空隙の町の物語   作:越季

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5-3「からかい/寂しさ」

 本丸が並ぶ一画の中心部にあるビル。そこが、この区域の中枢部であり、現世へと繋がるゲートがある場所だ。

 

「皆様、動き辛く無いですか?」

「うーん、落ち着かないっちゃ落ち着かないが、動きづらくは無いな」

 

 氷雨の調査部隊が、現世に身を置くための服を着て体を動かしている。堀川と青江が学ラン、長谷部はスラックス、小夜はパーカー、鶴丸と次郎太刀はシンプルな着物。全て、審神者が用意した物だ。

 長谷部が手をぱっと振ると、刀が現れる。鞘から刀身を抜き、一凪。夕立はそれを見やって、ほう、と息を漏らした。

 

「流石ですね。すぐに動けるようになるなんて」

「主の妹君を守るため、これくらいは当然です」

「本当に凄いです。頼りにしていますね、長谷部さん」

「お任せを」

 

 ふたりが真面目なやり取りをしている間。

 

「あっはっはっは! 鶴丸、その格好してると本当に詐欺ができるよ!」

「……なんか、病院から一歩も出た事が無いような人に見えますね」

「そうだなあ。あの葉が落ちたら、僕の命は……ってか?」

「あはははははは! 傑作だよ!」

「鶴丸は似合うからいいよね。僕なんかどこからどう見ても十代前半には見えないだろう……」

「ああ、青江さんは十代後半くらいに見える気がしますね」

「妹君と同年代の学校の生徒、という体だろうけど、無理があるんじゃないかな……」

「大人っぽいで通しましょう!」

 

 背後では、着慣れない服をタネに会話が弾んでいた。職員が訝しげに声の主たちに視線を向け、通り過ぎて行く。青筋を立てながら、長谷部は話を続ける。

 

「襲われたのは夜という事でしたが、昼間でも人目の少ない所で襲われないとも限りません」

「ねえ鶴丸、もっとやってよー!」

「ええ、そうですね」

「……こんなに味が濃い物を食べるの、初めてだ……」

「ですから、我々の内誰か一振りとはいつも行動を共にしていただく事になります」

「病院のアレは、薄いっていうよねえ……食事の事だよ?」

「無論、承知しております」

「なんか本当に儚げな雰囲気が……」

「妹君には、息苦しさを感じさせる事になるかもしれません。その点をご了承願います」

「……あっ、倒れた」

「いえ、皆様といて息苦しいとは思いません。兄ほど過保護でなければ大丈夫ですから」

「空に手を伸ばしてる……手が落ちた。迫真の演技ですね」

「あっはははははは! 現実味出し過ぎでしょー!」

「……あー、今から少し見苦しい所をお見せする事になりますが、よろしいですか?」

「? 目を閉じていた方がいいですか?」

「耳も塞いでいただけるとありがたいです」

 

 疑問符を浮かべ、目を閉じて耳を塞ぐ夕立。それを確認し、

 

「――貴様ら! それが重大な任務前の態度かぁ!!」

 

 長谷部の特大の雷が、五振りに落ちた。

 

 

 任務前お決まりの説教タイムは、今回一時間弱続いた。げんなりした五振りとぴんぴんしている一振りは、ゲートを通り現世のゲートがある建物に到着後早速分かれて行動を起こす事になった。索敵組二つに、一振りが夕立の護衛だ。最初に、堀川と青江と次郎太刀、長谷部と小夜、そして護衛の鶴丸、という班分けになった。

 

「よーし、サクッと探してサクッとやっつけよう! 行くよ青江、堀川!」

「ちょ、次郎痛い痛い」

「次郎さん、襟元掴まないでくださいよー!」

 

 次郎太刀班が勢いよく飛び出したのを見てから、長谷部は小夜に問う。

 

「小夜、話が長くて悪かった。行けるか?」

「……はい。大丈夫です」

「そうか、じゃあ行こう。鶴丸、くれぐれも変な事をするんじゃないぞ!」

 

 そう忠告してから、長谷部班も建物の外へ出て行く。ひらひらと手を振ってから、鶴丸は夕立に告げた。

 

「俺達も行くか。最初はどこに行くんだったか」

「まずは私の自宅です。といっても学校の寮なんですけどね。生徒の目が集まると思いますが、注意した方がいい点とかありますか?」

「そうだなあ……まずは話し方か。使用人とかと話す時はどうしてる?」

「えっと、もう少し気安い感じですかね? ……まさか、鶴丸様にもそうしろと……?」

「関係性を探られた時に困るだろう?」

 

 話しながら、建物の外へ出る。少しだけ暑さが残る空気が感じ取れた。暑すぎず寒すぎずのいい気温だ。しばらく歩いて着いた門から、紅葉が見えた。鶴丸は、目の前に舞っていた紅葉を指でつまんだ。

