オークになった!   作:ナゾハリ

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第9話

「改めて自己紹介するけど僕の名前はハル。一応・・覚者です」

ハルが最後の部分を力なげに言った。今までの状況がハルに自信を失わせていた。

覚者になった時は全能感がハルを包んでいた。白竜様の敵を倒しレスタニアの平和を守る。

自分にはその力が与えられたと思っていた。

ところが今はどうだ。オークの姿となって右往左往している。オークとはいえ部下となった者の命すら守れない。覚者とはなんなのかとそんな思いがハルを包んでいた。

だが今の状況ではゆっくりとそんな思いにふけることは許されなかった。

 

立ち去ろうとするフーユーを引き留めその場にいた4人は地面に座っていた。

たまたま出会っただけの知り合いとそうでないものが入り交じりとりあえず自己紹介しようという流れになったのだ。

「自分はルドヴィカよろしく」

ルドヴィカが簡潔に言った。まだ警戒しているようだ。

「ナツ」

ようやく落ち着いてきたがさっきまで泣き崩れていたこともありボソリと自分の名前だけ言ってすぐにうつむき手で涙を拭い始めた。

「ボクハフーユーダヨ ヨロシクネー」

フーユーはこの場の雰囲気に似合わぬ明るい声で自己紹介した。ポーンは感情が希薄なために他人の感情もわからないのかなとハルは思った。

 

ハルの正面にルドヴィカ、右にナツ、左にフーユーという形で車座に座っている。

さて目の前の三人共に尋ねたいことがあったので何から聞いていこうかと思案しかけたがルドヴィカがハルのそんな思いもお構いなしにハルに話しかけた。

「ねぇハルどうしてこんなとこにいるの?それにそのオークもしかして前に言っていた変なオーク?捕まえた・・って感じじゃないよね。どうなっているの?あ、こいつ!前に言っていた私をつけてきたやつなのよ!」

「ちょっと待って!」

右手を広げて突き出しハルはルドヴィカの捲したてを制止した。

「そんないっぺんに質問さても答えられないよ。・・じゃあ僕がここに来た経緯から話すね」

 

ハルはルドヴィカと別れた後偉そうなオークから変なオークを探すように命令されたこと、そのとき三人のオークの部下と一緒に行動してバートランド平原でここにいるフーユーが揺らぐ入り口に入っていったのを見かけ追いかけていくと変な空間に入ったこと。そこで半透明のオークに襲われて三人の部下を死なせ、自分も危ないところをフーユーに助けられた後ここに来た事を説明した。三人の部下のオークを死なせてしまったことを話す時にはハルは鼻をすすり涙目になったがフーユー以外の二人は怪訝な様子でそれを聞いていた。オークが死んでも特に悲しむことはないじゃないかと思っている様子だった。フーユーはあちこちを見回している。

 

今の一連の流れを説明した後ハルは涸れ井戸でオークの武将の一人がグリッテン砦を破壊する計画を立てていること、それに必要なものが白竜の角という物であることを言った。

グリッテン砦を破壊するということにフーユー以外は不安そうな表情で聞いていたが白竜の角という名前を言った途端ルドヴィカが前のめりになって興奮気味に「それ!それが魔導器のようなものに違いないよ!どこにあるって言ってた?」とハルに詰め寄ろうとした。

ハルはさっきと同じように右手でルドヴィカを制止して「言っていたのは黒いローブを着た人だった」と答えた

と、今までほとんどうつむいていたナツが顔を上げた。

「黒いローブを着ていた?」

「うん」ハルが答える。

「その人って手に金色の先が膨らんだ棒を持ってなかった?」

「確か持ってたはず」

ナツが急に四つん這いになりながらハルに詰め寄った。

「アキだ!それアキなんだよ!」

 

