異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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どんどん進めないと…パ皇編だけで50話ぐらい使ってる…ヤバい


83.Dirty Deeds Done Dirt Cheap

──中央暦1639年12月14日午後1時、神聖ミリシアル帝国、港町カルトアルパスの酒場──

 

《皆さん、こんにちは。世界のニュースの時間です。》

 

酒場に集まる全員が、世界のニュースを映し出している水晶板を見る。

 

《本日のニュースは第三文明圏、パーパルディア皇国についてお伝えします。去る12月9日、パーパルディア皇国と戦争状態にある第三文明圏外国による軍事同盟アズールレーンからの発表によりますと、パーパルディア皇国東部の工業都市デュロを占領したとの事です。これを受け、神聖ミリシアル帝国を始めとした各国は自国民の退去を指示、パーパルディア皇国各地で外国人の退去が始まっています。》

 

ニュースキャスターから伝えられた情報。それは、静まり返った酒場に再び活気を与えた。

 

「おいおい、デュロが陥落しただなんて…」

「あそこはパーパルディア皇国の生産力の要だぞ?こうなると損耗した兵器の補充も儘ならない。」

「パーパルディアはもう終わりだな…これからは第三文明圏外…いや、第四文明圏で商売するか。」

 

一般市民や傭兵、商人が口々に自らの見解を口にする。

様々な言葉が飛び交うが、人々の意見は概ね一致していた。

 

──パーパルディア皇国は敗北する

 

レイフォルという列強国が滅びた前例がある以上、その事実はすんなりと受け入れられた。

 

《次のニュースもパーパルディア皇国からです。パーパルディア皇国が支配する属領である72の地域で反乱が勃発、現地統治機構関係者を追放し相次いで独立を宣言しました。また、これに伴いパンドーラ大魔法公国はパーパルディア皇国に対し宣戦布告、同国に居住するパーパルディア皇国民を国外追放したとの情報が入っております。》

 

そのニュースに酒場は一層ざわめいた。

 

「属領が一斉に反乱を起こすって事は…」

「あぁ、間違いなくアズールレーンが関わってるな…軍事力だけじゃなく、謀まで優れてるとはな。」

「しかも、パンドーラ大魔法公国まで宣戦布告だぞ?属国にまで反乱されるとは…まあ、パーパルディアなら仕方ねぇ。」

 

人々の予感は確信へと変わった。

生産力の要であるデュロを失い、資源や奴隷の供給源である属領の反乱。こうなればパーパルディア皇国は戦争どころではない。

寧ろ、国家体制を維持する事すら不可能になる可能性が出てきた。

 

《次は第四文明圏構想参加国であるアルタラス王国から提供されたニュースです。此方の音声をお聴き下さい。》

 

ニュースキャスターの言葉と同時に、画面が切り替わりアルタラス王国旗と、パーパルディア皇国旗が表示される。

 

《"では、我が娘…ルミエスの事ですが、何故このような事を?"》

《"ああ、あれか。ルミエスはなかなか上玉だろう?ルディアス陛下が味見をする為だ。"》

《"はぁ?"》

《"ルディアス陛下が抱き心地を確かめられるのだ。まあ、飽きたら淫所にでも売り払われるだろうがな"》

 

《以上が、アルタラス王国から提供された音声となります。これを受けたアルタラス国王ターラ14世はパーパルディア皇国大使であるカスト氏を国外追放したとの事です。またこれを受け、第四文明圏構想参加国は「パーパルディア皇国は列強と名乗りながら、他国の姫君に下劣な感情を向けている。パーパルディア皇国は列強として相応しくない。」との声明を発表している模様です。》

 

この音声、アルタラス王国にてターラ14世とカストの間で行われたやり取りであるがかなり改変されている。

ターラ14世が録音したカストの声を編集、一部は彼の声に似せた合成音声を使って作られたでっち上げだ。

 

「うわぁ…パーパルディアの皇帝って、そんな奴なのかよ…」

「仕事を手伝ってる娘が居るが…いやはや、パーパルディアには連れて行かなくて正解だな。」

「しかもルミエスって、アルタラスの姫様だろ?そりゃ、怒るわ。いや、カスト…って言ったか?国外追放で済んで良かったじゃないか。普通、縛り首だぞ。」

 

余りにも過激な内容だったが、酒場の人々はすんなり信じた。

と言うのも、神聖ミリシアル帝国にもムーにも音声を編集する技術はあるのだが、こんなにも自然で滑らかに編集する技術は無い。ましてや合成音声なぞ概念すら無いのだ。

故に酒場の人々は、アルタラス王国がどうにかして手に入れた録音機器で会話を録音した、と思い込んでいる。

そうして、酒場の人々…いや、世界のニュースを観ていた人々の認識はこう一致した。

 

──パーパルディア皇国の皇帝ルディアスは、女を取っ替え引っ替えする色狂いだ

 

 

──同日、皇宮パラディス城──

 

──バリンッ!

