オークになった!   作:ナゾハリ

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第10話

ディナン深層林。

昔エルフが住んでいたとされるこの一帯の森林地帯はミスリウ森林深部よりさらに深い木々が生い茂りあちこちにエルフが作ったと思われる建造物が点在していた。

ハル達はミスリウ森林深部からディナン深層林へ至る道を進んでいた。

 

「モウスグー」

フーユーがそう言うとルドヴィカとナツは先にハル達が襲われた話を思い出し緊張した面持ちになった。入り口から何かが襲ってくるかもしれないのだ。

フーユーが少し首を傾げて続けた。

「デモ コンナニトオイノ ワカルノハジメテー」

(はじめて?)

ハルはフーユーの言うことに一瞬疑問を覚えたが、そのことよりも別の疑問に頭がいっぱいであった。

 

変なオークという言葉だ。

黒ローブはオーク達に変なオークを探せと言った。

細かな説明をしても理解できるかどうかわからないオーク達にはその説明で十分なのだろうと思う。

しかしアキを乗っ取った時にナツにも同じ事を言ったのだ。

確かにナツはオークに似ている。しかし言動は人だったはずだ。変なオークと言ってフーユーを探し出せたであろうか。

自分はフーユーをポーンだと思っている。だから変なオークだと判断した。しかし見た目は普通のオークだ。フーユーを見て変なオークだと判断できるだろうか。

ハルは判断できないだろうと考えた。では何故黒ローブは変なオークという言葉だけを使うのか。

 

自分はなにか大きな勘違いをしているのではないかと思い始めた。

木々の生い茂り方が急に変わった。ミスリウ森林深部よりも木々の幹が太い。そしてうねるような根が地面のあちこちに顔を出している。どうやらディナン深層林に入ったようだった。

少し先に歩くはずのない強大な木が徘徊していた。エントといわれる怪物だ。あそこに揺らぐ入り口があると厄介だなと思ったがフーユーが止まった。何かを探すように見回しハル達も同じように見回した。

 

あった。

ハルの右側の先にそこだけ水面に満月の月明かりが写ったかのように空間が揺らめいていた。フーユーがそこに入ろうと近づいていく。ハル達は何かが出てきては危ないと思い少し離れた所にいた。フーユーが入った後入った場所の魔物をフーユーが倒し待っていてもらう手はずになっていた。

もう少しで揺らぐ入り口だ。

 

Bumoooooooo!

 

突如聞き慣れないうなり声が聞こえた。

ハル達は驚き声の方向を見た。オークが突如ハル達の右側の少し離れた場所に現れた。

その後ろにフーユーが入ろうとしたものとは別の揺らぎがあった。それを見てハルはさっきのフーユーの言葉を思い出した。

<デモ コンナニトオイノ ワカルノハジメテー>

(別の揺らぎ!フーユーが遠くでもわかったのは二つあったからか!)

そう理解しつつハルはルドヴィカとナツと共に草むらに隠れる。

突如現れたオークはさっきのうなり声をあげながらフーユーが入ろうとした揺らぎの入り口に向かって突進していく。

ハルはうなり声をあげているオークを見て驚いた。

一言でいえば変なオークだった。背丈はオークと同じだが今までに見たオークは全て筋肉質であったがそのオークは腹が膨らんで前に突き出ており肥満しているように見えた。

動きもオークよりも猿に似ていた。

顔も確かにオークといえばオークなのだがどこか異様だった。

 

(豚?)

豚と言えば豚だが豚ではないと言えば豚ではなかった。オークと豚を混ぜ合わせればああいう顔になるかもしれなかった。

そして胸に骨のような物が突き刺さっているように突き出ている。

 

こいつか!

こいつが変なオークだ!

その変なオークがフーユーが入ろうとした揺らぎに突進する。

揺らぎの直前まで来た時変なオークの腹部辺りに人の頭大の光球が現れた。次の瞬間光球と電光が繋がる。

 

バチバチ!

