異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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Red October様より評価8を頂きました!

脳内プロットが続く限り、なるべくはやく更新しようと思っています


4.外務局員ヤゴウの日記より抜粋

──中央暦1637年2月6日、ヤゴウ自室にて記す──

 

突如として現れた未確認騎…鉄竜と、超巨大船…鉄船が現れた事は2週間程前に記していた。その時の私はどうも混乱していたらしく、誤字脱字だらけで文法は滅茶苦茶な文書、今見返すと自分が書いたものながら意味不明だ。

5日前、外務卿からその鉄竜と鉄船の持ち主であるサモアへと赴く使節団のメンバーに指名された。同じくメンバーに選ばれた軍務局のハンキ将軍は、船旅に苦い思い出があるらしく不満を溜息混じりにぼやいていた。

しかし、私は遠目ではあるが鉄船を見た。突如として島が現れたような、沖合いにあるにも関わらず、見る者を圧倒するような偉容がヒシヒシと伝わってきた。

あれほど巨大な船であれば、ハンキ将軍の仰る「狭くて暗くて汚い」といった事は無いのではないかと思う。

今日は明日に備えて、寝る事とにする。

予定通りなら明日の今頃は鉄船の寝床だろう。そう思うと不安と期待が溢れて眠れそうにない。

 

 

──中央暦1637年2月7日、ヤゴウ白亜の鉄船内にて記す──

 

はっきり言って何から書けばいいのか分からない。マイハーク沖合いに現れたサモアの巨大船4隻、その内の1隻…『クイーンズランス』なる船の船室に居るのだが、何もかもが圧倒的だ。この船に乗り込む際に使った、カンサイテイなる小型船が帆もオールも無いのに高速で走っていた事や、カンサイテイを操縦しているのが巨大なヒヨコのようなものだとか、そんな事はこの白亜の鉄船に比べれば些事と言ってもいいかもしれない。

その余りの大きさに乗り込んだ際に出迎えに来たメイドらしき人物…ベルファスト殿にどれ程の大きさか聞いてみると、全長290m全幅38m乗員乗客4000名らしい。

もはや訳が分からない。

船室は明るく、仄かに薔薇の香りが漂い、毛足の長い絨毯にはチリ一つ落ちていない。あらゆる調度品が上品かつ優雅であり、この場に居る私が場違いに思えてくる。

今、私がこの日記を記している部屋にも圧倒されている。ハンキ将軍曰く、船旅は一部屋二人なら上等、下手をすれば大部屋でハンモックもあり得るとの事だっだが…五人で寝られるようなベッドのある部屋を一人で使って良い、となっている。

船旅だというのに、宮殿のように寛げる。このような船を作るサモアは間違いなく文明国…いや、列強クラスの力があるのだろう。私個人の意見としては、多少妥協してでもサモアと深い同盟関係を結ぶべきだと考えている。

 

追記

船旅を嫌がっていたハンキ将軍だが、展望テラスでカクテルなる鮮やかな色の酒を片手に月を眺めながら寛いでいた。

 

 

──中央暦1637年2月8日、ヤゴウ客船『クイーンズランス』船室にて記す──

 

昨日はとても良く眠れた。

様々な情報で疲弊した頭に、青いカクテルの酔いとあの上等過ぎるベッドは何物にも代えがたい誘惑だった。

朝、部屋の壁に備え付けられているトケイ、という時刻を知らせる為の機械が7時を指した頃にベルファスト殿が朝食の為に私を食堂へ案内した。

そこで半熟に茹でた卵や煮た豆、腸詰め等が一皿に盛り付けられた朝食を食べながらベルファスト殿から今日のスケジュールが読み上げられる。

今日は、サモアがあった世界の歴史等についての説明があるとの事だった。異世界の歴史、真偽はどうであれ興味深く思っていた。

だが、サモア代表であるクリストファー・フレッツァ准将から語られた彼らの世界の歴史はあまりにも過酷なものだった。

フレッツァ准将曰く、彼らの世界は全世界を巻き込んだ戦争で80億人も居た人口は10億人まで激減、高度な文明はその多くが失われてしまい復興には100年以上かかったそうだ。

そうして、どうにか復興し遺された文献等を解析しかつての高度な文明社会を取り戻すべく日々尽力していたのだが、謎の勢力『セイレーン』が突如として侵攻を開始。制海権を奪われた人類は文明復興どころか、再び滅亡の危機に晒されたという。

そうして『セイレーン』に対抗する為に生み出された存在…人の姿に超巨大軍船の力を持たせた生きる兵器、それこそがフレッツァ准将の傍らに立つベルファスト殿や、会談に出席されたフッド殿のようなKAN-SENと呼ばれる人型艦船であるというのだ。

やはり、理解が追い付かない。

そのような強い力を持ったKAN-SENを一元管理する為の組織『アズールレーン』や理念の違いから離反した『レッドアクシズ』の内乱や、『セイレーン』を退けた『第二次セイレーン大戦』まで一気に説明された為、知恵熱が出そうだ。

結局、私が理解出来た事は二つ。説明会が終わった後に説明内容を文書にした分厚い冊子の紙質の良さと、フレッツァ准将が締めくくりに告げた「このような歴史を歩んだからこそ私は思うのです。過ぎたる力は、何時か己すら滅ぼしてしまうのです…皆さんもぜひ、心に留めておいて下さい。」という言葉の重みだけだった。




本作でのアズールレーン世界は戦争に懲りた人々が、兵器開発よりも民生技術の復興を優先したためかなり歪な技術体系となっています。

次回は、サモア基地見学の話を予定しています。
アズールレーンの設定で陸戦はどうするのか?と思われてる皆さん、そこそこ前からプレイしている指揮官なら分かると思います。
アズールレーンには、一つだけですが大型陸戦兵器が登場しているのです。

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