オークになった!   作:ナゾハリ

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第3話

左の頬が冷たい。

しかし一番気になるのは冷たさよりも岩が細かく砕かれた砂と砂利が?に当たるざらついた感触だった。

そこに岩の堅さからくるような冷たさが合わさってハルは少し不快に感じた。

だがそれよりも一番不快なのは大きく耳元で怒鳴られている声だった。

 

「・い!大丈・か!・・おい!聞こ・・・か!」

ハルは顔をしかめながら声の主に煩いと文句を言うべくゆっくりと目を開けた。

ゴブリンがいた。

ハルは驚いて飛び起きたもののゴブリンの方を向くように尻餅をついた。

赤茶色の肌。

突き出た鼻。

とんがった耳。

並びが悪いがどれもが肉を噛みちぎやすそうな鋭い歯。

背丈は人間の子供くらいで布を引き裂いて作られた服のようなものを纏っている。

そして目は狡猾そうにこちらを見て・・

ゴブリンの目じゃない?

こちらを心配している目だった。

明らかにゴブリン以上の知性を感じる目だった。

それにゴブリンならこちらの生死などお構いなしに使えそうなものを奪ってどこかへいくはずであった。

それが手を地面につきながら心配そうにこちらを見てる。

そして、「大丈夫?」とハルに声をかけた。

ゴブリンの口調ではない。人間のものだ。

ハルは恐る恐る「誰?」とゴブリンに声をかけた。

ゴブリンはにっこりと笑顔を見せ、後ろに置いてあったランタンを前に引き寄せた。

そしておもむろ立ち上がり両手で自分の頭を掴み顔を撫でるようにして下に引いた。

 

ズルリ

ハルはそんな音が聞こえたような気がした。

それと同時に目の前のゴブリンが目の錯覚かと思えるくらいに突然人間くらいの大きさになった。

そこには手に皮か布のような物を持った女性が立っていた。

髪は後ろで団子状にしてまとめている。

服は肩が出ている皮鎧と少し装飾の入った手袋をつけ、下は皮のズボン皮のブーツと町や村にいる女性が着るような服装ではなかった。

何か荒事があっても大丈夫な事を普段からしている服装だとハルは思った。

「私はルドヴィカ、よろしく」

ルドヴィカと名乗った女性はハルに手を伸ばし「立てる?」と尋ね、ハルがゆっくり伸ばした手を素早く掴み立てるかどうかの返事を待たずに強引に手を引いた。

引かれた勢いで前にバランスを崩れハルは立ちながらもルドヴィカの方へつんのめった。

ルドヴィカもハルがつんのめった分後ろによろめきそれはハルのせいだと言わんばかりにはるを軽く睨んだ。

「さすが覚者様ね復活力があるなんて羨ましいわ」

ハルはそれを聞いて上を見た。かなり上方に足を滑らせた足場が見えている。あそこから落ちたので一度命を落としたはずだが覚者というのは白竜様から復活力を授かっており3回まで復活できるのことをハルは思い出した。

 

「さて、じゃあそれ脱いで」

ルドヴィカがハルを指さしながら言った。

「これ?」

ハルも自分を指さしながら戸惑うように答えた。

ルドヴィカはハルの戸惑いなどお構いなしに続けた。

「それ着飾りになってるからすぐ脱げるわよ」

着飾りの事をハルは白竜の神殿で聞いたことがあった。武器や防具を自分の好きな形や色に見た目を変えられる方法だ。

「普通はその人個人にかける魔法だけど、それはそのものにかかっているから誰でも着れるのよ」

着飾り装備だと聞いてハルは脱げる?!と口をぽかんと開いた。

自分がなにかに覆われているなんて思いもよらなかった。

自分はオークになどなっていなかったのだ。

目が潤み安堵で体の力が抜けそうになった。

 

しかし次の瞬間一つ疑問がわいた。

「でもなんで僕がこのオークを着ているってわかったの?」

ルドヴィカの表情が固まりその後目が泳いだ。

「そ、そんなことどうでもいいじゃない。それより早く脱ぎなさいよ」

ルドヴィカの明らかな動揺にハルはわずかに睨むように目を細め、確信を得たような口調で尋ねた。

「テル村の井戸で僕を殴りつけたのあなたですね」

ルドヴィカは少し気圧されるように体が後ろに反りかけたがすぐに戻り、今度は怒ったように眉間に皺を寄せながらまくしたてるように言葉を連ね始めた。

「だってオークがずっとつけてきてたのよ!仕方がないから井戸に隠れてやりすごそうとしたのにまだつけてきたと思ったのよ!だから不意を突いて棍棒で殴ったら井戸に入る前に見たあなただったのよ!私びっくりしてどうしようかと思ったけど」

