異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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笑う男様、夜叉烏様より評価10を、ironkongss様より評価9を頂きました!

タイトルでネタバレしてますね


5.炎の匂い染み付いて

──中央暦1637年2月8日午前10時頃、サモア基地・サバイイ島演習場──

 

黒い岩に覆われた荒涼とした大地、そこに設営された深い緑色の天幕の下でヤゴウら視察団…特にハンキは簡素なテーブルに置かれた未知の兵器に興味津々な様子だ。

そして、それらの兵器よりも彼らの興味を引く物があった。

それは、巨人…天幕と同じ深い緑色の鎧を身に纏い、飾り気の無い半球状の兜を被った三つ目の巨人。視察団がその巨人を気にしていると、テーブルを挟んだ位置に立っていた指揮官がパンパンと手を打ち鳴らした。

 

「では、皆さん。これらの兵器の解説を始めます。これらの兵器は、クワ・トイネ公国に軍事支援の一環として提供する予定のものなのですが…」

 

指揮官が天幕の横に立つ、緑の巨人をチラッと見て。

 

「あれも提供予定のものですが、解説は最後に致しますので、とりあえずは気にしないで下さい。」

 

そう言って、傍らに立っているガッチリとした体型の男性を指す。

 

「紹介します。彼はチャーリー・ケリー軍曹。我がサモア基地陸上防衛部隊の中でも、特に優れた兵士です。」

 

「ご紹介に預かりました、チャーリー・ケリー軍曹です。僭越ながら私がクワ・トイネの皆様に、これらの兵器の実演を行います。」

 

ケリー軍曹が視察団に敬礼する。すると、ハンキが敬礼を返した。

 

「私はクワ・トイネ公国軍務局にて将軍位を拝命しているハンキと申します。我々は貴国の兵器に強い感心を持ってはいるのですが…如何せん、見たこともない兵器ですので何度も質問するかも知れませぬが、ご容赦頂きたい。」

 

「いえいえ、私とて一介の兵士に過ぎません。出来る事は、皆様にこれらの兵器がどのようなものであるか、というのをお見せする事しか出来ません。私こそ、専門的な質問にはお答えしかねるかもしれません。」

 

ハンキの言葉に返答しながら、ケリー軍曹がテーブルに置かれた兵器の中でも一番小さな物を手に取る。

 

「こちらは鉄血のクラップ社、銃火器部門パルサーが製造している『P38』と呼ばれる銃です。……と、先ずは銃とは何たるかをご説明致します。」

 

そう言ってケリー軍曹はP38のスライドを二回引いてカートリッジを排出した。

テーブルに転がった9mmパラベラム弾を手に取ると、ハンキ達に差し出すように見せた。

 

「これが、銃の弾…この銃が弓なら、この弾は矢と考えて下さい。」

 

「なるほど、弓は矢がなければ使えない。銃も同じく弾が無ければ使えない、という事でよろしいか?」

 

「その通りです、閣下。この弾は真鍮の容器に激しく燃える薬が入っていて、その燃える勢いでこの半分にした楕円形のような鉛の塊を秒速350m…時速にすると……」

 

「時速1260kmだ。」

 

「そうそう、指揮官の仰る通りの速さです。まあ、この銃ではと言う話なので、より強い銃も弱い銃もありますよ。」

 

指揮官からの助け船を得ながら、ケリー軍曹が銃とはどのようなものであるか説明しながら、天幕から出る。

 

「実際、どのようなものであるか。百聞は一見にしかず、実演してみましょう。」

 

そう言うと、饅頭がケリー軍曹の10m程前に白い円筒形の物体を設置した。高さは2m、幅は1m程だ。

 

「あれは合皮…人工的に作り出した鞣し革に綿を詰め込み、着色した水を染み込ませたものです。大体、人間と同じ固さがありますね。…あ、そこそこ大きな音がするので、ご注意を。」

 

ケリー軍曹が注意を促すと、ハンキ達は両手で耳を押さえて一歩下がった。

それを気にするような事は無く、ケリー軍曹はP38を両手で構え目を細め…静かにトリガーを引いた。

パンッ…チリン…パンッ…チリン…、と銃声である乾いた破裂音と、薬莢が黒い岩の大地に落ちた小さな金属音が2回ずつ鳴り響く。10m先のターゲットが震え、黄緑色に着色された水が弾痕から滴り落ちる。

