「魔導器を見つけて持って帰る!?」
ハルは驚いて問い返した。
「魔導器じゃなくて<魔導器のようなもの>よ。」
エメラダは首を振ってハルの言葉を訂正した。
「いや、何が違うかわからないのですが」
ハルがそう言うとエメラダはしかたがないわねぇというような軽いため息をして説明を始めた。
「魔導器ってどういうものか知ってる?」
「強力な魔法を使える道具でしょう」
「通常私たちが使える魔法には使用者の魔力の制限がつくの。制限は使用者の知識や訓練で使用できる魔力の制限が拡大されるけどその拡大値には個人差があってこの個人差は・・・」
エメラダの説明が講義の様相を帯びてきたのをルドヴィカが察知して話に割って入った。
「ちょっとエメラダさん今はそんな基礎の話をしてる場合じゃ無いでしょう」
エメラダは自分の話が途中で遮られたのに不本意なのか両眉をよせ口がへの字に歪んだ。
しかしルドヴィカの言うことももっともだと思ったのか魔導器の説明を始めた。
「どうしたら魔導器と呼ばれるか知ってる?」
「いえ」
「魔導器は神殿が魔導器だと決めるのよ」
「あ、そうなんですね」
ハルは少し驚き聞き入った。
「私たち一人はもちろん複数の魔術師でもとうてい起こせようも無い現象を起こせる道具が魔導器の候補にあがるわ」
「それを神殿が認定すれば魔導器として認められるの」
「だから今探しているのは魔導器じゃなくて<魔導器のようなもの>わかった?」
頷くハルにエメラダが念を押す様に<魔導器のようなもの>の部分を強調した。そして次の部分も強調するように言った
「そして見つかったらまず私のところに持ってきて」
ハルは不思議そうに尋ねた。
「神殿では無くて?」
「神殿では無くて」
エメラダは微笑みながら答えた。
そして続けて「まず私が魔導器候補として神殿に持って行くかどうか判断するわ。魔導器じゃ無いガラクタを持って行ったらあなただって恥かくわよ。でもこれだけは覚えておいて」
と言ってから一呼吸置き特に強調するように言った。
「あなたがガラクタだと思っても絶対持って帰ること」
「どうしてですか」
「一見ガラクタのように見えても<魔導器のようなもの>である以上どういう力が封じられているかあなたが判断出来る物ではないわ。でしょう」
エメラダが同意を求める様にハルに顔を近づけた。
「わかりました」
ハルがそう答えるとエメラダは満足そうな笑顔になった。
「でもその魔導器と」
「<魔導器のようなもの>よ」
エメラダが素早く訂正する。
「<魔導器のようなもの>とこのオークの姿がどう関係するのですか?」
「それがね、その<魔導器のようなもの>がどうやらオークが関係しているようなのよ。だからその姿になってルドヴィカに調査をしてもらおうと思っていたんだけどねぇ」
言いつつルドヴィカをじろりと見る。
「こうなった以上あなたにやってもらうしか無いのよ」
「変なオークがいるっていう噂があるってことだけはわかっているんだけどねぇ」
ハルはその話を聞いて「あ、それ僕も聞きましたし間違われもしました」と最初にオークにぶつかった時の顛末を伝えた。
エメラダも「そう、オークも探しているのね。でも何故かしら」と考え出した時何か考えていた様子のルドヴィカがいきなり叫んだ。
「ああっ!あのオーク!」
二人がその様子に驚きルドヴィカを見た。
ルドヴィカはそんな二人などお構いなしに叫ぶような声で続けた。
「なんか変だと思ってたのよ!どこかで見たような気がしたの!」
「ああっ!どうして今まで気がつかなかったの!」
ルドヴィカがハルに向かい叫ぶように言った。
「ほら!キメラに襲われた時助けてくれたオークがいたでしょ!」
ハルが頷く。
「あのときオークが右手を挙げて挨拶したでしょ!なんかおかしいと思ったの!でもそのときは気がつかなかったのよ!」
「あのオーク!」
「右手にポーンの印があった!」
ポーン
その存在は戦徒とも呼ばれ異界と呼ばれる異空間を渡り歩き覚者によってこちらの世界に召喚される者である。
その姿は人と全く同じであるが感情が希薄であり戦いにおいては恐れを知らぬ戦士である。
また一人の覚者をマスターと定めそのマスターに完全に付き従う従者でもある。
ハルも覚者ではあるがポーンを召喚する資格はまだないため一人で行動していた。
本来白竜が覚者を定めるため人以外が覚者になるというのは考えられない。
またオークのポーンを付き従える者など聞いたことも無かった。
「オークのポーンねぇ」
エメラダは興味深そうに言った。
「それが変なオークに違いありませんよ」
ルドヴィカが熱っぽく語る。
「オークのポーンがいるならオークの覚者がいても不思議は無いわね」
「でもオークの覚者がいるなんて聞いたことも無いし白竜様がオークを覚者にするなんてあり得ないですよ」
「そもそもあなたの見たオークがポーンである確証はないのよねぇ。それに見間違いかもしれないし、たまたまついた傷が印に似ているだけかもしれないものねぇ」
竜に心臓を捧げ人は覚者となる。その時覚者全ての胸に同じ傷が出来るのである。
そしてポーンにも覚者の傷と同じ印が右手についている。
「そう言われると反論できないけど・・」
ルドヴィカが気を落とすようにうつむいていたが急に顔を起こしハルを見た。
「だからキミに調べて欲しいんだよ!」
エメラダも同意するように「そうね、ここで議論しても何も進まないわねぇ」と応じてハルに向いた。
「オークの姿をしたポーンと<魔導器のようなもの>の存在を確かめる。覚者としてとても大事な役目だと思うわ。やってくれるなら解呪薬もしっかり作るわよ」
エメラダが妖艶な微笑をハルに向けた。ハルは渋面を作りつつもやるしかないのではないかと思い始めた。オークの姿をしたポーンと<ようなもの>という魔導器の探索。
両方とも新米の覚者である自分には荷が重い事ではあるがオークの姿となったことでオークの中に潜入して調べることが出来るのは自分だけではないかという気もしている。
「わかりました」
ハルがそう言うと二人の表情がパッと明るくなった。
「そう、やってくれるのね。じゃあ早速ルドヴィカに今後の事を相談してちょうだい」
エメラダがハルに笑顔を向けルドヴィカに相談するように則した。
「じゃあ早速オーク達の居場所に向かうがてらいろいろ説明するね」
ルドヴィカが小屋から出ようと扉に向かった。ハルもそれについて行く。
小屋の扉を開きハルが出ようとした時小屋の奥からエメラダの独り言が漏れ聞こえた。
「やっぱり不吉の黒布を使ったのがいけなかったのかしらねぇ」