異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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思ったより短く仕上がってしまった…

あと、今回のイベントで信濃の名前が出てきましたがグラだけでも出ませんかね?

あと、龍鳳出ません
何故か能代は二人出ました


49.ワンサイドゲーム

──中央暦1639年10月21日午後2時、フェン王国ニシノミヤコ沖合──

 

──バァンッ!バァンッ!バァンッ!

 

海に幾つもの炎の花が開き、直ぐ様その赤黒い花弁を散らせて行く。

純白の帆を持つ優美な戦列艦がその片舷40から50門程もある魔導砲を轟かせ、何十隻もの艦隊をもってひたすらにたった一隻の船を攻撃している。

それだけ聞けば、攻撃に晒されている船は残酷なリンチを受けているように思えるだろう。

だが、それは違った。

 

「チクショウ……チクショウ!何で効かないんだ!?」

「とにかく撃て!撃ちまくれ!」

「おい!もう装填してる!」

「え!?なんだって!?」

 

──ドゴォンッ!

 

戦列艦側は混乱の極みであった。

本来は一斉射撃により、最大の威力を発揮出来る多数の砲門はバラバラに発砲している。

砲を操作する者も、帆を操作する者も皆が目の前に存在するたった一隻の船に恐れ戦いていた。

何十…何百…何千もの砲弾を撃ち込んだというのに、沈むどころか悠々と艦隊の真っ只中を航行している。

その威容に恐怖し士気が下がり、統率を欠いた彼らは装填済みの魔導砲に再び装填…所謂、二重装填をしてしまい暴発させてしまう者も出てきた。

 

「弾が……弾がもう無い!」

 

1時間にも及ぶ砲撃の結果、砲弾が底をついた戦列艦まで出る始末だ。

そんな様子を目の当たりにしたシウスは力無く膝から崩れ落ちた。

 

「これは……夢…なのか?」

 

体がブルッと震え、股の辺りに温かさを感じる。視線を落とすと、ズボンが濡れていた。

そのまま、視線をダルダに移す。

 

「やれぇい…やれぇい…あははははははははは…皇軍の力は圧倒的ではないかぁ…」

 

虚ろな目で囃し立てるように、奇妙な踊りのような動きをしている。

彼の振る舞いは、誇り高き皇軍にあるまじきものだろう。だが失禁した自分も含め、誰がこの場に居る者を責められようか。

180隻以上の戦列艦から代わる代わる攻撃され、大した損傷も無く動き続ける敵艦…そんな現実離れした存在を目の当たりにして平然としていられる者が居るだろうか?

 

「どうすれば……私はどうすればいいのだ!」

 

甲板に拳を叩き付け、慟哭するシウス。

第三文明圏最強の艦隊…それが戦闘不能となってしまった。

竜母艦隊は全滅。主力艦隊は、たった一隻の敵艦に弾薬を使い果たしてしまった。

皇軍は全力で戦った。だが、敵艦はただ航行しただけで10隻もの戦列艦を海の藻屑にし、残る戦列艦の戦闘力を奪ってしまった。

多くの者が恐慌状態に陥り、発狂している中にあってもシウスがギリギリの所で踏み留まっている理由は、皮肉にも敵艦の様子にあった。

 

「あと200隻…戦列艦があればあるいは…」

 

敵艦は殆ど損傷を受けていない…だが、全く受けていないという訳では無かった。

敵艦の至る所から生えている金属製らしき棒や筒は歪にネジ曲がり、至るところから火の手が上がっている。

確かに敵艦は最強格であろう。それは間違いない。

だが、無敵ではない。魔導砲の砲撃により多少なりとも損傷を与える事が出来ている。

戦場に"もしも"は無い。だが、もしも…もしも、二倍の規模を持つ艦隊で挑んでいれば或いは…

シウスがそんな意味の無いもしもを思い浮かべていた時だった。

 

──ブシュゥゥゥゥゥゥゥ…

 

勢い良く空気が噴き出すような音がしたかと思うと、敵艦が白いモヤで覆われた。

 

(……なんだ?)

 

不可解な現象に内心、首を傾げていると次第に白いモヤが晴れてきた。

 

「うっ…うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

シウスの精神が折れた。

信じられない事に…僅かに与えていた損傷が"回復していた"

ネジ曲がった金属の棒や筒は綺麗に真っ直ぐになっており、火の手は鎮まり、表面の焦げ目すら無くなっている。

巨大な事はまだ分かる。数千の砲撃を受けても健在な事は常識外れだが、百歩譲ってまだいいだろう。

だが、損傷が回復するなぞ余りにも異常だ。これでは幾ら攻撃しようが意味が無い。

攻撃が効かず、僅かに与える事が出来た損傷も回復してしまう…こんな化け物を相手に、どうやって戦えばいい。

 

(あぁ…我々は……我々は、何を敵にしてしまったのだ…)

 

フェン王国で敗北し、虜囚の辱しめを受けている国家監察軍を皇国の恥だと思っていた。

だが、現実を目の当たりにしてその考えは180°変わった。

国家監察軍は、こんな強大な敵に立ち向かった…よしんば降伏したとしても、賢明な判断だったと言える。

へし折れた心が後悔となり、突き刺さる。

 

《皇国を嘗めるなぁぁぁぁぁぁぁあ!》

 

魔信から音が割れる程の声が響く。

奇しくもシウスと同じ言葉を発したのは、上空を飛ぶワイバーンロードに騎乗する竜騎士だった。

20騎程のワイバーンロードが導力火炎弾を放とうとする。

だが、それは叶わなかった。

 

──ドドドドドドドドッ!

 

敵艦の至るところから生えている金属製の筒が火を噴き、光の弾を連続して発射した。

その光の弾はワイバーンロードごと竜騎士を貫き、いとも容易く撃墜してしまった。

その時、シウスは初めて理解出来た。

至るところに生えている金属の筒も、箱状の構造物から伸びた太い筒も…あれは、"銃と大砲"だ。

 

「あ……あっ……あっ……」

 

人は余りにも小さな物を認識する事は出来ない。

そして同じように、余りにも大きな物も認識出来ない。

シウスはその状態に陥っていた。

ムーの最新鋭戦艦『ラ・カサミ』に搭載されている回転砲搭と似ている。だが余りにも巨大過ぎた為、そう認識出来なかったのだ。

その巨砲…『Mk.6 16インチ45口径3連装砲』がゆっくりと、旋回する。

その砲口が自らが乗る、戦列艦パールに向けられた瞬間…

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

シウスはガタガタと震えながら泡を吹き、意識を手放した。

 




SAN値(/・ω・)/ピンチ!

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