無数の半透明のオークが変なオークの一撃で煙のように消えていく。
変なオークはオークとは思えない華麗な動きで次々と半透明のオークに剣を振るっていった。何度も攻撃してやっと倒していたハルの部下達とは段違いの強さだった。
やがて全ての半透明のオークを倒し剣を納めた変なオークがハルの前に来てさっきと同じように「ダイジョウブー?」と聞いた。
ハルは頷くとハッと顔を上げ階段の方を向いた。そしてそのまま階段に向かい駆け上がった。階段の踊り場に仰向けに横たわっているオーク見つけて駆け寄る。
「おい!」
ハルが横たわっているオークの頭の真横にしゃがみ声をかけるとかすかに目を開いた。
ハルはすぐに回復の呪文を唱え始めた。
横たわったオークが「キャプテ・・ヨカッ・・」と言うのにも応えず呪文の詠唱を続けた。
詠唱が終わり辺りに回復の魔法の光がハルを中心に広がった。
そして再び横たわったオークに「おい!」と声をかけた。
反応は無かった。
ハルは横たわったオークの両肩を掴み上下に揺さぶった。
「おい!目を開けろよ!おい!」
横たわったオークに反応は無くハルの手にはずしりとした肉の重さだけが感じ取れた。
「おい・・頼むよ・・目を開けてくれよ・・」
肩から手を離しハルは両手を地面につきうなだれた。
地面に水滴が落ちていき染みが出来る。
助けられなかった。
何も出来なかった。
あのとき先に進むことをせずあの場に留まって戦っていればこんなことにならなかったかもしれない。
それよりも追いかけてこんな所にくるべきではなかったのではないか。
もうすこしああすればよかったこうすればよかったと次々とハルの中で後悔の思いが浮かんでいく。
「うあああああああああ!!!」
膝をついたまま身体を起こしハルは空を仰いで叫んだ。
号泣の叫びが青黒い世界全体にいつまでも轟いていた。
涙が止めどなく溢れ顔を伝い落ちてハルの前の地面にさっきより濃い染みを作っていく。
ハルの号泣する姿を変なオークは立ったまま眺めていた。
その顔は少し悲しそうではあるがどちらかといえば淡々と見ていると言う方が合っていた。
しばらくハルの号泣をそのままにしていた変なオークは今いる空間が少し振動していることに気がついた。
ハルに「ココ ゼンブクズレルヨー デルヨー」と言うと右手の平を広げ前に突き出した。バートランド平原で見た揺らぎが現れた。
「サア」と変なオークはハルの腕を取り立たせた。そして腕を掴んだまま揺らぎの中に入っていこうとする。
ハルは「まって!亡骸をつれていかなきゃ」と言ったが変オークは振り返り「ココキエル マニアワナイヨー」と返された。
実際振動はかなり激しくなっていた。立っているのも難しくなっている。
あちこちの石組みが崩れ始めていた。
変なオークはハルを強く引っ張り揺らぎの中に連れ込んだ。
入った時と同じく瞬きをしたように一瞬の視界が黒くなったかと思うとハルはさっきとは全く別の場所に立っていた。
暗く一目で夜だとわかったが空を見るには木々がじゃまをしてすっきりとは見えなかった。辺り一面草木が生い茂っている。森独特の濃密な闇と木々の隙間から差し込む満月の月明かりがハルを包み込んでいた。
入ったバートランド平原とは違う。どうやら入口と出口は違うようだった。
「ジャアサヨナラー」
変なオークが前に別れた時と同じように右手を挙げた。暗くてよくわからなかったがなんとなく傷があるように見えた。
「待って!」
ハルは去ろうとしていた変なオークを呼び止めた。様々な疑問に答えて欲しかった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
変なオークは少し首を右に傾けた。
「僕の名前はハル。君の名前は?」
「ボクー ボクノナマエハー エエット フー ァー ユー」
「フーアーユー?」
「チガウー フーユー」
ハルは名前をフーユーと答えたオークにあんなところで何をしていたのか聞こうとした。
しかしその質問をしようとしたときハルの右側から黒い人影が突進してきた。
!
ハルは突進してきた影を避けようとしたが避けきれず激しくぶつかってしまった。
ぶつかった勢いでハルは激しく転がり湿った地面に突っ伏した。
ハルにぶつかった影は後ろには転倒せず前に手をついて四つん這いの格好になっていた。
「おい、待て!あ、そこの!そいつを捕まえ・・げっオーク!?」
影がきた方向から別の人影が追いかけるように走ってきたがハルとフーユーの姿を見て驚いたように立ち止まった。
ハルはぶつかった衝撃に眩んだ頭を押さえながらフラフラと立ち上がった。なぜか聞き覚えのある声の方向を見た。
「ルドヴィカ?」
少し離れたところにいる人物は暗くてハッキリとはしなかったものの声は少し前に聞いたルドヴィカの声によく似ていた。
「ハル?」
ルドヴィカと呼ばれた人物がハルに向かって名前を尋ねるように言った。
ルドヴィカがハルに尋ねたのを聞いたのか、ぶつかった人物も起き上がってルドヴィカが尋ねた言葉を真似るように問うた。
「ハル?」
起き上がった人物は巨体で筋肉隆々だった。
頭はハゲ上がり目は細く顎は四角く角張っていた。
オークといっても疑わないような容貌だった。
しかしオークがよく着ているものとは違い、服装は茶色の長袖のシャツに灰色のズボンと黒っぽい靴をはいていた。いずれもあちこちにすり切れや汚れが目立つものの戦うための服装ではなかった。そして武器らしきものといえば腰紐に差した棍棒らしき太い木だけだった。
その人物がハルと呼んだ目の前のオークの姿をしたハルを見、後ろのルドヴィカを見、再び
ハルを見た。
ハルは満月の月明かりに照らされ驚きの表情がはっきりと浮かんだその人物を見た。
「ナツ!」
ハルが叫ぶ。
「えっ!」
驚きの叫びはルドヴィカから発せられた。
ナツと呼ばれた人物は驚き見開かれた目がさらに見開いたように見えた。
「ハルなのか?」
ナツと呼ばれた人物は恐る恐るハルに問いかけた。
ハルは大きく頷いた。
「僕だよ!ハルだよ!・・って言っても今こんな姿になっているからわからないかもしれないけどジンゲンの村でいっしょだったハルだよ!」
ナツと呼ばれた人物は怪訝そうに再び問うた。
「本当にハルならキラービーに追いかけられて肥だめに落ちたのはいくつの時か答えられるよな」
ハルは困惑と悲しみが入り交じった表情をした。何故こんな時にこんな質問をするのだろう。他にも僕だと証明できる質問がたくさんあるじゃないか。
「11歳」
ハルは口から石を吐き出すような気持ちで答えた。
「本当にハルなんだ」
そう答えたナツと呼ばれた人物はみるみる泣き崩れ、嗚咽の中声を絞り出すようにハルに訴え始めた。
「アキが・・アキが・・・」