空隙の町の物語   作:越季

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7-5「ルピナスマートにて」

 お昼時になり、城下町はますます人で溢れ返る。蒼穹の一期は、人の合間を縫って、流れに逆らうように歩いていた。人にぶつかるため、看板を見ている余裕もない。このままでは、確実に迷子になる。

 

「すみません! 通して……うわぁっ!?」

 

 妙齢の女性達が、一定の方向に――具体的には、一期の向かっている方とは反対側に――駆け抜けて行く。一期はその人波に押され、流されて行った。もみくちゃにされた後、何とか流れから抜け出した一期は、大きく息を吐いた。

 

「……一体、何が……」

 

 呆然と呟く。滑莧園でハルカに昼食を勧められたが、弁当を持っていないし用意してもらうのも悪いと断り(ハルカの雰囲気に恐れをなした訳では断じて無い)、本丸に帰ろうとした結果がこの様である。

 相変わらず、女性達は一定の方向へ歩いたり、走ったりしている。その表情は鬼気迫るものだった。この荒波に逆らうのは無理だと判断した一期は、たまたまあった本屋の軒下でやり過ごすことにした。

 人波の中には、子供の手を引いている者もいた。どこいくのー、と母親に声をかける子もいれば、触れれば破裂しそうな母親の表情に泣きそうになっている子もいる。

 人波をしばらく眺めていると、背の高い一際目立つ男が目に入った。もみあげを切り揃えているその男は、覚えのある気配を漂わせていた。

 一期は人波の隙間をくぐり抜けて、その男に近づく。

 

「石切丸殿!」

「うおっと! ……君は、蒼穹の一期さんかな?」

「はい、そうです。いきなり大声を出してすみません」

「構わないよ、少し驚いたけどね。一期さんは……えーと、迷ったのかい?」

「……ええ、はい」

 

 男――春光の石切丸は、苦笑を浮かべる。内番着を身に纏い、手には小さく丸まったバッグを持っていた。一期は、石切丸に尋ねた。

 

「石切丸殿だけで、こちらへ?」

「いや、歌仙さんと長谷部さんも一緒だよ。ふたりは、先に行ってしまったけれど」

「この人波は……一体何があるのですか?」

「一期さんは見るのは初めてか。この先には、『るぴなすまーと』という小売店がある」

「『るぴなすまーと』……? そこで何が――」

 

 一期は、石切丸の横顔を見上げる。その表情は周囲の人間と同じく、戦意に満ち溢れていた。その様子に一期は呆けてしまう。

 

「毎月第四金曜日は、売られている物が大幅に値引きされるんだ。普段は高い卵も安くなる。いわば、家庭を築く者達の戦場が開かれる日なんだよ、今日は」

 

 戦場と聞いて、一期は唾を飲み込む。一期はとんでもない日にそこに出くわしてしまったらしい。石切丸が端末を取り出し、画面を一瞥した後に一期に告げる。

 

「一期さん、すまないが手伝ってはくれないかい?」

「えっ、何を」

「卵の安売りが始まった! 卵は一人につき一包、うちは卵を多く使うから一包でも多く手に入れたいんだよ! 一期さんには、卵の入手を手伝ってもらいたいんだ!」

「私がですか!? 小売店の仕組みは分かっていませんよ!?」

「卵の売り場は店の奥だ、手に入れたら私達と合流して、会計まで一緒にいてくれたらそれでいい!」

「わ、分かりました……」

 

 戦場でしか見ないであろう石切丸の迫力ある表情で迫られて、一期は思わず頷いてしまう。よし、と言い石切丸は前を向き、視線の先にあるであろうルピナスマートを見据えた。

 

「お礼は後で用意するからね。それじゃあ行こう!」

「ちょ、石切丸殿力が強いですっでででで!」

 

 激しく動き出した人波に乗って、一期は石切丸に腕を強く引かれて走り出した。

 

 