そこでルドヴィカは息を呑んだ。さっきまでハルに向かっての体全体を使ってしゃべっていた動きが止まっている。

ハルはその様子を見て目を半眼にすぼめながらルドヴィカが言い淀んでいるであろう言葉を補った。

 

「<どうしようかと思ったけこれを着せるのにちょうどいいのが来たと思った>のでしょう」

ルドヴィカはハルの詰問に意を決したのかさっきよりも怒ったような声でしゃべり始めた。

「そうよ!オークのは実験的に作ったって言われたからちょっと怖くなって誰かに試したかったのよ!あなたが倒れた時ちょうど試してみようと思って着せたのよ!そうしたら脱がせなくなっちゃったのよ!どうしようかと思っていると上の方から声がしたからオークといっしょにいるところなんて見られたらまずいと思って井戸から出たのよ!」

ルドヴィカはだんだん興奮してきて声がさっきよりも大きくなってきた。

ハルは声につられてモンスターがきたらまずいと思いつつもルドヴィカを止めることは出来なかった。

「井戸から出たらちょうど騎士団が井戸に近づいてきて離れなきゃならなかったのよ!そいつらがなかなか井戸から離れてくれなかったのよ!だから仕方が無いので追いかけてきたオークの正体探ろうとして離れたらいつの間にか夜になってあわてて戻ったらあなたがちょうど竜の礎で移動しようとしてたとこだったのよ!」

ここでルドヴィカは持ってた革袋の水筒に口をつけ水を一口飲みさらに続けた。

さっきより落ち着いてきたのか声のトーンが落ちてきている。

「ちょっと慌てたけどたぶん白竜の神殿に戻ったんだと思って行ったらあなたが全速力で神殿から駆けていったのよね。私も追いかけたけど追いついたところでオークに絡まれていたのを見て様子を見るしかなかったのよ。わたしもゴブリンのを着て後をつけてきたらこんなとこまで来てしまって今に至るわけよ」

ルドヴィカは開き直ったの様子で首を少し傾げ両手を腰に当てた。

「そりゃぁ悪いと思っているわよ、でもこうなったんだからしかたがないんじゃないの。さあ脱いで」

 

ハルはもう少しルドヴィカに言いたいことがあったが脱ぐ方が先だと思い自分の頭に手をかけた。

ツルツルで禿げた頭だったので掴みにくかったがすこしの引っかかりを使って掴んだ手をルドヴィカがゴブリンの着飾りを脱いだ時の様に前に引っ張った。

少しだけ動いた様な気がしたがそこから全く動かなかった。

もう少し力を入れてみる。

動かなかった。

その様子を見たルドヴィカが「何してるのよ」と言いつつハルの頭に手をかけ引っ張った。

動かない。

「「ええ・・」」

二人して言葉を詰まらせた。

ルドヴィカは少しハルから下がって右手を口に当て小声で「やっぱり問題あったんだ」と呟いた。

 

「どうするんですか!脱げないじゃないですか!」

ハルはルドヴィカに向かって責めるように怒鳴った。

「私だってどうなっているか全然わからないわよ!」

「こうなったのあなたのせいでしょ!」

「脱げなくなるなんて思わないわよ!」

「今問題あったんだって言ったでしょ!」

「言ってな・・言ったけど、こんな問題だなんて思ってないわよ!」

少しの間口論が続いていたが、ハルはだんだん不安が大きくなってきたのか言い返す言葉が弱くなっていき遂には「どうしよう・・」と目を潤ましてルドヴィカに問いかけた。

ルドヴィカもうなだれた様子のハルを見て両手を前に組み考えた後少し明るめにハルに提案した。

「それ脱ぎたいんでしょ、なら私と一緒に行きましょ」

ルドヴィカはそれと言いつつハルに向かって指をさした。

ハルはなにか釈然としないながらもルドヴィカの提案に乗るしかないと思った。

「どこへ行くんです?」

ルドヴィカは少しニヤリと口を歪めもったいぶった口調でそれを言った。

「ミスリウ森林に住むソーサラーのジョブマスターにして大魔道士エメラダのとこよ」

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