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書き始めた時はこうなるとは思いませんでしたよ
──中央暦1639年12月9日午後3時、デュロ市街地──
──ターンッ……ターンッ……タタタタタタタッ…ヒュルルルルルルル……ドンッ!
パーパルディア皇国最大の工業都市であるデュロは戦場となった。
竜騎士の全滅による制空権、及び艦隊の壊滅による制海権の喪失。空爆と艦砲射撃による指揮系統の混乱と、防御陣地の崩壊。
そんな状況でも健気に立ち向かう皇軍兵士達であったが、彼らを待ち受けていたのは地獄からの使者であった。
──グオォォォォォォォォォォォォン!
──キュラキュラキュラキュラキュラ…ドンッ!…ドンッ!
──キュィィィィィィィ…カシャオォン!キュィィィィィィィ…
咆哮する鉄の巨獣、長大な角から火を噴く鉄の地竜、恐ろしく素早い三つ目の鉄の巨人。
「建物の影に隠れろ!」
「魔導砲を早く持ってこい!」
「装填中!装填中だ!」
──ドォォォォンッ!
建物の影に隠れて魔導砲を装填していた皇軍兵士の部隊。しかし、彼らは283mm砲弾により建物ごと撃ち抜かれ、痛みを感じる間もなく黄泉へと旅立った。
「撤退!撤退しろ!」
防衛は不可能だと悟った砲兵隊長が撤退を指示する。
「り、了解!」
「魔導砲は放棄しろ!足手まといになる!」
自らの商売道具である魔導砲を牽いて行こうとする砲兵であったが、砲兵隊長がそれを止めさせる。
「急げ!敵の砲撃がっ…ぁぁぁぁぁぁぁ……」
砲兵隊長の頭が一瞬だけ、ガクッと揺れたと思ったらそのまま息が抜けるような声を出しながら倒れた。
──ターンッ……
砲兵が遠くから響いてきた音を聴いた次の瞬間だった。
頭に強い衝撃を感じ…そして、彼の意識は永遠の闇へと消えた。
「"降参だ!降参する!なあ、俺は武器を持ってない!"」
一人の皇軍兵士が両手を挙げ、必死に命乞いをする。
その相手は、二人のアズールレーン海兵隊の兵士だった。
「あぁ!?なんだって!?」
「なんて言ってんだ!?」
カーキ色のフィールドジャケットを着用し、それぞれM1903とステンガンを構えた二人の海兵隊員は皇軍兵士にジリジリと接近する。
「"頼む!抵抗はしな…"」
──タンッ!タタタタッ!
必死に命乞いをしていたが、呆気なく射殺された。
その不運な皇軍兵士はテンパっていたのか、パーパルディア皇国の公用語である『フィルアデス語』を話していたのだ。
第三文明圏であれば通じたのかもしれないが、相手は第三文明圏外の住人だ。世界共通語でなければ理解出来ない。
「こいつ、なんて言ったんだ?」
「ママ~見て見て~僕ちゃんとおてて洗ったよ~…だってさ。」
「ははは!そりゃ傑作だ!」
もっとも、フィルアデス語が通じたとしても射殺されていたであろうが。
「これでも食らえ!」
別の区画では、魔導砲が火を噴いた。
──ドォォォォンッ!
爆炎が通りを焼き、熱を持った風が頬を撫でる。
「よしっ!撃破したぞ!」
「ザマァ見ろ!」
「列強に歯向かうからだ!」
魔導砲の直撃を食らって無事である筈が無い。彼らは自らの勝利を確信した事だろう。
──キュラキュラキュラキュラ…
その金属が擦れるような音が聴こえた瞬間、彼らの勝利は絶望へと変わった。
「う…嘘だ……」
煙と炎の中から現れる長い角を持った鉄の地竜。焦げたような跡こそあるが、それ以外は全くの無傷だ。
そんな鉄の地竜が皇軍兵士へ、その長い角を向け…
──ドンッ!
