異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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グルッペン閣下様より評価9を頂きました!

金曜日はアズレンの公式生放送ですよ!
いやー、北連イベント楽しみだなぁ!


76.淑女の毒液

──中央暦1639年12月9日午前9時、デュロ上空──

 

「対空魔光砲が爆発するとは…ミリシアルの連中め、不良品を掴ませたな。」

 

黒煙に混ざって色とりどりの魔石の破片が弾ける市庁舎倉庫の屋上を見下ろしながら、ワイバーンオーバーロード部隊の隊長であるグラッザは呆れたように呟いた。

最新鋭竜母『ヴェロニア』に配備されているワイバーンオーバーロードは、従来のワイバーンロードを大きく上回る性能を持つがそれと引き換えに活動可能時間が短い。

それゆえワイバーンロードのように哨戒飛行が出来ない為、敵機の襲来を確認してから飛び立つ…謂わば迎撃機のような運用法が取られていた。

 

「しかし…速いな。ムーのマリンを遥かに上回る速度性能だ。」

 

敵機襲来の報を受けヴェロニアより飛び立ったのだが、敵機は既に水平線の向こう側へ飛び去っていた。

十数騎のワイバーンロードが必死に追い縋ろうとしているものの、あれだけの速度差があるのならば追い付く事は出来ないだろう。

寧ろ無闇にワイバーンロードの体力を消耗してしまうだけだ。

 

(敵機は確かに速い。しかし、格闘戦能力は此方が上の筈だ。あれほどの速度ならば旋回性能は低いだろう。)

 

グラッザは比較的冷静な判断が出来ていた。

下手に追わず体力を温存し、味方騎の支援を受ける事が出来る空域で敵第二波に備える。

加えて、敵機の性能についても自分なりに分析をしていた。

一般的に、速度が速くなればなるほど曲がりにくくなる。それは人間でも、ワイバーンでも同じ事だ。

ワイバーンロードを易々と振り切る速度性能…恐らくは500km/hは出ているだろう。そうであれば最高速度430km/hであるワイバーンオーバーロードですら敵わない相手だ。

しかし、格闘戦ともなれば速度を落とす必要がある。

そう考えたグラッザは、格闘戦を挑む事で速度性能を補おうと考えていた。

 

《て…敵機接き……》

 

《──ドダダダダダダンッ!……ゴォォォォォォォ!》

 

そんなグラッザの思考を遮るように魔信から叫ぶような報告が聴こえた。先ほど敵機を追って水平線へと消えた味方騎からだろう。

その報告は、鈍い破裂音と暴風のような音により途切れてしまったが彼には理解出来た。

 

「全騎、傾注!敵第二波が接近している。横隊を組み、導力火炎弾の発射準備をせよ!」

 

《了解致しました、グラッザ隊長!》

 

ヴェロニアから飛び立ったワイバーンオーバーロード20騎が横一直線の編隊を組み、首を真っ直ぐに伸ばす。典型的なワイバーンの対空攻撃陣形だ。如何に基本性能が上がっていようが、それに代わるモノは無い。

 

──ゴォォォォォォォ……

 

暴風のような音が前方の上方から聴こえた。

見える機影は12機、先程より少ない

 

「な…何だ?さっきの奴じゃない!」

 

グラッザの顔が驚愕に染まる。

先程の敵機は翼と胴体が十字に交差し、その胴体の鼻先でプロペラが高速回転するものだった。仮想敵として定めているムーのマリンに似た姿だった。

しかし、今回飛来してきた敵機は異形とも言える姿だった。

幅広いV字型の翼の中心部にワイバーンの卵(ワイバーンの卵は細長い薬のカプセル状である)のような胴体が埋め込まれるように配置され、翼の両端にはヒレを切り落とした魚を思わせる細長い楕円形の物が取り付けられている。

滑らかに繋がった胴体と翼の繋ぎ目からは尻尾のような細長い物が二本、後方に向かって伸びており、端の方で一枚の板で互いが繋がっている。

極め付けは胴体の後端から青い炎を吹き出している。機体構成は異形だったが、その推進方法は見覚えがあった。

 

「あれは……まさか、ミリシアルの『天の浮船』!?馬鹿な…ムーだけではなく、ミリシアルもアズールレーンに加担していると言うのか!」

 

羽ばたきもプロペラも無く空を飛ぶ物と言えば、神聖ミリシアル帝国で採用されている天の浮船以外に無い。

しかし、エリート竜騎士であるグラッザが持つ情報では、よもや文明圏外国が独自に開発したとは考えつかないだろう。

 

《隊長!来ます!》

 

混乱するグラッザの思考が現実に引き戻される。

そうだ、政治的な事を考えている場合ではない。今は敵機を迎撃する事に集中しなければ、デュロの…パーパルディア皇国の空を奪われてしまう。

 

「全騎、私に合わせろ!3…2…1!?」

 

──ゴォォォォォォォ!

