異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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Red October様より評価10を、ブラックコーヒー牛乳様より評価9を頂きました!


レミールと言えば、これでしょう


42.流血(before)

──中央暦1639年10月4日午後1時、パーパルディア皇国第三外務局──

 

指揮官とサン・ルイ、フェン王国外交官トサカは前後をパーパルディア皇国の兵士に挟まれるような形で歩いていた。

 

「出頭"命令書"とは…いささか高圧的ではありませんか?」

 

「黙れ、貴様らは黙って我々に従えばよいのだ。」

 

指揮官の言葉に対し、兵士が高圧的な言葉で答える。

そう、先ほどパーパルディア皇国の第三外務局から出頭命令書なる礼儀知らずな書状が届き、馬車に乗せられてここまで来たのだ。

 

「指揮官…万が一を想定して、戦術記録カメラの起動を…」

 

「…許可する。」

 

小声でサン・ルイが指揮官に提案する。

KAN-SENは人型兵器であり、戦闘を記録する為のカメラやマイクが肉体に内蔵されている。

基本的には戦闘記録をとる為のものであるが、一部のKAN-SENが盗撮等を行うために悪用していた事が判明、その後は指揮官の許可が無ければ起動出来ないようなプロテクトが掛けられる事となった。

 

「ここだ。」

 

兵士が応接室を示す。

扉を開けるような事はしない。自分で開けろ、とでも言うような態度だ。

 

──コンコンッ

 

「入れ。」

 

兵士の態度に閉口しながら、ノックをすると扉の向こうから女性の声がした。

その事に少し驚きながら、扉を開ける。

 

「ほう、蛮族の分際でそれなりの身なりではないか。…あぁ、名乗らずともよい。貴様らの名は会談の議事録で知っている。」

 

いきなり他人を蛮族と呼ぶ女性に眉をひそめながら、トサカが問いかける。

 

「あの…失礼ですがどちら様でございますか?先日はカイオス殿が…」

 

「カイオスは更迭された。私はあやつの後任、皇族のレミールだ。」

 

皇族…つまり、パーパルディア皇国を支配する一族。そんな大物が何の前触れも無く現れた事に、それぞれ驚く三人。

それに対し、レミールは指揮官を指差した。

 

「今日は貴様に用がある。」

 

「私…にですか?」

 

「そうだ。まあ、座るが良い。」

 

レミールからの指名に疑問符を浮かべながら、言われるがままにソファーに座る指揮官。

 

「貴様は、アズールレーンなる蛮族達の同盟の者らしいな?」

 

「はい、貴女達が文明圏外国と呼ぶ国家による軍事同盟です。」

 

その当たり障りの無い答えに、レミールは何とも愉快そうに笑う。

 

「ホッホッホッ…そうかそうか。…あれを持って来い。」

 

レミールがそう指示すると、外務局の局員らしき人物が水晶の板が取り付けられた装置が運び込まれてきた。

 

「これは魔導通信を進化させ、音声のみならず映像まで送受信出来るようにした最先端魔導技術の結晶だ。この装置を実用化しているのは、神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ。」

 

「はぁ…?」

 

何の脈絡も無く、技術力を見せ付けられた為、レミールが何をしようとしているのか分からなくなる。

少なくとも分かったのは、あの装置がテレビ電話のような物である。という事だけだ。

 

「これを起動する前に、貴様らに最後のチャンスをやろう。」

 

レミールの言葉に合わせて、局員が指揮官に紙を渡す。

その紙には色々と書かれていたが、要約するとこうだ。

 

・アズールレーンの代表者には皇国から派遣された皇国人を置くこと。

・アズールレーンは皇国の求めに応じ、軍事力と奴隷を差し出すこと。

・アズールレーンは今後、皇国の許可無くして新たな国を同盟に加えてはならない。

・アズールレーンは現在知りえるあらゆる技術を皇国に開示すること。

 

等々が書かれていた。

要は、従属せよ、と言っているようだ。

 

「……これは?」

 

「どうやら貴様らは、国家監察軍を返り討ちにしたようではないか。皇軍に劣るとは言え、中々にやるではないか。」

 

まるで狂人を見るかのような指揮官からの視線に気付いていないのか、得意気に話すレミール。

 

「よって、我が国が貴様らを有効活用しよう、というのだ。」

 

圧倒的優位に立っているかのような態度で、一方的な要求を突き付けるレミール。

だが、指揮官の答えは決まっている。

 

「断ります。我々は文明圏外国による相互扶助を目的とした組織ですので、貴国に従属する事は理念に反します。」

 

