オークになった!   作:ナゾハリ

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第12話

左の頬が冷たい。

硬質のなめらかな石の感触が左頬にあった。

ハルは目を開けると間近に近づいてくる人物の足が見えた。蹄のような足、人ではない。

ハルはゆっくりと手をつき起き上がった。近づいてきた人物がハルの目の前に立つ。

オークだ。

一瞬ハルは警戒するように身体を強ばらせたがそのオークがやさしくこちらを見ているのを見た。オークを見た後周囲をを見渡した。

 

大きな石の扉以外何もない空間だった。その扉も真ん中にポツンと存在している。おそらく反対に回っても同じ扉が見えるだけだと思われた。異界かと思ったが周りは全て白い霧のようなもので覆われていた。扉も表面には何も描かれておらず殺風景という表現が一番適していると思える空間だった。

ハルは周りを見渡した後もう一度目の前のオークを見た。

姿は今までに見たオークと全く変わらなかった。緑色の肌、筋肉質な体格、獲物を食いちぎりそうな牙が口から見えている。

ただ目は今まで見たオークとは違っていた。

穏やかで知性の光をたたえた目。

そして今までのオーク達とは全く違う装備を身に付けていた。

 

大盾。

自分の背丈に迫ろうかという高さと完全に身体を隠せる横幅をもつ長方形の盾を身につけていた。

こんな盾を持つのはシールドセージという役目の者しかいなかった。

ただこれだけではこんなオークもいるかもしれなかったが他のオークと決定的に違うものがあった。

胸に骨のようなものが突き刺さるように飛び出ている。

それを見てハルは目の前のオークに確信をもって尋ねた。

「フーユーのマスターですか」

目の前のオークは頷きながら低くよく通る声で答えた。

 

「いかにも、それがしはフーユーのマスターでツーユーと申す。そなたは・・オーク・・いや・・オークではないな?」

ツーユーと言ったオークはハルの姿を探るように見ながら尋ねた。

「はい、訳あってこんな姿をしていますが僕は人間の覚者です・・いろいろあったんです」

ハルは答えた後大きくため息をついた。

その様子を見てツーユーは苦笑するように口を歪ませた。

「大変だったようでしたな。さて何故こんな・・っとフーユーが先ですな」

ツーユーがハルに尋ねようとした時近くで横たわっていたフーユーが「ウウッ」と声を出した。目を覚ましたようだった。

 

フーユーが起き上がりつつマスターのツーユーを見る。

「マスター」

フーユーの目が潤み始める。

「マスター」

鼻が詰まったような声になる。

「役目ご苦労だったな」

ツーユーがフーユーをねぎらうように声をかける。

「マスタァァァァァァァ」

フーユーが大きく腕を広げ同じく腕を広げたツーユーの胸に飛び込んだ。

二人はお互い強く抱き合った。

「マスターマスターマスター」

フーユーは何度も何度もマスターという言葉を繰り返し号泣した。

「マスター ヤクメ ゼンブデキナカッター ゴメンナサイー」

フーユーが泣きながら謝っていた。

「いや、それがしこそそなたに辛い役目を与えてしまった。本当に申し訳ない」

「マスターアヤマラナイデー フーユーマスターノヤクニタチタイダケー」

感情をほとんど表さなかったフーユーが子供のように泣きじゃくりマスターを離さない様子を見てハルの目頭が熱くなった。ポーンがこれだけ感情を表に出すなんて、どれだけ我慢していたのだろう。

 

しばらく再会の喜びに浸っていたツーユーがフーユーから離れ、ハルに向いた。

「フーユーだけでなく覚者殿もここに来たということは何かただならぬ事態になっていると考えてよいですかな」

ツーユーが真剣な表情でハルに言った。

「はい、実は・・」

ハルは今までの変なオークの事、黒ローブの事、禊ぎの神殿を消してグリッテン砦を破壊する計画の事をツーユーに説明した

「うむむ・・そんな事になっているとは」

ツーユーは右手を顎に覆うように当て低く唸った。

 

「いくつかお聞きしたいことがあるのですが、まずあなたと同じ胸に角の欠片と思われる変なオークがいました。あいつは何かご存じないですか」

ツーユーはハルを見た。その表情は激痛を堪えるようで、まるで自らの傷口から過去をえぐり出しているような呻き声で答えた。その呻きから聞こえた声はハルが肥だめに落ちた事を言った時の口調など小石に躓いた程度に思えるほどであった。

「それは・・・それがしの・・・分身だ」

 

「分身!?」

ツーユーが辛い過去を吐き出したせいか激痛が少し和らいだような表情になった。そして真剣な表情でハルを見て言った。

「そなたには全てを話すべきなのだろうな。そしてその魔道士の企みを防がねばならん。ここで待ち構えれば後手に回る。そなたの説明通りなら少しだけ時間があるが、まずはここを出た方がよかろう」

「ここを出ても大丈夫なのですが?なにかされていたと思うのですが」

「うむ、後で詳しく説明するがここで白竜の幻影が禊ぎの神殿を異界化させるのを止めていたのだ。だがあの魔道士がそれがしの分身を手に入れたとなるとおそらくその力で異界化させるつもりでいるのだろう。そうなると止められん。だからここで座して待つわけにはいかんのだ。大丈夫、しばらくの間ならこのまま止まったままになる」

 

ハルは今聞いた事だけでも十分驚きだった。

白竜の幻影、禊ぎの神殿の異界化。ハルは神殿の異界化を聞いて思いついた事があった。

もし神殿を異界化することで現実世界から消すことが出来たら堰き止める物が無くなったセラー湖の水は一気に激流となってグリッテン砦に襲いかかる。

(オークが言っていたのはこれか!)

ハルがオークの計画について推し測っていると「さぁ覚者殿まいりますぞ」とツーユーがハルを促した。

ツーユーが右手を前に突き出すと見慣れた揺らぎが現れた。

ツーユー、ハル、フーユーの順番で入っていく。

ハルが揺らぎに入る直前Guuuuuuと唸る声が石の扉の向こうから聞こえた。

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