実は私、農業をやってるんですよ
それでですね、週始めは冷え込むって予報が出てたのでその対策してたら遅れました、序でに短くてクオリティー低いです
今年は暖冬だから燃料費浮くと思ってたのに…!
──中央暦1639年12月9日午前8時30分頃、デュロ近海上空──
「なんて数だ……100…いや、奥にも100は居るな。流石はパーパルディア皇国…凄まじい戦力だ。」
眼下に海とデュロの街並みが広がる上空5000m、そこで24機のワイルドキャットが編隊を組み飛行していた。
その内の1機、隊長機を務める機体のコックピットで『ラーテル1』ことフェン王国十士長アインは酸素マスク越しに呟いた。
ワイバーンの限界高度は凡そ4000m、そのため空を埋め尽くさんばかりのワイバーンロード部隊は自分たちよりも遥かな高みを飛行するワイルドキャット達を悔しそうな表情で睨んでいた。
「数だけは向こうが有利か…まあ、いい。此方の任務はあくまでも対空兵器の破壊だ。下手に空戦を仕掛けず、一撃離脱を心がけよう。」
アインが目を皿のようにして地上を観測していた時だった。
「……あれか!」
編隊を組み、飛行するワイバーンロード。正にカモメの一羽も通さないであろう様相だが、一部だけがポッカリと空いた空域があった。
「こちら、ラーテル1。各機、目標を発見した。3時の方向、3本の尖塔がある建物のそばだ。」
アインが指示すると、無線機から次々と応答が来た。
《ラーテル2、了解。》
《ラーテル3、了解。あれは市庁舎のようです。》
3本の尖塔が特徴的なデュロ市庁舎。その脇に立つ増築されたであろう建物の屋上に何やら異質な物があった。
自動車のエンジンをそのまま大きくしたような金属の塊から、細長い筒が突き出ている。
どうやらあれが対空兵器のようだ。
(銃身以外は20mm機銃より大きいな…装弾数がそれだけ多いのか…まさか、レーダーを搭載して連動させているのか?)
アインの脳裏に過ったのは、演習の際に幾度も撃墜判定を食らった相手…『連装ボフォース40mm機関砲STAAG』だった。
波に揺れる船体の上でもスタビライザーにより常に水平を保ち、尚且つ装備したレーダーにより自動追尾してくるあの対空機関砲から逃れる術はなかった。
だからこそ、安定した地上にある上にあんな大袈裟な付属品のあるパーパルディアの対空兵器に対して最大限の警戒をしている。
(だが…あれを潰さなければ、爆撃機が安心して任務を遂行出来ない。)
アインはフーッ、と息を吐くと一気に息を吸い指示を飛ばした。
「全機に通達!敵対空兵器に対し、攻撃を仕掛ける!内陸部の方向から急降下で攻撃し、そのまま低空で海上へ離脱する!」
《了解!》
部下達の力強い応答を聞くと、機体を一旦内陸部へ向かわせる。
(叔父上……このアインが必ずや仇を打って見せます。)
アインは心中で固く誓う。
『10月の悲劇』の際に殺害された『青剣』の艦長ヴァートはアインの叔父だった。
死没した両親の代わりに自分を育ててくれたヴァート。何時かは恩返しをしようと考えていたが、最早それは叶わない。
だからこそ、せめて弔い合戦の一番槍を務めて無念を晴らす。その為に危険を承知でこの任務に志願したのだ。
「用意はいいか!全機、突撃準備!」
《応!》
デュロ郊外まで飛ぶと反転し、全機が縦一直線に並ぶ。
「チィィィィィィィェェェストォォォォオ!」
鋭い奇声と共に24機のワイルドキャットがデュロ市庁舎に向け、猛禽類の狩りの如く急降下を開始した。
──同日、デュロ市庁舎倉庫屋上──
「反対だ!反対側に行ったぞ!」
「早く旋回させろ!」
「いいか、なるべく引き付けろ!」
デュロ市庁舎の脇に増築された倉庫の屋上、そこには巨大な装置が置かれていた。
金属製の筐体に取り付けられた水晶の板を眺める男、新兵器研究開発部の主任であるハルカスは苛立ちを隠さぬ態度で吐き捨てた。
「えぇい!まだ魔力充填は終わらないのか!?奴らは直ぐそこまで来ていると言うのに!」
倉庫の屋上に据えられた対空魔光砲。神聖ミリシアル帝国から密輸入したそれは、このデュロで新兵器開発の為に研究されていたのだが、デュロ防衛の切り札として引っ張り出されていた。
研究所から移動させ、稼働状態に持っていけたのが昨夜…それからずっと魔石を使用して魔力充填を行っているのだが、12時間程経過した今でも半分程度しか充填出来ていない。
アルタラス王国から良質な魔石が輸入出来ない状態になったため、想定通りの性能が出せていないのだ。
「敵機、急降下!此方に来ます!」
ハルカスの部下の一人が悲鳴混じりに報告する。
(充填を待っていてはやられる…致し方無い!)
ハルカスはそう判断すると対空魔光砲の射手席に座り、照準器を覗き込んだ。
十字マークのど真ん中に敵機を捉えた。
「列強の力を思い知れ!」
羽ばたかぬ無機質な翼を持つ鉄の飛竜に啖呵を切ったハルカスは、敵意と共に発射ボタンを押した。
その瞬間だった。
──ドッパパパパパパァン!
ハルカスと彼の部下、そして十数名の兵士は筐体から迸った光に包まれた。
対空魔光砲は雷魔法と炎魔法を封じ込めた砲弾を風魔法を用いて発射するのだが、魔力充填が十分でない状態で…尚且つ、パーパルディア皇国の未熟な技術で分解組み立てを繰り返した為、風魔法の出力が低下していた。
その為、初速不足により砲弾が砲身内部で"渋滞"を起こしてしまった結果、砲弾が次々に誘爆してしまったのだ。
──同日、デュロ上空──
──ドッパパパパパパァン!
その轟音はデュロ上空を飛行するワイルドキャットのパイロットにも、そのワイルドキャットを追いかけるワイバーンロードと竜騎士の耳にも入った。
パイロット達は破壊目標がいきなり爆発した事に、竜騎士は防衛対象が破裂した事に…皆一様に呆然となった。
「さ……作戦中止!作戦中止!」
いち早く冷静さを取り戻したアインが無線を通じて作戦中止を通達する。
彼らの任務は対空兵器の破壊…だが、それは訳の分からない爆発により達成された。
何が何だか分からないが、ともかく目標は達成出来た。
「離脱だ!離脱しろ!バンカー・ヒル殿の元まで戻るぞ!」
《りょ…了解!》
急降下していたワイルドキャット、24機は直ぐ様水平飛行に移り海上へと全速力で離脱して行く。
続いて冷静さを取り戻した竜騎士達がワイバーンロードを操ってワイルドキャットを追うが、凡そ500km/hで飛行するワイルドキャットに追い付ける筈もなく、あっさりと海上への逃亡を許してしまった。
(……なんだか、不完全燃焼だな。)
アインも、彼の部下も出鼻を挫かれたような気分でモクモクと黒煙を上げる市庁舎を後方確認用ミラーで見ながら、母艦であるKAN-SEN『バンカー・ヒル』へと帰還して行った。
替え歌って難しいなぁ…