キッパリと、答えた。

それを聞いたレミールは笑みを浮かべる。美女に似合うような静かな笑みではない。例えるなら…そう、悪魔のような笑みだった。

 

「ホッホッホッ…そう言うと思ったぞ。やはり、貴様らのような蛮族にはキツイ灸を据えてやらねばならないな。」

 

──パチンッ

 

レミールが指を鳴らすと、水晶の板に色彩も画質も悪い映像が映し出された。

 

「なっ……!」

 

「これは…!」

 

「ヴァート艦長!」

 

そこには、首を縄で繋がれた十名程の男性。

青剣の艦長であるヴァートを筆頭に、フェン王国海軍の兵士や犬耳を生やした男性と、金髪碧眼の男性も居る。

 

「こやつらは、甲板上から皇軍の武力を探っていた可能性がある…スパイ容疑で拘束させたところだ。」

 

「我が国の兵士を!」

 

「重桜人とユニオン人も…」

 

トサカが驚愕の表情を浮かべ、サン・ルイがレミールに怒りが籠った目線を向ける。

 

「そうだ、貴様らの返答次第ではこやつらを見逃してやってもよい。」

 

「卑怯な!彼らはただ我々を送り届けただけの者だ、彼らがスパイだと!?なんの証拠もない!」

 

指揮官が珍しく激昂する。

 

「これは外交儀礼…いや、人道に反する極めて野蛮な行為だ!即時解放を要求する!」

 

だが、レミールはそんな指揮官の言葉に逆上した。

 

「要求…?蛮族如きが皇国に要求だと!?不敬者め!」

 

レミールは魔信のマイクを取って、冷たく告げた。

 

「処刑しろ。」

 

「やめっ……」

 

水晶の板に映る男達の背後に、マスケット銃を持った兵士が立つ。

 

《──バンッ!》

《艦長ぉぉぉぉ!》

《──バンッ!》

《うぐっ…》

《──バンッ!》

《チクショウ!てめえら…》

《──バンッ!》

 

「お前達が何をしているのか理解しているのか!?止めさせろ!」

 

指揮官の怒りの言葉に、レミールは更に逆上する。

 

「"お前達"だと…蛮族風情が皇国に向かって"お前達"とはなんだ!」

 

レミールが背後に立つ二人の局員に目を向ける。

すると、局員が懐に手を入れ…

 

「指揮官!トサカ殿!」

 

サン・ルイが指揮官とトサカを床に引き倒した瞬間と、ほぼ同時だった。

 

──バンッ!バンッ!

 

局員が懐から取り出したピストルが発砲された。

一発は壁に、もう一発は…

 

「ヴッ……」

 

トサカの頭に当たり、彼の脳髄と脳漿が飛び散った。

即死だった。脳が弾け飛んで生きている人間なぞ居ない。

 

「トサカ殿!トサカ殿!」

 

「間に合わなかった……」

 

既に息絶えたトサカの肩を掴んで揺する指揮官、トサカの命を救えなかった事を悔しがるように唇を噛み締めるサン・ルイ。

 

「何を考えて……」

 

怒りの言葉を吐き出そうとした指揮官だったが、眼前に何かが飛んで来た。

 

──バリンッ!

 

「グッ…!」

 

水で満たされたガラス瓶…水差しが指揮官の右目の辺りに直撃し、ガラスが割れて水が飛び散る。

 

「ホッホッホッ…手が滑ってしまった。」

 

赤く歪む視界に、嫌らしく笑うレミールが映る。

指揮官は後悔した。

列強国…世界に五か国しかない先進国であるならば、野蛮な振る舞いはしないだろう。その判断のせいで十名以上の命が散った。

後悔しながら上着を脱ぎ、トサカの頭にターバンのようにして巻き付けてやる。

そんな指揮官を庇うようにサン・ルイがレミールと向き合う。

 

「何故そのように人の命を弄べる!」

 

「ふんっ…貴様ら蛮族からすれば、我々列強国は神にも等しいのだぞ?神が家畜の命を弄ぶ事に何の問題があるのだ?」

 

理性的で、自らの感情を抑える事に定評のあるサン・ルイが感情を露にしている。

レミールの答えを聞いたサン・ルイは怒り、侮蔑、そして哀れみを含んだ視線でレミールと局員を一瞥する。

 

「罪人よ、神の裁きを心して待つがよい。……指揮官、トサカ殿は私が。」

 

「あぁ…すまない。」

 

冷たくなって行くトサカの遺体を抱え上げたサン・ルイ、そして彼女の肩を掴んで後をついて行く右目を鮮血で染めた指揮官が応接室を後にした。

 




レミールに死亡フラグ乱立問題

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