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今年中にあと1話…行けるかなぁ…?
──中央暦1639年10月27日午前10時、パーパルディア皇国皇都エストシラント、パラディス城内ルディアスの私室──
第三文明圏で最も繁栄している、と言っても過言ではないエストシラントの皇宮に住まう皇帝ルディアス。
そんな彼の私室に一人の女性が訪れた。
「陛下…御加減は如何ですか?」
恭しく頭を下げるレミール。
そんな彼女にルディアスは手招きした。
「ああ、今日は調子がいい。少し…話をしよう。」
ベッドから上体を起こして、主治医を部屋から出すと傍らの椅子をレミールに勧める。
パーパルディア皇帝ルディアス、彼は病床にあった。そのため長期間、面会出来ない時期もある。
生まれつき体が弱い彼であるが、その精神性や政治手腕は第三文明圏の中でも群を抜いている。
だが……
「レミール。この世界のあり方…そして、パーパルディア皇国についてどう思う?」
「はい、陛下。数多くの国がひしめき、争う中で皇国は第三文明圏の頂点に立っています。そして、多くの国を"恐怖"により束ねていますが…これは非常に有効であると思います。」
「そう、恐怖による支配こそ国力増大の為には必要だ。神聖ミリシアル帝国やムーは近隣諸国に対し融和政策をとっているが…あまりにも軟弱だ。そのような弱腰な国より、我が国が下に見られている事は我慢ならない。」
はっきり言って、多様性を許容しない前時代的な思想の持ち主だった。
第三文明圏トップとは言え、結局は第三文明圏内だけでしか通用しないモノだ。
「我が国は第三文明圏を統一し、超大国として君臨する。いずれは中央世界も第二文明圏をも配下に置き、世界統一を果たす。そうすれば世界から戦争が無くなる…全ての民がパーパルディアの名にひれ伏す。それが世界の為になる…そうは思わぬか?」
さらには独善的、とまで来たものだ。
常識的な…ミリシアルやムーの人々が聞けば、ルディアスの正気を疑うだろう。
だが、パーパルディア皇国民…とりわけレミールは違った。
「へ…陛下がそれほどまでに、世界を思っておられるとは……このレミール、感激でございます。」
感動のあまり、瞳を潤ませるレミール。
ルディアスに心酔しきっている彼女は、彼の考えがとても素晴らしいものに思えた。
そして、ルディアスは言葉を続けた。
「世界統一の為には多くの血が流れ、苦難を極めるであろう…だが、私はこのような体だ。レミールよ、余をこれからも支えてはくれぬか?」
「は…はい!微力ながら尽力させて頂きます!」
レミールは彼に一生着いて行く事を固く誓った。
「そういえばレミール、アズールレーン…と言ったか?蛮族の集まりについてはどうなっている?」
「はい。国家監察軍を破った事で、いい気になっていたようですが…身の程を弁えず、フェン王国侵攻の件について陛下直々の謝罪を求めてきたので、奴らの船の乗組員10名程を殺処分しました。」
レミールの言葉にルディアスは薄ら笑いを浮かべる。
「寛大だな、レミールよ。教育の機会を与えたのだな?して、連中の反応はどうだった?」
「蛮族らしく、大声で喚き散らしていました。陛下、あのような民は即刻滅ぼすべきだと思うのですが…」
「私は、どのような蛮族でも滅びを回避する機会は等しく与えなければならない、と考えている。蛮族とて、有効利用出来る。無闇に殺しては成長の機会も奪う…それだけの知能があれば世界の利となる。そうでなければ獣…いや、それ以下だな。正に害悪でしかない。」
「なるほど。では、現在進めているフェン王国侵攻作戦の後、再度会談の機会を与えましょう。フェン王国もアズールレーンに参加しています。連中が集まっただけで調子付いてるのであれば、フェン王国を落とせば目を覚ますでしょう。それでも我々の意図を理解出来ないようであれば……」
「殲滅戦もやむ無しだな。」
──ピピピッピピピッ…
レミールとルディアス、二人して冷笑を浮かべているとレミールの左腕に装着しているブレスレットが点滅し、呼び出し音が鳴る。
「今は私的に話していただけだ、公務を優勢せよ。そこの魔信を使ってもいいぞ。」
ルディアスとの時間を邪魔され、不機嫌そうな表情を浮かべるレミールに、ルディアスは気を遣った。
「申し訳ありません。少々、失礼します。」
レミールは一礼すると、壁際に設置された魔信を使って第三外務局に連絡する。
「何事だ。」
『アズールレーンの者が急遽話をしたいと訪問して参りましたが、いかがされますか?』
「分かった。今行く、待たせておけ。」
魔信を切ったレミールは悪魔のような笑みを浮かべた。
「陛下。たった今、アズールレーンが急遽会談をしたいと申してきました。陛下の意図を漸く理解出来たのかもしれません。」
