大鳳の旧正月衣装…あんなんR18だろ
あと、457mm連装砲がやっとこさ完成しました
──中央暦1639年11月24日午後4時、国立マイハーク病院──
ロデニウス大陸最大の病院であるマイハーク病院。その巨大な建物の一角にある個室のベッドで一人の女性…ファルミールが鏡を見て震えていた。
「これが……私…?」
彼女の最大のコンプレックスであった裂けた人中は綺麗に縫合され、今では細かい縫い目が残るのみだ。その縫い目も暫くすれば薄くなり消えるらしい。
また、唇が正常な形になった事で顔つきも若干変化している。
全体的な顔立ちこそ彼女の姉であるレミールとそっくりだが、レミールよりも柔らかな顔付きになっている。
レミールが冷酷な美女とするなら、ファルミールは柔和な乙女といった雰囲気だ。
「唇の縫合跡はメイクで隠しましょうね~」
すっかり変貌した自らの顔に目を奪われているファルミールに、主治医であるヴェスタルがフォローするように告げる。
「お嬢様……お美しくなられて……」
ベッドの傍らに立っていた隻腕の密偵が、目じりに涙を浮かべている。
そんな彼は涙を"右手"で拭った。
彼の失われた右腕…それは、樹脂と軽合金で作られた義手により復活していた。
「魔導技術も…科学技術も皇国を遥かに凌駕している…ロデニウス連邦…いや、サモアが異世界から転移してきたというのは本当だったようですね。」
自らの上唇を指でなぞりながら呟くファルミール。
皇国の魔導戦列艦を凌駕するフリゲート艦に、自らの唇を縫合したり高性能な義肢を作り上げる技術…もはやパーパルディア皇国は列強として相応しくない、と思える程の国力がある。
姉…レミールは何故、ロデニウス連邦を敵に回すような事をしたのだろう?
そんな疑問を浮かべていると、ノックも無しに個室の扉が開かれた。
「おーおー…ちったぁ見られる顔になったじゃねぇか。」
「もうっ、指揮官!デリカシーがないですよ!」
指揮官が無遠慮に、ズカズカと入ってきた。
それに対し頬を膨らませながら注意するヴェスタル。
だが、ファルミールは穏やかに微笑んでヴェスタルを宥めた。
「いえ、大丈夫ですよ。ヴェスタルさん。」
ファルミールがそんな事を言っていると、指揮官がベッドの傍ら…彼女の直ぐ側までやってくる。
ただでさえ大柄な指揮官を見上げる形になる。鋭い目付きに、服の上からでも分かる程の筋肉…今、彼がその気になればファルミールの首をへし折るなぞ余裕だろう。
そんな想像が頭を過るが、気を取り直して笑顔を浮かべて指揮官に問いかける。
「こんにちは、フレッツァ様。如何されました?」
「戦争しようぜ。」
指揮官からの答えに、笑顔のまま首を傾げるファルミール。
余りにも突拍子も無い答えに、頭の理解が追い付かない。
そんなファルミールに構う事無く、指揮官は手をパンパンッと叩いた。
「お二方、どうぞー」
「むぅ…指揮官殿、本当にやるのか?」
個室に入ってきたのは、ロデニウス連邦副首相のハーク・ロウリア34世。
そして…
「なんとも無茶苦茶な…」
ファルミールと共に亡命してきたカイオスの二人だった。
二人は、呆れたような…しかし、どこか面白そうな表情を浮かべている。
「はい、よーいスタート。」
指揮官が抑揚の無い声で告げると、ハークとカイオスの二人がファイティングポーズをとった。
「ふははははは!我こそは偉大なるパーパルディア皇国の下僕!ロウリア統一王国の王、ハーク・ロウリア34世である!皇国を裏切った貴様らを、ここで討ち取ってくれるわ!」
「何をっ!所詮、文明圏外であろう!私一人の力で十分だ!うぉぉぉぉぉぉお!」
「えっ……?あ…あの…?」
何やら胡散臭い芝居を始める二人に戸惑うファルミール。
それに構わず、カイオスはハークにパンチを繰り出す。
──ペチンッ
威勢の良い掛け声とは裏腹に、何とも気の抜ける打撃音が響いた。
「うわぁぁぁぁ…や~ら~れ~た~」