 ルピナスマートは日本全国に展開しているルピナスグループのスーパーマーケットの一つである。毎月第四金曜日には一部の品を除いて五パーセント割引を実施しており、その日には家庭を支える者達で店内がごった返す。他の日も安売りは行われているのだが、この日と比べると客数の差は歴然で、市井の者達のしたたかさが窺える。

 一期は籠を手に、卵売り場まで流されて行っていた。奥からは、購入制限を告げる店員の声が響いている。周囲からは赤子の泣き声もしており、流されつつ一期は嘆息した。

 

「あ、赤ん坊まで連れて来るのか……」

「少しでも多く卵を入手したいのは皆同じだからね……売り切れていないといいのだけれど」

 

 石切丸の視線の先には、少しずつ近づいて来ている卵売り場。まさに飛ぶように売れており、最初にあったであろう嵩からは大きく減らしていた。一つ、二つと売れていく卵。石切丸の焦燥感が高まっているのを隣にいる一期は感じていた。

 一歩一歩と近づいて行く度に、卵売り場の様子が鮮明になって来る。卵の数はかなり減っており、前の親子が三パック持って行った時には、石切丸の覇気が増していた気がした。

 そして、一期達の順番が巡って来た。卵は僅かに残っており、店員から直接手渡された。その卵のパックを手に取った時、一期は宝物を入手した気分になった。

 

「よ……良かった……」

「一期さん、ありがとう。おかげでしばらくは卵が持つよ。このお礼は必ずするからね」

「はい……」

 

 歌仙さん達と合流しようか、と告げられて頷く。卵売り場から離れると、人が少し減って歩きやすくなる。

しばらく歩くと、海鮮コーナーに歌仙と長谷部が立っていた。一期は石切丸と共に彼らへ近寄る。

 

「石切丸、どうだった」

「卵はこの通りだよ。そちらは?」

「こっちも無事手に入ったよ。蒼穹の一期もありがとう。昼時だし、何か食事を作ろうか」

「いいのですか? 確かに昼餉はまだですが……」

 

 一期がそう言うと、長谷部がふん、と鼻を鳴らした。

 

「今日の昼飯は歌仙が当番だ、ありがたく頂戴するんだな」

「なんで君が自慢げなんだい、長谷部さん」

「それとも何か、歌仙の料理が食えないってのか? ん?」

「長谷部、威嚇しない!」

 

 歌仙に叱られ、長谷部は少し拗ねた様に頬を膨らませる。その様子に微笑ましさを感じながら、一期は長谷部を少し見下ろす。その行為に、疑問を浮かべる。

 ――あれ? 長谷部殿は、私より背が少し高い筈では?

 へし切長谷部の身長は、一期一振より一センチ高いと記録されており、実際に蒼穹隊の長谷部も一期より背が高い。今目の前にいる春光隊の長谷部は、一期の目線より少し下に顔がある。山姥切と話している時と同じ様な感覚だ。歌仙と並んでいると、彼よりも少し背が低い。そのことへの違和感が凄まじいが、個体差で片付けられる話なのかもしれない。

 どうしようもできない違和感を振り払い、一期は歌仙の提案を承諾しようと口を開く。

 

「それじゃあ、よろしくお願い――」

「――ちょっと、どういうことよ!」

 

 耳障りな金切り声が飛び込んて来る。一期が思わず声の方向を向くと、そこでは初老の女性がカウンター越しに店員とやりあっているところだった。

 

「この切り方、明らかに手を抜いているわよね!? サイズがバラバラじゃないの!」

「申し訳ございません、すぐに取り換えさせて――」

「大体、鮮度も最悪じゃないの! 孫がお腹下したら責任とれるの!?」

「いえ、そちらの商品は未開封なので……」

「そんなことも考えないでやってたの!? 店長呼びなさい店長! あんたをクビにしてもらうわ!」

 

 どうやら、魚の調理サービスに不満があり、クレームを入れているところだったようだ。初老の女性は理不尽なことを喚き、店員は困り切りながらも何とか対応している。その様は、女性が見苦しく思えてくるレベルである。

 聞く価値なしと判断した一期は春光隊の方を向く。そこでは、長谷部がきつく目を瞑り、耳を塞いで蹲っていた。

 

