オークになった!   作:ナゾハリ

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第13話

ハルが揺らぎから出るとそこは大広間の真ん中だった。

来たことは無いがおそらく禊ぎの神殿の中心にある大広間なのだろうと思われた。

セラー湖からの水があちこちから滝のように落ち、広間の周りを囲むように流れている。

ツーユーは広間の扉の方に歩き出した。大広間にふさわしい広い階段を上ると白竜様の意匠が施された扉が閉じられていた。ハルはその扉がツーユーのいた空間の扉に似ていると思った。ただ向こうの扉には何の意匠も無かったが。

「奴らは必ずここに来て白竜の影を呼び出す。そこで我々はここで待ち構えるのだ」とハルに言った。

 

「奴らを倒せるのですか?」

「あの魔道士はそれがしでも倒せぬ。とても強力な魔法を使うのだ。」

「ではどうするのですか」

ハルに問われたツーユーは後ろへ振り返りハルを真っ直ぐ見つめ。

「奇襲だ」

「奇襲?」

「そう、そなたが奇襲するのだ」

ツーユーが考えた奇襲の方法はこうだ。

この広間入る前にハルが魔道士とオークの集団に気づかれないよう入り込む(一番後ろが良いとツーユーが言った)

ツーユーとフーユーが広間に入る手前のどこかに隠れておく。

魔道士は杖を介して相手の意識を乗っ取るのでその杖さえ誰も持たないようにすればいい。しかし魔道士もそんなことはわかっているはずので真正面から杖を落とさせるような事は無い。

 

おそらく広間の真ん中で白竜の影を呼び出すのでその場所に来た時、ツーユーが隠れていた扉の向こうから現れる。そして魔道士やオークの気を引いている内にハルが目立たぬように魔道士に近づき杖をはたき落とすという作戦であった。

至極単純で作戦の穴がたくさんありそうだったが他に良い案も無いのでその方法でいくことにハルは決めた。

「さて」

ツーユーが扉を開き、抜けた先の階段に腰を下ろしハルに向いた。

「奴らがここまで来るのに少し時間がある。その間にそれがしに何があったか話しておこう」

そう言うとツーユーは過去を思い出すような少し遠い目をして話し出した。

 

「300年ほど経ったのか」

ハルから白竜と黄金竜が戦ってからの年月を聞いたツーユーはじみじみと呟いた。

「それがしは普通のオークだった。ただ一つ他のオークと違ったのはそれがしは覚者になりたかったのだ」

「オークが覚者になれるわけがない。それがしもそれはよくわかっていた。だから一人でひっそりとレスタニアのためにと思えることをしていた」

「人間が困っている魔物を退治したこともあった。ただオークがなにかやらかしてもそれは見逃していた、やはり仲間意識みたいなものはあったのであろうな」

「ただの自己満足と言われればそうかもしれない。オークが覚者の真似事をしても誰も認めることなどしない。だがそれがしはそれでいいと思っていた・・いいと自分を思い込ましていた」

 

「ある日突如白竜様と黄金竜が天空で戦い始めた」

「それがしはその戦いを見守り祈った。白竜様が勝利するようにずっと見守っていた」

「七日目だっただろうか、白竜様の戦いを見守っていたそれがしは胸に強い衝撃を受けて意識を失った」

「気がつくと白竜様と黄金竜の戦いは終わっていた。ただ白竜様が勝ったのが何故だかわかった」

「その理由もすぐにわかった」

「衝撃を受けた胸を見ると白竜様の角が突き刺さっていたのだ」

「おそらく黄金竜の戦いで角が砕かれたのであろう欠片がそれがしの胸を貫いたのだ」

 

「角はそれがしの心臓を突き破っていた。本来なら死んでいるはずだが角に宿る竜力によってそれがしは死なずにすんだのだ」

「白竜様は竜力の塊、その角はとても強力な力を宿しているのだろう」

「さらに角の力のためか白竜様の力の一部を使うことが出来るようになったのだ」

「それがしは白竜様に感謝した。この力は覚者と同じようなものであるに違いないと思った。今まで覚者のような振る舞いをしてきた事への贈り物だと思った」

「この大盾を扱えるようになったのも角の力のおかげだ」

「同時におそらく覚者でも身につけてない能力があることがわかった」

「どうやら白竜様と黄金竜との戦いでお互いから飛び散った身体の一部が竜力の歪みを起こし様々な異常を起こしていた。異界の狭間に似た空間の入り口があちこちに出来たのもその中の一つだ」

 

「それがしはその異常が近くにあると察知できる事が出来たのだ。この異常を解決するのがそれがしに与えられた役目だと思った」

「それがしは異常を消していった。欠片が刺さった魔物の時もあった。そなたも入ったであろう空間から出ててくる半透明のやつらを追い返し空間を塞ぐこともした」

「そのような事をしているうちにそれがしは自分を覚者だと思うようになっていった。だがそれがそもそもの間違いであった・・」

ここでツーユーは先に胸に角が突き出ているオークみたいな者は自分の半身だと言った時と同じ表情をした。

 