 

「あのターゲットの中身、強酸とか入ってないだろうな?」

 

「私は頭に網目の傷がある奴が好きですね。」

 

指揮官とケリー軍曹が何気無い談笑をしている間に、数体の饅頭がターゲットを天幕まで運んで来る。銃弾は、濡れた綿の抵抗が働いたらしく貫通していなかったが、中程まで突き進んでいた。これが人間であれば、内臓に深刻なダメージを受けて重傷となっていたであろう。

それを見たハンキ達は戦慄した。剣のように近寄る事も無く、弓のように嵩張る事も無く、見る限り弓やクロスボウよりも早く二撃目を繰り出す事が出来るらしい。それをどうにか理解出来たハンキは、サモアが持つ兵器の力に恐れを抱きながらも、自らに…自国に幸運があった事を神に感謝した。

 

(サモアが友好的で本当に良かった…あのような兵器で武装した兵士が居れば、我が軍の兵士では太刀打ち出来なかっただろう。例え…売国奴の汚名を背負ってでも、彼らの支援を取り付けねば…!)

 

覚悟を決めたハンキは、より真剣に兵器の解説を聞いた。

先ほどのP38と同じ弾を連射出来る『ステンガン』や、より強力な弾を使う『M1903』にその強力な弾を連射出来る『BAR』とより強力な『M2』

他にも、爆発し金属片を撒き散らす手榴弾に、それを巨大化したような物を数km先まで飛ばす迫撃砲等々…様々な兵器の解説が成された。途中、挟まれた昼食を兼ねて行われた軍用糧食の試食会では、ヤゴウが粉末ジュースにハマる、という事もありながらいよいよ緑の巨人の解説に移った。

 

「では、この兵器について説明します。」

 

ケリー軍曹が、緑の巨人の前に立ってハンキ達に解説始める。

 

「これはアーマードトルーパーと言う兵器の、スコープドッグと呼ばれるタイプです。全高約4m、重量約6.5t、最高時速約80km。操縦性と整備性に優れ、何よりも人型であるため、人間のように様々な兵器を持ち替える事で汎用にも優れています。」

 

「操縦…となると船やワイバーンのように、人が乗って動かすのですか?」

 

「えぇ、今から実演しますので少々お待ちを。」

 

ケリー軍曹がスコープドッグからぶら下がっているリモコンを操作すると、降着姿勢に移行し、頭部がガバッと開いた。

その様子に驚く視察団の面々であったが、それを尻目にケリー軍曹がコックピットに乗り込み、頭部を元に戻して降着姿勢を解除する。

三つ目…ターレットレンズがクルクルと回り、青いレンズを持つ通常カメラの位置で固定され、キュイーン、とローラーダッシュ特有の音と共に発進した。

 

「おぉっ!動いた!」

「速い!あんな巨体なのに馬より速いぞ!」

「足が動いていないのにどうやって走っているんだ…?」

 

視察団の驚きの声を鋼鉄の背に受けながら、スコープドッグは辺りを一周した後、ガシュゥンッとターンピックによる急旋回を見せて、天幕の近くまでローラーダッシュでやってくると後は通常歩行で近付いた。

 

「このように、兵器としても優れた運動性を持っていますが、手先も中々器用なんですよ。サモアでは土木工事や建築にも使われていて…」

 

その後も、指揮官の補足を挟んだケリー軍曹の解説が続いたが、ポカンと口を開けたまま放心状態となっていた。

 




KAN-SENも出ず、指揮官も空気…アズレンクロスを名乗って良いのでしょうか?

それはそうと、アズレンで陸上戦力を出そうとした結果がこれです
信じられないかも知れませんがアズレンにはスコープドッグ(正確には湿地帯戦型のマーシィドッグ)がKAN-SENと共に戦ったのです
本当なんです、信じて下さい

ボトムズのタグは6話投稿の際に追加します
その6話で、本命の航空戦力や艦隊戦力を紹介します

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