もしかしたら次回の投稿遅れるかもしれません
──中央暦1639年12月9日午前11時、デュロ市庁舎──
デュロ市庁舎の市長室。
そこは、シンプルながら品の良い調度品が配置されており、この部屋の主の趣味の良さを感じさせるものだった。
しかし、現在は物々しい雰囲気になっている。
黒檀のデスクには巨大な軍用魔信機が置かれ、かっちりとした軍服に身を包んだ軍人が多数配属されていた。
デュロ防衛のために編成されたデュロ防衛軍…市庁舎は彼らの為の臨時司令部として軍に接収されているのだ。
「防衛艦隊旗艦ムーライトからの通信、途絶えました……」
市長室は重苦しい雰囲気に支配されていた。俗に言う、お通夜ムードという奴だ。
そんな市長室の大きな窓から外を見ていたデュロ防衛軍司令官のアールダは、ワナワナと震えながら通信士からの報告を聞いた。
「ぜ……全滅したのか?」
まるで潤滑油を切らした機械のように振り向き、通信士に問いただすアールダ。それに対し、通信士は歯切れ悪く答えた。
「ムーライトだけではなく…その…他の艦にも呼び掛けていますが……応答は…ありません…」
──ガタンッ
その言葉を聞いたアールダは顔を真っ青にして、その場に崩れ落ちた。
動悸が激しくなり、冷や汗が止まらず、吐き気までしてきた。
それも無理は無いだろう。
切り札である対空魔光砲は爆発、空を支配していたワイバーンロードとワイバーンオーバーロードは未知の飛行機械の手により全滅、艦隊の詳しい状況は分からないが間違い無く壊滅に近い状態にあるのだろう。
つまり、デュロ防衛軍は空も海も失った。そんな状態で満足な戦闘を行う事は困難を極める。
それを理解しているからこそ、アールダを始めとした臨時司令部要員は軍人にあるまじき狼狽を見せているのだ。
「アールダ司令!何かが此方に向かってきます!」
そんな空気を撃ち破るように、市庁舎の尖塔で見張りをしていた兵士が市長室に転がり込んできた。
──同日、デュロ上空──
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……
デュロの街並みが、まるでミニチュアのように見える高度6,000m。そこを100機程の大型航空機と、200程の艦上攻撃機が飛行していた。
その大型航空機の内1機…『ランカスター重爆撃機』の機長席にはアズールレーン空軍司令官であるアルテバランが座っていた。
「まもなく、爆弾投下位置だ。準備はいいか?」
酸素マスク越しに、塔乗員に対して問いかける。
「はい、アルテバラン司令。機体の状況は万全。敵対空兵器も、航空戦力も片付いています。」
操縦手が頷きながら答えた。
「照準よーしっ!投下準備完了!」
機首の方から爆撃手が照準器を覗きながら威勢良く答える。
それを聞いたアルテバランは頷き、酸素マスクに取り付けられている無線機のマイクに向かって口を開いた。
「我々、戦略爆撃部隊『クニクズシ』の初陣だ!あの嫌味なパーパルディア皇国を石器時代に戻してやれ!」
《了解!クニクズシ2、投下開始します!》
《クニクズシ3、爆弾投下!》
《クニクズシ4、派手に行こう!》
100機ものランカスター重爆撃機と、200機近い艦上攻撃機…デュロ攻略艦隊に編入された『エセックス』『シャングリラ』『バンカー・ヒル』から飛び立った『TBFアヴェンジャー』が爆弾倉から爆弾を投下した。
それは只の爆弾ではなかった。
先ず小さい。250kg爆弾とは比べ物にならない程に小さく、弾頭重量は2kg程度だろう。
それが大量に投下された。
ランカスター重爆撃機からは2,000発程、TBFアヴェンジャーからは300発程…合計、260,000発もの小型爆弾がデュロの街並みへ降り注いだ。
北連で開発された『PTAB』と呼ばれる小型爆弾だ。成形炸薬を用いた対戦車航空爆弾であり、有力な陸上戦力を持つ鉄血に対抗する為に開発された爆弾である。
──ヒュルルルルルルルルルル……
PTABが甲高い風切り音を響かせ、重力に従い落下する。
そして、デュロの街に炎の花が咲いた。
──同日、デュロ市街──
──バァンッ!バァンッ!バァンッ!バァンッ!バァンッ!
