オークになった!   作:ナゾハリ

15 / 17
第15話

杖はハルの手から離れなかった。

(うああああああ)

ハルは心の中で叫んだ。

視界がだんだん黒い煙のようなもので埋め尽くされる。

何か別の意識が自分の中に流れ込んでくるのを感じた。それは冷たい氷水を血液と入れ替えられるように感じた。

 

そしてハルは観た。

それは黒ローブの記憶の一部だった。

<何故このシキ様が覚者に選ばれぬ!>

<レスタニアの誰にも負けぬ強さを誇る私を白竜は何故覚者にしないのだ!>

場面が変わり部屋の中で金色の杖を持っている自分の手が見える。

<ふふふまだだ、身体が朽ちようともこの杖に心臓を移せば覚者になれる道は閉ざされぬわ!>

 

場面が変わって神殿の中。

<あんなオークが覚者の真似事をしているのが許せんが、ここに何の用があるのだ>

オークの前に白竜が現れる。

<なんだあの白竜は!>

<あの白竜になら私を覚者にしてくれるかもしれぬ!>

白い空間。扉から首と左手だけが出ている白竜がいる。

<あの逃げた変なオークをおまえに渡し貴様が力をつけ、この神殿を異界に飲み込ませれば私を覚者にしてくれるのだな!>

レスタニアのどこか。

<くそ!また逃げられた。なんとか捕まえる方法を考えねばな・・>

 

胸に激痛が走った。

シキと言っていた黒ローブの記憶が途切れる。現実に戻ったようだった。それは覚者としての力、白竜の加護だったかもしれない。しかしそれが呪縛を逃れたことにならなかったし、この時ハルの目の前にあったものは一生忘れられそうに無かった。

ハルの顔の左右を薄汚れた白骨の手で掴み侵入しようと試みている黒ローブの骸骨が目の前にいた。

その髑髏の眼窩の奥に光が見える。それは狂おしいほどの妄執に駆られた炎のように見えた。

 

「うあああああああ」

ハルは目の前の骸骨を振り払おうとした。

どすっ

音と共に左手に何か肉を鋭い物で突き刺した感覚が伝わった。

ハルを掴んでいた骸骨の動きが止まった。

骸骨の姿が少し薄れていき何が起こったかが見えた。

ハルの左手に持っている杖がドゥーヨーの胸に突き刺さっているのだ。

どうやら振り回した杖が見事にドゥーヨーの胸を突き刺したらしい。

ドゥーヨーがハルを睨みつけ拳を横に振り抜き裏拳でハルの顔面を殴った。

衝撃で手から杖を離しハルは首の骨が折れた音を聞きつつ遠くに吹っ飛ばされた。

 

最後の復活力が働く。

ふらつきながらハルは立ち上がりドゥーヨーと黒ローブを見た。

ドゥーヨーはふらつきながら胸に突き刺さった杖を右手で引き抜いた。傷口から大量の血が流れ出していく。

おそらくシキの支配から逃れたであろう黒ローブを着ているアキはドゥーヨーの足下に動かず横たわっていた。気を失っているらしい。

「くそ、まさかこんな事態になるとはな・・・・」

血の流れ出る胸に手を当てドゥーヨーが濁った低い声で唸るように毒づいた。シキが乗っ取ったらしい。

 

「こうなれば覚者になった時のために取っておきたかったのを使うしか無いな」

ドゥーヨーを乗っ取ったシキが右手の杖を高々と掲げた。

事態の急展開に動けずにいた周りのオークの腰に付けている小袋から紫色の光の玉が次々と飛び出し杖に吸い込まれていく。

光が自分の小袋から出てきたことに驚くオーク達だったが何が起こっているかわからずおろおろし、やがて次々と倒れ始めた。

紫色の光は竜力の光と思われた。竜力は命と等しくそれを奪われた者は命を奪われる事と同義であった。

 

ハル、ツーユー、フーユーはドゥーヨーの行為をやめさせるために駆け寄ろうとした。

オークから紫色の光を杖に集めつつシキは足下に横たわっている変なオークにしゃがんで左手を伸ばし胸に突き出ている角を引き抜いた。

「ぐう」と呻きつつツーユーが胸に手を当て跪く。「マスター」とフーユーが心配そうにツーユーの顔を覗き込む。

「この傷では時間が無い。白竜の影よ私を早く覚者にするのだ!」

そう言いつつシキは杖と角を上に掲げた。

ハルは神殿自体が震えるような振動を感じた。ただ音はなく空間自体が震えているようであった。

 

そしてシキの後ろに青黒い霧のようなものが現れた。

シキが霧の中に入っていく。

霧はだんだん大きくなっていった。

ハルは嫌な予感がして横たわっているアキに駆け寄った。

息はあったがアキはまだ気を失っていた。

霧がだんだん大きくなりハルとアキに近付いてくる。

ハルはアキの両脇を抱え引きずるようにナツの方に向かった。

「ナツ、アキを頼む!」

ナツにアキを委ねるとハルは霧の方に向いた。

「どうするの?」ナツが心配そうにハルに尋ねる。

「止めなきゃ」ハルが霧の方を向きながら答えた。

「大丈夫?」

「わからない、やるだけやってみる」ハルがナツの方を向いた。その目には決意の光が宿っていた。

 

「それがしも行きますぞ」

胸の角の部分を押さえつつ近付いてきたツーユーがハルに言った。手の間から見える角が少し透き通っているように見える。

「大丈夫ですか」ハルが心配そうにツーユーに尋ねる。

「これはそれがしの問題でもある。最後までやらねば後悔する」

ツーユーが苦しそうにしつつも笑うように歯を見せた。覚悟を決め戦いに臨む者の笑顔だった。

ハルも歯を見せる笑顔で応えた。

霧の方向を見つつハルはナツに「ここから早く出た方がいい、もし神殿が異界に飲まれそうになったら白竜の神殿に行って助けを請うてくれ」と頼んだ。

ナツが頷く。そして「ハル死なないで」と頼むように言った。

「わかった」そう言うとハルは霧の方に走り出した。ツーユーとフーユーもついて走る。

霧の中に入る直前にハルは杖に当たって転げ落ちた金属容器を拾うと逃げるように霧から離れていくゴブリンの姿を見た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。