鈍い痛みで目が覚める。辺りは薄暗く、どこにいるのかも判然としない。
周囲を見渡すと、少し離れた場所に二人の男女がいた。
「……ったく、いつもいつも無茶した時の尻拭いは俺の役目だ」
「あら、下の者は上の者のサポートをする物と相場が決まっているのよ」
「はあ? てめえのどこが上だ、そう扱われたいならもう少し待遇をよくするんだな」
「どんなにあんたがみっともなく喚いても、上下はひっくり返らないの。残念だったわね」
「改善する気はゼロか、糞姉貴……!」
男が女の腕に包帯を巻いている。女はいかにも傲慢そうな態度で、頭を抱える男を嗤っている。
何なのだ、そう思って体を起こし——一瞬思考が停止する。
髪の毛が、軽い。
丁寧にケアしていたはずのロングヘアーは、乱雑なショートカットになっていた。毛先がちくちくしている。あまりに乱雑で、きっと髪はかなり傷んでいるだろう。思わず悲鳴を上げてしまう。
「……ん、おい、乱藤四郎が起きたぞ」
動転している乱に気付いた男が、女にそう呼びかける。女はすくっと立ち上がり、乱の眼前まで歩み寄った。
「自爆して無様に生き延びた後の目覚めはいかがかしら、敗北者?」
「……木枕遥」
地を這う声が無意識に出る。反逆部隊に情報を流していた自称居酒屋の看板娘、木枕遥はニンマリとした顔で指を立てた。
「あら、そんな目で見られる謂れはないわね。むしろ感謝して欲しいくらいなのよ? 何せ自爆していたずらに失われようとしたあんたを、私が命令して愚弟に拾わせたんだから」
「……あー、先に言っておく。乱藤四郎、すまん」
「何で謝ってんのよ愚弟」
気まずそうに男——サトルが目を逸らす。それを睨んでいるハルカを尻目に、乱は嫌な予感の正体を探るべく思考を回す。
やたらと体が重い。ここで戦闘になっても、いつもの身軽さは出せそうにない。刀を出そうとして意識を巡らせ——そして、衝撃に声を詰まらせる。
刀身を出せない。それどころか——
手を体中に当て、刀身を探す。だが、やはりどこにも目当ての物はない。
「探しているのはこれかしら?」
顔を上げると、ハルカがにっこりと乱の刀を振っている。返せ、そう叫んで手を伸ばすも、ひょいとあっさりかわされる。
「まあこれはしまっておきましょう。——いい事、傲慢な神」
乱の刀身はあっけなくハルカの手の中に消える。伸ばした手の行く先をなくして呆然としていると、顎をぐいっと持ち上げられた。
「あんたの刀身は私の物になった。即ち、あんたの力は私の物になったの。感謝なさい、無様に死ぬ所だったあんたを、私の下僕にしてあげようと言うのだから!」
は、と震えた声が出る。後ろでサトルがすまなそうに両手を合わせている。
何の恥辱だ、何が感謝だ。頭に血が上り、反射的に目の前にある首を絞めてやろうと手を出した。
その手は届く事はなく、代わりに腹部に強い衝撃が加わった。吹っ飛ばされた先で起き上がれずに倒れ込む。
「頭が高いのよ、神の分際で」
げほ、げほ、と腹を押さえて噎せている乱の腹を踏みつけ、ハルカは冷たい目で見下ろす。ふん、と鼻を鳴らし、彼女はぐりぐりと足で圧を加える。
「本当に自分の立場を分かっていないのね。あんたの力は大部分が私の物になったと言ったでしょう。ただの人間並みに力を落としたあんたが、
「てめえが優しいなら、反逆者は全員聖人だろうな」
ぼそっと吐き捨てるサトルへ空き瓶を投げつけたハルカに、乱は呻きながら問いただす。
「……まさか、貴女がボク達に協力したのって、力を奪って自分の物にするのが目的……?」
「あら、だとしたらどうするの? どうせあんたには何も出来ないのに」
ハルカはまた顔を歪な笑みにする。ぐっと乱の腹を一蹴りし、彼女は高笑いをした。
「せいぜい私の手足となるのね、傲慢な神。その魂が雑巾以下に擦り切れるまでこき使ってあげるわ!」
——これ、折れるよりも地獄に近いのでは。
顔を青ざめさせる乱に近づいたサトルは、ぽんと肩を優しく叩いた。
殺さなかったが世界を害した故に与えられた罰
多分今後折れた方がマシと考えてしまうような扱いをされる