異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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時間があったので連続投稿です

あと、フリードリヒ・デア・グローセの着せ替えヤバいですよね
あれじゃあ、アズレンがエロいゲームだと思われてしまう(すっとぼけ)


48.16インチ砲対応防御

──中央暦1639年10月21日午後1時、フェン王国ニシノミヤコ沖合──

 

フェン王国侵攻艦隊総旗艦、超フィシャヌス級戦列艦『パール』の甲板上で侵攻作戦総司令官である将軍シウスは悩んでいた。

竜母艦隊との連絡途絶と、捜索の為に送り出したワイバーンロード部隊から送られた不可解な魔信。

敵艦隊発見の報告、その後に聞こえた奇妙な音…一体、この海に何が潜んでいるのか。

 

「まさか…全滅したのか…?」

 

否定したい可能性…しかし、このような不可解な現象に納得出来る理由を付けるならこの可能性しかない。

 

《南東方向に未確認艦18!》

 

上空で旋回していた竜騎士が魔信で伝える。

 

「来たか!総員、第一種戦闘配置!」

 

シウスは自らの脳裏を過る得体の知れない恐怖を振り払い、鋭い声で指示を飛ばす。

相手はたったの18隻。対して此方は、戦列艦183隻に竜母4隻、そして旧式の竜母や戦列艦を改装した揚陸艦120隻の大艦隊だ。

これ程の大艦隊を相手取る者なぞ、世界広し言えどムーと神聖ミリシアル帝国ぐらいであろう。

少なくとも、第三文明圏でパーパルディア皇国海軍に勝てる者は居ない。

 

「ダルダ君、勝てると思うかね?」

 

それでも自らの胸の奥底に残る違和感を払拭するために、パールの艦長であるダルダに問いかける。

それに対してダルダは自信満々に答えた。

 

「最新の戦列艦を編成したこれ程の大艦隊をもってすれば、神聖ミリシアル帝国の『第零魔導艦隊』を相手にしても負けますまい。我が国が保有する世界屈指の戦列艦、そして180隻以上の数…これを超える戦力など、第三文明圏には存在しないでしょう。」

 

「そうか…だが、アズールレーンの軍艦の性能が我らの戦列艦を上回っていたとしたら?」

 

「多少の性能差なぞ、この圧倒的物量の前には意味を成しません。たった18隻ではどうしようも無いでしょう。」

 

ダルダの絶対の自信、それでもシウスの違和感は拭えなかった。

 

「果たしてそうだろうか…」

 

シウスの小さな呟きは海風に溶けて、誰の耳にも届く事はなかった。

主力艦隊が戦闘配置へと陣形を変えると、風神の涙の出力を最大にして帆に風を受け、波を切り裂きながら進む。

 

「……ん?」

 

ふと、シウスは違和感を覚えた。

ベルトに挿した望遠鏡を取り、アズールレーン艦隊の動きを観察する。

望遠鏡で拡大すると、その様子がはっきりと分かる。

濃い灰色で塗られた艦体は、見た事が無いほどに大きい。そして、まるで城のように巨大な構造物が聳え立っている。

陸上ならまだしも、揺れる艦上にあんなにも巨大な建造物を建設する事が出来るとは…かなり高い造船技術を持っているらしい。

そんな艦により編成された艦隊から一隻、先行してきた。

 

「何を考えている……?」

 

その一隻だけ先行してきた敵艦と、此方の艦隊は互いに前進しているため、敵艦の姿がだんだん大きく、鮮明に見える。

5km程まで接近しても、進路を変える様子は無い。

如何に巨大な艦体を持っていようと、183隻の艦隊にたった1隻で突撃するなぞ自殺志願者としか思えない。

シウスは、その意味不明な敵艦の行動に首を傾げた。

 

 

──同日同海域、フェン王国防衛艦隊総旗艦『マサチューセッツ』──

 

「指揮官、レーダーに反応があったよ。かなりの数だ…」

 

長い銀髪に褐色の肌を持つKAN-SEN『マサチューセッツ』がタブレット端末を操作しながら報告する。

そんな報告を受けた指揮官は艦橋の指揮所の艦長席に座ったまま応えた。

 

