空隙の町の物語   作:越季

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18-15「協力」

「いった……!」

「うう、ここどこ……?」

 

 子供達が痛みに呻いている。その声によって目を覚ました長谷部は、体を起こしてこの場にいるひとの数を数える。

 幸いな事に、子供達は全員いる。小夜と五虎退も意識が朦朧としていたが近くにいた。奥の方で獅子王が気絶しており、子供達の一人にペチペチと頬を叩かれている。ふと頭を上げると、目の前に機械端末が何台も並んでいた。最新型の端末に思わず身を竦ませる。

 立ち上がり、周囲をぐるりと観察する。細長い机がいくつもあって、その上に端末が一定の間隔で並んでいる。どうやらここは、コンピューター制御室であるらしかった。

 がばりと、獅子王が起き上がるのが見える。頬を叩いていた子供がその反動で尻餅を付いて、涙目になっていた。

 

「獅子王、大丈夫か? 子供達はここに全員いるぞ。小夜と五虎退も無事だ」

「知りたかった事を教えてくれてありがとうな、長谷部。で、ここは一体……」

「対策局のコンピューター制御室だろうな。今の所敵は来ていないが、油断は出来ない」

「機械制御室……真っ先に襲われそうな物なのに、何で無事で——」

「——俺に殺されるんだ、名誉に思え!」

 

 室外から響いた大声に、獅子王と顔を合わせる。子供達が気力の漲り過ぎている声に体を震わせ、身を寄せ合った。長谷部は子供達の頭に手を置いて、優しい声で宥めた。

 

「大丈夫、さっきの声の主は多分味方だ。獅子王、外の様子を確かめられるか?」

「了解。チビ達、危ないから長谷部の側にいろよ」

 

 獅子王はひょいひょいと机の間の階段を降り、正面左側にあるドアから様子を窺う。長谷部は子供達の肩を抱えながら、獅子王の背中を見つめていた。

 

「長谷部さん、皆どうしてるかな……」

「江雪さんは大丈夫だよね?」

「うう、帰りたいよお……」

「大丈夫、大丈夫だ。獅子王がついてるからな、俺もお前達を守る為に頑張るから」

 

 子供達の肩を叩き、優しく声を掛ける。怯えた様子を隠さずに見上げる子供達は、それでも大声を上げていない。油断出来ない状況である事を、正しく理解しているのだろう。

 自分はどうだろうかと、長谷部は考える。自分は——()は、この状況で正しく動けるだろうか。()()()の力で理性を保っているだけで、彼がこの場でいなくなってしまったら、果たしてちゃんと考えられるだろうか。

 そう思っている時点で、恐怖に呑まれているのだろう。けれど、それを捻じ伏せて行動しないといけないのだ。自分は今、「へし切長谷部」なのだから。

 

「長谷部! ちょっとこっちに来てくれるか?」

 

 獅子王に呼ばれて、長谷部は子供達に奥の方に隠れているよう告げてから階段を降りる。ドアは開いており、外側には予想通り大包平が納刀しながら立っていた。

 

「改めて聞くが、お前達は春光隊で間違いないな?」

「ああ……えっと」

「長谷部、この大包平はな、今までたった一振りでここを守っていたらしい。機械制御室の職員を逃がしたのも大包平だ。もしかしたらこの大包平なら、チビ達も逃がせるんじゃないかって思ってた所でさ」

「……え、一振りで? 大包平は凄いって聞いていたけど、ここまでとは……」

「当然だな! ……それで、子供達の話だが」

 

 大きく胸を張ってから、大包平が顔を引き締める。長谷部と獅子王も背筋を伸ばして、話の続きを待った。

 

「職員を逃がした時とは状況が違う。敵がどこから現れるか分からなくなった今、子供達を移動させるのは危険だ。幸いな事に俺一振りでも対処出来るくらいには、この辺りにいる敵の数は少ない。しばらくはここにいさせて、機を窺うしかないだろうな」

「そうか……」

 

 やはり物事はそう簡単には行かないらしい。残念そうに俯く長谷部に、大包平は目を丸くして呟いた。

 

「……やはり被験者なんだな、お前は。俺が会った事のあるへし切長谷部は、そこまで穏やかな性格をしていなかったぞ」

「……いけなかったか?」

 

 恐る恐る問いかける長谷部の隣で、獅子王が大包平に剣呑な目をやった。獅子王に不敵に笑んでから、大包平は長谷部の頭に手を置く。

 

「いや、悪い奴ではないのは分かるからな。どんなに性格が異なろうが、悪い奴でなければ異論はない。お前は健やかに育つといい、この大包平がお前の成長を祈ってやろう」

「……えっと、ありがとう?」

 

 目を白黒とさせる長谷部の頭をくしゃくしゃと撫でてから大包平は手を離す。獅子王はふっと笑みを溢してから、懐に手を入れて端末を取り出した。

 