「なんだこれは!」
「火災発生!水を…水を持って来い!」
「あぁぁぁぁあぁあ!熱い!熱い!助けてぇぇぇぇぇぇ!」
空と海に続き、ついに陸でも地獄が展開された。
市街戦になる事を予想して、民家や工場を利用して作られた陣地に配属されていた兵士達は逃げ惑うしか出来なかった。
何せ、建物の外壁自体は頑丈な石材やレンガで作られているものの、屋根は木材の上に瓦を乗せただけだ。6,000mもの高度から投下された金属製の爆弾を防ぐ程の強度は無い。
屋根をぶち抜いたPTABは遅延信管が作動し成形炸薬が炸裂、高温高圧のメタルジェットにより可燃物は瞬時に引火し、破裂した弾体の破片が兵士に襲い掛かる。
「退避!退避ぃぃぃぃぃ……」
──ドスッ!
火災が発生した工場から退避しようとした小隊長の背中にPTABが突き刺さり、胸から先端が飛び出た。
「かっ……はっ……あ……ぁぁぁぁ…」
──バァンッ!
小隊長は自らの体を貫いた弾体を驚愕の目で見ていたが、信管が作動し彼は木っ端微塵に吹き飛んだ。
──同日、デュロ市庁舎──
「何だ…あれは…まさか、皇国は…」
真っ青を通り越して真っ白になった顔で、爆炎と火災が支配する街並みを窓枠にしがみつくように見ていたアールダ。
そんな彼の背後では、また別の地獄が展開されていた。
「神様!助けて下さい!」
「もう終わりだ!みんな死ぬ、炎に巻かれて死ぬんだよぉぉぉぉお!」
「うぅ~……うぅぅぅぅぅ……」
手を組んで、天に向かって祈る者。半狂乱となり、暴れまわる者。部屋の角に蹲ってガタガタ震える者。
最早、この場に冷静な者なぞ居なかった。
そんな中、アールダは小さく呟いた。
「魔帝を…敵にしてしまったのか……?」
それが彼の最期の言葉だった。
斜め上から突入し窓を突き破ったPTABが彼の顔面までも貫通し、炸裂した。
──同日、デュロ郊外──
「デュロが…デュロが燃えている…」
「うわぁぁぁぁぁん!お母さぁぁぁぁん!」
「大丈夫よ、お母さんはここに居るからね。」
デュロの南方、小高い丘の麓に幾つものテントが建っていた。
その丘の上で数十人の人々が燃え盛るデュロの街を見て泣き崩れていた。
「あれが…ロデニウス連邦の……アズールレーンの力だというのか…?これは、ムーを…いや、ミリシアルすら凌駕しているのではないか?」
そんな人々に混ざってデュロ市長のシャアダがポツリと呟いた。
デュロの住人は凡そ20万人。その全てとは行かないが、沿岸部や中心部に住まう人々はどうにか避難出来た。
現在のデュロの惨状を見るにシャアダの判断は正しかったのだろう。
「うっ……うぅぅぅぅぅ……」
シャアダに着いてきた市庁舎職員が崩れ落ち、人目も憚らず泣き出す。
(多くの人々を虐げてきた皇国の行い…そのツケを払う時が来たか…)
デュロの上空を悠々と旋回する多数の飛行機械を見上げ、シャアダは皇国の行く末を憂いた。
──同日、デュロ沖、デュロ攻略艦隊旗艦『ノーザンプトン』──
《こちらクニクズシ1、爆撃任務完了。フェン飛行場へ帰投します。》
ノーザンプトンの艦橋の艦長席に座る指揮官に向かってアルテバランが通信越しに報告する。
「了解、初めての任務にしては上出来…いや、完璧に近い。これからも訓練に励んで頂きたい。」
傍らにノーザンプトンを控えさせ、アルテバランの言葉に返答する指揮官。
《はっ!ありがたき言葉です。これからも精進いたしましょう。》
なんとも真面目なアルテバランの答えを聞き届けると、無線機のマイクを置いてノーザンプトンの方を見た。
「連中の艦隊は潰したが…捕虜はどうなっている?」
「かなりの数が溺死したりしたみたいだね。それでも、第六駆逐隊…『暁』『響』『雷』『電』が救助活動を行っているよ。」
ノーザンプトンからの報告を聞いた指揮官は少し考えるような仕草をすると、フッと鼻から息を吐いて肩を竦めた。
「戦時協定も結んでない相手に紳士的に振る舞いたくはないが……」
「虐殺や略奪は厳しく取り締まる…それが人々の意識改革に繋がる。だね?」
「そうだな。虐殺や略奪なんて事は犯罪者のやる事だ、軍人のやる事じゃない…人殺しや盗みなんて、マトモな人間のやる事じゃないさ。」
指揮官の言葉に苦笑するノーザンプトン。
「指揮官、貴方が言うと説得力があるね。」
「だろ?」
二人がそんな事を話している間も、艦隊は黒鉄の船体で波を切り裂きデュロへと進む。
あ、アークナイツの新章も実装されたんだ…