「数や艦種は?」

 

「数は300…180ぐらいが前衛、120ぐらいが後方だね。艦種は……ごめん、似たような大きさだから分からない。」

 

「おそらく、前衛は戦列艦だな。後方の連中は陸戦部隊を乗せた揚陸艦じゃないか?」

 

未だに痛々しく包帯が巻かれた顔をマサチューセッツに向ける指揮官。

その言葉に、彼女は同意するように頷く。

 

「ぼくもそう思う。だとすれば…前衛艦隊を倒せば終わり…?」

 

「だな。」

 

そう短く返し、指揮官は掌で口元を隠し考える。

チラッと、手元のタブレットを見る。

そこには3艦隊、1艦隊6隻なので18隻のKAN-SENと艦船の位置情報が表示されていた。

その内訳は、

─第一艦隊─

・総旗艦、戦艦『マサチューセッツ』

・空母『ワスプ』

・軽巡洋艦『コロンビア』

・駆逐艦『ニコラス』

・駆逐艦『チャールズ・オースバーン』

・駆逐艦『スタンリー』

 

─第二艦隊─

・旗艦、巡洋戦艦『榛名』

・軽空母『祥鳳』

・重巡洋艦『足柄』

・駆逐艦『吹雪』

・駆逐艦『春月』

・駆逐艦『宵月』

 

─第三艦隊─

・旗艦、巡洋艦『バグダル』

・軽空母『リーン・ノウ』

・駆逐艦『ピカイア』

・駆逐艦『ビーズル』

・駆逐艦『マルズタ』

・駆逐艦『ラークメイル』

 

そんなKAN-SENや艦船の状態が表示されているタブレットを見ていると、ふと何か思い付いたように顔を上げた。

 

「艦隊の中で一番防御が優れてるのは…」

 

「勿論、ぼくだね。ぼく達、サウスダコタ級は例え上部構造物が破壊され尽くしたとしても航行が可能だよ。」

 

「だよな…」

 

「……なに?悪い事考えてる?」

 

指揮官の口角が、ややつり上がった事に気付いたマサチューセッツが首を傾げて問いかける。

 

「榛名に乗ってる3人にも、サウスダコタ級の防御力をお披露目してやろう。ちょうどいい、噛ませ犬も居る事だしな。」

 

「ん…分かった。それじゃあ、先行するね。」

 

指揮官の意図を理解したマサチューセッツが速度を上げて、艦隊から一隻だけ先行する。

 

「榛名、シャークン将軍。ムーのお三方にサウスダコタ級のデモンストレーションを見せる。各艦隊はその場で待機せよ。」

 

《あー…何をするのか分かったわ。了解、大丈夫だろうけど気を付けてね。》

 

第二艦隊の旗艦、榛名が何かを察したような、苦笑を含んだ言葉を返す。

 

《指揮官殿、何をするつもりで…?》

 

一方の第三艦隊司令シャークンは、指揮官の意図を図りかねているのか怪訝そうな言葉を投げ掛ける。

 

「まあ、見れば分かりますよ。」

 

煙突から黒煙を吐き出しながら進むマサチューセッツの艦橋で、指揮官は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

──同日同海域、戦艦艦パール──

 

「敵艦接近!」

「嘘だろ…なんてデカイんだ…」

「はっ!一隻だけで何が出来る!」

 

敵艦は凡そ3kmまで近付いているだろうか。尚も、そのまま此方に向かってくる。

 

「シウス将軍、攻撃準備整いました!後は、あのデカブツが射程内に捉えるだけです!」

 

「ダルダ君、奴らは何をするつもりだと思う?」

 

敵艦の不可解な動き…只でさえ数で劣っているというのに、たった一隻で180隻以上の大艦隊に近付いてくる。

巨艦ではあるが、たった一隻ではこの数に蹂躙されるはずだ。

 

「我々の力が分からぬ愚か者でしょう。あの愚かにも突撃している艦を沈めれば尻尾を巻いて逃げますよ。」

 

「かもな……」

 

楽観的なダルダの言葉とは対照的に眉をひそめて警戒するシウス。

そんな彼に通信士が声を掛けた。

 

