空隙の町の物語   作:越季

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20-4「ある反逆刀の顛末」

 鈍い痛みで目が覚める。辺りは薄暗く、どこにいるのかも判然としない。

 周囲を見渡すと、少し離れた場所に二人の男女がいた。

 

「……ったく、いつもいつも無茶した時の尻拭いは俺の役目だ」

「あら、下の者は上の者のサポートをする物と相場が決まっているのよ」

「はあ? てめえのどこが上だ、そう扱われたいならもう少し待遇をよくするんだな」

「どんなにあんたがみっともなく喚いても、上下はひっくり返らないの。残念だったわね」

「改善する気はゼロか、糞姉貴……!」

 

 男が女の腕に包帯を巻いている。女はいかにも傲慢そうな態度で、頭を抱える男を嗤っている。

 何なのだ、そう思って体を起こし——一瞬思考が停止する。

 髪の毛が、軽い。()()()()。ばっと髪に手を当てる。

 丁寧にケアしていたはずのロングヘアーは、乱雑なショートカットになっていた。毛先がちくちくしている。あまりに乱雑で、きっと髪はかなり傷んでいるだろう。思わず悲鳴を上げてしまう。

 

「……ん、おい、乱藤四郎が起きたぞ」

 

 動転している乱に気付いた男が、女にそう呼びかける。女はすくっと立ち上がり、乱の眼前まで歩み寄った。

 

「自爆して無様に生き延びた後の目覚めはいかがかしら、敗北者?」

「……木枕遥」

 

 地を這う声が無意識に出る。反逆部隊に情報を流していた自称居酒屋の看板娘、木枕遥はニンマリとした顔で指を立てた。

 

「あら、そんな目で見られる謂れはないわね。むしろ感謝して欲しいくらいなのよ? 何せ自爆していたずらに失われようとしたあんたを、私が命令して愚弟に拾わせたんだから」

「……あー、先に言っておく。乱藤四郎、すまん」

「何で謝ってんのよ愚弟」

 

 気まずそうに男——サトルが目を逸らす。それを睨んでいるハルカを尻目に、乱は嫌な予感の正体を探るべく思考を回す。

 やたらと体が重い。ここで戦闘になっても、いつもの身軽さは出せそうにない。刀を出そうとして意識を巡らせ——そして、衝撃に声を詰まらせる。

 刀身を出せない。それどころか——()()()()()()()()

 手を体中に当て、刀身を探す。だが、やはりどこにも目当ての物はない。

 

「探しているのはこれかしら?」

 

 顔を上げると、ハルカがにっこりと乱の刀を振っている。返せ、そう叫んで手を伸ばすも、ひょいとあっさりかわされる。

 

「まあこれはしまっておきましょう。——いい事、傲慢な神」

 

 乱の刀身はあっけなくハルカの手の中に消える。伸ばした手の行く先をなくして呆然としていると、顎をぐいっと持ち上げられた。

 

「あんたの刀身は私の物になった。即ち、あんたの力は私の物になったの。感謝なさい、無様に死ぬ所だったあんたを、私の下僕にしてあげようと言うのだから!」

 

 は、と震えた声が出る。後ろでサトルがすまなそうに両手を合わせている。

 何の恥辱だ、何が感謝だ。頭に血が上り、反射的に目の前にある首を絞めてやろうと手を出した。

 その手は届く事はなく、代わりに腹部に強い衝撃が加わった。吹っ飛ばされた先で起き上がれずに倒れ込む。

 

「頭が高いのよ、神の分際で」

 

 げほ、げほ、と腹を押さえて噎せている乱の腹を踏みつけ、ハルカは冷たい目で見下ろす。ふん、と鼻を鳴らし、彼女はぐりぐりと足で圧を加える。

 

「本当に自分の立場を分かっていないのね。あんたの力は大部分が私の物になったと言ったでしょう。ただの人間並みに力を落としたあんたが、()()()()()()私に敵う訳がないの。私は優しいから気が進まないけれど、あんたの立場を充分に理解させてあげてもいいんだけど?」

「てめえが優しいなら、反逆者は全員聖人だろうな」

 

 ぼそっと吐き捨てるサトルへ空き瓶を投げつけたハルカに、乱は呻きながら問いただす。

 

「……まさか、貴女がボク達に協力したのって、力を奪って自分の物にするのが目的……?」

「あら、だとしたらどうするの? どうせあんたには何も出来ないのに」

 

 ハルカはまた顔を歪な笑みにする。ぐっと乱の腹を一蹴りし、彼女は高笑いをした。

 

「せいぜい私の手足となるのね、傲慢な神。その魂が雑巾以下に擦り切れるまでこき使ってあげるわ!」

 

 ——これ、折れるよりも地獄に近いのでは。

 顔を青ざめさせる乱に近づいたサトルは、ぽんと肩を優しく叩いた。




殺さなかったが世界を害した故に与えられた罰
多分今後折れた方がマシと考えてしまうような扱いをされる
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