「貴様っ、このお方はパーパルディア皇国の皇族であるファルミール様であるぞ!そのようなお方を討ち取るなぞ…なんたる無礼!」
「も、申し訳ありません!責任をとって、我が国の全てを差し出しますので命だけは…」
胸を張るカイオスと、頭を下げるハーク。
「ふむ、ではロウリア統一王国はファルミール様が治める国とする!」
「…え?」
「ファルミール皇帝陛下ばんざーい!」
「あ…あの…カイオスさん?ハークさん?」
芝居がかった口調で宣言するカイオスと、諸手を挙げてファルミールを讃えるハーク。
そんな二人に戸惑い、しどろもどろになるファルミール。
指揮官はそんな三人を見て珍しくにやついていた。
「いやぁ、今日の出来事は教科書に掲載される事になるでしょうなぁ。……大根役者と三文芝居の典型例として。」
「指揮官殿!?」
「フレッツァ殿がやれと言ったではありませんか!」
いきなり梯子を外された形となった事に驚愕するハークとカイオス。しかし、指揮官はそれに構わずファルミールの方を見た。
「ファルミール…考えてもみろ。ここには多数のパーパルディア人が居て、皇族であるアンタも居る…ならば、この地でパーパルディア皇国の後継国を作っても構わねぇ、って話さ。」
「え?あの…どういう…?」
未だに理解が及ばないファルミールが目を白黒させていると、カイオスが彼女に跪いて補足した。
「ファルミール様、皇国はもうダメです。皇族の機嫌をとる為に軍を動かし、それにより傷付いたり戦死した兵士に対する保障も出来ない…最早、民の為ではなく皇族の為の国家となっているのです。」
カイオスは確固たる意志を宿した目をファルミールに向けた。
「今の皇国は国家ではなく、皇族をトップとしたマフィアと同じです!このままでは、罪の無い市民までもが使い潰されてしまう…そうならない為にも皇国の全てを白紙にし、新たなる国家として生まれ変わらせなければなりません。だからこそ…ファルミール様、貴女に新たなる国家の代表となって頂きたい。皇族である貴女が代表であれば市民の反発も最低限で済むでしょう…」
ファルミールはようやく理解出来た。
カイオス…いや、ロデニウス連邦やアズールレーンは対パーパルディア皇国戦争の戦後を見越してファルミールを祭り上げて、亡命政権を打ち立てようとしているのだ。
確かに、戦後にアズールレーンの軍隊が統治するのとファルミールを代表とした亡命政権が統治するのでは、後者の方が市民からの支持を得られるだろう。
「で…ですが、私達に何が出来るのですか?経済力も軍事力も無い…ロデニウス連邦からのお情けで生き永らえてる私達が……」
「俺達がどうにかしてやる。」
ファルミールの声を遮って指揮官が口を開く。
目を見開くファルミールに構わず言葉を続ける。
「経済力?亡命者が不自由なく生活出来るようには支援してやる。軍事力?義勇兵を用意しよう。我々の仲間には、どうしてもパーパルディアを滅ぼしたいって言ってるおっかない女が居るんでね。」
「で、ですが…」
ファルミールが躊躇うも、指揮官は有無を言わせぬ口調で言い放った。
「お前に断る権利は無い。」
それだけ言うと、指揮官は背を向けて個室を後にした。
「もうっ、指揮官ってば乱暴なんですからっ!」
その後をヴェスタルがプリプリ怒りながら追いかける。
「あー…では、あとはパーパルディアの方々で話して下され。」
最後にハークが苦笑して個室から出て行った。
「お嬢様…」
密偵が不安そうにファルミールに声を掛ける。
「ファルミール様、もし無理だと仰るのなら私がフレッツァ殿と交渉を…」
カイオスが気遣うような言葉を掛けるが、ファルミールは首を横に振った。
「いえ…私は皇族、世界に名だたるパーパルディア皇国の皇族です。だからこそ…」
密偵とカイオスに信念の籠った目を向けて言葉を続けた。
「義務を、果たしましょう。」
そこに居たのは忘れ去られた哀れな皇族ではない。
腐敗した皇国を変えるべく、立ち上がった若き女帝であった。
ふと、本屋に寄ったら『急降下爆撃』が売ってありました
買いました