ハルはジンゲンでナツと共に幼なじみとして暮らしたアキの顔を思い出した。

「どういうこと?」

ハルはナツに説明を求めた。あの黒ローブの人物がアキだとは信じられなかった。

ナツと共にアキもハルと一緒にダウ渓谷のジンゲンで生まれ育った幼なじみだ。

アキは快活な女の子でハルがキラービーに襲われて肥だめに落ちた時も真っ先にキラービーを追い払うために飛び出してきたし、肥だめに落ちたハルを臭いと笑いながらも出るのに手を貸したのもアキだった。小さい子供達にも優しかったし老人達の話し相手もして村の中でも人気者だった。

涸れ井戸で聞いた声はしわがれた老人のものだったし第一アキが白竜の角を欲しがってグリッテン砦を破壊するなんて考える訳がない。

 

「何があった?」

ハルが尋ねるとナツがポツリポツリと話し始めた。

「おまえが白竜様の神殿に向かった後でアキがおまえの無事と活躍を願うために渓谷の小堂へ祈りに行くと言ったんだ。そしたら昼間なのに小堂の近くで黒ローブのスケルトンが出てきてオレに持っている金色の棒で襲いかかっていたんだ。オレは必死に避けたけどそのときアキが・・・」

ナツの顔が悲しそうに歪んだ。

「アキがオレを助けようと金色の棒に掴みかかったんだ!棒はスケルトンから奪い取ったんだけど・・」

ナツが言葉に詰まる。

 

「・・・棒を掴んだアキが立ち尽くしたまましわがれた老人の声で話し始めたんだ。変なオークを見つけてこいって。見つけたらこの娘は返してやろうって」

ナツが顔を覆いながら続ける。

「オレどうしていいかわからなくてジンゲンにも帰らずにオークのいそうな所を探したんだ。そしたらこの・・」

ナツがルドヴィカを指さす。

「この人がこのオークになれるやつ誰かに試しに着させられないかなって言ってるのが聞こえたんだ。だからオレに着させて欲しいって思ったんだ。そうしたらもっとオークの中にはいって何かわかるかもしれないと思ったんだ」

ハルはそれを聞いて(いや、そのままでも十分大丈夫じゃないかな)と思ったが口にはしなかった。

 

ナツの話を受けてルドヴィカが話し始めた。

「そうこの人よ!見た時は怖そうなオークがつけてきたと思ったの!オークが人の格好して私を襲おうとしてきたと思ったの!それを避けてテルの井戸に入ったの!あれはしかたがなかったのよ!」

ルドヴィカがハルに向かって自分の行動が不可抗力だったと力説した。

ハルは(でもこれ着せたのは関係ないよね)と思ったが今は口論してもしかたがなかったので黙っていた。

ルドヴィカは続けて「そうしたらさっきそこで見つけて、オークじゃなくて人間だってことがわかったからなんでつけてきたんだって聞こうとしたのよ。そうしたら逃げ出してここまで追ってきたって訳」

ルドヴィカがナツを睨んだ。ナツは少し怯えたように首をくすめルドヴィカに言い訳するように話し始めた。

「だってあんな形相で走ってきたから怖かったんだよ!」

「怖い顔なんかしてないわよ!」

「してたよ!」

 

二人が言い争いを始めたので「今は言い争っている場合じゃないだろ」とハルが間に入った。そして「ここどこ」と二人に聞いた。

「ミスリウ森林深部」とルドヴィカが答え「本当にここまで歩かずにきたのね」と驚いたように言った。

ハルはうなずき今までの会話に何も反応しなかったフーユーに視線を向けた。

フーユーはこちらの会話なんか全く気にしていないようだった。こちらを向かずある方向を気にするように首を捻り何度も見ていた。

 

「フーユー」

「ナーニー」

「何をきにしてるの」

「マスターカラタノマレテイルコトー」

!!!

