──中央暦1639年11月11日午前11時、駐アルタラス王国アズールレーン連絡事務局──
アルタラス王国にムーが建設したルバイル空港。そこはムーとロデニウス連邦の間で結ばれた協定により、軍民両用の空港として改装されていた。
そんな空港の一角にアズールレーンの連絡事務局はあった。
「作戦を説明する。」
連絡事務局の一室、上等なソファーやテーブルが置かれた応接室で大使役のプリンス・オブ・ウェールズが口を開いた。
「昨夜、潜水艦シュルクーフよりパーパルディア皇国海軍らしき艦隊発見の報を受けた。そして本日、アルタラス王国宛にパーパルディア皇国より理不尽な要求が届いた…これは間違いなく、アルタラス王国を侵略する意思があるのだろう。」
テーブルの上に広げた地図のアルタラス海峡に赤い矢印の駒を置く。
「アルタラス王国海軍は沿岸部より、そして我々は敵艦隊の真後ろに回り込み挟撃する。指揮官からは、一隻足りとも逃がすな…との命令だ。」
その赤い矢印の駒を南北から挟み込むように青い矢印の駒を二つ置く。
それを覗き込んでいた5人のKAN-SENの内の一人、綾波が小さく手を挙げて問いかける。
「アルタラス王国海軍は大丈夫…ですか?」
「問題無いだろう。海上戦力はアグレッサー級20隻、航空戦力はシーグラディエーターの改造機…ハルファノ戦闘爆撃機50機が配備されている。」
そう言って、チラッと窓から見える滑走路に目を向ける。
そこには、次々と複葉機が着陸していた。
サモアがかつてクワ・トイネ公国と、クイラ王国に生産設備を提供し、ロウリア王国と合併してロデニウス連邦となってからも生産が続けられていた『シーグラディエーター』の改良機、『ハルファノ戦闘爆撃機』であった。
エンジンを1000馬力級の物に載せ換え、脚回りを強化、小型の爆弾やロケット弾を搭載出来るように改良したものだ。
ロデニウス連邦では練習機や地方部隊に、他国ではワイバーンに代わる航空戦力として配備されつつあった。
「アルタラス王国は、魔石や魔導技術との交換で十分な数が揃えられてますからね。更には十分な訓練も積んでいる…戦力的には十分でしょう。」
そう言いながらもう一人のKAN-SEN、ニーミがアルタラス王国の隣にある島国のシオス王国を指差す。
そこにはアズールレーンの航空基地があり、そこでアルタラス王国とシオス王国の空軍を教育していたのだ。
「そうだ、アルタラス王国軍は精強かつ士気も高い。我々が心配する事は無いだろう。」
「ウェールズ、艦隊の背後に回りこむの…どうする……?」
相変わらず眠そうにしながら、ラフィーが質問する。
それに対し、ウェールズは頷いて答えた。
「"強襲反転"だ。あれなら、最速で敵艦隊の背後に戦力を展開する事が可能だ。」
「ええ~っ!強襲反転ですか~!?」
ウェールズの言葉を聞いたジャベリンが心底嫌そうな顔で聞き返す。
そんなジャベリンに対し、ウェールズは若干苦笑しながら答えた。
「そうだ、ユニオン人の…指揮官らしい戦術だが、戦力の展開速度は確かだ。……ルミエス殿下、よろしいですか?」
ウェールズが問いかけた相手、それはこの場に居る最後のKAN-SENにしてアルタラス王国の王女、ルミエスだった。
その問いかけに対し、ルミエスは力強く頷いた。
「はいっ!訓練は受けてますし、大丈夫です!」
「…やはり、出撃なされるおつもりですか?」
「はい、勿論です。戦える力があるというのに、王城でのうのうとしている訳には行きません。力には義務と責任が伴う…そうであれば、私はこの国を守る義務と責任があるのです。」
確固たる意思を示すルミエスに対し、ウェールズは静かに頷いた。
「承知しました。そこまで言われるのであれば、我々は止めません。」
──中央暦1639年11月12日午前8時、アルタラス王国北東130km沖合い──
エストシラントを根拠地とするパーパルディア皇国海軍第三艦隊がアルタラス王国に向かって航行していた。
戦列艦250隻、竜母30隻からなる大艦隊を率いるのは、旗艦である150門型超フィシャヌス級魔導戦列艦『ディオス』に座乗するアルカオンだ。
海風に吹かれながら、彼は胸騒ぎを感じていた。
(この海に…何が潜んでいるのだ?)