腹に響くような轟音と共に彼らの人生は強制終了となった。
──同日、デュロ攻略艦隊旗艦『ノーザンプトン』──
「海兵隊は無事に上陸。空爆と艦砲射撃…それに、鉄血艦隊の装甲獣形態による上陸支援が上手く行ったね。」
タブレット端末を見て軽く頷きつつ指揮官に伝えるノーザンプトン。
それに対し指揮官はエナジーバーをコーヒーで流し込んでから応えた。
「上陸自体は上手く行ったが…市街地での戦闘ともなれば、間違いなく死人が出る。そうなった時に士気を保てるか…」
考えながらエナジーバーを一口齧る。
甘い、強烈に甘い。シリアルとドライフルーツとチョコチップを、溶かしたマシュマロで固めた物だから当然だ。
脳に叩き込まれるような甘味を、ステンレス製マグカップに注いだコーヒーで流し込む。
苦い、不快な苦味だ。安物のインスタントコーヒーをテキトーに作った物だ。美味い訳が無い。
「はぁ…メイド隊の紅茶や、アイリス料理にサディア料理、重桜料理を毎日食べてるのに舌は肥えないみたいだね。」
そんな雑なカロリー補給をしている指揮官に苦笑するノーザンプトン。
「あんな上等な物が食える程の人間じゃないんでね。俺には、これぐらいで十分さ。」
残ったエナジーバーを一気に口へと押し込み、コーヒーで流し込む指揮官。
その様子にノーザンプトンは呆れたように肩を竦める。
「ベルファストやニューカッスルが見たら卒倒するね。『指揮官であるご主人様の健康を守る事もメイドの…』」
「止してくれよ。毎日、肩肘張って生活するのは疲れるんだぞ?たまには気を抜いてもいいじゃねぇか。」
「戦争中だからこそ気を抜けるって…矛盾してるよね。」
「人間なんて矛盾に満ちた生き物だよ。…ベルには言うなよ。」
「はいはい。」
そうやり取りする指揮官とノーザンプトン。
そんな二人の頭上を、20機程の航空機がデュロへ向かって飛んで行った。
「お?……あぁ、基地制圧部隊か。こりゃ、デュロは今日中に堕ちるな。」
「グライダー…ユニオンではあまり使わなかったから、少し新鮮だね。」
ノーザンプトンの言葉の通り、8機のアヴェンジャーに先導されて6機のランカスターが1機ずつグライダーを牽引して飛行していた。
──同日、デュロ基地──
「5番区画、防衛ライン維持出来ません!」
「8番倉庫街、戦線崩壊!」
《此方、11番区画!駄目だ、地竜では奴らの巨人に歯が立たない!》
《血……血だ!肩が…血のように暗い赤…》
「11番区画、通信途絶えました!」
司令部へ次々と飛び込んでくる絶望的な報告。
勝利の報告どころか、敵を撃破したという報告すら上がって来ない。
「馬鹿な……文明圏外の蛮族相手に皇軍が抵抗すら出来ないだと…?」
そんな中で基地司令のストリームは、顔を真っ青にして呟いた。
いや、彼はそんな言葉とは裏腹に気付いていた。
ワイバーンオーバーロードを凌駕する飛行機械や、爆発物を大量に投下する大型飛行機械。戦列艦を上回る巨艦に、鉄の怪物達。
更には、ムーが新たな文明圏と列強に相応しい支持する国力…ふと、ストリームの脳裏にある可能性が浮かび上がった。
「ま…まさか!」
古の魔法帝国。
神々に弓を引いた傲慢なる帝国の復活…彼の脳裏に浮かんだのはそれだった。
そうであれば辻褄が合う。
世界最強の神聖ミリシアル帝国が最大の警戒を払う程の力を持つ魔帝であれば、このような兵器を運用していても可笑しくはない。
復活した魔帝に対しムーは何らかの方法で接触し、手を組んだ…そうとしか考えられなかった。
(魔帝が相手…駄目だ、勝てぬ…終わりだ…何もかも終わりだ!)
だが生憎、絶望感に支配されたストリームは一つ重要な事が頭から抜け落ちていた。
世界を支配し、全ての種族を奴隷とした程に傲慢な魔帝がこのような回りくどい真似をする筈が無い。
ましてや、ムーと手を組むような事なぞする筈も無い。
《敵飛行機械接近、数20!大型も居ます!》
基地の見張り塔で警戒していた兵士が魔信を通じて報告する。
「きっ…来た……」
震える声で呟き、司令部の窓から空を見上げるストリーム。
青い空に黒い点が見える。
此方にワイバーンは居ないし、対空魔光砲も無い。
──殺される
最前線から長らく離れていたストリームは、そんな確実な死の気配がもたらすストレスに耐えきれなかった。
「ぁ……ぁぁぁぁぁぁぁ……」
か細い声と共に崩れ落ち、意識を失った。
軍用グライダーって詫び錆びですよね