異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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クロスウェーブのDLCって何時になるんですかね…
早く3Dモデルで動くローンを見たいのですが


68.涙 混迷、畏怖、離別

──中央暦1639年12月1日午前8時、エストシラント港軍事施設の一角──

 

──ピチャッ……ピチャッ……

 

真っ暗な中、水が滴るような音が響く。

 

「うっ……うぅ……」

 

そんな暗闇の中でうめき声が聴こえた。

すると、砂埃と共に拳大の瓦礫が崩れ落ちた。

 

「何が……どうなって…?」

 

暗闇の中で響くのは女性の可愛らしい声だった。

彼女の名は、パイ。通信士であった彼女は元々陸軍所属であったが、第三艦隊壊滅による部隊再編で海軍に編入されたのだ。

 

「誰か……誰か!」

 

どうにか瓦礫の隙間から手を引き抜き、闇雲に振る。

だが誰も応える事は無く、辺りは静寂が支配していた。

それでも懸命に手を振りながらも、瓦礫から脱け出そうともがいていたパイだったが一つの光明が見えた。

 

──ガラッ……ガラガラガラッ!

 

体を動かしたせいだろうか?瓦礫の一部が大きく崩れ、彼女の体にのし掛かっていた重みが一気に軽くなった。

 

「これなら……ふんっ!んんん~……っ!」

 

全身が痛むが、それを我慢して背中にのし掛かる瓦礫を押し退けて立ち上がる。

細かい瓦礫が崩れ落ち、砂埃が舞い上がる。

 

「けほっ!けほっ!けほっ!……助かっ……た……?」

 

砂埃に咳き込みながら辺りを見渡す。

だが、そこに彼女の職場となる基地は無かった。

辺り一面、瓦礫の山…幾つか建物も見えるが、どれもどうにか立っているというような状態だ。今すぐ崩れ落ちても不思議ではない。

 

「と…とりあえず司令部に……」

 

やや離れた所に見える司令部を目指して歩き出す。

まるで未開地の岩場のように成り果ててしまった道のりを歩きながら、彼女はややうつむき気味に左右を確認する。

瓦礫の間から見える黒焦げの死体、四肢と首がもげた死体、首がおかしな方向に曲がった地竜…彼女の目に写るのは、明らかな"死"のみであった。

 

「こんな……いったい何が…」

 

瓦礫に足を取られながらもどうにか司令部に辿り着く。

司令部の建物はどうにか立っていた。しかし、巨大な獣に食い千切られたかのように外壁は大きく抉れ、立っているのがやっとという状態だ。

そんな状態の建物に立ち入る事は憚られたが、自分以外の生き残りが居るかも知れない。

ここまで来る間に見付けた人間は死体ばかりだった…生きている人間の姿を見なければ、自分の精神がおかしくなりそうだったパイは意を決して司令部に足を踏み入れる。

 

「……ヒィッ!」

 

無事だった外階段を上りつつ自らの職場である通信室を覗いてみたが、そこには凄惨な光景が広がっていた。

多数の金属片やガラス片がハリネズミのように突き刺さった者、胸元に瓦礫がめり込んだ者、首が千切れた者……何故こうなったのかは、通信士であるパイには理解出来なかった。

パイは海軍基地に慣れていなかったため、道に迷って司令部に辿り着くのが遅れた。もし、遅れなかったと思うと…

 

「ば…バルス将軍は…?」

 

生き残った事が幸運か不運かは分からない。しかし、今の彼女に出来る事は生存者を探す事だけだった。

全身に走る鈍い痛みに顔をしかめながら、司令室のある最上階を目指す。

 

「はぁ…はぁ…バルス将軍…マータル参謀…」

 

司令室と外階段の間にある扉は内側から強い力で打たれたように、くの字になっている。

そんな扉は、引っ張ってみると蝶番ごと外れてしまった。

 

「っ……」

 

司令室の中も無惨な状態だった。

天井は無くなり、青空が見える。四方を囲っていた壁は南側…港の方向が崩れ落ちており、残骸と死体が浮かぶ海が見える。

そして、そんな司令室の主であるバルスとマータルの姿は無かった。

代わりに、壁や床にこびりついた肉塊の中に階級章や勲章が見えた。

 

「うっ……うぅ……」

 

パイはその場に崩れ落ちるようにへたり込んだ。

最早、どうすればいいか分からない。大勢が死に、多くか破壊された。

頭が状況を受け入れきれずパニックを起こし、涙が溢れてきた。

 