 

パーパルディア皇国の中枢パラディス城。その中にある皇帝ルディアスの私室に魔信ラジオの音声に混ざってガラスが割れる音が響いた。

 

「ルパーサよ…」

 

ルディアスは普段青白い顔色を真っ赤にして、相談役であるルパーサに声をかけた。

そんなルディアスは上体を起こした状態でベッドに座り、そのベッドの足下には砕け散ったグラスが散らばっている。

 

「はい、ルパーサは此方に…」

 

「カストと…パーラスを呼び出せ。」

 

「承知致しまし…」

 

「いや、カストは呼び出さずとも良い。」

 

ルパーサの返答を遮ってルディアスは告げた。

 

「と…申しますと?」

 

「カストは死刑だ。私の名誉を傷付けた…パーラスも同じような事を…私の名を勝手に使い、属領の女を抱いていた可能性がある。属領から逃げてきた統治機構の連中共々、取り調べをしろ!事実であれば処刑だ!拷問をしてでも吐かせ……ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

 

「陛下!い、医者を!」

 

血の混じった咳をするルディアスの背中を擦りながら、ルパーサは医者を呼ぶように衛兵に言い付ける。

 

「「承知しました!」」

 

ルパーサから命じられた二人の衛兵は、小走りで医者を呼びに行くが。

 

「俺は、カスト殿とパーラス殿を呼びにいく。医者を呼ぶのは任せた。」

 

「おぉ、そうだな。二手に分かれよう。」

 

そう言って二人の衛兵は分かれると、それぞれ目的の人物が居るであろう場所へ向かった。

しかし、その内のカストとパーラスを呼び出そうとしている衛兵は足を止めて、長らく使われていない空き部屋へと静かに入った。

 

「…こちら、ディープ・スロート。カストの処刑が命じられた。パーラス以下、統治機構の連中も処刑となる可能性が濃厚。通信終わり。」

 

その衛兵は胸甲の裏に向かって小声で話すと、何事も無かったかのように空き部屋を後にした。

そうしてカストとパーラスを連行する為に走り出す。

 

 

──同日、サモア基地指揮官室──

 

《……通信終わり。》

 

執務室に置かれた味気無いスチールデスク。

そこに置かれた魔信機から聴こえる声に指揮官が頷いた。

 

「上手く行ったな…」

 

そんな零細企業の事務所のようなデスクに座り、やや苦しそうに告げる指揮官。

呼吸が阻害されているかのような息遣い…しかし、体調を崩している訳ではない。

 

「ふふっ、流石指揮官ね。」

 

優しげな口調で指揮官に語りかける女性。

長い黒髪に同じ色の犬耳、金のモールが施された白い軍服に身を包むKAN-SEN『愛宕』だ。

 

「愛宕、指揮官殿の執務の邪魔になっているぞ。少々控えよ。」

 

そんな愛宕を諌めるのは、愛宕と同じ軍服に身を包み、同じ黒髪をポニーテールにしたKAN-SEN『高雄』だった。

 

「あら高雄ちゃん、いいじゃない。指揮官ってば毎日毎日仕事ばっかり…たまには、お姉さんが癒してあげなくちゃいつか潰れちゃうわ。」

 

頬を膨らませて反論する愛宕。

そんな愛宕は指揮官の右半身に身を置いて、彼の肩に手を回して抱き締めている。

そんな位置関係であるため、指揮官の顔の右半分は愛宕が持つ圧倒的質量の胸部装甲に埋もれていた。

 

「成る程、愛宕は心配してくれているのか。」

 

「えぇ、そうよ。指揮官ったら本当に働き過ぎよ?」

 

母性の象徴とも言える女性の胸部に包まれる…そんなシチュエーションは役得以外の何物でも無いだろう。

しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。

先ず、愛宕は自らの方へと指揮官を引き寄せている。つまり、右側へ引っ張られている。

しかし、頭は柔らかくも弾力のある脂肪により左側へ押し出されている。

そんな相反する力による負荷がかかる場所がある。そう、首だ。

具体的に言えば、愛宕に抱き締められているせいで首が折れそうだ。

普通の男性なら、顔を赤くしながら離れてくれと懇願するだろう。

しかし、この男は普通ではない。

 

──ゴキッ!

