空隙の町の物語   作:越季

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5-9「合流」

「君達は、雲霄隊……? 何でこんなところにいるんだい?」

「兄様まで……本当に、どうして」

「話は後! こいつらをやっつけるよ!」

 

 様子を窺っていた苦無は、素早く動いたと思うと、加州に襲いかかる。刃を受け止めている間に、小夜が胴体を切り離した。

 周囲を見てみると、苦無は残り四体。恐らくここに到着する前に一体は仕留めたのだろう。しかし青江は中傷、小夜は重傷である。

 早急に決着を付けねばまずい、と江雪は感じた。

 

「兄様、鎧戸の外に仲間がいるんだ! 早く仕留めて、加勢しに行かなきゃいけないのに……!」

「かなり数が多そうだったからね。でも小夜、その傷だと加勢しに行っても折れてしまうよ。……多分、僕も」

「くっ……! あいつらが鎧戸を閉めなければ……!」

 

 小夜が歯噛みする。江雪は小夜に、ソメゴローの存在を告げることにした。

 

「……お小夜。今一緒に迷い込んだ人間が、鎧戸を開けるように交渉しに行っています。今暫しの辛抱ですよ」

「本当に!?」

「ええ。途中で物吉が職員に会いましたから、話はすぐに通じると思います」

「そうか……なら、もう出し惜しみはいいよね」

 

 小夜が、毛を逆立て、力を漲らせる。

 

「僕の刃……受け止めてよ!」

 

 幾重もの剣筋が、苦無を切り刻む。弧をいくつも描くそれは、憎しみに満ち溢れていた。

 苦無は地に落ち、破片へと変わった。

 限界を迎えた小夜が、体を横たえる。

 

「っ……ぐうっ」

「お疲れ様、小夜。それじゃあ僕も行こうか」

 

 小夜を奥に隠して、青江が苦無を睨む。苦無は仲間をやられた怒りなのか、真っ直ぐ青江に向かってくる。

 だが。

 

「――どこかで見た動きだね」

 

 痛みを抑えながらも攻撃はいなされる。青江は鋒を苦無に向けた。

 

「笑いなよ、にっかりと」

 

 それは、無駄のない急所を突いた一撃。まともに食らった苦無は、耳障りな音を立ててバラバラになった。

 青江は直後、床に膝をつく。

 

「――後は、頼んだよ」

 

 そう言い残し、体が倒れそうになる。物吉がそれを受け止め、ゆっくりと床に下ろした。

 

「……お疲れ様でした」

「全く、簡単に押し付けてくれちゃってさー」

「そう言うな、加州。二振りもぎりぎりのところだったんだ。俺たちがここにいなかったら、どうなっていたか分からん」

「……残り二体ですね。退く気は、ありませんか」

 

 苦無はどこにも逃げ場が無いのを悟ったのか、自棄になった様に斬りかかって来た。

 加州と鶯丸が、それを受け止める。

 

「動きが単調になって来てる。この状態だったら、俺達の敵じゃないね」

「そうだな。敵は俺達が引き付ける。二振りは機会を逃さずに斬ってくれ」

「……無茶を言ってくれますね」

 

 はあ、と溜息をつく江雪。しかし刀を構え直し、加州と鶯丸の動きをじっと見据える。

 

「オーラオラオラァ!」

「命が惜しいなら引け!」

 

 加州が軽い身のこなしで敵を翻弄し、鶯丸が小夜と青江のガードをしつつも重い一撃で敵を退ける。

 江雪は機会を窺う。そして。

 ――見えた!

 敵が僅かな隙を見せた。江雪はそれを逃さず、一歩踏み込む。

 

「――戦うということは、こういうことです!」

 

 一気に二体を斬り伏せる。ガラガラ、と床に苦無の体が落ちる。

 ふう、と息を吐き、江雪は二振りを見た。

 

「終わった、かな」

「そうですね」

「まだ外への援護が残っているがな」

「あーそうだったー。だるい……」

「まあまあ、そう言うな」

 

 気が緩んだ三振り。床に座り、すっかり休養モードになってしまっている。

 ガタ、と苦無の体が動き、目を光らせた。刃の先は、のんびりしている三振りだ。

 

「――嘘、まだ生きてたの!?」

「しくった……!」

 

 刃は、刀を構える間も無い三振りを斬りつける――ことはなかった。

 苦無の上から、脇差が突き立てられている。

 

「幸運は、いつもここに……ですよ!」

 

 物吉が、刃を滑らせ苦無を二等分に割る。苦無は、今度こそその命を散らした。

 物吉は刀をしまってから頬を膨らませる。

 

「皆さん、ボクのこと忘れてたでしょう? まだですって言ったのに!」

「あっ、……あーごめん! すっかり気が緩んで……!」

「悪かった、そしてよくやった、物吉」

「……気配も悟らせないとは……あなた、忍者になれるのでは」

「嬉しくないですよお……」

 

 物吉はがっくりと肩を落とし、明日は有給を取って春光隊へ行こう、と決意したのだった。

 

***

 

