異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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知り合いがインフルエンザになったので救援に行ってたら遅れました


70.生餌

──中央暦1639年12月2日午前9時30分、ロデニウス連邦内フィシャヌス・シティ集会場──

 

多くのメディアが集まったホールに設営された演台。そこにシンプルな青いドレスに身を包んだ女性の姿があった。

長い白髪は後頭部できっちり纏められ、顔はその美貌を際立たせるように薄化粧が施されている。

 

「皆様、初めまして。私の名はファルミール、現パーパルディア皇国皇帝ルディアスの従姉妹であり、去る10月4日…フェン王国人とサモア人の殺害を指示した皇族レミールの妹です。」

 

すっかりトレードマークとなった鼻の下の細かい縫い目を隠さず、レンズの前で凛々しく話すのは勿論ファルミールだった。

 

「何故、私がこの場に…ロデニウス連邦に居るのか疑問に思われるでしょう。それは、私がこの国への亡命を希望したからです。」

 

ファルミールの言葉に記者達がどよめく。

それに対し彼女は軽く頷いて話を続ける。

 

「私は…産まれた時から幽閉されていました。出来損ないの顔を持った醜い娘として…皇位継承権も与えられず、エストシラントの外れにある屋敷で外出も許されず、僅かな召し使いと共に過ごしていました。」

 

こんなに多くの人々の目に晒される事は慣れていないため、緊張してしまい額に汗が浮かぶ。

その汗をレースのハンカチで軽く叩くようにして拭いた。

 

「しかし、だからこそ皇国の現状を客観的に見る事が出来ました。神聖ミリシアル帝国やムーに対し醜い劣等感を抱き、追い付け追い越せと言わんばかりな拡大政策を行い続ける為に、属領の人々を搾取する…その行いは正に、悪魔のようではありませんか!」

 

列強国であるパーパルディア皇国を、悪魔と痛烈に批判したファルミールに対し記者達が驚きの声をあげる。

 

「それだけに飽き足らず、皇国の利益の為に戦う兵士の皆様方に対する保障すら蔑ろにし、自分達はその利益を独占する…パーパルディア皇国の皇族や貴族は最早、高貴な者ではありません!国家を名乗る山賊や海賊の集まりも同然ではありませんか!」

 

ファルミールが舞台袖に目を向ける。

すると、旗が巻き付けられた旗竿を持った初老の男性…カイオスが現れた。

 

「だからこそ、私達はここに宣言します。私達こそがパーパルディア皇国の正統政府であり、新たなる第三文明圏の国家『自由フィシャヌス帝国』を建国します!」

 

カイオスが旗竿に巻き付けた旗を広げる。

赤地に白で女神のシルエットが描かれたシンプルなデザインだ。

因みにこの女神のモデルはファルミールであり、初めてそれを知らされた彼女は顔を赤くして恥ずかしがったものだ。

 

「そして、現在パーパルディア皇国と名乗る者は、自由フィシャヌス帝国の領土を不法占拠する『武装勢力』と見なします。我が国はこの武装勢力を排除し、彼らによって不当な扱いを受けている人々を解放します。その為に、ロデニウス連邦と軍事同盟を締結し、アズールレーンへの参加も認められました。」

 

今一、ホールを見渡すファルミール。

そして、再び声高らかに宣言した。

 

「我々は自由フィシャヌス帝国。現在、我が国の領土を不法占拠しているパーパルディア皇国と名乗る武装勢力を、アズールレーン協力のもと鎮圧します!」

 

記者達がざわめき、フラッシュが激しく瞬く。

そのフラッシュに晒されるファルミールもカイオスも、確固たる意思を秘めた面持ちであった。

 

 

──同日、エストシラント皇宮パラディス城の大会議室──

 

《録画した映像により繰り返しお伝えしました!前代未聞の事態です!列強国にてこのような事態が……》

 

──ブツッ!

 

大会議室に持ち込まれた映像魔信の受信機が消された。

消した張本人、ルディアスは小刻みに震えながら自らの相談役であるルパーサに目を向けた。

 

「ルパーサよ…レミールに妹が居るなぞ私は知らぬが…?」

 

ルディアスの問いかけにルパーサは、顔を青くして掠れた声で答えた。

 

「……事実であります。今はもう亡くなりましたが、産婆であった私の叔母がレミール様を取り上げたのですが…その時、同じくお生まれになったのが、ファルミール様です。」

 

「な……んと……」

 

ルディアスはガックリと項垂れた。

先帝である父の代から仕えるルパーサが言うのであれば、間違いなく事実なのだろう。

皇后候補であるレミールに幽閉され続けた妹が居る…その衝撃の事実は、皇国を批判された事が小さく思える程だった。

 

「んくっ……ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!…」

 

余りの事実に体調が崩れてしまったのだろう。激しく咳き込むルディアス。

 