「覚者はポーンという従者を持つことが出来る事を以前から知っていた」

「それがしもポーンを持ちたかった」

「さすがにポーンを呼び出すにはどこでも良いというわけでは無かった」

「白竜様が墜ちた場所には神殿が建てられ始めていた。しかしオークであるそれがしはそこへは到底行けそうにも無かった」

「そこで未だ白竜様の力が色濃く残る禊ぎの神殿でポーンを喚びだすことにしたのだ」

「それがしは禊ぎの神殿に侵入し大広間でポーンを喚びだすために祈った。そうしたら・・」

ツーユーは両手で顔を覆い声を絞り出すように話した。

「そうしたらアレが出てきたのだ!」

 

両手を顔から離し下ろしてハルを見つつツーユーは続けた。

「アレが出てきた時、たくさんの出来事が一度に起こった」

「まず出てきたのは白竜様の幻影だった。ただその幻影は単なる力の塊のようなもので荒い言葉使いでこう言ったのだ<おまえの力をよこせ>と」

「幻影がそう言うとそれがしは強い力で何かが引き剥がされるような痛みを感じた」

「そしてそれがしからズレていくようにアレが出てきたのだ」

「それがしの中から出てきたにもかかわらず、それがしとは似ても似つかないものだった。豚のようで豚で無く、オークのようでオークで無い。身体つきさえも似てもいなかった」

 

「アレはおそらくそれがしのオークとしての芯の部分だったのだろう。もしかするとそれがしが得た白竜様の力はアレの方が強いのかもしれない」

「だが別れたアレは白竜の幻影が捕まえる前に揺らぎを作りどこかへ行ってしまったのだ」

「白竜の幻影はアレを取り込むのに失敗したものの未だ広間に留まり続けていた。」

「それがしはまず白竜の幻影を出てきた空間に押し返すのに全力を注いだ。しかしその時黒いローブの人物が<その白竜は私のものだ>と言いつつそれがしに魔法で攻撃してきたのだ。」

 

「魔法は大盾で防いだ。そして白竜の幻影はその姿を消し始めたのだがそれを見た黒ローブが幻影の空間に飛び込んだのだ」

「それがしも追いかけなければならないと思ったがあちこちに未だ残っている白竜様と黄金竜の戦いの残滓の影響も気にかかった。なのでまずポーンを召喚することにしたのだ。」

「そして召喚できたこのフーユーに役目を言いつけそれがしは幻影の空間に入った」

「そなたの入った空間がそれだ。あそこの扉から幻影がわずかながら出ていたのでそれがしが押し込んだのだ。だが先の黒ローブはそこには何故だかいなかった。行方は気になったが幻影が出てくるのを押さえ込むためそれがしはあそこに留まるしかなかったのだ」

 

「あとはそなたとフーユーが来るまであの場所にいたというわけだ」

ツーユーは語り終えると一つため息をついた。

「それがしの分のわきまえなかった望みによってこんなことになってしまった。オーク風情が覚者の真似事をしようとした罰かもしれん」

ツーユーはそう言いながら再び両手で顔を覆いさらに指を顔に食い込ませるように力を入れた。

「いえ、あなたのしたことは覚者の真似事ではなく覚者のやるべき事だったと思います。」

ハルはやさしくツーユーの肩に触れた。ツーユーが覆っている手を下げ、顔をハルに向けた。「僕があなたの立場だったら同じ事をします。だれも予想出来なかったことで自分を責めないでください」

 

「あなたより僕の方が覚者に向いていないと思います。事態に流されて右往左往しているだけです」

「しかも異界でオークとはいえ僕をキャプテンと言ってくれた者を死なせてしまった」

「僕は覚者として何も出来ていないのです」

ハルはオークの部下が死んでいく時のことを思いだし顔を曇らせた。

「覚者殿」

ツーユーはハルを真っ直ぐ見た。

「そなたがそれがしを覚者のように扱ってくれるのは、それはそなたとそれがしが同じものを大切にしているからかもしれない」

「同じもの?」

「そう、そしてそれこそが覚者を覚者たらしめているのかもしれない」

「同じものとはなんですか?」

「それがそれがしにもハッキリと言い表せないのだ。オークの覚者の戯れ言と思ってくれい」

 

ツーユーが少し笑顔になった。

ハルもつられて笑顔になる。

「マスター」

フーユーがそう言いつつ前を指さした。

「タクサン オークガクルー」

それを聞きハルとツーユーは顔を引きしめた。

「さて、いこうかの」

「はい」

二人が立ち上がり階段の影に隠れるため歩き始める。

ハルの先を歩くツーユーが振り向きハルに言った。

「覚者殿、そなたがそれがしの元に来てくれたことうれしく思う」

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