オークになった!   作:ナゾハリ

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第4話

大坑道を出ると空は白々と明け始めていた。

ハルとゴブリンの姿になっているルドヴィカは坑道から出てきたせいか早朝のボルドの山間からこぼれる朝日に目を細めつつミスリウ森林へ向かった。

坑道内で落ちたハルはルドヴィカが落下場所に降りてきた時に使ったロープ(ルドヴィカが坑道内で見つけたらしい)で元の道に戻ることが出来、坑道内のモンスターに襲われないよう時には隠れ時には堂々として坑道を出た。

坑道を出てからは最初オーク達と共にきた道を戻るように進んだ。それがミスリウ森林へ向かう道だった。

 

ハルはもちろんオークの姿をしていたがルドヴィカもオークの半分しかないゴブリンの姿でハルの歩幅からくる速さに負けないように早歩きでハルの前を進んでいた。このあたりはゴブリンが多いので目立たないのだ。

周りにいるがこちらの方を気にもとめず各々好きなことをしているゴブリンの様子を見ながら歩いていると何事もなくミスリウ森林につきそうだとハルはぼんやり考え大きな息を一つ吐いた。

 

やがてゴブリン達が多数たむろしている開けた場所に出た。道が真っ直ぐと右の二手に分かれている。

ルドヴィカは真っ直ぐ進みちょうど分かれ道の真ん中に来た時それは突然起こった。

ハル達と離れた所の木陰にいた二匹のゴブリンが何かをめぐって言い争いをしている。

お互い短剣を持っていてもう少しで流血沙汰になりそうだった。

しかし争いにはならなかった。

木々の奥から黒い影が急に現れ一匹のゴブリンが姿を消した。

それを見てもう一匹の方が呆然とした後叫んだ。

 

「ゴブリンイーターダァァァァ」

叫んだゴブリンもすぐに黒い影に飲み込まれ影自身はいったん姿を消した。

周りのゴブリンが一斉にざわめき始め、キョロキョロと周りを見回す者どこかに向かって走り出す者、威嚇のように持っている刃物を振り回す者と様々な行動をし始めた。

「ゴブリンイーター!?」

前にいたルドヴィカが慌ててその名前のものがどこからくるのかと周りを見渡した。

ハルは開けた場所の真ん中に立っていて周りを見渡していると右に曲がる道の方、木が生い茂っている少し離れた場所で刃物を振り回しているゴブリンの後ろに巨大な影が見えた。

そのゴブリンが後ろへ振り向いた瞬間ゴブリンはその影に飲み込まれた。

 

「ああ!」

ハルはその光景に驚き声を聞いたルドヴィカもその方向を見て固まったように動きを止めた。ゴブリンを飲み込んだ影はゆっくりとこちらに向かってきた。

木の影で見えなかった姿が少しずつ朝日に照らされてその異形を見せ始めた。

ハルの背丈と同じ高さを誇る巨躯のライオン。

さらにその背にはそのライオンの頭と同じくらい巨大な山羊の頭が生えており「メエェェェ」と自分の存在を誇示している。

そして尻尾はオークの腕ほどの太さの蛇が牙を見せつつ左右に頭を振っている。

 

キメラ

凶悪な魔法生物がこちらに向かって獲物を見定めつつ向かってきた。

他のゴブリン達は恐慌状態になって逃げ惑い始めた。

転けたゴブリンがいた。

キメラはそのゴブリンに向かって飛びかかった。

ゴブリンの断末魔があたりに響き渡る。

「逃げるわよ」

ルドヴィカが少しずつキメラから遠ざかるように下がりながらハルに言った。

ハルも頷きながらキメラの方を向きつつ下がる。

キメラがこちらを向いた。

 

「「!!」」

こちらを獲物として見定められた。

二人はキメラを背にして走り始めた。

キメラが追いかけてくる音が背中に張り付いた。

「あんた覚者でしょ!戦いなさいよ!」

ルドヴィカが走りながらハルに叫んだ。

「僕プリーストだからこんなの無理だよ!」

プリーストは回復やコアという敵の弱点を見つけるのを得意とするので今のハルには攻撃は立ち止まって魔法弾を出すのが精一杯だった。それに今のハルでは魔法弾をだしてもキメラには小石があったった程度しか感じないだろう。

真後ろにキメラが迫ってきた。

ハルはキメラが飛びかかった音を聞いた瞬間ルドヴィカを右に突き飛ばした。

キメラの右前足が左に薙ぎハルを吹き飛ばした。

吹っ飛び地面に横たわる。直後ハルの身体が少し光った。二つ目の復活力を使ったのだ。

ボルドの時と違いハルはすぐに意識を取り戻した。

 