 

敵機の速度を500km/hと推測し、進行方向に向かって導力火炎弾を放つ…つまりは偏差射撃を行おうとした。

事実それは見事なものであり、先程の敵機…ワイルドキャット相手なら直撃したであろう。

しかし、そうはならなかった。

 

「馬鹿な!速過ぎる!」

 

そう、あまりにも速すぎた。

800km/h近く出ているだろうか。導力火炎弾の射程内に入ったかと思えば、轟音と共に後方に飛び去ってしまった。

 

「くっ…全騎、反転!」

 

グラッザが指示を飛ばし、編隊を反転させようとする。

しかし、20騎もの編隊は細かな動きに対し機敏に反応出来ないでいる。

そうしている内に、敵機の内4機が反転し此方に向かって来る。

 

(間に合わない!)

 

グラッザの額に冷や汗が流れ、風により吹き飛ばされた瞬間だった。

 

──ドダダダダダダンッ!

 

敵機の鼻先が瞬いたと思ったら、乾燥した鈍い破裂音と共に20騎のワイバーンオーバーロードの内、4騎が堕ちた。

強固な外皮を持つ筈のワイバーンオーバーロードは肉が抉れ、防御魔法を施した鎧を着用していた筈の竜騎士は四肢がバラバラになってしまった。

悲鳴を上げる暇も無かった。

魂を失った骸は、力無く重力に従ってデュロの街並みへ吸い込まれるように落ちて行った。

 

「や、やられたのか!?何だ、あの攻撃は!どんな魔法だ!」

 

導力火炎弾の射程外から、鼻先を瞬かせただけで空の覇者であるワイバーンオーバーロードが容易く撃墜される…そんな攻撃をグラッザは知らなかった。

と、言うのもグラッザはマリンや天の浮船の速度性能ばかりを気にしていた為、武装の事までは調べが回らなかったのだ。

 

《まっ…また来るぞ!》

《うわぁぁぁぁぁあ!助けてくれぇぇぇ!》

《馬鹿、編隊を乱すな!》

 

攻撃を終えた敵機がワイバーンオーバーロード部隊を通りすぎ、反転して再び襲い掛かってくる。

まるで縫い針と糸で布を縫い合わせるような動きだ。

一撃加えたら速度を利用し離脱、離れた位置で反転すると再びその圧倒的速度をもって襲い掛かってくる。グラッザの想定した、格闘戦による性能差の穴埋めという戦法が介入する余地は一切無かった。

エリート竜騎士ばかりが集められた部隊だったが、明らかに次元の違う敵機を目の当たりにしてパニックに陥っていた。

 

「全員落ち着け!冷静になれ!」

 

魔信で呼び掛けるグラッザだったが、彼も冷静とは言えない状態だった。

彼自信もパニックになりながらも、どうにか状況を把握すべく素早く周囲を見渡す。

 

──ギャオォォォォォォン!

 

──ドダダダダダンッ!ドダダダダダンッ!ドダダダダダンッ!

 

──ゴォォォォォォォ!

 

200騎は居たワイバーンロードが次々と撃墜されて行く。

基地からも、停泊している竜母からも飛び立った追加のワイバーンロード150騎も僅かな敵機に蹂躙されている。

時折、水平線から同じ姿の敵機が現れては入れ替わって再び蹂躙劇を再開する。

 

《敵機、直上!》

 

魔信から鳴り響いた悲鳴混じりの報告を受け、首が千切れんばかりに勢い良く空を見上げる。

 

──ドダダダダダンッ!

 

その音が聴こえた瞬間、グラッザの意識は永遠に閉ざされた。

 

 

──同日、デュロ沖、空母『フォーミダブル』──

 

──ゴォォォォォォォ!

 

轟音と共に異形の機体が海に浮かぶ巨大な船…空母『フォーミダブル』に着艦した。

それと入れ替わるように艦首に取り付けられた油圧カタパルトにより、同型の機体が発艦した。

 

「すごいな…あれが『ジェット機』って奴か。」

 

フォーミダブルのアイランド型艦橋の戦闘指揮所でマイラスがポツリと呟いた。

 

「マリンより…いや、グラ・バルカス帝国の航空機よりずっと速い。」

 

そんなマイラスの傍らでラ・ツマサが感心したように声を上げた。

そんな二人に声が掛けられる。

 

「マイラスさん、ラ・ツマサさん。お茶でも如何ですか?」

 

床に着きそうな程に長い銀髪をツインテールにし、胸元が大胆に開いたゴスロリ風ドレスのKAN-SEN『フォーミダブル』がティーセットを乗せたワゴンを押して来た。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「……ん、ありがとう。」

 

マイラスとラ・ツマサ、二人がフォーミダブルに礼を言うと彼女はウインクしながらティーポットからカップへ紅茶を注いだ。

 

「素晴らしいでしよう?私達の最新鋭戦闘機『シーヴェノム』は。900km/hを越える速度性能に、機首に武装を集中させた事による命中精度の向上…正に、最新最強の戦闘機ですわ。」

 

自慢気に話ながらフォーミダブルがカップを乗せたソーサーを二人に差し出す。

会釈しながらそれを受けとるマイラスとラ・ツマサだったが、ラ・ツマサは何故だかフォーミダブルを…具体的には彼女の胸元を羨望と嫉妬が入り交じった目で見ていた。

 

「……主も大きい方が好きなのでしょうか。」

 

ポツリと呟いたラ・ツマサの声は、発艦するシーヴェノムのエンジン音に掻き消された。

 




ヴァンパイアにしようと思ったのですが、駆逐艦ヴァンパイアと紛らわしいのでヴェノムになりました

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