 

「いやいやいや恐れ多いですよ、神様に向かってそんな言葉遣いは……! それに使用人のように扱うなんてできませんよ!」

「君は兄貴とは正反対だなあ。主は『お前達の存在は科学的に云々』って言ってこき使い倒しているが」

「……兄様が、そんな事を? 後で言っておかないと」

 

 目がすわった夕立に、失言をした事を思い知った。が、まあたまには怒られればいいのだ、あの冷酷皮肉屋軍人は。

 

「それに、俺達は道具だからなあ。使われてなんぼの存在だ。配下として扱うのは、間違ってはいないと思うぜ?」

「……いいのですか?」

「おう」

 

 夕立が、鶴丸に向き直る。

 

「じゃあ護衛されている間、鶴丸と呼ばせていただきますね」

 

 梅の花が、咲いたようだ。はにかみながら微笑む夕立に、鶴丸は確かにそう思った。なるほど兄の言う通り、並の男は彼女に堕ちるだろう。兄のあの溺愛ぶりも頷ける。

 真面目にやらないと折られるな、色々な奴に。やる気を出した鶴丸は、手始めに夕立へ一礼する。

 

「はい。この鶴丸、お嬢様のために誠心誠意お仕え致します」

 

 畏まった口調に、完璧な使用人スマイル。夕立はきょとんとした後、顔を赤らめた。

 

「な、なんか恥ずかしいです、鶴丸」

「そうですか? ……ああ、そこは段差になっています。お手をどうぞ、お嬢様」

「うう、小説のような事が実際に起こると爆発しそうです……!」

「ははは、お嬢様は照れ屋でいらっしゃる」

 

 わたわたしながら鶴丸に手を引かれる夕立。一方の鶴丸は、くつくつと笑い声を漏らして夕立の手を丁重に引いていた。

 

***

 

 子供達と遊ぶのはとても楽しかった。それはもう、自分らしく無いと思う程にはしゃいでいた。弟達とはまた違う純真さに触れるのも面白かった。

 

「一期さん、みーっけた!」

「はは、見つかってしまった。ツクシちゃんは探すのが上手いね」

「えへへ、そーでしょー? 私、隠れるのも上手いんだよ!」

 

 ツクシが胸を張る。その頭を優しく撫でると、にへー、と表情が緩んだ。

 しばらくこの施設に通って、少しずつ名前と特徴が一致してきた。ツクシはかくれんぼが大好きな人懐っこい少女である。一期にとびきり懐いている一人だ。

 

「あーあ、ツクシが鬼だとすぐ終わっちゃうよ。なんか悔しいなあ」

「……アズサさん、あなたは縄跳びが得意でしょう。得意なものは人それぞれ、落ち込む事はありませんよ」

「そうはいっても、真っ先に見つかると悔しいの! ねえ、江雪さんと一期さんのいる場所でかくれんぼ上手な人いないの?」

 

 江雪がアズサを慰めた。アズサは頰を膨らまし、更なるかくれんぼ技術向上を図っている。

 アズサは縄跳びが好きな負けん気の強い少女だ。ツクシとは仲がいいが、同時に様々な事で競うライバルでもある。その他にも、大人しくなかなか輪に入れない子、男子にも負けないやんちゃさを見せる子、遊ぶより本を読む事が好きな子と個性豊かな女子がいた。

 そう、女子達だ。ここに来るのは二回目だが、基本的に一期の周りには女子しか集まってこない。一方の男子達はというと。

 

「何だよ、あいつらあんな軟弱者がそんなにいいのか?」

「軟弱そうに見えてもある程度力はあるし、見るからに爽やかそうだもんな。そういうのが好きなんだよ、女子達は」

 

 このように、遠巻きに一期を見ていた。女子達が男子を押し退けて一期の周りを取り巻いている現状、なかなか女子に混じって入れないのだろう。一期が王子めいた印象をもたらしたのも、泥まみれになって遊ぶ男子達とは違う人種だと思わせたのだろう。

 縄跳びの縄を取りに行った女子達がいなくなってから、一期はうなだれた。

 

「……男子達には最初、歓迎されていたのに……」

「仕方ありません、私も最初はそうでした。通っていれば、次第に遊びに誘われるようになりますよ」

 

 江雪が一期の肩にポンと手を置く。うう、と唸る一期だったが、ぱたぱたと走って来る音を聞いて、振り返る。ツンツンとした頭の男子が、こちらに向かって来ていた。

 

「おや、サクヤ君。どうかなさいましたか」

「……」

 

 江雪にサクヤと呼ばれた男子は、じっと一期を見つめている。一期とサクヤはしばし見つめ合っていた。何か変なものでも付いているのだろうか、と思い始めると、サクヤが切り出す。

 

「……一期さんは、兄弟が沢山いるって聞いたよ」

「え、うん、そうだよ」

 

