異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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装甲龍皇様より評価10を頂きました!

今日は時間があったので連続投稿です
まあ、一話一話が短いというのもありますが


8.戦乱の気配

──中央暦1638年3月22日夕方、公都クワ・トイネ──

滑らかに舗装された道路には自動車やバイクが走り、道沿いには街灯や信号機が設置されている。

サモアとの接触から1年、クワ・トイネは急速な発展を遂げていた。

 

「いやはや…凄いな。我が国がここまで発展するとは…」

 

「それもこれも、サモアによる技術提供の賜物ですな。近頃はサモアで研修を受けた者が帰国しているので、もう暫くすれば技術の国産化も可能でしょう。」

 

道路を走るサモア製の自動車…ヴィスカー社の自動車部門、ロールス・ロード社製高級車の後部座席に乗ったカナタとハンキが言葉を交わす。

 

「しかし、将軍が『そんな土地なぞくれてやれ!あの技術が手に入るのであれば安いものだ!』と仰った時は荒れましたな。」

 

「お恥ずかしい…私も冷静ではありませんでした。」

 

「いや、私も彼らの技術を目の当たりにすれば冷静ではいられなかったでしょう。……それで、ロウリアの動きとは?」

 

気不味そうな苦笑いを浮かべるハンキをフォローした後、真面目な表情で問いかける。それに応えるようにハンキがタブレットを操作し、画像を表示させる。

 

「密偵の報告では、地上戦力は40万以上。海上戦力は軍船4000以上、ワイバーンは500は居そうだと…」

 

ハンキが持つタブレットには密偵が撮影した写真が表示されていた。

サモアから提供されたコンパクトデジタルカメラは、鮮明な画像を瞬時に記録する事が出来、受け渡しもマイクロSDカードという細工した硬貨に隠せる物に記録されているため文書の写し等よりは容易だ。

 

「やはり、攻めてきますか…サモアからの兵器があれば負けはしないとは思いますが、何せ慣れない兵器です。使いこなせなければ…」

 

「現在、サモア本国にて海軍はペンシルベニア殿より砲撃戦を、陸軍はダイヤマン軍曹という方のブートキャンプなる戦闘訓練を、空軍は赤城殿と加賀殿の一航戦による空戦を学んでいます。フレッツァ准将の話では、意外と早く戦力として数えられるようになりそうだ、と。」

 

「開戦には間に合いそうですか?」

 

「おそらくは…兵士達は早く戦場に出せと言っていますよ。」

 

「随分と士気が高い……」

 

カナタの言葉を遮るようにハンキが頭を横に振った。

 

「訓練に比べれば戦場の方がマシだ、と異口同音に言っていますよ。」

 

どこか遠い目でハンキが口にする。何度か視察に訪れたが、訓練…というよりは何らかの耐久試験か虐待なのではないか?というような過酷なものだった。

 

「そ…そうですか…あー…ギムの再開発の件についても話ましょう。ギムの近郊に新たな軍の駐屯地を配備する計画なので将軍にも意見を伺おうかと。」

 

「おぉ、そうでありますか。ですがギムは古い街ですので再開発は厳しそうですな。」

 

そんな、国の未来を描く二人を乗せて夕暮れの町並みを白い高級車が走り抜けて言った。

 

 

──同日、ロウリア王国首都ジン・ハーク、ハーク城──

 

御前会議、それは本来国の行く末を定める為のものであり、ロウリア王国首脳部のみで行われるものだ。

だが、今回は…いや、現国王ハーク・ロウリア34世が即位した時からロウリア国外の者が出席するようになっていた。

 

「大王様、ようやく決心されましたね。クックックックッ…」

 

このような場には似つかわしくない、黒いローブの男がロウリア王に薄気味悪い声を掛ける。

 

「貴様に言われずとも…!」

 

ロウリア王はその男に、怒りと悔しさの入り交じった声を投げ掛ける。

 

(クソッ…王家代々の亜人排斥は結局、民と国を疲弊させるだけだった…だからこそ、クワ・トイネと和解し食糧輸入を行う計画であったのに…おのれ、パーパルディア!このロデニウス大陸にまで薄汚い手を伸ばして来るか!)

 

そう、現国王ハーク・ロウリア34世は歴代の亜人排斥政策は結局、徒に国を疲弊させるだけに過ぎない事に気付き、即位以前から秘密裏に西部諸侯との和解や、細々と行われてきた亜人解放運動を支援してきたのだ。

故に、即位の際にはクワ・トイネ公国・クイラ王国と和解をする為の計画を温めてきた。しかし、即位して計画を実行しようとした矢先に第三文明圏唯一の列強『パーパルディア皇国』の使者が訪れ、一方的に支援を押し付けてきた。

 

─「皇国が貴様らを支援をする。その引き換えに、支配した隣国から奴隷や資源を徴収し、皇国に献上せよ。」─

 

隣国との和解を目指すロウリア王にとっては、突き返すべき要求だった。だが、相手は列強…列強に一段劣る文明国相手でもロウリア王国なぞ鎧袖一触であろう。ましてや相手は世界にも五か国しかない列強国家パーパルディア皇国である。

無下に扱えば、無礼などと言い掛かりをつけられ侵略されてしまうだろう。

確かに、和解も大事だ。しかし、このままでは自国が滅ぼされてしまう。出来る事はただ一つ…準備に時間をかけて可能な限り、自然な形で軍拡の情報をクワ・トイネ、クイラ両国に流す事。そうすれば他国に逃げ出してくれるかもしれない。そう考え時間稼ぎをしてきたが、もう限界だ。使者を通してパーパルディア本国が侵略を急かしている。もはや開戦するしかない。

 

(すまん、貴国に恨みは無いがこれも生きる為だ。せめて…逃げてくれ。)

 

目を閉じ、覚悟を決める。その様子を古くからロウリア王に仕えてきた軍最高司令官は目を伏せ、王の葛藤に心を痛めた。

 

「これより、クワ・トイネ公国及びクイラ王国に侵攻する!陸軍の目標は国境の街ギム、海軍はマイハークに向けて進軍せよ!」

 

覚悟を決めたロウリア王は目を見開き、声高らかに宣言する。パーパルディア皇国の使者はその姿を、道化を見るように嘲り笑っていた。




キレイなロウリアを見て見たくて自給自足しました

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