キメラは直前にルドヴィカのいた場所に着地しそのままの勢いで少し進んだ。

ゆっくりとこちらに振り向く。

獲物を捕らえられなかったせいか怒っているように見えた。

ハルは起き上がり震えながらも大声でキメラに叫んだ。

「こっちだ!」

杖を構えハルはキメラに対峙した。

ここからどうするかは何も考えてなかった。

呼吸が荒くなる。

勝てる要素は無い。

だがルドヴィカだけでも助けたかった。自分が戦っているうちに逃げおおせてくれればよかった。

キメラがこちらに飛びかかろうと躰を沈めた瞬間だった。

キメラに向かって影が高速でぶつかった。

 

グアアアアアア

キメラが苦悶の叫びをあたりにまき散らしライオンの首を振り回した。

見ると人より大きな姿の者がキメラの脇腹に剣を突き刺していた。

その剣を引き抜き大きく振りかぶりライオンの顔に向かって振り下ろした。

キメラも剣を避けようと飛び退いたがライオンの?をザックリと切り裂いた。

キメラはまた大きく叫びつつ自分を傷つけた人物に怒りの目を向けた。

キメラは飛び退いたことで剣を持つ人物と少し離れてにらみ合ったが、やがて背を向け元の木の影の中に向かって走り姿を消した。

 

「ダイジョウーブー」

剣を持った人物が剣を納めつつ声をかけてこちらに近づいてきた。

人ではなかった。

オークだ。片手剣と小さい盾を持っている。

オークは戦っていた時とは別人のようにおっとりとした様子でハルとルドヴィカの様子を見、「ケガハナーイー」と心配そうに尋ねた。

ハルとルドヴィカも大丈夫なことを伝えるとそのオークは「ヨカッタ、ジャーネー」と右手の掌をみせつつ上げて挨拶しハルとは違う右へ行く道に向かって走って行った。

 

その様子をぼんやりと見ていた二人だがやがて逃げ隠れしていたゴブリン達が戻ってるのをみてルドヴィカの方が「行こう」とハルを促した。

その後は特に何事も無くミスリウ森林にたどり着き森の中にぽつんと建っている小屋の前に二人は立っていた。

ルドヴィカはゴブリンの姿から人へ戻り家にエメラダ以外の人がいないかを確認してからハルを呼ぶということで小屋に入り、すぐに大丈夫と言うことでハルを家に招き入れた。

 

ハルが家に入ると中は様々な本、薬草、動物の骨や何かに使う道具があちこちに置いてありさらに奥の部屋に進むと一人の女性が立っていた。

長くつややかな髪、切れ長で知的な輝きに光る目、艶やな唇。

濃い紫の大きく胸元が開いたワンピースに小袋がついた腰紐で腰を締めることでくびれが強調され、その腰から下は大きくスリットが入り白く艶めかしい足がのぞいていた。

その出で立ちで左手を軽く顎に当て右手で左肘を支えつつ無意識にしなを作った立ち姿は妖艶というしかなかった。

 

その女性が家に入ってきたオークの姿を見て一瞬驚いたがすぐに目を細め「あなたオークじゃないわね」と言った。

そしてハルの隣にいるルドヴィカに向かって「あなたに渡したやつ?」と尋ねた。

ルドヴィカは「そう、でも脱げなくなってるんですよ」と坑道でのやりとりを説明した。

 

エメラダは「おかしいわね、私が着た時はすぐ脱げたけど」とハルにしばらく右手を向けて何かを探っていたが手を下ろして「何もおかしいとこは無い感じなんだけど・・」と再び左手を顎に当て顔を下げて考える様子を見せた。

少ししたらふっと顔を上げて「あ、挨拶まだだったわね私はエメラダ。そこのルドヴィカにちょっと頼み事をしてそのオークになる服を渡したんだけどねぇ」とルドヴィカに向かってじろりと視線を向けた。

ルドヴィカは少し慌てて「だってエメラダさんが今回の服はちょっと新しいことを試したって言ってたじゃないですか!だから私ちょっと怖くなって誰かに試したかったんですよ!実際こうなったじゃないですか!」と両手を前に突き出しながら反論した。

 

エメラダは考えるように視線を上に向け「そうなんだけどねぇ」と呟いた。

エメラダはしばらく考えて「こういった場合呪われているのが一番考えられるのだけれど、さっき調べた感じでは呪われているようではないのよねぇ」と言いつつ少し間をおいて続けた。「でもいろいろ試していく方がいいわね。けど・・・」

「けど?」

ルドヴィカが尋ねたのを受けたかどうかはわからないがエメラダが続けた。

「解呪薬って神殿からの要請で一度作ったんだけど使えないって返されたのよ。なんか飲めないって言ってたわねぇ。それ以来作ってないの」

「だからいまここに素材が無くて集めてから作るのに2~3日かかるのよ」

ハルはそれを聞いて<それまでここで待ってます>と言おうとしたがエメラダはハルが口を開く前に言葉を続けた。

「だからその間あなたにやってもらいたいことがあるの」

 

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