──中央暦1639年9月25日午後3時、フェン王国西側海域──
「提督、やはりワイバーンロード部隊との連絡はつきません。」
フェン王国に向かうパーパルディア皇国国家監察軍東洋艦隊の旗艦『ヤハタ』の艦上で、艦隊提督ポクトアールは艦隊から報告を受けていた。
「…何が起きたと思う?」
情報を頭の中で整理しながら艦長に問いかけた。
「局所的な突風…例えば竜巻等に巻き込まれた可能性があります。現に、クーズに駐留していたワイバーンロード部隊が竜巻に巻き込まれて甚大な被害を被った事故がありました。」
「だが、魔信も入れられずに全滅とは考えにくい。」
「私もそう思いますが…それ意外に考えられません。ガハラ神国の風竜に迎撃された可能性もありますが…」
「風竜総出でもなければ、短時間で全滅はあり得ないな。」
「はい、ですので災害に巻き込まれた可能性が…」
艦長が言いかけた瞬間、ポクトアールがもう一つの可能性を口にした。
「艦長、私はフェン王国の手によってワイバーンロード部隊が殲滅された…そう考えている。」
ポクトアールは慎重な男だった。
常に最悪を想定し、万全の状態で決戦に挑む。だが、力に酔っているパーパルディア皇国の中でそれは余り理解されなかった。
"臆病者"、それがポクトアールに貼られたレッテルだった。本来は皇国海軍の提督になれる程の能力があるのだが、そのような評価であるため左遷のような形で監察軍で提督をしていたのだった。
「フェン王国が…ですか?」
艦長が信じられないような表情で言葉を返す。
ポクトアールは頷き、言葉を続ける。
「可能性は低いが…な。もしや、何やら隠し持っているかもしれん。」
そう言って水平線を睨んでいると、通信士が二人に駆け寄り報告を伝えた。
「提督、艦長。フェン王国からの魔信が…」
「魔信…?フェン王国に魔信は無いはず…」
艦長が疑問に思っていると、ポクトアールが通信士が持つ魔信を手に取った。
「こちら、パーパルディア皇国国家監察軍東洋艦隊提督、ポクトアールだ。」
『こちら、フェン王国海軍提督クシラだ。貴艦隊は我が国の領海を侵犯している。即刻引き返せ。』
「…ワイバーンロード部隊を撃墜したのは貴様らか?」
ポクトアールは自身が考えた可能性の裏付けをとるべく、そう問いかけた。
『そうだ。貴国のワイバーンロード20騎は全滅した。レクマイアという名の竜騎士一名以外は戦死した。』
レクマイア…その名前には覚えがあった。
確か、ワイバーンロード部隊の部隊長だったはずだ。
そのレクマイア以外は戦死…そして、レクマイアの名を知っているとなれば彼は捕虜になったのだろう。
隣で目を見開いている艦長に目配せし、警戒をするように言外に伝える。
「ならば分かるだろう。皇国に土を付けた者を前にして、尻尾を巻いて逃げる事なぞ出来る訳がない。」
『では、引き返す意思は無いのだな?』
「そうだ。これ以上の問答は不要だ。」
『……後悔するぞ。』
クシラの言葉を最後に、魔信が切られた。
やけに強気なクシラの言葉、ワイバーンロード部隊を殲滅したらしい事。勿論、単なる虚勢である可能性もある。
だが、ワイバーンロード部隊との連絡がつかない事は事実だ。
何か嫌な予感がする…そう、ポクトアールが思った時だ。
「前方、艦影確認!……フェン王国旗を確認!数、5隻!」
「来たか!」
マスト上の見張り員の声が響く。
艦長がムーから輸入したという双眼鏡で前方を確認する。
それに習い、ポクトアールも双眼鏡を覗く。
「なんだ…あれは…」
ポクトアールが知るフェンの船は角ばった形で、接舷からの白兵戦を想定したものだ。
だが、白地に黒いラインのシンプルなデザインのフェン王国旗をマストに掲げた船は全く違っていた。
黒く塗られたスマートな船体に、聳え立った三本のマストはパーパルディア皇国の戦列艦のようだ。
「フリゲートだと……」
艦長がポツリと呟いた。
そう、パーパルディア皇国にもフリゲートは存在する。戦列艦よりも速く、小回りが効くが火力は低い。故に、属領統治軍や沿岸警備に使用されている程度だ。
「見張り!敵艦隊までの距離は!?」
「凡そ3km!」
ポクトアールは疑問に思った。
双眼鏡越しに見る敵艦隊は接近するでもなく、此方に対して右舷を見せるような単縦陣…戦列艦が攻撃するかのような陣形を組んでいる。
こんな文明圏外中の文明圏外に魔導砲があるとは思えない。なまじ魔導砲を装備していたとしても、3kmも離れていては当たる筈もない。
そうポクトアールが考えていた時だった。
──ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!…バギッ!ズゥゥン!