「長谷部、行こう。これ以上聞くことはない」

「長谷部さん、大丈夫、大丈夫だからね」

「……うう……」

 

 一期は目を瞠る。普通の長谷部では考えられないことだ。長谷部は有象無象の悪意のある言葉は切り捨て、身内の皮肉には怒りか皮肉で応じる性質である場合がほとんどだ。少なくとも、自身に向けられてもいない悪意に満ちた言葉に反応する性格ではない。

 それがどうだ。この長谷部は、他人の金切り声に怯え、耳と目を塞いで震えている。まるで暴力を恐れる幼子の様。歌仙と石切丸は驚いている様子はない。こうなることを分かり切っていたのか、対応も早い。

 春光隊の長谷部の謎は深まるばかりだと、一期は思った。

 

「一期、すまないね。少し遠回りしてから行こうか」

「……長谷部殿は、大丈夫ですか」

「少し厠に連れて行くよ。歌仙さん、悪いけど買い物は頼んだよ」

「分かった、落ち着いたら連絡するよ」

 

 石切丸が震える長谷部を宥めながら遠ざかって行く。長谷部の背は余りにも小さく、か細く見えた。

 トイレに消えたのを確認して、歌仙は一期に向き直り微笑んだ。

「……僕達も行こう。長谷部が戻って来るまでに、ある程度買い物を済ませないと」

「そう、ですね」

 

 手にメモを持ち、歌仙が歩き出す。あちこちのコーナーを回りながら、ぽつぽつと歌仙と一期は会話をしていた。

 

「一期は、どうしてあそこにいたんだい?」

「滑莧園からの帰りでして……昼時になると城下町は人が多くなるのですね」

「滑莧園か、結構歩くだろう。よく通っているのかい?」

「時折ですね。そういえば、そこでとても逞しい女性と会ったのですが……」

「逞しい? それは、坊主頭の弟を連れている、コマクラと名乗っていた女性かな?」

「ええ、そうですが……お知り合いですか?」

「知り合いと言えばそうだが……」

 

 歌仙が唸る。そして左右を見渡し、人影が遠いことを確かめると、一期に囁いた。

 

「一期は口が堅い様だし、世話になるかもしれないから教えておくよ。コマクラ姉弟は、情報屋だ」

「……情報屋?」

「ああ。君達の情報は、小さなことから大きな物までほぼ掴まれていると思うよ。どんな手段を使っているんだか、僕達が欲しがった情報は必ずと言っていい確率で提供される。……どうやら重要機密情報も掴んでいる様だね、知りたくもないけれど」

 

 そんなことをして消されないのか、と問えば、だから素性が知れないんだよ、と歌仙は語る。かなり政府の深部に触れている情報も扱っているが、ああしてコマクラ姉弟は生きている。姉の謎の怪力からして、何かの被験者にでもなったのではないか、と推察しているが、彼らの素性は謎のままだ。

 情報屋の存在に『裏側の世界』の影を感じて、一期は少しだけ心臓が高鳴るのを感じた。好奇心は、相変わらず一期の中に潜んでいたらしい。何とか好奇心を奥底に押し込み、歌仙の話の続きを聞く。

 

「金とこちらの情報と引き換えに、有益な情報を提供する。彼女らは、本当に有能な情報屋なんだよ」

「パッと見、そんな風には見えませんでした。ちょっと気が強い普通の姉弟だと……姉の方は少し怖かったですが」

「完全に見た目に騙されているね、でも彼女の狂気を少しでも感じられただけ十分か」

「狂気? ……一体どういう」

 

 あの人の好さげな笑みを浮かべていた女性にどんな狂気が宿っているというのか。腹黒そうだとは感じていたが、そこまでは感じ取れなかった。歌仙は大きくため息を吐き、首を振った。

 

「言ってしまえば、『自分は人より物を知っている』という自己顕示欲と、神という生き物への嫌悪を拗らせた狂人だよ。そのためには、自分の命さえ利用するんだから本物だ。弟の方は……そんな姉を見て反面教師にしたのか、血が繋がっているとは思えないほどまともだよ」

