異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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51.因果応報

──中央暦1639年10月21日午後3時、フェン王国ニシノミヤコ沖合──

 

果てしない破砕音が海上を征する。

巨砲が火を噴き、戦列艦が砕け散る。戦列艦が沈み、命が散る。

海面にはさっきまで命だった物が…力だった物が散らばる。

そこに、第三文明圏最強のパーパルディア皇国軍の姿は無かった。

たった一隻に蹂躙される哀れな船達…彼らは自分達を狼の群れだとでも思っていたのだろう。

強く、気高い我々はか弱い羊の群れを蹂躙し、貪り喰らう権利があると。

だが、彼らが食らいついたのはドラゴンの尾だったのだ。

 

「助けてくれ!助けて……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「降参する!降さ……」

 

──ズドンッ!ズドンッ!ズガァァァァン!

 

命乞いが、悲鳴が、轟音により掻き消される。

16インチ砲9門、5インチ砲20門、40mm機関砲72門、20mm機関砲41門が逃げ惑う戦列艦を破砕し、蜂の巣にして行く。

そこに人の力が介入する余裕なぞ無かった。吹き荒れる鉄の嵐は、堪え忍ぶ事さえも赦さない。

 

「な…なんという事だ……」

 

主力艦隊の後方、揚陸部隊の司令官である陸将ベルトランは青ざめた顔で呟いた。

180隻もの戦列艦が、たった一隻の敵艦に蹂躙されている。

最強と信じていた魔導戦列艦が、精強な兵士がゴミのように打ち倒されて行く。ベルトランは悟った。

 

「かっ…勝てぬ!この作戦は失敗だ!」

 

旧式の竜母や戦列艦を改装した揚陸艦には、自衛用や揚陸時の火力支援用に数門の魔導砲を装備しているのみだ。

100門もの魔導砲を装備している戦列艦ですら勝てない相手に、揚陸艦が勝てる筈もない。

 

「撤退だ!今すぐ撤退しろ!」

 

蛮族相手に尻尾を巻いて逃げるなぞ、責任問題…間違いなく死罪となるだろう。

だが、このまま10万人近い兵士を無駄死にさせる訳には行かない。

その判断は、英断と言ってもいいだろう。だが、それは余りにも遅かった。

 

「ベルトラン様、ベルトラン様っ!」

 

陸戦策士ヨウシが悲鳴のような声と共に、ベルトランのもとへ駆け寄ってきた。

 

「囲まれています、もう逃げられません!」

 

「何!?」

 

慌てて周囲を見回す。

左右に広がる水平線に、それぞれ黒い点が見える。

そう、パーパルディア皇国軍がマサチューセッツに気を取られている間に、フェン王国の南北に展開していたアズールレーン艦隊…第四艦隊、第五艦隊が揚陸艦隊の左右を挟み込んでいたのだ。

 

「真後ろだ!真後ろに撤退…」

 

ベルトランがそう指示した瞬間だった。

 

──ズウゥゥゥゥン!

 

揚陸艦隊の最後尾の一隻が、巨大な水柱と共に轟沈した。

 

「なんだ!?こっ…攻撃されたのか!?」

 

──ズウゥゥゥゥン!ズウゥゥゥゥン!ズウゥゥゥゥン!

 

ベルトランが驚愕している間にも次々と揚陸艦が沈む。

 

(なんだ!?この攻撃は何なんだ!?)

 

正体不明の攻撃に冷や汗をダラダラと流すベルトラン。

恐怖と驚愕に支配される思考で必死に攻撃の正体を探ろうとしたが…おそらく、その答えが出る事はないだろう。

 

 

──同日、フェン王国沖海中──

 

「へへへ~、一隻撃沈♪」

 

まるで巨人の内臓のように配管が張り巡らされた薄暗い艦内で、猫耳に赤い髪をツインテールを持つスクール水着姿のKAN-SEN『伊19』が潜望鏡を覗きながら、嬉しそうに尻尾を振る。

 

《伊19殿、こちら1型潜水艦『1-1』。クトゥルヒ発射準備完了です。》

 

《こちら、『1-2』。こちらもクトゥルヒ発射準備完了しました。》

 

水中光無線通信を使って、僚艦である1型潜水艦二隻が伊19に報告する。

すると、伊19は戦場らしからぬ朗らかな声で答えた。

 

「よーしっ、皆一緒に~。どっか~ん☆」

 

伊19の気の抜けるような掛け声と共に、6発の水中兵器『クトゥルヒ』が甲板上に増設された発射管から発射された。

表面に幾つもの穴が開けられた空洞のシャフトに搭載された魔石『ダゴンの鰭』により、取り込まれた海水が後端から噴き出し推進力となる。

そして海水が噴出するノズルには、ミズホの神秘を用いた形代が張り付けられ、予め潜望鏡に増設されていた『燃える三眼』で指定された目標に向かうべく水流を操作する。

そうやって誘導された鏃は、寸分違わず揚陸艦の竜骨に突き刺さり…

 

──ズウゥゥゥゥン!

