『刀剣男士でしか倒せない幽霊?』
「ええ、鶴丸殿はなにかご存知ですか?」
本丸に戻った一期は、電話を掛けてきた氷雨の鶴丸の一通りの愚痴を聞いてから、彼に演練相手の三日月が話していた噂について尋ねてみた。自室の前の縁側に座り、葉が落ちて行く様を眺めながら。
『いや、幽霊とかなら青江とか神社連中でも切れそうじゃないのか?』
「それが、他の刀剣男士にも切ることができたそうなんです。偶然居合わせたのは薬研だと聞きましたが……」
『幽霊とか情緒とかとは縁遠い奴だな。普通のお祓いは効果がなかったんだよな?』
「効果はなく、あっさりと切り伏せられそうになったそうですよ。それでそっち方面の人はあまり動きたがらないとか」
『そうか……』
うーん、と鶴丸は唸る。しばらくした後、申し訳なさそうに告げた。
『すまない、俺の方はさっぱりだ。城下町には最近下りられてないからなあ』
「そうですか……最近流行り始めたばかりだと言う話ですから、最近行っていないなら知らないのも当然ですよね」
『あー……ささくれた心に蒼穹一期の優しさが効くー……もっとばふぁ○んしてくれぇ……優しくされるほど強くなる刀だ俺はぁ……』
「電話切りますよ?」
『待ってくれ待ってくれ冗談だ!!』
本気で慌てた様子の鶴丸に、一期はため息をついた。なんでこう、優しいままでいさせてくれないのか。呆れ気味になっていると、端末越しからそうだ、と声が聞こえた。
『一期、それ次の会の題目にしよう』
「え」
『言っただろう、都市伝説も取り扱うって! まさにぴったりの新鮮な話題じゃないか! 次の会までに多少は調べてこようぜ!』
「ちょっと、もし刀剣男士でも倒せない危険なものだったら――」
『その時はその時だ!』
よし決まりな、明るい声がそう告げる。
幽霊といったオカルトには無論興味がある。しかし、自分に危機が及んで弟たちを悲しませるのは本意ではない。一期は、密かに分からなかったで通そうと決断した。
「いち兄、戻ったぜ」
「ただいまーいちにいー!」
「た、ただいま戻りました……!」
遠くから、薬研と厚、五虎退の声が近づいてくる。非番だった彼らは、城下町に出かけていたのだ。氷雨の鶴丸と仲がいいことは、一応互いの本丸の者には秘密にしてある。一期は、焦りながら鶴丸に言った。
「鶴丸殿、弟たちが帰ってきたので切りますね」
『わかった。次の会までに絶対調べてこいよ! それじゃあまた!』
「ええ……はい……」
――念押しされてしまった。一期は憂鬱な気分で電話を切ると、自室に戻り、机の中に厳重に端末をしまった。引き出しを閉めると、弟たちが障子を開ける。
「いち兄、ただいま。最近根詰めてるみたいだから、滋養強壮にいい薬貰ってきたぜ」
「ありがとう、薬研」
「いち兄、えっと、僕からは栞です。いち兄みたいな、水色のなんですけど、どうでしょう……?」
「すごく綺麗だね。大切に使わせてもらうよ、五虎退」
「いちにい! オレからは戦法書のお土産だ!」
「厚、ありがとう……多くないか!?」
三者三様の土産を渡されて、喜んだり、顔を引きつらせたり。そんな長兄に、ほっとした様子の弟たちは顔を見合わせた後、切り出した。
「いちにい、話があるんだ」
「なんだい厚、改まって……薬研と五虎退も」
「うん。そのな、オレたち……」
厚が大きく息を吸い、高らかに謳った。
「オレたち、城下町の幽霊退治に行こうと思う!」
「……はぁ!?」
厚の宣言に、一期は大きく動揺した。危機が、弟たちの方から飛び込んできたのだ、動揺しない方が無理な話である。
「栂桜亭のばあちゃんが、幽霊に襲われたらしいんだ。漢として、これは放っておけねえよ!」
「……って厚が言って聞かなくてな。まあ、栂桜亭のばあさんにはいつも世話になってるから、安心して外出できるようにはしてやりてえなって」
「えっと、僕も、怖いですけど……でも、おばあちゃんのために、頑張ります!」
三振りは、なかなかにやる気に満ち溢れている。一期は、愕然とすることしかできない。危険なことを避けようと思ったのに、どうして弟たちの方から――!
「だからいちにい、夜間の外出許可、大将にも出してくれるように頼んでくれないか?」
厚がずいっと近づいてくる。薬研も決意に満ちた表情をしている。五虎退も、刀身を握りしめてこちらを見てくる。
真剣な三つの眼差しに何かが折れた音がした一期は、プツンと何かが切れたように、やけになった。
「ああもうわかった! ただし、幽霊退治には私も行く! それでいいね!?」
弟たちは、わあっと声をあげる。いち兄ありがとうございます、さすがはいち兄だ、いちにいがいれば百人力だ、と明るい顔で兄を讃える三振りに、もうどうにでもなれ、と一期は捨て鉢になったのだった。
***
電話が切れた音が響く。氷雨の鶴丸は、端末を懐にしまうと、早速行動を開始した。
まず向かうは審神者のところ。審神者経由で、何か情報が得られないだろうかと考えたためだ。
ドアをノックし、入れ、と入室の許可が出た途端、鶴丸はバンッと勢いよくドアを開け放った。
「主! 城下町の幽霊について知らないか?」
「……いきなりなんだ、ついに頭がイかれたか」
じとっとした視線を鶴丸に向ける審神者。それにめげずに、鶴丸は問いを重ねる。
「なんか少しでも知ってることはないか!?」
その問いに、呆れ果てたように審神者は答えた。
「……はあ。幽霊なんて非科学的なもん、存在するわけないだろう。お前は驚きに釣られすぎなんだ、少しは物を考えて――」
「説教は後にしてくれ! というか、それを言うなら俺たちの存在だって非科学的だろう!?」
うがああ、と喚く鶴丸に、審神者は冷淡に返す。
「お前たちの存在は科学的に解明されている。……ああそうだ、思い出した。鶴丸、
「はあ!? しばらくは
「文句を言うな、急に入ったんだ」
職務机からファイルを探し、鶴丸に差し出す審神者。鶴丸は嫌々ながらもファイルを受け取り、中を改める。内容を見て、鶴丸は目を見開いた。審神者は命令を下す。
「――指令だ。調査部隊を編制し、そこに示された施設を破壊しろ」
鶴丸の手にある紙には、『第八暗影研究所』と書かれていた。