 

指揮官の首から鈍い音が響き、その音に驚いた愛宕がビクッと肩を跳ねさせる。

 

「……指揮官?」

 

恐る恐るといった様子で、自らの胸の中にある指揮官の顔を覗き込む。

指揮官の顔は生気を失っており、首が妙な方向を向いていた。

 

「はぁ……」

 

それに対し高雄が呆れたようなため息をつく。

まさか、死なせてしまったのか?そんな考えが頭を過り、狼狽える愛宕。

そんな愛宕に追い討ちをかけるように、指揮官の左目がギョロッと動いた。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」

 

「キャァァァァァァァァ!!」

 

狼狽えている状態で、苦手なホラー展開を見せられた愛宕は悲鳴を上げてフラッと倒れ込むが…

 

「指揮官殿、流石に趣味が悪いぞ。」

 

倒れそうになった愛宕を高雄が支えてやる。

だが、指揮官は首をゴキゴキと鳴らして何事も無かったかのように涼しい顔をしてみせる。

 

「普通に言っても聞かないからな。俺は手っ取り早い方が得意だ。」

 

指揮官が幾つか持つ"隠し芸"の一つ、死んだフリ(リアル)だ。

因みに愛宕、何度もこれに引っ掛かっている。

 

「はぁ~…まったく…」

 

頭を抱えてため息をつく高雄。

それに対し、指揮官はデスクの引き出しから腕章を取り出すと高雄に向かって放り投げた。

 

「じゃあ、俺は出かけるから。高雄、指揮官代理は任せる。」

 

指揮官が高雄に渡した腕章には、『指揮官代理』の文字が刺繍されていた。

それを受け取った高雄は、再び深いため息をつく。

 

「はぁ~…不本意だが、承知した。指揮官代理の責務、確かに拝命致す。」

 

高雄の言葉に満足した指揮官は頷きながら立ち上がると、高雄の片腕に抱かれている愛宕の頭を撫でて部屋を後にしようとする。

 

「指揮官殿。」

 

が、高雄に引き留められた。

 

「どうした、高雄。」

 

「その…本気か?指揮官殿が全てを背負う必要は無いのだぞ。可能ならば拙者が引き金を……」

 

「高雄。」

 

意を決して告げた高雄の言葉は、指揮官の感情の読めない言葉により遮られた。

 

「高雄、お前たちKAN-SENは兵器だ。戦争をする為の兵器…だからこそ、"人殺し"にだけはなるな。"人殺し"なら、俺に任せておけ。」

 

「指揮官殿……」

 

「だが、お前と愛宕の心配は嬉しいよ。」

 

フッと微笑みを見せた指揮官は、部屋を出て後ろ手に扉を閉めた。

 

 

──同日午後11時、パールネウス中心部──

 

闇と静寂、そして僅かな魔石灯が織り成す街並み。パーパルディア皇国の前身である『パールネウス共和国』の首都であり、現在も『聖都』と称される『パールネウス』

初代パーパルディア皇帝生誕の地であるこの都には多く愛国者達が巡礼に訪れる。

そんなパールネウスの中心部近くにある宿屋の地下で、一人の男が何やら作業をしていた。

 

「赤い線を繋いで……金属棒を伸ばす…よし、これで大丈夫だ。」

 

その男はカイオスが重用していた隻腕の密偵だった。

彼はアズールレーンの協力者として、巡礼者の集団に混ざってパールネウスに潜入していた。

 

「……悪いな、これも仕事だ。恨みたければ恨め。」

 

密偵の前には円筒形の物体があった。

人が背負える程の物体、それを素焼きの壺に入れて金属棒を伸ばすと赤いボタンを押した。

宿屋の主人には3日後に取りに来ると伝えているため、勝手に捨てられる事は無いだろう。それなりの袖の下も渡してある。

 

──ピッ

 

小さな電子音が鳴るのを確認した密偵は、闇夜に紛れてパールネウスを後にした。

 




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