異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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ふと、ランキングを見たら本作がランクインしてたので体力を振り絞って書きました

私の仕事は『なるべく早く投稿する』事だから……!


43.研がれる牙

──中央暦1639年10月8日午前10時、サモア基地・ブリーフィングルーム──

 

「黙祷。」

 

指揮官が一言、それだけ告げるとブリーフィングルームがシンッ…と静まった。

電子機器と空調の作動音だけが響く時間が1分続いたのち…

 

──パンパンッ

 

「作戦を説明する。」

 

スクリーンの前に立った指揮官が手を叩いて黙祷を終わらせる。

だが、一人の手が挙がった。

 

「はい、サン・ルイ。」

 

「指揮官、すまない。私が居ながら指揮官にケガを…」

 

「もういい、気にするな。もう済んだ事だ。」

 

眉をハの字にするサン・ルイに手をヒラヒラと振って、気にするなというジェスチャーをとる。

そう、パーパルディア皇国で発生した事件…通称『10月の悲劇』の後、解放された青剣の乗組員と殺害された11名の遺体と共にフェン王国に戻った指揮官とサン・ルイは直ぐ様、サモアに帰還した。

その際に持ち帰った2名の遺体…重桜人とユニオン人の遺体だ…と、サン・ルイの戦術記録カメラに録画された映像は直ぐ様、アズールレーン参加国の上層部が知る事となった。

 

──パーパルディア許すまじ

 

全ての国が口を揃えて言った。

それは当然だろう。何せ、各国に列強国を凌駕する技術を与えてきたのはロデニウス連邦…そして、その技術はサモアからもたらされた物だ。

故に各国はサモアに大恩があると言ってもよい。

だからこそ、各国はサモアの者を殺害し傷つけたパーパルディア皇国に対して激しい怒りを燃やしていた。

ある国は義勇兵を集めた。ある国は基地を提供する事を決定した。ある国は昼夜問わず工場を動かして武器弾薬を生産した。

他国を侵略し、搾取するパーパルディア皇国の魔の手から、共存共栄を掲げるロデニウス連邦とサモアを助ける為に一丸となって各国が動いていた。

 

「不浄なる蛇よ。」

 

ブリーフィングルームに並ぶ席の間を縫うように、ピンクに近い赤い髪にエルフのような耳を持ったKAN-SEN『デューク・オブ・ヨーク』が指揮官に向かって歩いてきた。

 

「どうした、ヨーク公。」

 

「あぁ…そなたの瞳は最早、光を映す事は無いのか?」

 

デューク・オブ・ヨークが指揮官の右頬に手を添えて顔を近付ける。指揮官の顔には、右目を覆うように包帯が巻かれている。

その様子に一部KAN-SENが立ち上がりかけるが、指揮官が手でそれを制する。

 

「角膜が傷付いて失明した。だが、再生医療で治るって話だ。」

 

「左様か……」

 

フッ、と安心したような笑顔を浮かべ指揮官に背を向けて自らの席に戻る。

 

「苛烈なるアレスよ、そなたの指揮に期待するぞ。」

 

そんなデューク・オブ・ヨークに肩を竦めて、改めて口を開く。

 

「では…作戦を説明する。」

 

ピッ、とリモコンを操作するとスクリーンにフェン王国の地形図が表示される。

 

「今回の作戦はフェン王国の防衛だ。パーパルディア皇国の皇族、レミールは10月4日時点で半月後に侵攻を開始すると言っていた。」

 

手が挙がった。長い金髪に、小さな角が付いた制帽を被ったKAN-SEN『金剛』だ。

 

「こちらを騙し討ちするような女の話を信じる気でいますの?」

 

「ああいう奴は、自分が…自分達が一番強いと思っている。俺達を圧倒的格下だと思ってるのさ。」

 

「慢心…ですわね。」

 

「そうだ。変なブラフを使うような事をするようには思えん。それに…大規模な攻勢を仕掛けるつもりなら準備にもそれなりの時間がかかる。戦略分析チームによれば、2週間はかかる想定だ。」

 

そう、パーパルディア皇国はアズールレーンという組織を文明圏外国が集まった烏合の衆だと捉えている節がある。

そんな相手に、口先を使った小賢しいブラフ等を使うとは思えない。いわば、油断しきってベストな状況を作り出そうとしていないのだ。

だからこそ、そこに付け入る隙がある。

 

