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──中央歴1643年3月5日正午、ルクセリア──
グラ・バルカス帝国が構想する世界戦略の新たな中心地となるべく建設された都市ルクセリア。
威圧感に溢れる鉄筋コンクリート製の高層建築が建ち並ぶ街並みの中、ぽっかりと空いた広場の中心には同じく鉄筋コンクリート製ながらも古めかしいデザインの邸宅が鎮座していた。
『民族の館』と名付けられた近衛兵団ムー大陸統治本部では、近衛兵団幹部による昼食会が執り行われていた。
「今頃、ムーとロデニウスは火の海だろうね。あぁ…なんと嘆かわしい…」
上座に座る近衛兵団のトップである総帥カーデラは長時間煮込まれたビーフシチューを前に嘆息した。
「総帥、何を仰っておられるのですか。奴らは恐れ多くもカバル殿下を拉致した大罪人…何万と焼け死のうが自業自得ではありませんか」
カーデラの言葉に応えたのは武装隊長官アミズ。
しかし、そんなアミズの言葉にカーデラは憂鬱そうにこう述べた。
「殿下拉致を企てたのはおそらく彼らの上層部であり、一般市民は関わっていないだろう。そのような者達をバルカス民族に貢献する機会を与えぬまま死なせる事は余りにも勿体ない」
「なるほど、確かにそうかもしれませんな」
カーデラが嘆いていたのは不要な殺生ではない。
過激な民族主義を唱える近衛兵団のトップだけあり、彼もまた他民族はバルカス民族に奉仕すべきだと考えており、バルカス民族の為に働く者が減ってしまう事を憂いていたのである。
「しかし、あの国…なんと言ったかな。あのロデニウスに近い国…」
「リーム王国の事でございますか?」
記憶を探るように瞳を左右に動かすカーデラへ、事務次官が問いかけた。
「そう、それだよ。リーム王国は我々に恭順するという賢明な判断を下したからね。彼の国はそれなりの人口を擁しているようだし、適当な兵器でも与えて見返りとして労働者を差し出してもらおう」
確かにリーム王国は地域大国なだけあって人口も結構な数があり、列強に対するコンプレックスから先進的な兵器を常に求めている。
そんなリーム王国は帝国にとっては御し易い相手であり、適当な旧式兵器を与えれば労働者という建前の奴隷を喜んで差し出してくれるだろう。
尤も現時点でリーム王国は第三・第四文明圏連合軍による侵攻を受け降伏しているのだが…
「お食事中、失礼致します」
そんな時、カーデラの秘書がノックも無しに扉を開け、カーデラの側へ早足で歩み寄った。
「失礼致します」
秘書はカーデラに一礼すると、身を屈めて彼に耳打ちする。
「………」
「……そうか。ありがとう」
「はっ」
カーデラが頷いて礼を述べると、秘書は来た時と同じように再び一礼すると早足で昼食会場を後にした。
「諸君、先ほど帝都より報せがあった。『夜明けが来た』そうだ」
「おぉっ!」
カーデラの言葉に場がざわめく。
中でも一際目立つのは、アミズであった。
「やった!大義は成った!」
「よくやった、アミズ君。君の作戦のお陰だよ」
「はっ、身に余る光栄であります。如何にバルカス民族の恥さらしと言えど、最期には帝国の新たな夜明けに貢献出来たのですから本望でしょう」
もう察せられると思うが、ニヴルズ城にて発生した事件の首謀者は近衛兵団なのである。
「そうだね。サンド軍本部長は皇帝暗殺を企てるも爆薬の設置に手間取り皇帝と共に爆死…それを止めようとした近衛兵団員3名も殉職。軍部は未だ皇帝への反逆の意思があるとして今後、軍部は本格的に近衛兵団武装隊の管理下とする…アミズ君、おめでとう。君は今日から帝国軍本部長も兼任する事になる」
「喜んで拝命致します」
カーデラの言葉にアミズは悪どい表情を浮かべつつも恭しく頭を下げる。
グラ・ルークスとサンドの対話の場を襲撃した下手人、それはハイラスの護衛を果たせなかった近衛兵団員であった。
本来なら彼は懲罰部隊に送られる筈だったが、アミズの手によって都合の良い手駒として確保されており、今回の事件で家族の無事と引き換えに自爆要員にされたのである。
しかし、何故民族主義を唱える近衛兵団が民族の象徴たる皇帝の暗殺を企てたのか…それには事情がある。
「まったく…不出来な身内を持つと苦労するね。"アレ"は父を超える事に固執している…あんな体たらくでは、帝国を導くに相応しくない。私こそが帝国を導くに相応しいとは思わないかね?」
「はっ、同感でございます!」
カーデラは先帝の弟であり、皇位継承権は現皇帝グラ・ルークスより上位でありイザとなれば皇帝として君臨するつもりであった。
しかし、先帝は突如としてカーデラの継承権と皇族位を剥奪、代りに当時殆ど形骸化していた近衛兵団の総帥に指名したのである。
その禍根は根深いものであった。
何せカーデラからしてみれば皇位継承権だけではなく皇族位すら唐突に奪われたのだから、先帝…つまり兄への恨みは凄まじいものがあり、カーデラは形骸化していた近衛兵団を密かに増強、先帝の崩御後はグラ・ルークスの叔父という立場を利用して政治的発言力も高めて今に至るのだ。
「加えてカバルは異世界国家に拉致されている…今回の作戦の報復として異世界国家はカバルを処刑するだろう。そうなれば国民の対異世界国家感情は更に悪化し、皇位継承権は宙に浮く」
カーデラはホロホロに崩れる牛肉の塊に舌鼓を打ちながら虚空でフォークを踊らせる。
皇位継承権を持つ皇族の中で最も有力なカバルは拉致、ハイラスは既に亡くなっており、それ以下の皇族は既に近衛兵団の圧力により継承権を半ば放棄しているような有様だ。
故に何事もなければ継承権は消去法でカーデラへ…皇族位を剥奪されているとはいえ、先帝の弟かつ他に継承権を持つものが消極的ならば継承権と皇族位の復帰は現実的なものになるだろうし、近衛兵団の政治力を使えば確実だ。
「それに現在の内閣はもうじき任期満了による総選挙が行われます。既に我々の政党である『民族躍進党』は候補者擁立を完了しており、総選挙では与党となる事は確実です」
声を上げたのは、政治部会長『ボルヘス・マックマン』であった。
グラ・バルカス帝国は皇帝の権力が強いものの国民議会も存在し、皇帝と権力を二分している。
もし、カーデラが皇帝に、そして国民議会の与党が近衛兵団系となればどうなるか…それは火を見るより明らかであろう。
「そうだ。帝国は我々がより良い方向へ導き、世界はバルカス民族躍進の為にあるべきだ。その為には多少の痛みは必要…そうではないかな?」
自身の言葉を一寸も疑っていないような自信に満ちた表情でカーデラはワイングラスを片手に立ち上がり、他の参加者もそれに倣う。
「バルカス民族に栄光を」
「「「「栄光を!」」」」
陽光に照らされた深紅のワインは、これから流される数多の血を示唆しているかのようだった。
次の大型イベントはハロウィンのテンペスタ…それが終わったら次は年末ですかね
そう考えると一年が過ぎるのは早いものです