──中央暦1639年12月2日午前11時、サモア基地ブリーフィングルーム─
「作戦を説明する。」
いつものブリーフィングルームにて指揮官が、いつも通りの言葉で話を切り出す。
「今回の作戦はパーパルディア皇国最大の工業都市であるデュロへの侵攻作戦だ。デュロには大規模な造船所と軍港があり、多数の工廠が存在する。この都市を占領すれば、パーパルディア軍の補給能力は大幅に低下する事となる。」
スクリーンに簡易的なデュロの地形図が投影され、海岸線に赤いマーカーが付けられている。
「カイオス氏を始めとするパーパルディアからの亡命者…現自由フィシャヌス帝国民からの情報では、小火器や各種弾薬の製造工場はアルーニ、パールネウス、エストシラントと言った各地に分散されているが、大口径魔導砲や艦艇の製造はデュロのみで行われているらしい。」
集まっているKAN-SENの一人が手を挙げた。
切り揃えた長い薄紫の髪に、赤いフレームの眼鏡を掛けた『グナイゼナウ』だ。
「はい、グナイゼナウ。」
「そんなに重要な都市であるならば、かなりの防衛戦力が配備されていると思われますが?」
立ち上がり棒付きキャンディをペロッ、と舐めてグナイゼナウが指揮官に問いかける。
それに対して指揮官は、こう答えた。
「カイオス氏からの情報では、パーパルディアの主力航空戦力であるワイバーンロードを更に品種改良した『ワイバーンオーバーロード』なる個体が配備され始めているようだ。詳しいスペックは不明だが…少なくともムーのマリン戦闘機に対抗する為に開発されたらしい。そうなれば、少なくともマリンを上回る性能と見た方がいいだろう。さらにそれを運用するための新型竜母も建造されているようだ。」
「だとすれば、鈍足な爆撃機や攻撃機は十分注意をしなければなりませんね。」
「ああ、そうだ。だから今回は確実に制空権を確保した後に対地攻撃を行う。エストシラント襲撃ではビッグセブンが大活躍だったからな。そろそろ、空母諸君にも出番を…な?」
指揮官が首を傾げてグナイゼナウに同意を求める。
「承知しました。」
グナイゼナウはそう言って頷くと、再び席に座った。
「そうだ。これもカイオス氏からの情報だが、デュロには『イクシオン20mm対空魔光砲』なる兵器が配備されているらしい。此方も詳しいスペックは不明だが…神聖ミリシアル帝国から密輸された物であり、その名の通り口径20mmの対空兵器だという話だ。」
スクリーンにサモアを始め、ロデニウス連邦や同盟国に対空兵器として配備されている『20mmエリコン機関砲』の3Dモデルが映し出される。
「おそらくは20mmエリコン機関砲のような物だと考えられるが…少なくとも"現在この世界で"最強とされる神聖ミリシアル帝国が製造した物だ。我々が想像出来ないような技術が使われている可能性もある。少なくとも『ボフォース40mm機関砲』…最悪、『113mm連装高角砲』クラスの対空能力があるものと思っておけ。」
指揮官の注意の言葉を聞いた『赤城』が手を挙げる。
「はい、赤城。」
「その機関砲が指揮官様の悩みの種であるなら、この赤城が"ソウジ"して差し上げますわ~」
口角を上げた黒い笑みを浮かべる赤城だったが、指揮官はそれに対して首を横に振った。
「赤城、お前はエストシラント上陸支援の訓練があるから、この作戦への参加は見送ってくれ。今、明石に特殊兵装を用意させ…」
「指揮官様~、本当にあの作戦をなさるおつもりなのですか?」
眉を下げて問いかける赤城に対し、指揮官は彼女の瞳をしっかりと見据えて告げた。
「エストシラントには多数の機密書類がある。それらは戦後に必要となる…そういう物を灰にしない為にも必要な作戦だ。何より……中々似合ってたぞ?」