アルカオンの脳裏にはとある報告書の一文が浮かんでいた。
──フェン王国侵攻艦隊、壊滅。シウス将軍他3名がアズールレーンに捕虜として捕らえられた。
180隻もの戦列艦、20隻もの竜母、120隻もの揚陸艦が壊滅したという報告だ。
しかも、その情報は世界のニュースでも報道されていた。
皇国はその報復としてアズールレーンを殲滅する為の戦力増強を図る為に、豊富な魔石埋蔵量を持つアルタラス王国を占領する…それが、アルカオン率いる第三艦隊に下された命令だった。
「それにしても、アルタラス王国に対しこれ程の大艦隊を差し向けるとは…」
「国家監察軍はまだしも、フェン王国侵攻艦隊までもが敗れた事は皇国の威厳に関わる。敗北は許されん…と、いう事だ。」
副官であり、アルタラス王国占領後の統治機構海上警備軍の司令官を任されたダーズの問いかけに、重々しく答えるアルカオン。
今のところ、パーパルディア皇国は連敗している。これ以上の敗北は、パーパルディア皇国の国策である『恐怖による支配』の基盤を崩壊させかねない。
故に、本来はエストシラントの防衛を担っている三つの艦隊の内の一つ、第三艦隊を動員したのだ。
「良いか、アズールレーンは少なくとも皇軍に匹敵する力を持っているようだ。油断するな……」
《南西方向に未確認騎5!……速い!追い付けない!》
アルカオンが兵士達の気を引き締めようとした瞬間だった。先行していたワイバーンロード部隊からの連絡が入った。
アルカオンが双眼鏡を手に取り南西方向を見た瞬間、それは見えた。
──ブゥゥゥゥゥゥゥウン…
空に溶け込むような青みがかった灰色に、羽ばたかない翼。その翼の胴体寄りの部分には楕円形の物体が埋め込まれ、その物体の前方では何かが高速回転している。
その未確認騎は、みるみると大きく見え…あっという間に艦隊の頭上を飛び越えた。
「は……速い…!」
「飛行機械だと!?」
ダーズが未確認騎のスピードに驚き、アルカオンは未確認騎の姿に驚愕した。
それは、時折アルタラス王国へ向かう姿を見る事が出来るムーの飛行機械に酷似していた。
──同日、パーパルディア皇国第三艦隊上空──
──ブゥゥゥゥゥゥゥウン!
エンジン音と風切り音が響く機内でルミエスは俯せになっていた。
今、彼女が搭乗しているのは旅客機ではない。
最低限の改造を施したモスキート爆撃機だった。
《殿下、間もなく投下地点です!準備はよろしいですか!?》
装着したヘッドフォンからリルセイドの声が聴こえる。
「大丈夫ですよ。何時でも行けます!」
喉元に装着した咽喉マイクを使い、リルセイドの言葉に答える。
すると爆弾倉の扉が開き、暗い機内に海面に反射した陽光が差し込む。
《3…2…1…投下!殿下、御武運を!》
リルセイドの言葉と共に、ルミエスの体を吊り下げていたアームが開き彼女を投下する。
高度1000mから500km/hの速度で投下され、慣性により身一つでパーパルディア艦隊を飛び越す。
(800…600…400…200!)
背負っている巨大なバックパックに取り付けられている高度計が200mを指した瞬間、高度計の近くから飛び出た紐を引く。
──グァバッ!
バックパックから勢い良く巨大なパラシュートが飛び出し、一気に落下速度を落とす。
この時点で、パーパルディア艦隊の最後尾の更に後方3kmの辺りに来た。
《綾波、着水した…です。》
《ラフィー、着水…できた。》
《ジャベリン、着水完了ですっ!》
《私…Z23、着水完了しました。》
無線機から聴こえる四人の友人の声を聞いたルミエスは、パラシュートを切り離し高度50m程から自由落下へと移行する。
「旗艦、航空巡洋艦ルミエス…」
ルミエスの体が光に包まれ、その光が艦船の形になって行く。
その光が収まった瞬間、そこにあったのは全長160m程の艦体に13.3cm連装砲2基を前部甲板に、カタパルトと格納庫を後部甲板に配置した航空巡洋艦の姿だった。
そして、彼女を守るように輪形陣を組む4隻の駆逐艦…彼女達の護衛を心強く思いながら、ルミエスは艦橋から凛々しく告げた。
「…アルタラス王国の為に!」
後に、パーパルディア皇国の落日を決定付けたとされる『アルタラス海峡海戦』が始まった。
アズレンCWのDLCはまだですかね…
大鳳の動きがカッコいい…穿いてるのかどうか確認せねば…