異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

99 / 253
デルフト様より評価9を頂きました!

それと晶彦様、多数の誤字報告ありがとうございます!


今回はあれですね
エイプリルフール企画ってヤツです


番外編?アイアンリリィ

──?暦????年、サモア基地──

 

これは、あり得たかも知れない可能性…サモア基地が異世界に転移したとも言えるし、しなかったとも言える…そんな曖昧な世界線の話である。

そんな曖昧な世界線にあるサモア基地では、小さな騒動が発生していた。

 

「誇らしきご主人様ぁぁ!」

「指揮官ちゃぁぁん!どこに行ったのぉぉ!」

「美しくも苛烈なるシニョリーナ…恥ずかしがってないで出ておいで。大丈夫だ、貴女はこのリットリオに匹敵する程の可能性を持っているのだから。」

 

多くのKAN-SENが誰かを探して基地の敷地を奔走する。

そんな騒ぎが届かぬ地下、雨水を排水する為に張り巡らされた下水道の中を人影が走っていた。

 

「はっ…はっ…はっ…はっ…はっ…」

 

規則正しく呼吸をしながら、暗闇を迷う事無く走る人影。

時折、格子が嵌め込まれた排水口から射し込む太陽光に照らされる事で、その姿が僅かに窺える。

走る事で生み出された風圧により流れるセミロングの金髪に、海のような碧眼。

背丈は180cmを越えており、すらりとした体つきは正にスレンダーと言うに相応しく、引き締まった筋肉と相まってアスリートのようである。

 

「はっ…はっ…はっ…よし、静かになったね。」

 

マンホールの真下へとたどり着いた人影は、耳を澄ませて地上の様子を確認した後やや低い掠れたハスキーボイスでそう呟いた。

 

「はぁ…はぁ…まったく…本当に余計なお世話ばっかり…」

 

息を整えつつ、マンホールの内部に取り付けられた梯子を登り蓋を押し上げる。

 

──ゴリッ…ゴリッ…キィィィィ…

 

マンホールの蓋がアスファルトと擦れ合い、耳障りな音を立てて開く。

そうやって、ぽっかりと開いたマンホールから這いずり出す人物…それは、白い軍服を着た女性だった。

 

「はぁ…私がお洒落や化粧やる意味なんて無い、って言ってるのに…」

 

辺りを見回して早足で歩き出す女性。

彼女こそ、このサモア基地の指揮官である『クリスティーナ・フレッツァ』だ。

その背丈にサバサバした雰囲気、男物の軍服を着用している事もあり男装の麗人と言った風貌である。

そんな女性指揮官は、ユニオン所属KAN-SENが住んでいるユニオン寮までやってくるとカーテンを閉ざした窓にノックした。

 

──コンコンッ

 

「は~い、開いてるよ~」

 

間延びした緊張感の無い声が返ってくる。

それを聞いた指揮官は遠慮無く窓を開け、そこから寮内に侵入する。

 

「指揮官さ~ん、今度は何したの~?」

 

窓から入ってきた指揮官に問いかけたのは、最新ゲーム機でFPSをプレイしている『ロングアイランド』だった。

そんなロングアイランドに、指揮官は肩を竦めつつ答えた。

 

「軍服以外の服は無いの?って聞かれたから、ジャージと作業服しか持ってないって答えたら…」

 

「着せ替え人形にされかけた…とか~?」

 

指揮官の言葉の続きを察したのか、ロングアイランドが引き継ぐように告げた。

その言葉に、指揮官は指をパチンッと鳴らして頷いた。

 

「ビンゴ、その通り。」

 

「あぁ~…やっぱりなの~」

 

「ああいう、ヒラヒラした服は苦手なんだけど…なんで、あの娘達は私にあんな際どい服を着せようとする訳?」

 

苦笑するロングアイランドに、げんなりした様子の指揮官。

 

「指揮官さんは~女の子らしくないから、放っておけないのかもね~」

 

「女の子らしくないって…私は女として軍に入った訳じゃないんだけど。あくまでも指揮官、それ以上の事は無いでしょう?」

 

「あはは…指揮官さんが言うと、説得力半端無いの~…」

 

そう言って視線をフィギュアが飾られている棚に向けるロングアイランド。その棚には、一枚の写真が飾られていた。

このサモア基地が稼働し始めたばかりの頃、指揮官とロングアイランドとノーザンプトンの三人で写った写真だ。

ロングアイランドとノーザンプトンは特に変わらないが、指揮官の姿はやや変わっている。

その最たる物が、彼女の胸元だろう。

シャツが閉まらない程に大きく、形の良い乳房。写真の中の彼女にはそれがあるが、この場に居る彼女の胸元は真っ平らだ。

過去の指揮官と、現在の指揮官を見比べたロングアイランドはため息混じりに呟いた。

 

「本当に、もったいないの~」

 

しかし、指揮官はそれに何でも無い事のように答えた。

 

「重くて疲れるしマトモに服も着られないし、邪魔で仕方無かったからね。要らない物は捨てるに限るよ。子供を作る予定も無いし。」

 

「贅沢な悩みなの~」

 

「ノーザンプトンにも言われた…」

 

──コンコンッ

 

指揮官とロングアイランドのやり取り、それがノック音で遮られた。

 

「ロングアイランド様。申し訳ありませんが…ご主人様が此方に来られませんでしたか?」

 

凛とした良く通る声…ロイヤルが誇る完璧なメイド長『ベルファスト』だ。

その声を聴いた指揮官は、そっ…と窓に向かう。

 

「それじゃあ、お邪魔したね。」

 

「は~い。」

 

小声で別れの言葉を告げて窓から出て行く指揮官。

それに、同じく小声で返すロングアイランド。

静かに静かに…まるで忍者のように出て行く指揮官だったが…

 

「指揮官様ぁ~お待ちして取りましたわ~」

 

窓の外から聴こえる幼く甘い声。

 

「た、大鳳!?ちょっ…まっ…ひゃうっ!何処を触って…」

 

「大鳳様!ご主人様をそのまま押さえておいて下さいませ!」

 

──バタンッ!

 

ベルファストがロングアイランドの部屋に押し入ってくる。

 

「ロングアイランド様。失礼致します。」

 

「は~い、なの~」

 

長い銀髪とスカートを翻らせながら、開け放された窓に向かって飛び込むベルファスト。

ロングアイランドは、それに対しゆるゆると手を振った。

 

「私、指揮官様の為に色々なお召し物を仕立てましたの。指揮官様ならきっと、お似合いですわぁ。」

 

「ご主人様には是非とも、淑女としての身だしなみと礼節を身に付けて頂きたいと思います。ご安心下さい。メイド隊総出でお教えしますので。」

 

大鳳とベルファストによって両脇を抱えられて引き摺られて行く指揮官。

そんな中でも、指揮官は足をばたつかせて抵抗していた。

 

「待って待って!大鳳、ベルファスト!いいから、私の事は気にしなくていいからぁぁぁぁぁぁ……」

 

そんな引き摺られて行く指揮官を、ロングアイランドは長い袖を振って見送った。

 

「頑張って~なの~」

 

その後、サモア基地内でメイド服や和服を着た指揮官が目撃された。

顔を真っ赤にした指揮官の回りで、息を荒くしてカメラのシャッターを切るKAN-SEN達の姿は何とも危ないものだったという……




指揮官女体化…需要があるかは分からん

あと、今年のアズレンのエイプリルフール…結婚のヤツってスタッフのこだわりが窺えますねぇ…

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