 はあ、はあ、と荒い息が満ちていた。

 斬っても斬っても斬っても、数が減らないのだ。そしてこちらは全員中傷、無傷なのは夕立のみである。

 

「あー……今どのくらい斬ったっけ?」

「三十体程だな。そしてその内、槍が五割」

「まだまだってことか……槍もまだ待ち受けているってのはしんどいな……」

「いや、もう少しかもしれないですよ? だって太刀をあんなに斬ったんだし……ふふふ、槍が一体、槍が二体」

「堀川、正気を手放すな!」

 

 長谷部が活を入れる。それでも現実は変わらない。夕立は震えながらも、何とか戦場を見渡している。次郎太刀は諦めて、刀を大きく振り回す。

 

「あー、どっかから援軍こないかなー!」

「次郎さんも壊れた……」

「現実逃避するな、次郎!」

「ははは、ここの場所を察知して援軍が来るなんて、そんな奇跡みたいなことあるわけ――」

「――あったらどうします?」

 

 涼やかな声が、鶴丸の耳を通る。敵の壁の向こうが、少しずつ崩れていくのが目に入った。

 現れたのは、空色の髪の男。彼は鶴丸に、清廉な笑顔を向ける。

 

「こんにちは、鶴丸殿」

「えっ、ちょ、お前、一期? 何でここに?」

 

 目の前の一期は、蒼穹隊の彼であるはずだ。だが彼は、清澄の江雪と共に、滑莧園にいるはず。何がどうしてこんなところに。

 一期はははは、と笑って告げる。

 

「色々ありまして。それより鶴丸殿、前から槍が」

「おおっとお!」

 

 鶴丸は仰け反り、槍の突きを避ける。そして返す刃で敵を沈めた。

 

「うおおおお! 唸れ、拙僧の筋肉!」

「近寄らせはせん!」

 

 敵の壁の向こうで、山伏は大暴れし、蜻蛉切は確実に敵を屠っていた。少しずつ、敵の数が減っていく。

 

「総員、刀を構えろ! この好機を逃すな!」

 

 長谷部が煽りながら敵に向かう。他の隊員も刀を振るい始めた。

 

「大人しく吹っ飛ばされな!」

 

 次郎太刀が剣戟の嵐を起こす。刃に触れたものは大きく斬られ、そうでないものは大きく弾き飛ばされる。

 

「おー、すげえなあ。……さて」

 

 そう呟き、鶴丸が敵の視界から消える。そして。

 

「――遅い遅い!」

 

 跳躍した鶴丸が、敵の首を落とす。その様は鶴のように優美で、無駄のない動きだった。

 

「圧し切る!」

 

 長谷部が敵を次々に切り刻んでいく。その隣に堀川が立ち、やけに守備が堅い槍を見て、言った。

 

「やりますか、長谷部さん」

「ああ」

 

 そうして、二振りの力が繋がる。そのまま槍に向かって走り。

 

「はああっ!」

「てやー!」

 

 二刀開眼を行った結果、堅い兵を切り捨て、本体に迫ることができた。長谷部は、露わになった体を二つに分け、己の刃に付いた血を払った。

 

「一期! お陰で大分楽になった! ……一期?」

 

 鶴丸が一期に近付くと、彼は。

 

「……痛くはないな。ふふ、ははは」

 

 近付く敵を千切っては、ではなく、斬っては投げ、斬っては投げを繰り返しているのである。――彼は、すっかり戦闘狂になっていた。

 

「い、一期?」

「あはははは! お覚悟!」

「……一期さーん?」

「なるほど。……ふふははは!!」

「やべえ完全に我を忘れてやがる!」

 

 一期は、まだ戦場に出て日が浅かったのだろうか。肉体を得た刀剣男士が陥りがちな『熱』に、すっかり浮かされてしまっている。敵もほぼ殲滅できた今、斬るのは残った敵の遺体である。

 こうなると、それを鎮める方法は一つしかない。鶴丸は、刀を鞘に納める。

 

「悪い一期、後でいくらでも殴っていいから、今は許してくれ! ――せいやあっ!」

 

 一期の脳天に、鞘付きの刀身がヒットした。脳を思いっきり揺さぶられた一期は、当然意識を手放した。

 そう、『熱』を鎮める方法は、気絶させることである。現状、これしか対処法はないのだ。

 鶴丸は手を合わせてから、一期を背負う。

 

「……あー、何だかんだで片付いて良かったなあ。山伏、蜻蛉切、君達もありがとうな」

「カカカカカ! なかなかにいい修練であったぞ!」

「無事で良かった。……長谷部殿、雲霄の隊員を見かけなかったか?」

「いや、俺達は見ていない。何かあったのか?」

「時空の裂け目に飲み込まれ、離れ離れにされてな。近くにいるはずなんだが」

 

 シャッターが開く音がする。ガラガラと開き切ったそこに、蜻蛉切達が探していた彼らはいた。

 

「あー、やっと開いた。おーい、こっちー!」

「俺達の隊員も一緒だな。本当に装置には褒美をやらないといけないな」

「……何がいいのでしょう。油ですかね」

 

 加州達が、こちらに手を振っていた。

 日差しは少しずつ傾き始めている。

 

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