 それがどうしたのか。しばらく俯いていたサクヤは、顔を上げる。

 

「ねえ、兄弟ってどんな感じなの? 沢山いる兄弟の長男なんでしょ? やっぱり、賑やかで楽しいの?」

 

 サクヤは、真剣な表情で一期に問いかけた。兄弟を知らない――一期は、彼らが孤児である事を思い出した。サクヤの発言から、ここの子供達は血の繋がりが無いと分かる。

 

「そうだね、確かにとても賑やかだ。私達は少々特殊だから、生まれた時から一緒だったという訳では無いけれど、それでも、毎日どこかで喧嘩が起きたり、兄弟の誰かと一緒にいたずらをしたりしている」

「……そうなんだ」

「でも、私達のように仲がいい兄弟ばかりじゃない。私のいる場所では、己の信念から相容れないもの達もいる。それは、多分人間も同じだ」

「……兄弟っていうのは、仲がいいのがいいって思ってたんだけど」

「もちろんそれが最上だが、互いの思想が相容れないのに無理に仲良くする必要は無いと思うよ。無理に繕えば、必ず破綻するのが世の道理だ」

 

 じっと一期の話を聞いているサクヤに、一期は尋ねた。

 

「君は……サクヤ君は、気が合うと思える相手はいるかい?」

「……うん。ちょっと乱暴だけど、何でか一緒にいると楽しい奴」

「なら、その子との繋がりを大切にするといいよ。時には血の繋がりよりも、縁の繋がりが大切な事もあるからね」

「……そっか」

 

 サクヤの服が、風にはためく。彼は少し寂しそうに言った。

 

「俺を捨てた親よりも、親身になってくれる友達の方が大切だよなあ……やっぱり、そうだよな」

 

 少し、泣きそうだと感じたのは気のせいだろうか。声をかけるべきか、少し悩んでしまう。

 

「あーっ! 一期、サクヤのこと泣かしただろー!」

 

 肩を怒らせて、ソメゴローがこちらに走って来た。サクヤの前に立ちはだかると、一期を睨みつける。

 

「サクヤは俺の親友なんだぞ! サクヤを泣かせたら、俺がボコボコにしてやるんだからな!」

「ソメゴロー、俺が勝手に悲しくなっただけだから。後、ボコボコにするっていっても、返り討ちにされるのがオチだと思うよ」

「俺には必殺・アルティメットブレイブパンチがあるから大丈夫だ!」

「……それ、腕ぐるぐる回してぶつけるだけのやつじゃん。それに名前がバカっぽい」

「なんだよー! サクヤは俺が頼りにならないっていうのか!?」

「身の程を知れって言ってんの。厚顔無恥って知ってる?」

「またなんか難しい言葉使ってよー!」

 

 サクヤとソメゴローがやいのやいのとしているのを、一期と江雪は眺めていた。

 

「サクヤ君が一期に興味を示したのは驚きましたね。彼は、図書室にいる事がほとんどですから」

「そうなのですか?」

「本をよく読むためか、かなり弁が回る子でして。何だかんだ理由をつけては、図書室に閉じこもるんです。ソメゴロー君と一緒に遊ぶ事もありますが、それも稀ですね」

「あれ? でも、一緒にいて楽しいって言っていませんでしたか?」

「同室ですから、自然と一緒にいる時間も長いようです。同室の子は他にもいますが、それでもソメゴロー君以外の子と仲良く話しているのはあまり見かけませんね」

 

 少々理屈っぽいからでしょうか、と江雪は付け加える。理屈っぽい子と感情一直線の子、なかなかいいコンビではないか、と一期は評価する。

 一通りやり合った二人は、一期に向き直る。

 

「次サクヤを泣かせたら、必殺技のアルティメットファイナルスーパーブレイブパンチをお見舞いしてやるからな!」

「ソメゴロー本当やめて。後長くなってるし技名。……ねえ一期さん、もう少し話聞いてもいいかな」

「あっ、俺も行くぞ! サクヤに何かしないように見張ってないと!」

「恥ずかしいからやめて」

 

 張り切るソメゴローに、ため息をつきながらも穏やかな表情のサクヤ。微笑ましさに表情を緩ませ、サクヤに目線を合わせる。

 

「もちろん構わないよ。何が聞きたい?」

「そうだな……一期さんの兄弟の事、詳しく聞きたいな」

「無視すんなー!」

「いえ、無視はしていないと思いますよ。そうですよね、一期」

「そうだね、ソメゴロー君も一緒にどうかな」

「なっ……ふん、どーしてもっていうなら行ってやる!」

「失礼な事言わないの」

「サクヤに言われたくねー!」

 

 サクヤが、近くのジャングルジムに腰掛ける。隣にソメゴローも腰掛けたのを見て、一期は兄弟の話をしようと口を開いた。


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