指揮官の言葉を聞いた赤城は頬を紅潮させ、隣に座っていた加賀の襟首を掴んだ。
「ね…姉様!?」
「うふふ…指揮官様がお望みならこの赤城、全力で作戦を遂行致しますわ!さあ、行くわよ加賀!しっかりレッスンをこなして最高の出来にするのよ!」
ブリーフィングルームを後にする赤城と、彼女に引き摺られる加賀。
「指揮官!お前、覚えておけ!姉様、少し落ち着い……」
加賀からの苦情を涼しい顔で受け流すと、何事もなかったかのように話を続ける。
残されたKAN-SEN達も慣れた様子で、指揮官の言葉に耳を傾ける。
「では、作戦の大まかな流れを説明する。先ずは爆装した戦闘機により小規模な爆撃…要は威力偵察を行う。これにより目標の指揮系統を混乱させつつ、敵対空兵器の捜索を行い…発見次第、破壊せよ。」
一旦言葉を区切り、ブリーフィングルームを見渡す。
全員が頷いたのを確認すると、ペットボトルの水を一口飲み言葉を続けた。
「その後、イラストリアス級に配備した"新型"で制空権を確保…その後、重爆撃機や艦載機による本格的な爆撃を行う。今回は北連の技術チームによって開発された爆弾を使用する。このブリーフィングが終わったらレクチャーを受けるように。」
空母のKAN-SENが頷く。
それを見た指揮官は次に、戦艦のKAN-SENが多いエリアに目を向ける。
「戦艦の諸君らはデュロ沿岸の軍港や造船所への砲撃だ。内陸部は空母に任せて、敵水上戦力や沿岸部の施設の破壊を優先してくれ。」
一人のKAN-SENが手を挙げる。
短めの黒髪に蛍光ブルーの三角形の髪止め、左目がゴールドで右目がブルーなKAN-SEN『ジョージア』だ。
「勿論、ジョージアにも出てもらう。457mmの迫力を見せてくれ。」
「ははは、指揮官にはお見通しか。しかし、『大和』や『武蔵』も居れば久しぶりに撃ち比べが出来たのになぁ…」
ジョージアの言葉に肩を竦めた指揮官はため息混じりに告げた。
「第二次セイレーン大戦からそこそこ経ったが…やはり、あの激戦のダメージは深かったようだな。『夕立』みたいな駆逐艦だって完全修復まで3ヶ月かかったんだぞ?あのデカブツの修復なんて、10年かかってもおかしくない。」
前世界における最後にして最大の戦争『第二次セイレーン大戦』…その戦争には多数のKAN-SENが参加した。
戦争の結果セイレーンの撃退に成功したのだが、参加したKAN-SENの多くが轟沈級のダメージを受けているのだ。
中でも激戦区にて奮戦した、大和型やアイオワ級等々は原形を留めない程のダメージを受け、人間でいう所の昏睡状態にあった。
「まあ、死んだ訳じゃない。気を長くして待ってれば目覚めるさ。」
「そうだな。……すまないな、変な話題にして。」
軽く頭を下げて謝るジョージアだが、それに対して指揮官は気にするなと言うように手をヒラヒラと振った。
「確かにあの二人が居れば派手になったんだがなぁ…まあ、あの二人の分も頼むぞ。」
「あぁ、任せてくれ。」
力強く頷くジョージアに、満足そうに頷く指揮官。
「で、仕上げは海兵隊による上陸作戦だ。シュトロハイム大佐、指揮は任せた。」
「任されよ!我ァァァァァァが鉄血の進軍速度は世界一ィィィィィィィ!パーパルディアの連中が迎撃する間もなく、デュロを制圧してみせるわァァァァァァ!」
相変わらずうるさいシュトロハイム大佐に肩を竦める。
そうして、再度ブリーフィングルームを見渡した指揮官はこう締め括った。
「今回の作戦…おそらく多くの人間…パーパルディア皇国民は死ぬ事となる…だが、心配するな。お前達の罪の全てとは言わんが、半分ぐらいなら俺が背負う。俺は責任を取るぐらいしか出来ん。だから、何も気にせず暴れてこい!」
設定上は大和型もアイオワ級も居ますが、ダメージ受け過ぎて眠っている感じです