空隙の町の物語   作:越季

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4-4「まだ道は交わらず」

「いち兄!」

「大丈夫ですか、いち兄!」

「うう、よかったぁ……!」

 

 城下町の入り口で、弟たちは待っていた。一期に気が付くと、わっと駆け寄ってくる。あるものは涙を流し、あるものは安堵しきった表情を浮かべ、一期を迎えた。

 

「心配をかけたね、私はこの通り無事だ。ところで、主はどちらに――」

「一期ぉ! よく無事だったなぁ!」

「ぐふっ!?」

 

 蒼穹の審神者が、勢いよく一期に突進し、思いっきり頭を抱きかかえ、撫でまわした。

 

「あの、主、ちょっと」

「連絡が来た時は血の気が引いたぞ! もしかしたらまた俺の刀が折れるんじゃないかって……! くぅっ、よく帰ってきたなぁ!」

「主、苦しいです……」

 

 息苦しかったが、悪い気はしなかった。自分は確かにこの審神者の下に帰ってきたのだ。それに強い安堵を覚える。

 

「ところで一期、助けたっつう隊の奴らはどこに?」

「えっ、そこまで来ているはずですが」

「どこにもいないぜ、いち兄」

 

 蒼穹の薬研の言葉に振り返ると、もう春光隊の薬研と鯰尾は影も形もなかった。審神者は一期の頭をようやく離し、うーんと唸る。

 

「礼を言いたかったんだがなあ。やっぱりそうさせてはくれないか。一期、そいつらは何て名乗ってた?」

「春光隊、と名乗っておりました」

「……そうか、例の部隊か。今も助けてくれているんだなあ。審神者の嬢ちゃんのことを慕っていた分、恨みも強いだろうに」

「ご存じなのですか?」

「伝聞と、写真で見ただけだがな。大層可愛らしい嬢ちゃんだった。成長していたら、美人になっていただろうなあ」

 

 美人。嬢ちゃん。慕っていた。その言葉で、春光隊の刀たちが、どれだけ審神者を大事にしていたか分かるようだ。いや、別に顔が悪いからと言って軽んじるつもりはないが。言い訳がましく一期が考えを巡らせていると、ふと思い至った。

 ――どうして、春光隊の面々は、自分を手入れ出来たのだろう。基本的に、審神者が手入れの許可を出さないとできない仕組みになっているのに。思案に暮れていると、弟たちが話しかけてきた。

 

「いち兄、帰ろう! 今日の夕餉はかれーだって!」

「いち兄、お疲れでしょう。本丸に戻って、ゆっくり休んでください」

「うー、帰ったらいちにいに戦法の相談をしたかったのに……」

「一期殿も残念に思っているはずですよぅ。また後日、ゆっくり時間をとってはいかがでしょう」

「まったく、いち兄を襲った奴に馬糞投げてやりたいよなー!」

「兄弟、気持ちは分かるが馬糞を投げるのはやめておけ。……お帰り、いち兄」

 

 弟たちと親戚は、思い思いの言葉を紡ぐ。それに心からの微笑みを浮かべて、一期は返した。

 

「ただいま、皆」

 

***

 

「ぐあーっ、また負けた!」

「よし、勝った! これで唐揚げの最後の一個は俺のものだ!」

「くっそー!」

「本当に楽しそうだねえ。私も、機械を操作できるようになればいいんだけど」

 

 春光隊のテレビの前で、長谷部と獅子王はゲーム対決をしていた。石切丸はそれを微笑ましく観戦している。台所からは、歌仙が炒め物をしている音が聞こえてくる。

 

「うー、唐揚げー……」

「まあまあ。今回は長谷部さんに運気が向いていたけれど、次は獅子王さんに向くかもしれないよ」

「機械操作に長けている長谷部にどう勝てと……将棋か、やっぱり将棋か……」

「それ、俺を負かせる気しかないだろう!」

 

 萎びていた態度から一変、獅子王は長谷部に言い聞かせるように人差し指を立てた。

 

「いいや、そんなことはないぜ。()()()()()()()()()()()()。上に立つものとして、ある程度の戦術は覚えてもらわないとな」

「……それ、獅子王が勝ちたいゲームでやりたいだけに聞こえるんだが」

「いや、獅子王さんの言葉にも一理あるよ。()()()()()()としても、ある程度身の振り方を覚えておいて悪いことはない。いい機会だし、獅子王さんに将棋を教わったらどうかな?」

「……何かいいこと言って俺に不利な方向に持っていこうとしている気がするが、まあいいか。将棋を教えてくれ、獅子王」

「おっ、いいぜ。じゃあ何賭ける?」

「ルールを覚えてない奴に賭けを勧めるなよ!」

 

 玄関から、二つの「ただいま」が響く。おかえり、と言葉を返し、長谷部と獅子王はすぐさま玄関に向かった。

 

「無事送り届けてきたか?」

「おう。ごろつき共も現れなかったし、無傷で送り届けたぜ。ただ、兄貴がちょっと感情的になっちまったが」

「うーん、らしくないことしちゃったなぁ。要反省ですね」

 

 しゅん、とうなだれる鯰尾に、長谷部はなんてこともないように言った。

 

「何も知らない奴が無神経なことを言ったんだろう。気にするな」

「長谷部さんの俺たちへの謎の信頼は一体……」

「あといち兄のこと嫌い過ぎだろ。もうちょっと感情を抑えてくれると身内としては嬉しいなあ」

「善処する」

「演技でもいいから直す姿勢を見せてくれよ……蜂須賀が来た時も睨んでたろお前」

「まあ、少しずつ改善していこうぜ。俺っちも手伝うからさ」

「……薬研、かうんせりんぐの心得あったよね? 何で行衣引っ張り出してるの?」

「あるぜ。でもいざと言う時は滝行だ、そっちの方が効果あるかもしれねえしな」

「おいおい力技じゃねーか! 風邪ひくかもしれないから止めてやれ!」

 

 玄関で騒いでいると、石切丸が顔を出した。

 

「皆、歌仙さんが夕餉の支度を手伝えるなら手伝ってって。誰か来られるかい?」

「俺が行くぜ。夕餉の減量を止めるように交渉しねえと……」

「じゃあ俺も行きまーす」

「よし長谷部、早速将棋の指南だ! 居間に将棋盤持ってくるから待ってろよ」

「今やるのか!?」

 

 本丸の中は、次第に客のいた気配を薄くしていく。こうして、春光隊の日常は戻ってくるのだった。

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