異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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松雨様、うましか様より評価9を頂きました!

通算UA2500オーバー、お気に入り50オーバーとは…
処女作でこんなにも評価して頂けるとは、感謝の極みであります!


6.締結

──中央暦1637年2月8日午後3時頃、サモア基地・サバイイ島上空──

 

ブーン、と独特な音が鳴り響く中、視察団の面々はパイプとキャンバス生地で作られた椅子に座って、辺りをキョロキョロと見回していた。今、彼らが居るのは『B-25ミッチェル』爆撃機…に窓や座席を追加して連絡機兼哨戒機に改装した『P-25S』(Sはサモアの略であり、25型哨戒機サモア仕様の意味)の機内である。初めてクワ・トイネ公国に接触したのが、空母シャングリラより飛び立ったB-25であり、視察団からすれば噂の鉄竜に乗れるという事は、何よりも興味を引く事だろう。

最初はワイバーンよりも大きく、鉄…実際はより軽いジュラルミンであるが…で作られた物が飛ぶ事に懐疑的であったが、滑走路を走り離陸した事に大変驚愕し、さらに巡航速度が時速360km、最高速度は時速450km、更には高度7000m近くまで上昇出来るうえに、距離にして3000kmを一気に飛行する事さえ可能だとの解説があった際には、ヤゴウはすっかり腰を抜かして椅子から立ち上がれなくなっていた。

 

「来ましたよ。あれがF2A…通称バッファローです。」

 

ブーン、と力強いエンジン音を鳴り響かせながら、青い樽のような機体がミッチェルの側を通り過ぎて行った。

 

「最高時速は大体520kmぐらい、頑張れば10000mまで上昇出来、2500kmの距離を飛ぶ事が出来ます。因みに、先ほど解説したM2を4丁搭載していますよ。」

 

指揮官が解説していると、バッファローが急上昇や急降下、旋回やバレルロール等、運動性能をアピールする。

 

「全ての点においてワイバーンを凌駕している…ワイバーンでは逃げる事も、追う事も出来ない…凄まじい兵器だ…」

 

「うむ、見る限り旋回能力もワイバーンよりも優れている。しかも、機械であるのならば、ワイバーンのように能力が機嫌に左右される事も無い。いつでも全力を出せるというのは、それだけでも利点となる。」

 

ヤゴウの驚愕に満ちた言葉にハンキも同意し、軍務局の人間らしい意見を述べる。

 

「このまま造船所へ向かいましょう。隣のウポル島にあるので、直ぐに到着します。」

 

空中でのデモンストレーションが終了すると、ミッチェルはウポル島の飛行場へと舵を切った。

 

 

──中央暦1637年2月8日午後4時頃、サモア基地・ウポル島工業地区──

 

ウポル島飛行場から、造船所へと到着した視察団一行はコンテナを抱えた作業用スコープドッグが走り回る造船ドックを見学していた。

 

「こちらは、船を作る為のドックです。本来は稼働しているはずなのですが…生憎、転移の混乱で今は稼働していません。ですので、もう1つのドックに向かいましょう。」

 

何も無い空っぽの空間の巨大さに驚きつつも、これほどの空間に見合う船を作れるサモアの技術力に感嘆していた視察団は危うく、置いて行かれそうになりながらも、もう1つのドックとやらに向かって行った。

 

「こちらがKAN-SENドックです。文字通りKAN-SENを建造する為のドックですが、通常の艦艇の建造も可能です。」

 

マイクロバスに乗って、若干離れたドックに到着する。ドックは相変わらず巨大な空間であったが、壁や天井、床に至るまで丸い皿のような物が幾つも取り付けられている。

 

「こちらは、特殊な方法で建造します。せっかくなので、建造から進水まで見学されますか?」

 

指揮官の言葉に視察団がざわつく。それも無理は無い。

何せ、船の建造には何ヵ月もかかるのが普通であり、小さな船でも丸一日かかってもおかしく無い。

 

「あー…その、フレッツァ殿。我々はそこまで、長い間滞在する予定ではないのですが…」

 

困ったような顔でヤゴウが遠慮する言葉を指揮官に返す。しかし、指揮官はそれに対し、何でもないような顔で応えた。

 

「直ぐ終わりますよ。5分ぐらいで。」

 

またもや、視察団がざわついた。どうやって船を作るつもりなのか。

そんな疑問で埋め尽くされた視察団の前で、饅頭が指揮官に青い箱のような物と金貨のようなコインを運んで来た。

 

「使うのはこの、資材金属…通貨代わりに使われているので資金と呼んでいます。それと、このキューブです。」

 

「金属は分かりますが、この立方体…」

 

「キューブ」

 

「…はい?」

「キューブ」

 

「…」

 

「キューブ」

 

「…このキューブは何に使うのですか?」

 

視察団の一人が質問したが、指揮官による謎の拘りで発言の修正を余儀無くされた。

 

「キューブはあまりにも高度な技術により作られているので、我々にも詳しい事は分かりません。ただ、使い方は分かりますが。」

 

そう言うと饅頭にキューブと資金を渡して、視察団を別室に案内した。

別室は、ドックを見下ろすような位置にあり、ガラス越しにドックを見渡せるようになっていた。

 

「それでは、建造を始めます。」

 

指揮官が指示すると、空っぽのドックに先程のキューブと資金が天井から無造作にドック中心辺りに落とされた。

 

「んなっ!増えた!?」

 

視察団の一人がガラスに張り付きながら、食い入るようにドックを見ている。

そう…彼の言う通り、キューブが増えている。1つが2つ、2つが4つと倍々に増えて行く。そうなると、あっという間だ。直ぐにドックは、増殖したキューブがぎっしり詰まった空間になってしまった。

そんな中、そのキューブによって下敷きになっていた資金から、まるで植物の根のような物が上に向かって伸びだした。

その根は絡み合い、様々な方向に伸びながら何かを形作って行く。

 

「これは、神風型駆逐艦と呼ばれる船をベースに過剰な武装の撤去や、それに伴う居住性の向上を図ったものです。名前は…確か、幕下級警備駆逐艦。全長約102m、最大幅約9m、最高速度35ノット。武装は127mm単装砲3門、20mm連装機関砲2基、12.7mm連装機銃6基。本来は魚雷と言う兵器があるのですが、扱いが難しいので取り外してあります。」

 

指揮官から解説があるが、視察団は建造の様子に夢中らしい。

資金から伸びた根はやがて駆逐艦の姿になり、ものの5分程で完成した。これには、ハンキも開いた口が塞がらない様子である。

 

 

──その後──

 

居住地区があるトゥトゥイラ島も見学した視察団は、軍事だけでは無く民間技術も遥かに発展している事を認識し、視察団の帰国次第、サモアとの同盟締結に向けての会議が行われた。

その際にハンキ将軍がかなりギリギリな発言をして、あわや辞任か?という事件もありながら無事、サモアとクワ・トイネ公国はほぼ草案通りに条約を結ぶ事となった。

同じくして、隣国のクイラ王国も条約に参加し、クワ・トイネは食糧と土地を、クイラは燃える水こと石油と鉱物資源をサモアに輸出する事と引き換えに、両国共にサモアから軍事・技術支援、軍事同盟を受ける事となった。

 

 

 




若干、駆け足気味ですかね?
ドンパチパートまでもう少しかかりそうです

次回は、サモア基地の日常にしようかと思います
思い付かなかったら人物・兵器紹介てお茶を濁します

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