「蛮族らしい慌てぶりだ。良い、アポ無しの非礼については許してやるがよい。」
「万が一…連中が陛下の御慈悲を理解出来ていなければ、いかがなさいます?」
ルディアスはフッ、と鼻で笑うと冷笑を浮かべた。
「あまり、蛮族にナメられた態度をとられるのも皇国の威厳に関わる。…処遇はそなたに一任する。」
ルディアスの言葉を聞いたレミールは頷き、部屋を出る直前で振り返る。
「陛下、今日は他にご予定がおありでしょうか?」
「いや、無い。」
「では会談が終わり次第、戻ってまいってもよろしいでしょうか?」
「うむ、よいぞ。」
それを聞いたレミールは、満面の笑みを浮かべた。
──同日、第三外務局応接室──
アズールレーンの者こと、指揮官と細長い箱を持ったサン・ルイはパーパルディア皇国第三外務局の応接室のソファーに座って待っていた。
そうしていると、レミールが入室してきた。
凶行に及んだとは言え、この国の皇族…一応は立ち上がり、出迎える。
「急な来訪だな。まあ、命が懸かっているのだ。その心情を汲んでやろう…皇国は寛大だ。今回の非礼は許して遣わそう。」
得意気に話すレミールに対し、指揮官は懐から書状を取り出した。
「先ずは此方を読んで頂きたい。」
「従属する決意がついたか?殊勝な事だ。」
益々、上機嫌になったレミールは書状を受け取ると開いて読み始めた。
その内容は…
・今回のアズールレーン関係者虐殺に関し、パーパルディア皇国は公式に謝罪し、賠償を行う事。
・賠償額は1人当たり10億パソ分を金に替えて支払う事。
・今回の虐殺に関した者はアズールレーン内の独自法律に基づいて処罰するため、身柄を引き渡す事。
・今回、フェン王国侵攻艦隊との交戦に費やした戦費70億パソを金に替えて支払う事。
「確約されなければ、我々は貴国に対し武力を用いる事に…」
──ドンッ!
指揮官がそう言っていると、レミールが拳をテーブルに叩き付けた。
「ふ……フ…フハハハハハ!」
突如、レミールは狂ったように笑い始めた。
「付け上がるなよ、蛮族如きが!謝罪と賠償だと!?ふざけるな!」
そんなレミールに指揮官は、敢えて優しげな笑みを浮かべた。
「サン・ルイ。」
「ああ…」
指揮官からの指示を受け、サン・ルイが細長い箱をテーブルに置くと、蓋を開けて中身を取り出した。
「貴国ご自慢の海軍は壊滅しました。生き残りは僅か4名…シウスなる将軍も居ますが、彼は発狂しマトモに話せなくなっています。」
サン・ルイがテーブル上に広げた物、焼け焦げた二枚の布切れ…金のモールで縁取られたパーパルディア皇国旗だ。それは、艦隊旗艦が掲げる事が出来る旗だ。
確か、フェン王国侵攻艦隊の竜母艦隊旗艦『ミール』と、主力艦隊旗艦『パール』が掲げていたはずだ。
それを見たレミールは一瞬にして怒りが冷めた。
「なっ……これは…!」
レミールはパーパルディア皇国のやり方に染まり、その力に酔っていた。
しかし、人並みの判断力はあった。
皇国海軍を壊滅させるだけの力がある相手…その得体の知れない力に恐れを抱いた。
もう少し、冷静に考えよう…そんな考えが頭を過った瞬間だった。
「我々の要求を飲んで頂けるのでしたら…"許してあげますよ"」
指揮官の上から目線な言葉…それはレミールのプライドを刺激し、再び冷静さを失わせた。
「"許してあげますよ"…だとぉ…?」
白い肌を真っ赤にしたレミールは歯をギリギリと鳴らし、般若のような怒りの表情を見せた。
「皇国の慈悲が理解出来ぬばかりか、皇国に偉そうな口を……最早、貴様らはこの世界の害悪だ…」
そんなレミールの怒りを涼やかに受け流す指揮官は、再び懐から2枚の書状を取り出した。
「交渉決裂…ですね?」
「当たり前だ!」
「では、此方が正式な宣戦布告の文書です。そして此方が…戦時協定に関する文書です。」
2枚の書状を引ったくるように受け取ったレミールは、2枚とも開いた。
「戦時協定は降伏の方法や、捕虜の扱い。また、略奪や虐殺を禁止する事を明文化した物で……」
──ビリッ!ビリッ!ビリッ!
書状の内1枚…戦時協定が書かれた紙がレミールの手によって破り捨てられた。
「貴様らの都合なぞ知らん…この期におよんで、詰まらぬ保険をかけるつもりか?」
「これがお互いの為になると思うのですが……」
「くどい!」
テーブルに両手をつき、詰め寄るレミールの剣幕に、指揮官は呆れたように溜め息をつく。
「分かりました。では、戦時協定は結ばない…で、よろしいですね?」
至近距離まで迫ったレミールの顔を払うように手を振る指揮官。その際にレミールの髪が一本、指先に絡まり毛根から抜けたが、怒りに囚われている彼女はそれに気付かなかった。
「もうよい、去れ!」
鋭く扉を指差すレミールに従うように退室する指揮官とサン・ルイ。
二人の胸中には、レミールへの怒りなぞ通り越した哀れみがあった。
金額交渉は先ず、ふっかけるのが基本