「うっわ、端末壊れてる。これじゃあ連絡も出来ないよなあ……」

「え……あ、俺は電池が切れてる」

「どっちも端末が死んだか……長谷部直せたりは」

「してたら今困ってない」

「だよなあ……」

 

 項垂れる獅子王と難しい顔をする長谷部を見て、ふむ、と大包平が顎に手を当てる。その直後ニヤ、と悪戯げに口元を変え、長谷部と獅子王の肩に手を置く。

 

「その端末、動かせるようにしてやろうか」

「え」

「本当か!?」

「ああ。だが条件として、しばらく長谷部を借りるぞ」

 

 へ、と長谷部が間抜けた声を出す。獅子王がどういう事だ、と目を鋭くさせて尋ねた。

 

「さっきも言ったが、この長谷部は戦えねえぞ。まさか無理強いさせるつもりじゃ——」

「確かに俺は、長谷部に戦って貰うつもりだった。ただし、戦場は機械制御室だ」

 

 その意図を把握した獅子王は目を見開き、勝ち気に笑う大包平を見返す。長谷部はポカンと口を開いて、頭上に疑問符を浮かべている。

 

「え、いいのか? ここの機械に部外者が触っても」

「やむを得んだろう、今の機械制御室には人手が圧倒的に足りない。あちこち弄られている形跡があるが、口惜しい事に外の対処で手一杯だったからな。獅子王は俺と共に、外で敵の迎撃を行ってくれ」

「いや、それはいいけどよ……ここの機械の使い方を長谷部に教えないといけないだろ? それまで俺一振りで対処しないといけないじゃねえか」

「そうか。確かにこの俺でも骨が折れるくらいだ、お前なら尚の事だろうな」

 

 うーむ、と唸る大包平達に、近づく影が二つ。その影達は獅子王の裾を引いて、その存在を示した。

 獅子王が振り返ると、長谷部と大包平もその存在に気が付いた。

 

「小夜、五虎退。体は大丈夫か?」

「えっと、平気、です。その……」

「どうした? 子供達に何かあったのか?」

「いえ、違います。……大包平さん、外の対処を僕達にも託してくれませんか」

 

 あ、と獅子王が声を上げる。長谷部もはっと気付いたように身を跳ねさせた。大包平は小夜と五虎退の目を見つめて、真意を確かめようとしているようだった。

 

「僕達は顕現してから日が浅いですが、それでも刀剣男士です。敵を斬る事は出来ます」

「コンピューターの操作は、難しいですけど……戦う事なら、僕達でも力になれるんじゃないかな、って……思ったんですけど……」

 

 おどおどしながらも、五虎退の目はしっかりとしている。小夜も体中から戦意を滾らせており、意思を問うまでもなさそうだった。

 大包平はしゃがんで、やる気を見せている二振りと目を合わせる。

 

「お前達は顕現したてだと言ったな。例え戦意が充分にあったとしても、練度が低ければ足を引っ張る可能性もある」

「で、でも、一振りでも戦力が多い方がいいです!」

「使えない戦力はただの案山子だ、お前達だけでなく他の奴にも危険が及ぶかもしれん」

「僕は隊長の命令を聞いてから動きます。それに五虎退の言う通り、戦力は多いに越した事はありません。——弱いまま何もしないでいるのは、僕も嫌なんです」

 

 じっと大包平を見返して、二振りは己の決意を示す。大包平も険しい顔で二振りと向かい合う。

 無言の意思の示し合いが続いて、最後に折れたのは大包平だった。

 

「はあ、分かった。顕現したてだからと言って侮るのはお前達にも礼を欠くからな……獅子王、隊長を頼めるか。俺は長谷部と機械制御に移る」

「おう、任せろ。小夜、五虎退、くれぐれも俺の指示に従ってくれよ?」

「はい」

「は、はい!」

 

 元気に返事をする二振りを横目で見ながら、長谷部は目を伏せる。

 顕現してそう時間が経っていない二振りが、戦いに意欲的なのだ。自分だって刀剣男士なのに、刀を握る事すらままならない。足を引っ張っているのは、自分なのではないか。

 ポン、と二つの手が背中と肩を叩く。顔を上げると、獅子王と大包平が明るい表情でこちらを見ていた。

 

「お前はお前の出来る事を、だろ? 大包平の手伝いはお前にしか出来ないからな、頼んだぜ」

「この大包平の助手を、一時的とはいえ任されるんだ。大いに誇る事だな!」

 

 目を瞬かせて、小さく頷く。よし、と二振りにもう一度強く背中を叩かれ、長谷部は体を竦めた。

 ——頑張らなければ。拳を握り、前を向く。大包平の背を追いながら、長谷部は勇気を溜める。

 これからする事は多分、この戦況を左右する事になるだろうから。

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