「うっ……うわぁぁぁぁぁ……ぁぁぁぁぁぁ……」

 

黒煙と粉塵が踊る瓦礫のステージでパイはただ一人、慟哭の歌を歌い続けた。

 

 

──同日同時刻、エストシラント中心部レミール邸──

 

その時、レミールは自らが住む邸宅のテラスで顔を真っ青にしていた。

 

「な…何だ…あれは…」

 

微睡みの中、けたたましいサイレンで叩き起こされた時は防衛部隊に文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、とりあえず様子を伺おうとテラスに出た瞬間、その考えは砕け散った。

 

「まさか…アズール…レーン……?」

 

見た事も無い程に巨大な大砲を備えた7隻の巨艦。それに向かった戦列艦の大艦隊と、ワイバーンロードの大部隊…それだけで文明国すら滅ぼせるだけの戦力があっという間に返り討ちとなった。

その光景に目を奪われていたレミールだったが、そうしている間にも港が無惨にも破壊されてしまった。

 

「あ……あぁ……」

 

多数の将兵が駐屯する基地が、皇国の誇る勇壮な艦隊が…全て、原形を留めない瓦礫と化した。

その一部始終を目の当たりにしたレミールは脚の震えを堪えられず、テラスの欄干に体を預けるように崩れ落ちた。

 

「何なんだ……」

 

その時、彼女が抱いたのは恐怖…いや、畏怖だった。

古代の人々が、圧倒的破壊をもたらす天災を神と同一視したように…レミールもまた、アズールレーンが見せた力に畏怖を覚えたのだ。

 

「何なんだお前らはぁぁぁぁぁ!」

 

発狂しそうな自我を保つ為に、怒りを込めて海に向かって叫んだ。

初めて覚えた畏怖の感情と普段通りの怒り、その極端な二つの感情が流入した頭は混乱を極め、その結果独りでに涙が流れた。

 

 

──同日正午、旧クワ・トイネ公国ギム郊外──

 

かつて、クワ・トイネ公国の国境の街であったギム。統一戦争においてビスマルクが使用した"特殊弾頭"により壊滅した街だが、現在は復旧されており近代的な町並みとなっている。

そんなギムの郊外に、新たな街が作られていた。

赤褐色や紺色で塗装された金属製の箱を組み合わせた建物が、等間隔で幾つも並べられている。

輸送コンテナを流用したコンテナハウスによる街だ。

その街の名は『フィシャヌス・シティ』。パーパルディア皇国から亡命してきた皇国民が住まう居留地だ。

そんなフィシャヌス・シティの中心部にある大きな建物、集会場に多くの人々が集まっていた。

 

《お昼のニュースです。本日未明、アズールレーン艦隊がパーパルディア皇国首都、エストシラントの海軍基地に攻撃を行いました。これにより、エストシラント海軍基地は壊滅状態に陥り……》

 

液晶モニターの中で、女性獣人のニュースキャスターがニュースを読み上げる中、砲撃に晒されるエストシラント港の映像が流れる。

多くの戦列艦が轟沈し、軍事施設がオモチャのように木っ端微塵に吹き飛ぶ。

そんな映像を見た元パーパルディア皇国民が抱いた感情は様々だった。

自らを見捨てた報いだ、と思う者。亡命出来た幸運を噛み締める者。アズールレーンの力に恐怖する者。

そんな中、一人の初老の男性が集会場を後にした。

 

「バルス……あれでは生きていまい…」

 

彼の名はシルガイア。パーパルディア皇国海軍総司令官バルスの同窓生である。

かつて士官学校ではバルスに次ぐ程に優秀な人物だったが、無理な拡大政策を行う皇国のやり方に疑問を持っていた。

その疑問はシルガイアの足枷となり、私情を捨てて任務に集中していたバルスとの差は開いて行き…最終的にバルスは海軍総司令官、シルガイアは掃除夫と、その差は開いた。

 

「友よ……祖国から逃げた私を…嘲笑うか?」

 

バルスはしがないの掃除夫と成り下がった自分にも気さくに、学生時代と同じように接してくれた。

そんな友人に別れも言わず、異国の地でのうのうと暮らす事は申し訳なくもあった。

 

「バルス……すまん…私は……私は、臆病者だ……」

 

自らに割り当てられたコンテナハウスに入ると、ベッドに突っ伏して静かに涙した。




アズレンやってるとクリスマスとか正月とかバレンタインより春節を気にしますよね
因みに着せ替えはとりあえず吾妻、大鳳、雪風は買いました
あとは誰のを買うか…

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