ハルと三人のオークは急いで禊ぎの神殿の最上階から地上に出た。
神殿の出入り口から橋へはそう遠くはない。
ハルは変なオークらしき人影が橋のグリッテン側から禊ぎの神殿側に向かって走っているのが見えたので急げば追いつけるはずであった。
しかし今は夕方、赤い太陽が西の地平線へと沈み始めていた。
時間がかかると暗くなって見つけるのが難しくなってしまう。
ハルは橋にもうすぐたどり着くところで今の状況を確認した。
グリッテン側から橋を渡ると橋から見て右に折れると禊ぎの神殿へ、まっすぐ行くと木々の立ち並ぶ丘へ続いている。
神殿へ続くこちらの道では見ていないので丘の方へ行ったのだろう。そう思い丘に向かって走った。
「アレ!」
一人のオークが指を指した丘の少し向こう側をハルが見ると一人のオークが背を向けて立っているのが見えた。
そのオークは手を前にかざしたような動きを見せた。そのまま前に進む。
オークは何かに吸い込まれる様に消え、やがて全身が見えなくなった。
(!)
オークが消えたその場所に少し遅れてたどり着く。
消えた場所をよく見ると人の胴体くらいの大きさの揺らめきだった。波打つ水面の様なものが何も無い空中に浮かんでいた。
それはゆらゆらと揺らめく水が浮かんでいるようにも見えた。ただ水ではなくもっと青白くまた青黒くはっきりとどのようなものか説明できない揺らめきを発していた。
ぐるりを周りを回ってみたがどの方向から見ても同じ揺らめきが見える。
(この先に変なオークがいる)
しかしハルは揺らめきに手を伸ばそうとしなかった。
この先に何があるかわからない。
行くべきか。
そんなハルの悩みをよそに揺らめきは少しずつ小さくなっていくように見えた。
悩んでいる時間は無い。
それでもためらっていると後ろの三人のオークが興奮した様子でハルに「イコウゼ!」と叫んでいた。
チャンスは逃すべきではない。
ハルは意を決し揺らめきに手を伸ばした。
なんだここは。
揺らめきの中に入ったハルは巨大な石造りの通路にいた。
揺らめきに入った時瞬きをしたように視界が一瞬暗くなったと思ったらここにいた。
通路は床も壁も天井も全て石で組まれている。
ただその石はどれもひどく傷んでいて今にも崩れてきそうだ。
天井は高く人の3倍の高さを誇るサイクロプスという一つ目の巨人が悠々と歩けるほどだ。
後ろを振り返るとついてきた三人のオークがハルと同じくあたりを見渡していた。オーク達の後ろには入ってきた揺らめきはなく石組みの行き止まりになっている。
帰り道はない。
ここにいても仕方が無いのでハル達は通路伝いに進み始めた。
分かれ道の無い同じ様な通路がしばらく続いたがやがて屋根の無い空間に出た。
ハルは周りをそして空を見た。
そこは傷んで欠けた石材が敷きつめられた石畳でハルが五人くらい手を伸ばした広さの通路だった。両端には壁の残骸のような石があちこちにわずかにつまれていた。
その外側は何も無かった。
青黒い空間が広がっていた。
空も同じだった。快晴の空のどこまでも続くような青は美しいのに青黒くなるだけでこんなにも不気味に感じるのかと思った。
遠近感が消失したのではないかと思えた。
端から下を見ると通路を支える石組みが下に伸びており青黒い空間に飲み込まれて見えなくなっていた。
自分がいる通路以外何も無い空間。
こんな所にあのオークは何の用があるのだろうか。
そうハルが通路の端で思いにふけっていると、ついてきているオークの一人が強ばった声で「キャプテン・・」と声をかけてきた。
振り向きドウシタと返事をしようとしたが声が出なかった。
いつのまにか周りに多数の白く半透明のオークがハル達を取り囲んでいた。
ハルを守る様に三人のオークがハルを中心に集まり半透明のオークに向けて剣を構える。
半透明のオーク達が襲いかかってきた。
半透明のオーク達は相手が剣を構えていることなど全く気にしないような動きでハル達に攻撃してきた。
ハルを守る三人のオークは防御を全くしない半透明のオークを次々と切り伏せていく。
半透明のオークは何回か切られると煙が消えていく様に姿が散り消えていった。
ただ消えても次から次へとどこからか現れてハル達に襲いかかってきた。
いつの間にか乱戦になっていた。
次から次へと襲いかかる敵に三人のオークも身体のあちこちに傷がついていく。
半透明のオークはハルにも刃を振るった。
ハルも必死に避ける。
(このままではやられる)
少なくともこの場所ではなくもう少し戦いやすい場所にいきたい。
今までにきた通路はこことさほど変わらないのでこの先にあるかもしれない。
「サキニススムゾ!」
ハルがそう叫び駆け出そうとした時「キャプテン!」と後ろから声がかかった。
振り向いたハルの目に半透明のオークが剣を振りかざしているのが見えた。
動けなかった。
ハルに剣を振りかざしていた半透明のオークがハルの左側に吹っ飛んだ。
一人のオークが体当たりをしていた。
今度は体当たりをしたオークの動きが止まる。
グッ
体当たりをしてハルを助けたオークの目が見開いた。
腹部からは半透明の刃が突き出ていた。
ハルはまたも動けなかった。
別の方向から半透明のオークがハルに襲いかかる。
部下のオークの内の一人がハルを守るようにハルに背を向け襲いかかる半透明のオークとの間に立ちはだかった。
グハッ
ハルを守るオークの背中から半透明の刃が突き出る。
「キャプ・ン・・ニゲ・・・」
刃に貫かれながらもオークはハルに向かって声を振り絞り逃げる様に則した。
ハルは動けなかった。
ただはぁはぁと呼吸を荒くし目を見開き小刻みに震えながら立ち尽くしているばかりであった。
「キャプテン コッチダ!」
最後の一人となった部下のオークがハルの手を引き通路の先に走り始めた。
つんのめりそうになりながらも手を引かれながらハルは通路を走った。
通路は最初に来たような天井のある場所に入りやがて複雑な構造の建物へとなっていった。
半透明のオークを少し引き離したもののこのままだといつか追いつかれるのは確実だった。
やがて目の前に少し崩れたものの上がることの出来る階段のある場所に出た。
「キャプテン ココニイロ!」
部下のオークは階段の下の隙間にハルを押し込むと一人階段を駆け上がっていった。
部下から突き飛ばすように階段の下に押し込められたハルは「くそっ!」と毒づきながらも体勢を整え外へ出ようとした。
さっきは気が動転して何も出来ず部下のオークを二人死なせてしまった。
今も自分を助けるために囮になろうとしている。
(助かるために隙間に隠れていてどうする!)
何が出来るかわからなかったがとにかく外に出て何かしなければ。
「ウワァァァァァァァ」
ハルの上の方で人が倒れる音がした。半透明は倒れること無く消えていくだけだ。
そうだとしたら・・
ハルは隙間から出て立ち上がったまま動けなかった。
階段の上にいるオークはまだ息があるかもしれないが目の前にいる何体もの半透明のオークの剣をかいくぐってたどり着くのは不可能だと思った。
目の前に半透明のオークがこちらを向いていたが、もはや立ち向かうことも逃げるための気力も無かった。
ここまでだ。
目の前に迫る半透明のオークに対してハルは何の感情も表さない目で見つめていた。
半透明のオークが剣を振りかざす。
と、目の前で煙が散るように半透明のオークが消えた。
煙の様に消えていく向こうにオークが立っていた。
「ダイジョウブー?」
探していた変なオークがハルに声をかけた