「シウス将軍!アズールレーンの指揮官を名乗る者から魔信が…」

 

「何?」

 

シウスは前方に見える敵艦を見据える。

 

「もしや…"あれ"からか?……分かった。私が出よう。」

 

そう言って、通信士が持ってきた魔信を手に取ると口を開いた。

 

「パーパルディア皇国海軍、フェン王国侵攻艦隊総指揮官のシウスだ。」

 

《こちら、アズールレーン艦隊指揮官のクリストファー・フレッツァ。今ならまだ間に合う。即刻、武装を海に投棄し降伏せよ。》

 

その言葉にシウスは方眉を上げた。

 

「ほう?どういう意味だ?」

 

《そのままの意味だ。無駄な殺生はしたくない。流石の私も、竜母艦隊に続いて貴艦隊を殲滅するのは少々心苦しい。》

 

「……」

 

《降伏すれば人道的な扱いを保証する。賢明な判断を…》

 

「皇国を嘗めるな。」

 

シウスはただ一言、そう返すと魔信を通信士に渡した。

 

「敵艦射程内!」

 

ズラリと敵艦に対して弧を描くように横並びとなった戦列艦の射程内に敵艦が入った。

その報告を聞いたシウスは再び前方の敵艦を見据え、指示を出した。

 

「奴を海の藻屑にしろ、撃て!」

 

通信士がシウスの指示を各艦に伝える。

 

──ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

魔導砲が轟音と共に炸裂砲弾を放つ。

多数の100門級戦列艦による一斉砲撃…数百の砲弾を浴びて無事でいられる船なぞ居ない。

激しい爆炎と、それに伴う煙により敵艦の姿が見えなくなる。だが、その煙が晴れれば無残な残骸が残るのみ……その場に居る全員がそう考えていた。

 

《てっ……敵艦健在!》

 

誰かがそんな事を魔信で伝えた。

まるで煙を振り払うかのように、変わらぬ速度で巨艦が姿を表した。

焦げたような跡こそ見られるが、ほぼ無傷と言ってもいいだろう。

そんな敵艦が、戦列艦により作られた戦列に突っ込んで来る。

避けようとも、止まろうともしない…そのまま戦列艦と衝突するコースだ。

 

──ゴンッ!ミシミシッ!

 

衝突を回避すべく、敵艦の進路に居た戦列艦が急速発進するが、密集陣形をとっていたため隣り合った戦列艦に衝突してしまう。

 

《どけ!ぶつかる!》

《こっちだって前が詰まってるんだ!無茶言うな!》

《浸水だぁぁぁぁぁ!》

 

魔信からは阿鼻叫喚の混乱が伝わってくる。

だが、敵艦は待ってくれない。

 

《う…わぁぁぁぁぁあ!来るぅぅぅぅぅ!》

 

──バキバキッ!ゴゴンッ!バンッ!

 

逃げ遅れた一隻の戦列艦に敵艦が衝突した。

敵艦の艦首により戦列艦が真っ二つになり、V字型になって沈んで行く。

そんな光景を目の当たりにした者は将兵の区別なく、ポカンと口を開ける事しか出来なかった。

 

「うっ……撃て!撃て!」

 

怖じ気づき、パニックになったダルダがシウスに代わって指示を出す。

艦隊の真っ只中に突っ込んで来た敵艦に向かって、戦列艦が魔導砲を発射する。

 

──ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

敵艦で幾つもの爆発が起きる。だが、無傷。新たな焦げ目を作るだけで、敵艦にダメージは入っていないように見える。

 

──ドォォォォォォン!バキバキッ!バキバキッ!

 

流れ弾により同士討ちしてしまう戦列艦、敵艦から牽き潰されて沈む戦列艦。

 

「うおっ!」

 

変わらず航行する敵艦により引き起こされた波により、パールが揺れた。

その時、魔信がシウスの側に滑り込んできた。

それに気付かず、シウスは喉の奥から振り絞るように言葉を溢した。

 

「何だ…何なんだお前は!?」

 

魔信から冷たく、無慈悲な声が響いた。

 

《敵だよ。お前達が、そうさせた。》

 




明日からイベントなので次回投稿遅れます

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