いやー、いいストーリーでした
──中央歴1643年3月5日正午、帝都ラグナ──
「あれは…」
帝都ラグナの中心街から離れた位置に建つ古びたビルの屋上に置かれた看板の裏で、1人の男が双眼鏡を覗き込んでいた。
「火災…いや、爆発か。事故か?」
看板の隙間からレンズの反射光に注意しながらニヴルズ城から立ち上る黒煙と粉塵を観察しているのは、アズールレーンの諜報員、コードネーム『ゲイザー』だ。
彼は密かにグ帝本土に潜入した後、浮浪者を装ってラグナに流れる噂等を収集している。
グ帝は格差社会であり、浮浪者のような社会的弱者は一種の不可侵身分となっており、一般市民はおろか治安維持組織でも見て見ぬ振りをするような有様だ。
如何に本土の位置を隠し通せていると信じているとは言え、ここまで無警戒なのは呆れを通り越して心配してしまう。
「あの位置は…謁見の間ではないか?」
慎重に黒煙と粉塵の出どころを見極めたゲイザーは、今まで収集した情報と照らし合わせ、出どころが謁見の間であろうと推測する。
これが厨房やボイラー室ならば事故の可能性もあるが、謁見の間のような皇帝が立ち入るような場所で爆発が起きたとなれば、単なる事故とは考え難い。
「…これはもしかするかもな」
ゲイザーが集めた噂の中には、近衛兵団がグ帝の支配者になるために暗躍しているというものもあった。
もし、それが事実ならあの爆発は皇帝を狙ったものである可能性が高い。
「一先ず報告だな。私が考えても仕方ない」
自分の役割はあくまでも情報収集であり、精査や推察は二の次だ。
そう考えたゲイザーは、ボロボロのセーターに双眼鏡を隠すと暗号通信機を設置してある隠れ家へと足早に移動して行った。
──同日、ラグナ沖──
ゴミや廃液で汚染された近海と比較すれば澄み渡っている沖合水深50mの海中。
そこには大型の潜水艦が身を潜めていた。
「ゲイザーから暗号通信が?」
「ぴよっ!」
グ帝近海に潜んではいるが、所属はグ帝海軍でも近衛兵団でもない。
その正体はアズールレーン所属の"元"巡洋戦艦レナウンだ。
元巡洋戦艦となっているのは彼女が新たな艤装ことⅡ型艤装を受領した事により巡洋戦艦から、弾道ミサイル原子力潜水艦となった為であり、現在は原子力潜水艦ならではの長い潜航能力を活かしてグ帝内に潜ませた諜報員から送信される通信の中継を行っているのだ。
「では再び暗号化する為に一度平文に変換して下さい。内容は私も確認しますので」
「ぴよっ!」
同乗している饅頭にそんな指示を出すと、饅頭はデジタル通信機を操作して暗号を平文に変換したものを書き出すと、レナウンへと差し出した。
「ありがとうございます。えっ…と……っ!?」
レナウンは通信の内容に目を見開いた。
それもそのはず、グ帝皇帝の居城で爆発が起こり、現在に至るまで皇帝の安否は確認されていない…これは非常に不味い事になった。
「指揮官の戦略では皇太子殿下の説得により、グ帝大艦隊と講和して無力化。その上で皇帝陛下に講和を呼びかける事でムー大陸からの撤兵を絶対条件とした停戦を行う、そういった流れだったはず。もし皇帝陛下の身に何かあれば話し合う相手が居なくなってしまいます」
指揮官は武力により圧倒しながらも講和を持ちかける事で被害を最小限に戦争を終わらせようと考えていたのだが、その為には理性的な話し合いが出来る敵国のトップが必要だ。
その点、グ帝のトップである皇帝グラ・ルークスはカバルやフェルドの証言から理性的な話し合いが出来る相手である事はほぼ間違いない。
しかし、もしグラ・ルークスが死亡していればその前提は瓦解してしまうだろう。
「皇帝陛下の身に万が一があれば、皇太子であるカバル殿下は身柄が我々の元にある以上、後継者は誰になるか予測出来ません。しかし、フェルド殿の証言によればカバル殿下以外に有力な皇族であったハイラス殿下は死亡され、他の皇族は政治的な後ろ盾に乏しいと…ならば…」
レナウンの脳裏に浮かんだのは、混乱に乗じた近衛兵団によるグ帝支配だ。
もしそうなれば苛烈な民族主義により、たまたま先帝に顔が似ているだけで外交の場で指揮官を射殺しようとした近衛兵団がグ帝の支配者となれば、講和なぞ不可能になるだろう。
そしてその先に待つのは泥沼の長期戦と血で血を洗う本土決戦だ。
「……これは不味いですね」
饅頭に通信内容を再び暗号化して送信するように指示をしたレナウンは険しい表情を浮かべ、指令所から出ると艦尾方向に向かって歩き出す。
「古の魔法帝国の復活に備えるべく、主要国の軍事力強化と国力増強を急がなければならないのに、グラ・バルカス帝国との戦争が長引けばそれも頓挫してしまいます」
アズールレーンの目的の根幹は世界の安定と発展、それによる平和であり、それを実現する為に各国に技術支援を行ってきた。
その上で理念に沿わないような行いをする国家は捻じ伏せ、時には都合の良い政治体制への移行を誘導した事もあった。
多少強引な行いもしてきたが、それも人々の安定と発展の為…しかし、グ帝との戦争が泥沼の長期戦となれば苦心して積み上げてきたものが瓦解してしまう。
「……これを使わなければならない、そんな事が起きなければいいのですが」
レナウンが訪れたのは太い柱が並ぶ空間であった。
これこそ彼女を弾道ミサイル原子力潜水艦たらしめる空間…16発の『ポラリス』弾道ミサイルを収めたミサイル・コンパートメントだ。
射程4000km以上を誇るポラリスミサイルは3つの弾頭を内蔵しており、1発で3つの目標を攻撃する事が出来る。
そしてその弾頭は無論、TNTのような単なる炸薬ではない。
ビスマルクがセイレーンから与えられた超重力弾頭を利用し、その強力な圧力により重水素を核融合させる事により発生する強大なエネルギーを破壊力として活用する…いわゆる純粋水爆だ。
この純粋水爆は我々の世界に存在する水爆とは違い、核融合の為に核分裂反応を使用しないため放射能の発生が非常に少ないのが特徴だが、それでも使用すれば…特に都市部に対して使用すれば何万人も文字通り"消滅"するだろう。
無論、レナウンはKAN-SENであり軍人である以上は上官である指揮官の命令があればミサイルを発射する覚悟はある。
しかし、それでも何万もの人々が消え去る事になるのは余りにも重すぎる。
「指揮官…どうかこれを使う事がないようにお願いします」
海中を揺蕩う艦内で、レナウンはミサイル発射管を撫でて願うように呟いた。
8のDLC、出るとしたら前作DLCに登場したキャラより濃いキャラを出すべきでしょうが…難しそうですねぇ