「陛下!い、医者を!」

 

そんな様子にエルトが立ち上がり、慌ただしく大会議室から飛び出し医者を呼びに行く。

 

「陛下!」

 

レミールがルディアスの背中を擦るが、彼は口から泡を吹いて意識を失っていた。

 

「くっ……おい、今すぐデュロに皇軍の全戦力を集めろ!アズールレーンを返り討ちにして、カイオスとファルミールとか言う女を殺せ!」

 

「で…ですが、第一・第二艦隊が手も足も出なかった相手を返り討ちにするとは……」

 

怒りに我を忘れたレミールが唾を飛ばしながら命令するも、パーラスがそれに対して意見を述べる。

だが、怒り狂った彼女は最早抱いていた恐怖も後悔も忘れていた。

 

「陛下のご心労の種を放置する事なぞ出来るか!裏切り者のカイオスとあの女の首を陛下にお見せするのだ!」

 

「は…はいぃぃぃぃ!」

 

レミールの怒りに恐怖したパーラスは、失神したままのアルデを引き摺って大会議室から出ていった。

それと入れ替わりに、医者を連れたエルトが入ってくる。

 

「お~…の~…れ~…アズールレーンめぇ…陛下のご心労を増やしよってぇ……絶対に、殲滅してやる!」

 

医者による処置を受けるルディアスの傍らでレミールが吼えた。

 

 

──同日、サモア基地指揮官室──

 

《やってくれたな。》

 

無線機からそんな呆れたような言葉が聴こえた。

 

「やるんなら派手にやった方がいいだろ?こっちに敵が集まるってなら、そっちは楽になるだろうさ。」

 

その言葉に指揮官が応える。

 

《ふん……まあ、確かにクーズの統治軍は動き始めている。この分なら、一週間以内に戦力の大部分が引き上げるだろうな。》

 

通信の相手は、パーパルディア皇国の属領であるクーズで反乱軍の指導を行っているヴァルハルだった。

 

《しかし…皇族を引き込むとはな…カイオス殿はまだしも…》

 

「偶然だよ、偶然。まあ、いい餌だな。皇国の連中からすれば食い付かずにはいられない…そんな生餌だよ。」

 

指揮官の言葉にヴァルハルはため息をついた。

 

《はぁー…お前は悪辣だな。アズールレーンは正義の味方じゃないのか?》

 

そんなヴァルハルの言葉に指揮官はニヒルな笑みを浮かべて答えた。

 

「俺達が正義かどうか…それは歴史が決めるものさ。」

 

 

──同日、サモア基地演習海域──

 

穏やかな海上を一隻の空母が航行している。

その空母の艦橋、そこには白いドレスに白い肌、輝くような白銀の髪を持つKAN-SEN『イラストリアス』の姿があった。

 

「ふふっ、なんだか可愛らしい形をしてますね♪」

 

艦橋の窓から甲板を見下ろす。

そこには、『シーファング』や『バラクーダ』のようなプロペラ機に混じって、一機の異形とも言える機体があった。

細長い楕円形の胴体に、幅広い翼は前縁が翼端に向かうにつれて後方へ傾いている。

そして、胴体と翼の接合部からは二本のアームが延びており、その後端に尾翼か取り付けられている。

その姿はユニオン製の双発戦闘機『P-38ライトニング』に似ている。

だが、P-38とは決定的に違う所があった。そう、"プロペラが存在していない"のだ。

そんな機体の周囲には数名の作業員が、何やら作業している。

 

《イラストリアス殿、発艦準備完了です!》

 

作業員からそんな通信が来た。

 

「かしこまりましたわ。皆様、待避をお願いします。」

 

イラストリアスが返答すると、作業員達が甲板の縁に取り付けられているキャットウォークに待避した。

 

「こほん…それでは…」

 

可愛らしく咳払いをし、目を閉じて甲板上の機体に意識を集中する。

イラストリアスにとっては初めて運用する機体であるため、いつものようにはいかない。

 

──キィィィィィィィィィィン……

 

異形の機体が既存の機体とは違う駆動音を鳴り響かせる。

その駆動音が一際大きくなった瞬間、目を開いた。

 

「聖なる光よ、私に力を!…なんちゃって♪」

 

お決まりのセリフと共に、甲板に取り付けられた油圧カタパルトが異形の機体を一気に加速させる。

それと同時に異形の機体も胴体の後端から陽炎を吹き出し、青空へと飛び立った。

 

《発艦成功!発艦成功!》

 

キャットウォークで作業員達が万歳をしたり、互いに抱き合ったりして喜びを爆発させている。

そんな彼らに微笑み、イラストリアスは空を行く異形の機体を見上げた。

 

「これで輝きをもっと速く広げられますね♪」

 




先に言っておきますが、指揮官とKAN-SENはR-18な関係ではありません

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