ハルとルドヴィカが真剣な顔にになりフーユーに近づいた。

ハルが尋ねた。

「マスターってオークなの?」

「ソウダヨー」

そうかもしれないとは思いつつもハッキリと答えが出たことはハルにとって衝撃だった。そしてその答えでさらにでた疑問を投げかけた。

「マスターはどこにいるの?何故オークが覚者になれたの?」

フーユーは少し頭を傾け「マスタードコニイルノカワカラナイー、ドウヤッテカクシャニナッタノカモワカライー」と答えた。

 

フーユーとの会話は根気のいる作業だった。複雑な質問は首を傾げるばかりなので単純な質問を繰り返し、少しずつ質問の内容を進めていった。

そうしてマスターはオークであり場所の名前はわからないが行くことは出来るということ。

ただし今はマスターから役目を受けておりそれが終わるまでマスターの元へ行くことは出来ないこと(強い拒絶をした)。役目とはハルが出入りした揺らぐ空間を閉じていくこと。閉じるにはハル達を襲った存在(半透明以外にもいるらしい)を倒すこと。揺らぐ空間は満月と新月の前後数日しか現れないこと(ただし新月では揺らぎが見えなくなるので満月の時にしか見つけられないらしい)。何故揺らぐ空間が出来たかはわからないということがわかった。

 

マスターとはフーユーが300年前(一同はこの年月を聞いて驚いた)に呼び出されてすぐ役目を与えた後揺らぐ空間に入って別れてしまい役目以外なにもわからないまま今に至るようだった。

300年間たった一人でマスターからの役目をこなしてきた。

ハルはフーユーが自分が想像したより遙かに壮絶な年月を経てここにいることに涙が出そうになっていた。

感情が希薄なポーンだからこそできるのか、いやマスターを慕うポーンが300年も離れて正気でいられるのか。ハルはフーユーの茫洋とした性格や話し方は300年耐えるために形成されたものではないかと思った。

 

「で、白竜の角ってどこにあるの?」

ハルがフーユーの経緯に思いはせているのをかき乱すようにルドヴィカがフーユーに尋ねた。ハルはルドヴィカに睨みつける視線を送ったが相手は全く気がつかないようだった。

「ハクリューノツノ?」

フーユーが初めて聞いたように首を傾げる。

「知らないのかー」

ルドヴィカは天を仰いだ。ハルは情報が無いことは残念だったがルドヴィカに対してざまあみろと思った。

質問が一通り終わった後ハルはこの後どうすべきか考えた時フーユーが気にしてある方向をばかり見ていることを思いだした。

「フーユー、キミが見ている方向に何があるの」

「イカイノイリグチー」

 

異界の入り口!

ポーン達がいる異界へは特定の場所からしか入ることは出来ないはずであった。

それがあちこちに存在するとは聞いたことが無い。

だがそうだとすればさっき出入りした場所も異界ということになり、そう考えるとあの空間の雰囲気もわかる気がした。

「フーユーさっきの空間が崩れだしたのはなぜ?」

「ナカニイルヤツ ゼンブタオシタカラダヨー」

(あの空間を支えるのは中にいるやつなのか)

ハルは一人状況を理解した。ルドヴィカとナツはよくわからないといった顔をしている。

ハルは二人への説明は後でしようと思いこれからの方針を決めるためにフーユーに尋ねた。

 

「入り口はあといくつあるの」

「ワカラナイー」

フーユーが言うには入り口はある程度近くならないとわからないということだった。

満月と新月前後の数日(ただし新月の時は見えないので実質満月のみ)しかわからない揺らぐ入り口。その入り口を見つけるのは相当時間がかかると想像できた。だからフーユーは今もマスターの元に帰れないでいるのだ。

その入り口が今はわかる状態になっている。

白竜の角が<魔導器のようなもの>だとしてそれを見つけるのに変なオークが必要とするならば変なオークであるフーユーをあのアキを乗っ取った黒ずくめに渡すわけにはいかない。

 

本来はフーユーを安全な場所にかくまうべきなのだがフーユーは入り口を塞ぐことを役目としているので言うことを聞くとは思えなかった。

「とりあえずフーユーを入り口塞ぎに行かした方がいいんじゃないの」

ルドヴィカがハルにフーユーが向いている方向指さして提案した。

これはフーユーのためというより白竜の角の情報が欲しいためなんだろうなとハルは思ったが他にいいアイデアが浮かばないのでフーユーの指している方向に行くことにした。

「どの辺りになりそうなの」

ハルがルドヴィカに尋ねると少し考えて答えた。

「たぶんディナン深層林だと思う」

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