野蛮人と決めつける事なく、対話を選んでいればこんな事にはならなかっただろう。
──バタバタバタバタ……
「ん?あれは…」
「司令長官、あれは我々がフォーク海峡で見たオートジャイロに酷似した航空機です。正確にはオートジャイロではないのかもしれませんが…」
空気を叩くような音と共に飛来した異形の航空機。
それは空中で静止すると、グレードアトラスターへ向けて通信を始めた。
《こちらアズールレーン海軍所属のサラトガよ。確認の為に貴艦の所属と目的を明確にしてもらえるかしら?》
「女性!?しかも若…いや、かなり幼いぞ!」
無線機から響いた声にラクスタルが面食らう。
女性兵士は帝国にも少ないながらも存在するが、声からしてかなり若いというより幼い…10代前半のように思える。
異世界国家は少年兵まで動員しているのか…と思い始めていたラクスタル達グレードアトラスターの乗組員達だったが、呆れたようなカイザルの言葉でその動揺は直ぐに収まった。
「落ち着け。この世界には長命なエルフという種族が居るではないか。おそらく彼女もエルフなのだろう」
「な、なるほど…」
納得するラクスタルを横目に、カイザルは通信士から無線機のマイクを受け取るとサラトガと名乗った女性兵士に応答した。
「こちら、グラ・バルカス帝国海軍所属のカイザル・ローランド大将である。本艦、グレードアトラスターは現在貴軍の司令官との会談の為にそちらに向かっている最中だ」
《カイザル大将、確認出来たわ。そのまま真っ直ぐ進んでちょうだい。会談の場は此方の空母、エンタープライズで行う予定だけど良かったかしら?》
「ああ、構わない。そちらの空母に向かう際には此方からボートを出せば良いか?」
《それに関してはこのヘリコプター…えっと…今あなた達から見えてるこの航空機で迎えに来るわ。貴艦の後部甲板に着艦したいけど、可能かしら?》
「後部甲板に?」
グレードアトラスターの後部甲板は観測用の水上機を運用する為に火薬式カタパルトが埋め込まれた平坦なものとなっている。
しかし、如何に平坦かつそれなりのスペースがあるとはいえ、航空機が着艦するには狭過ぎる。
「着艦出来るのなら構わないが…」
《分かったわ。針路、速度をそのままに。後部甲板に人を近付けないようにして》
「了解した」
サラトガとのやり取りを終えたカイザルはラクスタルに目配せし、それを受けたラクスタルは直ぐに指示を出した。
「後部上甲板に航空機が着艦する!付近に留まっている者は退避せよ!」
「ラクスタル君、あちらの空母には私一人で向かうつもりだ。大丈夫だろうがその間、変な気は起こさないでくれよ」
「もちろんですとも。司令長官のお覚悟を無駄にせぬよう、艦内の規律は保ってみせます」
「うむ」
──バタバタバタバタ…
頼もしいラクスタルの言葉を受けて頷いたカイザルは身なりを整えると、単身で後部甲板へと向かって行く。
「カイザル司令」
「司令、どうかご無事で」
「カバル殿下をどうか…」
道中、乗組員達がカイザルとカバルの無事を祈るように敬礼し見送る。
それに対しカイザルは無言で敬礼を返すと、堂々と胸を張って歩く。
今の彼は事実上の敗戦の将である。
しかしだからと言って項垂れていては命を懸けて戦った将兵に対して無礼だ。
故にせめて堂々と、そして全ての責任は自分にある事を示す為に一人で会談の場に向かうのである。
──バタバタバタバタ!
「これは…!」
後部甲板、そのカタパルト区画の手前まで来たカイザルは着艦しようとしているヘリコプターなる航空機を見て目を見開いた。
胴体の直上で巨大なプロペラを高速で回転させているそれは、ゆっくりと垂直に降下している。
墜落ではない、明らかに制御された垂直降下…それは、ヘリコプターというものが垂直離着陸を可能としている事を何よりも如実にしめしていた。
「なんと…ラクスタル君から聞いてはいたが、実際に見ると凄まじいな。どんな出力のエンジンを搭載しているのか想像も出来ん」
帝国でも一時期、垂直離着陸機の研究を行なっていた事がある。
しかし、実現には継続的に2000馬力を出せる軽量エンジンと、これまでとは違った機体形状になると判明した為、圧倒的な軍事力を背景に空母と飛行場を整備した方が早いと判断されて中止となったのだ。
だがこうやって実際に目にすると、艦隊内での軽輸送や運用に手間がかかる水上機を代替する観測機として運用出来るだろう。
そんな事を考えていたカイザルの目の前でヘリコプターことUH-1は危なげなく着艦し、操縦席から紺色の軍服を着たピンク色の髪を持つ2人の女性が姿を現した。
「初めまして。アズールレーン所属のサラトガよ。あなたがカイザル大将?」
「うむ、貴官がサラトガ殿か」
実際にサラトガを目の当たりにしたカイザルは内心でかなり驚いた。
想像よりもかなり若く、外見もエルフのものとは違う…下手をすればカイザル自身にも彼女程の孫が居てもおかしくはない。
「えぇ、よろしく。それでこっちが…」
「初めまして。サラトガの姉のレキシントンと申します」
「姉妹で軍役に就いているとは…こちらこそよろしく頼む」
レキシントンと名乗った女性はサラトガの姉と言っている通り、サラトガよりも成熟した体つきではあるが、それでも若い。
軍役に就くよりも社交界の花として愛嬌を振りまいている方が似合いそうである。
「それでは早速会談場所に向かうと思うのですが…お一人でよろしかったのでしょうか?」
「ああ、少なくとも貴官らは私が一人きりだとしても態度を覆すような真似はしない。そう信用しているからだ」
「話が出来そうで助かったわ。近衛兵団みたいに高圧的でもないし」
レキシントンからの問いかけにそう応えたカイザルへ、サラトガが感心したように告げる。
「ははは、そう見えるかね。……ここだけの話、連中と同じに見られていなくて少し嬉しいな」
「なにそれ」
小声で冗談混じりに応えたカイザルに、サラトガが笑いかける。
そうやって幾分か場が和んだのを見計らって、レキシントンがカイザルに手を差し伸べた。
「それでは行きましょうか。指揮官がお待ちです」
「うむ、よろしく頼む」
差し伸べられた手を取り、UH-1へと乗り込むカイザル。
程なくして垂直に飛び上がった本機はサラトガとレキシントン、驚くカイザルを乗せ、グレードアトラスターの乗組員が帽振れで見送るのを眼下に、エンタープライズへと向かった。
今回のイベントのプリマスの着せ替え、絶対買ったほうがいいですよ
パツンッと弾けますから