 

 彼女らを思い出してげっそりとする歌仙に、恐る恐る一期は尋ねる。

 

「……何かあったのですか、その二人と」

「初めて仕事を依頼した時に、姉の方と一悶着あってね。何度折られそうになったことか……人間の姿をした化物だと言われても信じられるよ」

「――えっ、折られそうに!? 審神者じゃないんですよね!?」

「そのはずだよ。長谷部を除く全員で襲いかかっても殴り返され無力化されたんだ、天は本当に不平等だよ。狂人にあんな力を与えるなんて……」

 

 驚かされてしまった。コマクラ姉弟の正体も、そんな二人に関わって生きている春光隊にも。かなりの修羅場を潜り抜けて来たことが窺える春光隊に、一期はある種の敬意を抱いた。

 ぽいぽいと商品を籠に入れていきながら、歌仙は締め括った。

 

「まあともかく、弟は気の毒だけれど、僕らはできるだけあの姉弟と距離を置いて接していきたいね。彼女らと接する時は、非常時のことが多いから」

「……何だか、凄いことを聞いた様な気がします」

「生き残るためには必要なことなんだよ、色々と」

 

 乾いた笑いが歌仙から漏れる。そして一期の表情をじっと観察した後、口に手を当てた。

 

「一期は、あまり怖気づいていない様だね」

「……実のところ、情報屋という存在に興味を抱いてしまいまして」

 

 そう言う一期は、照れ笑いを浮かべて頬を掻く。歌仙は真剣な声音で告げた。

 

「好奇心は猫を殺す、とは外つ国の言葉だったかな。君が思っている以上に、コマクラ姉弟は危険だよ。時には危険な現場にも潜入して、命を晒しながら情報を手に入れる。それに何より姉の性格が最悪だ。できる限り、彼女達には関わらないことを勧めるよ」

「都市伝説の様な存在に浮き立っているだけで、積極的に関わろうとは思っていません。コマクラさんとは、客と店員という関係を保っていこうと考えております。ご忠告ありがとうございます、歌仙殿」

 

 一礼した一期に、歌仙は暫し考え込む。それから立ち止まり、目を伏せた。

 

「君には、少し期待しているんだ。長谷部に、良い影響を与えるだろうとね。こうして何度も僕らと関わって来る刀剣男士も久々だし、嫌みとはいえ僕ら以外と積極的に会話をしようとしているのも久々だ。……僕らは、限りなく黒に近い情報屋とも関わっている。一期一振、君はそんな僕らの姿を見ても、親しくしたいと思うかい?」

 

 それは、もしかしたら彼らにも自信が無いのかと思わせるには十分な様子だった。彼らが普通に日常を過ごしているので忘れかけていたが、彼らも人の形をとってそう時間は経っていないのだ。長谷部を大切にしているかと聞いて、彼らはすぐに肯定した。けれど、彼らはまだ『慈しみ方』への自信が足りていないのかもしれない。

 自分は彼らより顕現が遅い。だから自分は、彼らよりもどうすべきかの選択肢が不足している。刀としての矜持はあるが、心を持つものとしての自信が無いのは、自分も同じだ。

 

「私は、春光隊の皆さんと友達になりたい。その思いは今も変わっておりません。人としての経験は大いに不足していて、もしかしたら無神経なことを言ってしまうかもしれないと、いつも考えています。そんな私でも、皆さんと恐れず話をしたいと願っているのです。時折で構いません。私も、皆さんと一緒に話をしたい。……恐れるものですか。傷つくものを支えようとする、優しいあなた達を」

 

 ――思ったことそのままを整理せずに話してしまった。上手く伝わっているだろうか。

 一息で話したため、少し呼吸が荒くなる。我に返って、まだ話したりないかと悩む。

 歌仙は目を見開き、それからほうと息を吐いて、ありがとう、と微笑んだ。安堵しているのが伝わって来る。彼も、不安を抱えているのだろう。いつか、それも話せたらいい。

 歌仙は再び歩き出す。端末で連絡を入れながら、一期に心配そうに告げる。

 

