異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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神移様より評価9を、himajin409様より評価8を頂きました!

何時もにも増して短いのはSecond Anniversary Art Collectionを読んでたからです


45.虎穴に入らずんば虎児を得ず

──中央暦1639年10月11日午後2時、ムー政治部会──

 

ロデニウス連邦へと留学生を送り出して約9ヶ月、それを決定した時のように会議が開かれていた。

 

「今回、駐ロデニウス大使館から伝えられた件だが…諸君らはどう思う?」

 

そう言って議長であるムー副首相が机に一通の書状を出す。

それは、ムーの駐ロデニウス大使館から送信されたものである。その内容とは…

 

──パーパルディア皇国との全面戦争に突入する可能性があるため、貴国より派遣された留学生を帰国させる事を推奨します。

ロデニウス連邦外務大臣リンスイ──

 

つまり、パーパルディア皇国との戦争にムー国人が巻き込まれないようにする為の配慮だ。

会議の参加者は既に、この書状を回覧していたのだが多く…いや、全ての参加者の答えは決まっていた。

そんな中、海軍参謀が代表するように挙手し発言する。

 

「そもそも、パーパルディアごときがロデニウス連邦に勝てるとは思えません。はっきり言って、我が国を凌駕する技術力を持っている以上、パーパルディアはロデニウス連邦相手に惨敗するでしょう。」

 

チラッと、議長席の背後に置かれている1/100スケールの『バクダル級巡洋艦』の模型に視線を向ける。因みに、輸出第一号の記念としてロデニウス連邦から送られたものである。

そして、そんな海軍参謀の言葉に参加者全員が頷く。

そんな中で情報通信部部長が挙手する。

 

「確かに現地には30名程の留学生…そして大使館職員や旅行客、民間企業の社員が滞在しています。ですが…逆に言えばそれら全員が観戦武官となり得ます。戦術・技術士官は勿論、民間企業の戦時下での動きも貴重なデータとなるでしょう。」

 

「なるほど…確かに、我が国は長らく大規模な戦争を経験していない。戦場のみならず、後方の動きや戦略もしっかり研究しておかなければな。」

 

部長の言葉に陸軍参謀が感心したように頷いた。

その様子を見た副首相が立ち上がる。

 

「それではロデニウス連邦からの避難は国民各々の判断に任せる事とし、パーパルディア皇国に滞在している国民に対しては避難を呼び掛ける事とする。なお、観戦武官に関しては…」

 

副首相に応えるように部長が立ち上がる。

 

「観戦武官はマイラス君とラッサン君が良いと思います。あの二人はロデニウス連邦に最も長く接していますし…なにより驚き過ぎて観戦も儘ならない、という状況には成りにくいでしょう。そして、なによりも…」

 

「ラ・ツマサ君かね?」

 

部長の言葉を引き継ぐように海軍参謀が告げた。

 

「はい、KAN-SENという力は我々にとっては未知中の未知です。そのKAN-SEN運用のプロであるフレッツァ殿曰く…"経験と思い"がKAN-SENの力を向上させる、という事です。思い…というのは何とも曖昧なのではっきりとはしません。しかし、経験であれば我々にも理解は出来ます。」

 

そう、部長はラ・ツマサに観戦武官としての経験を積ませる事で彼女の更なる可能性を探ろうとしていた。

 

「思い…これは現状、彼女の心の内にある我が国への愛国心とグラ・バルカス帝国への憎悪だと考えられますが…思い自体は彼女自身の問題です。ですが、経験については我々が手助け出来ます。」

 

「だからこそ、彼女を観戦武官に…か。」

 

腕を組み、外務次官が考え込む。

 

「何よりも…一時的にでも彼女をマイラス君から引き離すような決定をすればどうなるか…」

 

部長が冷や汗を浮かべる。

ラ・ツマサが初めてムーに来た時、事情聴取の為にマイラスとは別の部屋に案内したのだが…二部屋あった取調室が、大きな一部屋になってしまった。

その事を思い出した外務次官が、思わず肩を震わせる。

 

「……ですな。やはり、彼女はマイラス君と共に観戦武官に指名すべきでしょう。」

 

参加者全員が苦笑しながら頷く。

そして、副首相が参加者を見渡し宣言した。

 

「それでは、ロデニウス連邦への観戦武官としてマイラス君とラッサン君、そしてラ・ツマサ君を指名する。賛成は起立を!」

 

副首相の声と共に、全ての椅子が脚を鳴らした。

 

 

──同日午後8時、旧ロウリア王国首都ジン・ハーク『竜の酒』──

 

旧ロウリア王国の首都であるジン・ハークの一角にある坂場、『竜の酒』では一仕事終えた労働者が酒を飲み交わしていた。

 

「おい、聞いたか?パーパルディア皇国と戦争になるって話。」

 

「当たり前だろ?フェン王国人とサモア人がパ皇のクソ野郎共に殺されたんだ。そりゃ戦争だろうよ。」

 

酔っぱらいの一人が、少しずつ普及してきたスマートフォンを操作して画面を見せる。

そこには、レミールから水差しを投げつけられる指揮官の姿と、フェン王国と重桜、ユニオンの国旗を掛けられた11個の棺の写真が表示されていた。

 

「伊勢さんも日向さんも来てくれねぇし…10号店開店記念セールは延期だし…戦争って嫌なもんだよ。」

 

「だな。だが、ロデニウスがパ皇に占領されるなんて願い下げだな。……タンドリーチキン追加!」

 

ロデニウス統一戦争後、暫くジン・ハークに駐留していた部隊の中にはサモアから派遣された伊勢と日向も居た。

見目麗しく、大酒飲みな彼女達は竜の酒の華として常連客から人気を集め、彼女達を目当てに来る客も増えて繁盛した竜の酒は各地にチェーン展開するようになっていた。

因みに名物はサモアより伝えられたスパイスたっぷり、皮はパリパリに焼き上げられたタンドリーチキンだ。

 

「サモア…というかアズールレーン相手じゃ、流石にパ皇が可哀想だな。勝負にもならんさ。」

 

「だがよぉ、相手は腐っても列強国だぜ?それなりにデカイ戦争になるんじゃないのか?」

 

「ラムソーダをもう一杯!……って事は俺達、予備役にも招集がかかるかもな。」

 

ロデニウス連邦自体、国軍は保有しているのだが人口に対して規模は小さくなっている。

国防方針が、『アズールレーンによる援軍が到着するまでの時間稼ぎが出来れば十分』というものである為だ。

その為、削減され自主退役した兵士はインフラ開発や工員等に回され、ロデニウス大陸の近代化に貢献している。

しかし、軍務経験がある者をただ働かせるのも勿体無い…という事で定期的に訓練を受けさせて予備役として活用しているのだ。

 

「って事は…戦場で活躍したら伊勢さんに…」

 

「馬鹿野郎。俺達、予備役は後方で荷物運びだよ。お前の活躍を、海の上の伊勢さんがどうやって見るんだよ。……っていうかお前、伊勢さん派かよ。」

 

「伊勢さんのあの豪快な感じがいいんじゃねぇか。」

 

「俺は日向さん派だ。」

 

酔っぱらい達は戦争の心配なぞどこ吹く風、麗しい二人のKAN-SENについて語り明かすのであった。




Second Anniversary Art Collectionを熟読しているので次回投稿遅れます

次回は海戦ですね

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