 

槍に仕込まれた爆裂魔法が炸裂、竜骨を真っ二つにへし折った。

 

 

──同日、パーパルディア皇国軍揚陸艦隊──

 

──ズウゥゥゥゥン!ズウゥゥゥゥン!ズウゥゥゥゥン!ズウゥゥゥゥン!

 

「また沈んだ!どこからだ!?」

「チクショー!卑怯者め!」

「殺される…殺される…全員殺されるんだ!」

 

主力艦隊もそうだったが、揚陸艦隊も阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

所構わずマスケット銃を発砲する者、マストに登り罵声をあげる者、船室に逃げ込み震える者…彼らの士気もまた消沈しきっていた。

 

「ベルトラン様!降伏を…敵艦隊による包囲が狭まっています!」

 

ヨウシがすがり付くようにベルトランに懇願する。

彼はあくまでも陸戦策士、海戦については最低限しか分からない。だが、前方はたった一隻で主力艦隊を葬った巨艦。左右には敵艦隊、真後ろには不可視の敵…勝ち目は無い。

そして、それはベルトランも理解していた。

 

「…分かった、降伏の旗を掲げよ!」

 

通信士が、ベルトランの指示を各揚陸艦に伝える。

すると、各々が隊旗を上下逆さに付け替えて、左旋回で振り始めた。

これは、第三文明圏における降伏を示す合図だった。

それを見た兵士は、安心感を抱いた。

これで助かる…しかし、彼らはまだ自覚していなかった。

ここは、第三文明圏外である事。

そして……彼ら自身のこれまでの行いを…

 

 

──同日、マサチューセッツ戦闘指揮所──

 

「指揮官、敵艦隊の乗組員が上下逆にした旗を振ってるよ…?」

 

やや目を細めたマサチューセッツが首を傾げながら、指揮官に指示を求める。

それに対して指揮官はさっきまでマサチューセッツが食べていたアイスクリームを一口だけ口にした。

同じスプーンを使っているため間接キスになるが、そんな細かな事は気にしない二人である。

 

「何だと思う?」

 

「降伏…かな?」

 

マサチューセッツが、スプーンを返せとでも言うように指揮官に手を差し出す。

 

「どうかな?パーパルディア皇国は魔法文明…もしかしたら大規模魔法を発動する為の儀式なのかもしれん。」

 

「……かもね。」

 

指揮官から返されたスプーンを手にしたマサチューセッツは、アイスクリームを掬って口に運んだ。

 

「全艦隊へ通達。敵艦隊に不可解な動きが見られる。あれは大規模魔法発動の為の儀式かもしれない。その可能性がある以上、事態は一刻を争う!」

 

無線機のマイクを手に取り、指揮官が展開している艦隊に通達する。

 

「万が一、我々が敗北すればフェン王国に住まう罪無き人々が虐殺される可能性がある!全責任は私が負う、攻撃せよ!」

 

指揮官の言葉と同時に、各艦が砲身を…艦載機を敵艦隊へ向けた。

 

「撃て。」

 

静かな宣言。それにより万単位で人々が死ぬのだ。

 

《敵にふさわしい場所は墓以外にあらぬ》

《幸せそうに逝っちゃって~ふふふ…》

《等しく破滅をくれてやる…!》

《ぶっとばしてやるわぁー!!》

 

戦列艦すら粉微塵にする砲弾が、爆弾が、一斉に揚陸艦隊へ殺到した。

 

 

──同日、パーパルディア皇国軍揚陸艦隊──

 

──ズドォォォン!バギッ!ズガァァァァン!ドンッ!ボンッボンッ!

 

あらゆる破壊力が脆弱な木造船を破壊する。

砲弾が直撃し横っ腹に大穴が開き、大量の海水が流入し沈む。

爆弾が甲板を貫き、弾薬庫で炸裂し木っ端微塵となる。

全てが炎に沈む。造船技術の粋を集めた軍艦が、厳しい訓練を積んだ兵士が、あらゆる戦術を学んだ士官が…あらゆるモノが弾け、燃え、溺れる。

 

「そっ…そんなぁ!降伏したのに!」

 

ヨウシが悲鳴混じりに叫び、頭を抱える。

 

──ビチャッ!

 

甲板上に兵士の千切れた下半身が落ちてきた。

それを見たベルトランは歯を食い縛り、天を仰いで叫んだ。

 

「おのれぇ……!蛮族共めぇぇぇぇ!」

 

それと同時だった。

グラーフ・ツェッペリンから発艦したJu87Cが投下した500kg爆弾がベルトランを押し潰し、甲板を貫通し炸裂した。




鉄血の鷹
クラップ製艦載機(BF-109T、ME-155A、JU-87Cなど)を装備している時、それぞれの威力補正が15.0%(MAX30.0%)アップ

つまり、某空の魔王が更に強化されると……?


今年中にあと1話…行けるか行けないか…ってとこですね

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