「君は優しいけれど、そのせいでつけ込まれないだろうか」

「つけ込まれるって、誰にですか?」

「情報屋だよ。君にはあまり情報屋の標的にされない様にして欲しい、と僕は願っているんだ。……もしかしたら、手遅れかもしれないけれど」

「それは、神嫌いと関係が?」

「うん。彼女と最初に会った時に一悶着あったって言っただろう? その時に殴り飛ばされて告げられた言葉がある」

 

 頭痛を堪える様に右手で頭を押さえ、歌仙は彼女の決まり文句を口にした。

 

「『頭が高いのよ、神の分際で』。その言葉から、彼女が僕らにいい感情を抱いているとは言えないと察したんだ。もしかしたらあの力も、神を食物の様に取り込んで得た物なのかもしれないね」

「それは、また……」

 

 凄い言葉だ。一部の信奉者の前でそれを言い放ったなら、殺されてもおかしくはないだろう。彼女が生き残り、ああしていられるのが、本当に不思議だ。看板娘時の彼女は、猫を被り過ぎにも程があるだろうと思う。

 

「あの力に、あの思想。故に彼女は、時折刀剣男士に干渉する。それもあまり良くない方向にね。一期、彼女と話す時はくれぐれも気を付けるんだよ。できるだけ弱みを見せないように」

「……分かりました」

 

 売り場を抜けると、レジの前に人が長く列を成していた。辺りを見回すと、列から少し離れたところで長谷部と石切丸が待っているのが見える。歌仙と一期はそちらに向かい歩いた。

 

「長谷部、石切丸。もう大丈夫かい?」

「うん、大分落ち着いたよ。今は鶏肉に夢中かな」

「歌仙、チキンカレー食べたい!」

 

 石切丸の後ろからにょきっと現れ、顔を輝かせた長谷部が歌仙にねだる。歌仙は長谷部に慈しむ笑みを向ける。

 

「四日前に食べただろう? 流石に連続する訳にはいかないから、鶏肉を使った料理を何か考えるよ」

「チキンカレーがだめなら鶏の照り焼きがいい!」

「本丸に帰ったら考えるから。栄養の均衡はきちんととらないとだめだろう?」

「鶏肉、鶏肉!」

 

 子供のようにはしゃぐ長谷部に、一期は驚愕する。やはり、この長谷部は普通の長谷部とは違う性格をしている。観察する一期の視線に気づいた長谷部は、思い出したかのようにむすっとした顔に戻ってしまった。

 それを横目に、歌仙が籠の中を覗く。視線を動かし、菓子が入っているのを見つけて顔をしかめた。

 

「石切丸、菓子の量が多すぎやしないか?」

「厠から出た後も、少し暗い顔をしていてね……買って見せると喜んでいたから、つい」

「……まあ、食べる量を言い聞かせればいいか。よし、並ぶよ」

 

 レジに並ぶ歌仙達にならい、一期も後ろについた。あ、と歌仙が思い出した様に声を上げる。

 

「一期は一番か二番の列に並んでくれ」

「何か違うのですか?」

「二番までは店員が会計してくれるんだ。一期はれじを使ったことがないだろう?」

「ええ、使ったことはないです。そこ以外は、自分で会計を?」

「そう。後ろが詰まっているから、できるだけ早く済ませないといけないしね」

「分かりました、それでは移動しますね」

 

 歌仙から籠の中の商品分より少し多い料金を預かり、列を外れようとする一期に、長谷部が憎まれ口を叩く。

 

「ねこばばするなよ」

「長谷部、失礼なことを言わない!」

 

 苦笑いをして列から外れる。歌仙の説教する声が少しずつ遠ざかっていく。

 例え憎まれ口でも、長谷部との会話が増えたことは嬉しかった。こうして段々と、仲良くなれていけたらいい。

 一期は一番の列に並んで、小さな喜びを噛み締めながら順番を待った。

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