変なオークは電光に曝され一瞬止まったがフラフラとすぐに歩き出しそのまま揺らぎの中に入っていった。

電光の来た先を見ると揺らぐ空間から出てきたと思われる黒ローブが立っていた。

 

「むぐ!」

草むらに隠れていたナツが黒ローブを見て叫ぼうとしたのをハルとルドヴィカが押さえ込んだ。

黒ローブの後ろにある揺らぎからオークが出てきた。呻きの涸れ井戸で見たドゥーヨーだ。

さらにその後ろからオークがどんどん出てきた。

「オイ ニゲチマッタジャネーカ」

ドゥーヨーが黒ローブに責めるように言うと黒ローブは落ち着いた口調で反論した。

「大丈夫だ、あの電撃をくらったから思うように動けまい。すぐにでも捕まえられるさ」

そう言いつつ黒ローブは変なオークの入っていった揺らぎの方向を見てそこに立っているフーユーに気がついた。

「おっと、そこにいるのは覚者の真似事をしているあやつのポーンだな。」

そう言いつつ黒ローブは頭のフードを後ろに払い顔を出した。

満月に照らされたその顔ははっきりと見えた。

 

アキだ。

確かに幼なじみのアキだ。快活で笑顔の似合うアキだ。

しかしフーユーに向けられた表情はハルが知っているアキの表情では無かった。口元は嘲笑するようにつり上がるも目元は怒り狂っているように歪んでいる。

「ククク、異界の狭間から狭間へ移動するので捕まえるのが大変だったが貴様が出入り口を塞いでいってくれたおかげで捕まえることができそうだ、感謝せねばならないな」

皮肉を言いつつアキが一歩フーユーに近づいた。

フーユーが警戒して剣を抜く。

「ふむ、おまえのマスターの角もあった方がいいな。案内してもらうので少しの間そこで転がっておけ」

アキが杖を掲げるとフーユーの腹部にさっきの変なオークと同じ光球が現れた。

 

バチバチ!

杖と光球の間に稲妻が走りフーユーは声も無く倒れ込んだ。

「おい、そいつを見張っておけ」

アキが言いつつフーユーの近くの揺らぎに入っていった。

「アイツヲツカマエテ ミソギノシンデンヲケシテ グリッテンニセラーコノミズヲドバーットブツケテヤル!ワハハハハ」ドゥーヨーがそう言って笑いつつ揺らぎに入っていった。何名かのオークもついて入っていく。

残ったオーク達は警戒というよりはやることがないような感じで揺らぎとフーユーの周りをブラブラと歩いている。中には膝を身体の前で折り曲げ、そこに腕で膝を囲むようにして座るオークもいた。

 

フーユーはまだ電撃でしびれて動けないようだった。

離れた草むらでハル達はどうすべきか小声で相談していた。

「どうすんのさ!あんた覚者でしょ。なんとかしなさいよ!」

ルドヴィカがハルに向かって捲したてる。

「そんなこと言ってもあんなたくさんのオークに勝てるわけ無いよ!」

ハルが言い返す。ナツは「アキ、アキ」と繰り返すばかりであった。

目の前の事態も大変だがハルはドゥーヨーというオークが言っていたことに衝撃を受けていた。

 

(禊ぎの神殿を消してセラー湖の水をグリッテン砦にぶつける!?)

禊ぎの神殿を<壊す>のではなく<消す>。

堅牢な禊ぎの神殿を壊す事なんて不可能と思われたが、消すとなると破壊ではなく変なオークを利用することで何か方法があるのかもしれないのではないかとハルは思った。

(もしそうなら変なオークをあの連中に渡してはならない)

しかしさっきのアキの魔法とフーユーの周りにいるオークを見ると今ここにいる三人では到底不可能に思えた。

変なオークを捕まえようとアキとオークの首領が揺らぎの中の異界に入っている間にフーユーを助けて逃げる。

そのための方法は無いか。

そう考えて少し離れた所にいるエントを見てハルは言った。

「ルドヴィカ、ナツ頼みがある」

 

 

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