艦隊の正面に幾つもの水柱が上がり、先頭を航行していた戦列艦『パオス』が大量の木片を飛び散らせながら爆散した。
──同日、フェン王国海軍『剣神二世』──
「命中!繰り返す、命中!敵戦列艦、轟沈!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
見張り員の言葉に艦上は沸き立っていた。
列強国の軍艦を、文明圏外国である自分たちが撃沈した。これは間違い無く、歴史に残る偉業だ。
だが、提督であるクシラはそれを諌めるように声を大にする。
「浮かれるでない!相手は列強国、一隻を沈めたからと言っても油断は出来ぬ!次の斉射の準備をせよ!」
「「「承知!!」」」
クシラの言葉に兵士達が今一度、気を引き締める。
そんな甲板の下、ライフル砲が設置されている砲甲板では兵士達が次弾を装填していた。
砲尾の鎖栓を開き、空になった薬莢を取り出し新たな砲弾を装填し、鎖栓を閉める。
そうして、縦長に開けられた砲門を使って仰角を付ける。一斉射目は先頭の戦列艦に直撃したとはいえ、やや手前に着弾した。だから、仰角を付けて遠くを狙う。
「装填完了!」
各砲の操作要員が口々に装填が完了した事を報告する。
『青剣、装填完了!』
『黄剣、装填完了!いつでもいけます!』
『赤剣、装填完了。』
『緑剣、装填…完了!』
各艦からの報告が上がる。
砲術長が魔信でクシラに報告する。
「クシラ提督、第二斉射いつでもいけます!」
『よし、では……撃てぇぇぇぇい!』
──ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
発砲時に発生する衝撃波による弾道の影響を避ける為に、一拍ずつずらされて76mmライフル砲が発砲された。
──戦列艦パオス轟沈より10分後、パーパルディア皇国国家監察軍東洋艦隊旗艦『ヤハタ』艦上──
「『ガリアス』轟沈!」
「『マミズ』、浸水により傾斜拡大!転覆します!」
──ドォォォン!
「『クマシロ』轟沈!」
通信士が悲鳴のような報告を次々と上げる。
22隻の戦列艦による艦長は既に15隻が撃沈、4隻が航行不能となっていた。
「ばっ……馬鹿な!奴らも魔導砲を!?しかも、我々のものより射程も装填速度も上回るというのか!」
艦長が驚愕の声を上げる。
パーパルディア皇国が持つ魔導砲は前装式の滑腔砲であり、装填するにはいちいち砲の前に回らねばならず、砲弾にジャイロ回転が加わっていないため射程も命中精度も低い。
さらに駐退復座機も無い為、発砲すれば車輪の付いた砲架ごと後退してしまう。
その為、着弾位置を確認して次弾を撃つ際の修正が出来ないのだ。
だからこそ、戦列艦は大量の砲を装備し"下手な鉄砲数撃ちゃ当たる"をしているのだ。
それゆえ船体に大量の砲門が開き強度は低く、トップヘビーとなり非常に不安定なのだ。
さらに、大量の砲に使う為の弾薬も満載している。そんな戦列艦に近代的な榴弾が直撃すればどうなるか?
それがこの有り様だ。
撃沈された戦列艦の木片や兵士の死体が浮かぶ海面…それを見てポクトアールは決断する。
「……撤退だ。」
「は……?」
「撤退する!これ以上、兵を無駄に死なせる訳にはいかん!」
「りょ…了解!」
艦長がポクトアールの命令に従い、操舵手に指示する。
鈍重な戦列がゆっくりと反転し、フェン王国艦隊に艦尾を向けて撤退しようとしたが…
──ドォンッ!
ヤハタの船体が大きく揺れた。
「艦尾に被弾!」
「なに!?」
艦長の驚愕の声。
それから間もなく、艦尾に開いた破孔から大量の海水が流入し船体が艦尾を下にして垂直に沈んで行く。
「うおぉぉぉぉ!?」
垂直となった甲板でポクトアールはどうにかマストに掴まる。
「提督ぅぅぅぅ……」
艦長も同じマストに掴まっていたが、落ちてきた木箱が直撃し共に落ちて行った。
砲甲板からも悲鳴が聴こえる。恐らくは魔導砲を繋いでいたロープが千切れ、落下した魔導砲によって兵士が潰されているのだろう。
(すまん…もう少し慎重になっていれば…!)
死に逝く兵士達に懺悔の思いを捧げていたが…
──バキバキバキバキッ!
マストが自重に耐えきれず、折れた。
妙にゆっくりと流れる景色の中、ポクトアールは転覆した戦列艦が完全に沈んで行くのを目にし…海面に叩き付けられた。
次回こそ投稿遅れます
今後、お色気シーンは…
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今より増やせ
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このぐらいでいい
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もう少し減らしていい
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もっと減らして
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無くていい