異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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41.傾国の美女

──中央暦1639年10月2日午後7時、エストシラント港『アグレッサー級・青剣』艦内──

 

「野蛮な者達だ。見てくれは良いが…その内には欲望が渦巻いている。まさしく…」

 

「ソドムのようだ…か?」

 

艦長室に設えた食卓でサン・ルイの言葉を指揮官が続けるように告げた。

二人の向かいの席にはフェン王国の外交官トサカと、青剣の艦長であるヴァートが座っていた。

 

「パーパルディアの連中は大体あのような感じですよ…まあ、珍しく理性的な者も居ましたが。」

 

トサカが呆れたように言いながら、紅茶を啜る。

 

「理性的な者なぞ少数でしょうな。現に、わざわざ戦列艦を青剣の真横に停泊させています。威圧的ですなぁ…」

 

ヴァートも呆れを含んだため息を吐きながら、肩を竦める。

現在、青剣のすぐ真横にパーパルディア皇国の戦列艦が停泊しており、威嚇するかのように魔導砲を砲門から覗かせている。

 

「撃たない事は分かってますが…確かに威圧的ですね。他人を蛮族と言いますが、どちらが蛮族だって話ですよ。」

 

「そうだな、指揮官。少なくとも彼らは外交儀礼を欠いている。本来であれば即刻、交渉を中断するような案件だ。」

 

「だが、捕虜を抱えたままなのも問題だ。早いとこ返還する為にも、向こうにも筋を通してもらわないとな。」

 

指揮官とサン・ルイ、そしてフェン王国の二人は今後について話し合った。

 

 

──同日、カイオス邸──

 

パーパルディア皇国において、政治に関わる立場にある者が住むにはあまりにも質素な内装の屋敷を一人の男が足音を消して歩いていた。

 

──コンコンッ…

 

とある部屋の前まで来ると、小さな音でノックをする。

音もなく扉が開いた。そこに居たのは、この屋敷の主であるカイオスだった。

 

「ご苦労、どうだった?」

 

自らの書斎に来た男を、部屋に入るように薦めつつ問いかける。

 

「ありがとうございます。…フェン王国の軍艦ですが、やはり大砲を搭載していました。」

 

「魔導砲か?」

 

「いえ…そこまでは分かりませんでした。」

 

その男は右腕が無かった。

元々は皇国軍の偵察兵だったが、負傷し不名誉除隊させられた彼をカイオスが密偵として雇っていた。

そんな男が言葉を続ける。

 

「ですが、砲身の内側に幾つもの溝が彫られていました。おそらくは……」

 

「ムーや神聖ミリシアル帝国の銃砲に使われているライフリングか…」

 

パーパルディア皇国において、ライフリングは未だに実用化されていない技術だ。

試作品は作られたのだがライフリングを施すコストや技術、更にライフリング対応の銃弾や砲弾を大量生産する事はパーパルディア皇国の技術力では叶わないものだった。

 

(我が国でも持たぬ兵器を装備しているとは…ヴァルハルの企みは関係無かったか…?)

 

フェン王国、そしてアズールレーンが持つ武力がどのような経緯で発展したものであるのか、更に疑問が深まった。

 

 

──中央暦1639年10月3日午前9時、パーパルディア皇国第三外務局──

 

その日、カイオスは息を切らせながら早足で廊下を歩いていた。

普段なら1時間早く出勤するのが彼のスタイルなのだが、昨日は密偵の男と夜遅くまで話し込んでいたため寝坊してしまった。

夜更かしして寝坊するという子供じみた失敗をしでかした事に気恥ずかしさと、どうにか遅刻しないで済むという安心感を覚えながらオフィスの扉を開ける。

 

「おはよう、諸君……?」

 

局長室に向かう前に局員に挨拶をする、といういつものルーティンをこなすがオフィスの一番奥…普段は使われない局長用のデスクに誰か座っている。

20代後半の美しい女性だ。彼女の両脇にはタールとバルコが控えている。

 

「遅かったではないか。貴様はいつも早く出勤すると聞いていたのだが?」

 

女性が高圧的にカイオスに問いかける。

それに対しカイオスは怪訝そうな表情で答える。

 

「少々、野暮用がありまして…あー…どちら様でしょうか?」

 

「外務局監査室のレミールだ。」

 

それを聞いたカイオスは、心中で頭を抱えた。

レミール…彼女に会うのは初めてだが、その傍若無人な振る舞いは耳にしている。

暇をもて余しているのか、様々な省庁に赴いては自分のワガママを押し通しているとの話だ。

はっきり言ってカイオスが一番嫌いなタイプの人間だ。皇族でなければ無視しているような相手である。

だが、一応は皇族。レミールに頭を下げて非礼を詫びる。

 

「これはこれは…して、何か御用で?」

 

「心当たりが無い訳ではなかろう?」

 

レミールが立ち上がり、カイオスに詰め寄る。

 

「フェン王国との会談の議事録を見たぞ。何だ、あの内容は?蛮族如きに文明国相手のような対応をして…あまつさえ、ルディアス陛下の名で謝罪をするように上申するだと!?」

 

ヒステリックに怒鳴るレミールに眉をひそめながら、カイオスが答える。

 

「しかし、監察軍の将兵が捕虜として捕らえられています。返還の為には我が国からの公式な謝罪が必要…」

 

「ふざけるな!」

 

──バンッ!

 

レミールが壁に拳を打ち付ける。

 

「蛮族に敗北し、生き恥を晒すような者なぞ皇国には要らん!そのような者の為にルディアス陛下のお手を煩わせる気か!?」

 

「し…しかし…」

 

「黙れ!」

 

レミールがカイオスの胸ぐらを掴む。

その美しい顔は怒りに歪んでおり、本能的に恐怖を感じるような表情になっている。

 

「もう良い。貴様は降格だ。」

 

「……は?」

 

あまりにも理不尽な宣告に、カイオスがポカンと口を開ける。

 

「聴こえなかったか?貴様は、少数民族係の係長に降格だ。」

 

少数民族係…それは、実質的な追い出し部屋である。

まともな仕事も無く、ただ毎日のように嘲笑の目を向けられ…最後には自ら辞表を書いて外務局から去る。そんな部署だ。

 

「なっ……」

 

驚きの余り、目を見開くカイオス。

それを見たレミールは得意気に告げる。

 

「貴様の後任は私だ。あとの事は私に任せて、精々ゆるりと仕事をしているがよい。ホッホッホッ…」

 

驚愕に見開かれた目でタールとバルコを見る。二人とも、ニヤニヤした笑みを浮かべていた。

 

(やられた…!)

 

噂によればレミールは自分の思い通りに動く者…つまりはイエスマンを重用するらしい。

レミールが局長となった第三外務局は最早、彼女のご機嫌を取るだけの場所になってしまった。

 

(小娘の靴を舐めてでも甘い汁を啜りたいか…家畜め…!)

 

かつての部下、そしてレミールに怒りを覚えながらカイオスは拳を握り締めた。

 




破滅するか、幸せになるか両極端なレミール様の登場です
ある意味アイドルでは?

今後、お色気シーンは…

  • 今より増やせ
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  • もう少し減らしていい
  • もっと減らして
  • 無くていい
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