「まあ、フェン王国には飛鷹と隼鷹が大使として駐留している。万が一になっても二人の艦載機や高角砲でも十分に対象可能…そして、ドイッチュラントとアドミラル・グラーフ・シュペーを先んじて派遣させた。」

 

「最悪を想定しているのであれば、私からこれ以上言う事はありませんわ。」

 

指揮官の言葉に納得した金剛が着席する。

 

「では続ける。先ず、パーパルディア皇国軍は橋頭堡を確保するためにフェン王国西方の都市、ニシノミヤコに上陸する可能性が高い。故に、ニシノミヤコ沖に4艦隊、南北に1艦隊ずつ…東にはフェン王国海軍を置く。」

 

指揮官の言葉が切れると、数名の手が挙がる。

そんな中の一人、眼鏡を掛けた兎耳のKAN-SEN『蒼龍』を指名する。

 

「はい、蒼龍。」

 

「ニシノミヤコ沖に艦隊を展開させる事は合理的ですが…4艦隊も展開するのは過剰戦力ではありませんか?」

 

蒼龍の言葉にも一理ある。

確かに、パーパルディア皇国の戦列艦は並みの文明圏外国から見れば、とんでもない戦力であろう。

だが現在の第三文明圏外国からすればカモも同然であり、ロデニウス連邦やサモアからすれば標的艦以下…旧式の駆逐艦でも蹂躙出来る相手だ。

そんな相手に4艦隊も使うのは余りにも過剰だ。

 

「確かにな…だが、今回の作戦は効率じゃない。我々の力を見せ付け、連中の伸びた鼻をへし折ってやる事が目的だ。」

 

「つまり…殲滅すると?」

 

「あるいは、戦闘力を持つ艦を全て沈めて輸送艦のような補助艦艇を拿捕するのもいい。」

 

「分かりました。彼らは、それだけの事をしなければ分からないでしょうね。」

 

蒼龍が着席したのと入れ替わりに、ビスマルクが手を挙げる。

 

「指揮官、『バルムンク』は…」

 

「不許可だ。これは、ロウリア戦のようなマイナーリーグの練習試合じゃない。列強国相手なら多少…少なくともムーからの目が向けられる。そんな中であんな兵器を使ったら…分かるだろ?」

 

「…そうね、要らぬ危機感を抱かせてしまうわね。」

 

納得したビスマルクが座ると、再び入れ替わりに赤城が手を挙げたが…

 

「それはまだ待て。」

 

「あら~、私はまだ何も言ってませんわよ?」

 

はぁ…、とため息混じりに肩を竦める指揮官。

 

「どうせ、レミールを殺すつもりだろ?それなら、まだ待て。物事には順序がある。」

 

「では、あの人類の敵共を鏖殺する任務にはこの赤城を選んで下さいまし。」

 

赤城の中では最早レミール…というかパーパルディア皇族は、セイレーンと同列の存在なようだ。

それも仕方ない事だ。重桜人が殺害され、指揮官に傷を負わせた。正直、赤城が今この場にいる事が奇跡に近い。

はっきり言って、エストシラントが火の海になっていないのは赤城が指揮官を優先した結果でしかない。

 

「指揮官。」

 

挙手もせず、病的な白い肌に紅い瞳のKAN-SEN『コロラド』が立ち上がった。

 

「あの日…かわいそうな事にユニオンと重桜、フェンの人々が殺され、指揮官は傷付いた。即刻、侵略者達には相応の代償を払ってもらおう!」

 

拳を握りしめ、力強く宣誓するコロラドを手で制しながら指揮官が応える。

 

「皆の怒りはよく分かっている。ともかく、戦艦と空母の諸君には艦砲射撃や空爆の仕事があるから楽しみにしてな。」

 

指揮官の言葉に、一部のKAN-SENが笑みを浮かべた。

笑顔とは、獣が牙を剥く表情が起源だとされている。今の彼女達を見れば、その説はおそらく正しいのだろうと思える。

指揮官が、そんな一部KAN-SENを含めた全KAN-SENを見渡すと腕を組んだ。

そして、不敵な笑みを浮かべて口を開く。

 

「世界最強の軍事組織、アズールレーンのお披露目だ。諸君、派手に行こう!」

 

まるで、民衆を煽動する革命家のように高らかに宣言した。

 




因みに、見せしめに10人程処刑されたので他の乗組員や青剣は無事です

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