空隙の町の物語   作:越季

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2-2「懇願と指令」

『刀剣男士でしか倒せない幽霊?』

「ええ、鶴丸殿はなにかご存知ですか?」

 

 本丸に戻った一期は、電話を掛けてきた氷雨の鶴丸の一通りの愚痴を聞いてから、彼に演練相手の三日月が話していた噂について尋ねてみた。自室の前の縁側に座り、葉が落ちて行く様を眺めながら。

 

『いや、幽霊とかなら青江とか神社連中でも切れそうじゃないのか?』

「それが、他の刀剣男士にも切ることができたそうなんです。偶然居合わせたのは薬研だと聞きましたが……」

『幽霊とか情緒とかとは縁遠い奴だな。普通のお祓いは効果がなかったんだよな?』

「効果はなく、あっさりと切り伏せられそうになったそうですよ。それでそっち方面の人はあまり動きたがらないとか」

『そうか……』

 

 うーん、と鶴丸は唸る。しばらくした後、申し訳なさそうに告げた。

 

『すまない、俺の方はさっぱりだ。城下町には最近下りられてないからなあ』

「そうですか……最近流行り始めたばかりだと言う話ですから、最近行っていないなら知らないのも当然ですよね」

『あー……ささくれた心に蒼穹一期の優しさが効くー……もっとばふぁ○んしてくれぇ……優しくされるほど強くなる刀だ俺はぁ……』

「電話切りますよ?」

『待ってくれ待ってくれ冗談だ!!』

 

 本気で慌てた様子の鶴丸に、一期はため息をついた。なんでこう、優しいままでいさせてくれないのか。呆れ気味になっていると、端末越しからそうだ、と声が聞こえた。

 

『一期、それ次の会の題目にしよう』

「え」

『言っただろう、都市伝説も取り扱うって! まさにぴったりの新鮮な話題じゃないか! 次の会までに多少は調べてこようぜ!』

「ちょっと、もし刀剣男士でも倒せない危険なものだったら――」

『その時はその時だ!』

 

 よし決まりな、明るい声がそう告げる。

 幽霊といったオカルトには無論興味がある。しかし、自分に危機が及んで弟たちを悲しませるのは本意ではない。一期は、密かに分からなかったで通そうと決断した。

 

「いち兄、戻ったぜ」

「ただいまーいちにいー!」

「た、ただいま戻りました……!」

 

 遠くから、薬研と厚、五虎退の声が近づいてくる。非番だった彼らは、城下町に出かけていたのだ。氷雨の鶴丸と仲がいいことは、一応互いの本丸の者には秘密にしてある。一期は、焦りながら鶴丸に言った。

 

「鶴丸殿、弟たちが帰ってきたので切りますね」

『わかった。次の会までに絶対調べてこいよ! それじゃあまた!』

「ええ……はい……」

 

 ――念押しされてしまった。一期は憂鬱な気分で電話を切ると、自室に戻り、机の中に厳重に端末をしまった。引き出しを閉めると、弟たちが障子を開ける。

 

「いち兄、ただいま。最近根詰めてるみたいだから、滋養強壮にいい薬貰ってきたぜ」

「ありがとう、薬研」

「いち兄、えっと、僕からは栞です。いち兄みたいな、水色のなんですけど、どうでしょう……?」

「すごく綺麗だね。大切に使わせてもらうよ、五虎退」

「いちにい! オレからは戦法書のお土産だ!」

「厚、ありがとう……多くないか!?」

 

 三者三様の土産を渡されて、喜んだり、顔を引きつらせたり。そんな長兄に、ほっとした様子の弟たちは顔を見合わせた後、切り出した。

 

「いちにい、話があるんだ」

「なんだい厚、改まって……薬研と五虎退も」

「うん。そのな、オレたち……」

 

 厚が大きく息を吸い、高らかに謳った。

 

「オレたち、城下町の幽霊退治に行こうと思う!」

「……はぁ!?」

 

 厚の宣言に、一期は大きく動揺した。危機が、弟たちの方から飛び込んできたのだ、動揺しない方が無理な話である。

 

「栂桜亭のばあちゃんが、幽霊に襲われたらしいんだ。漢として、これは放っておけねえよ!」

「……って厚が言って聞かなくてな。まあ、栂桜亭のばあさんにはいつも世話になってるから、安心して外出できるようにはしてやりてえなって」

「えっと、僕も、怖いですけど……でも、おばあちゃんのために、頑張ります!」

 

 三振りは、なかなかにやる気に満ち溢れている。一期は、愕然とすることしかできない。危険なことを避けようと思ったのに、どうして弟たちの方から――!

 

「だからいちにい、夜間の外出許可、大将にも出してくれるように頼んでくれないか?」

 

 厚がずいっと近づいてくる。薬研も決意に満ちた表情をしている。五虎退も、刀身を握りしめてこちらを見てくる。

 

 真剣な三つの眼差しに何かが折れた音がした一期は、プツンと何かが切れたように、やけになった。

 

「ああもうわかった! ただし、幽霊退治には私も行く! それでいいね!?」

 

 弟たちは、わあっと声をあげる。いち兄ありがとうございます、さすがはいち兄だ、いちにいがいれば百人力だ、と明るい顔で兄を讃える三振りに、もうどうにでもなれ、と一期は捨て鉢になったのだった。

 

***

 

 電話が切れた音が響く。氷雨の鶴丸は、端末を懐にしまうと、早速行動を開始した。

 まず向かうは審神者のところ。審神者経由で、何か情報が得られないだろうかと考えたためだ。

 ドアをノックし、入れ、と入室の許可が出た途端、鶴丸はバンッと勢いよくドアを開け放った。

 

「主! 城下町の幽霊について知らないか?」

「……いきなりなんだ、ついに頭がイかれたか」

 

 じとっとした視線を鶴丸に向ける審神者。それにめげずに、鶴丸は問いを重ねる。

 

「なんか少しでも知ってることはないか!?」

 

 その問いに、呆れ果てたように審神者は答えた。

 

「……はあ。幽霊なんて非科学的なもん、存在するわけないだろう。お前は驚きに釣られすぎなんだ、少しは物を考えて――」

「説教は後にしてくれ! というか、それを言うなら俺たちの存在だって非科学的だろう!?」

 

 うがああ、と喚く鶴丸に、審神者は冷淡に返す。

 

「お前たちの存在は科学的に解明されている。……ああそうだ、思い出した。鶴丸、調()()()()の連中を集めてこい」

「はあ!? しばらくは()()()は休みだって――」

「文句を言うな、急に入ったんだ」

 

 職務机からファイルを探し、鶴丸に差し出す審神者。鶴丸は嫌々ながらもファイルを受け取り、中を改める。内容を見て、鶴丸は目を見開いた。審神者は命令を下す。

 

「――指令だ。調査部隊を編制し、そこに示された施設を破壊しろ」

 

 鶴丸の手にある紙には、『第八暗影研究所』と書かれていた。

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