空隙の町の物語   作:越季

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8-5「発見まで」

 時は、少し遡る。

 

「それで、長谷部が蒼穹の一期に『傷付きたくなければ滑莧園に近寄るな』って警告したんだよ。前はほとんど話さなかったのに、凄い成長だと思わないかい?」

「いやあ、ずっと見守っている身としては涙が出ますよ。長谷部さんがいち兄を気遣うだなんて!」

「……うるさい」

「こうやって少しずつ、他の奴らと話せる様になればいいな」

「うんうん、やっぱり長谷部さんは優しい子だねえ」

「うるさいったら!」

 

 春光隊では、昨日長谷部が蒼穹の一期に起こした行動についてで盛り上がっていた。長谷部が一期を気にかけると思われる言動をしたのだ、長谷部以外の春光隊員にとっては宴を催してもいいほどの成長ぶりだった。長谷部は嫌がるだろうが。

 当然、隊員達は氷雨隊と蒼穹隊に起きたことを把握していない。いつもの様に、アットホームな雰囲気を醸し出していた。

 

「友達が増えることはいいことだぜ、長谷部。この調子でどんどん仲良くなっていこう!」

「獅子王、面白がってないか!?」

「そーんなことねーって。……おっ、電話」

「逃げたー!」

 

 ジリリリ、と鳴る電話に走って行く獅子王。長谷部は不本意そうに隅っこの方で機械をいじり始めた。

 獅子王が電話を取る。

 

「ほいほーい、こちら春光隊。要件を聞くぜー」

「獅子王さんの言う通り、どんどん友達増やしていきましょうよ長谷部さん! まずは蒼穹のいち兄からですね!」

「鯰尾!」

「何なら、僕から仲良くしてみようかな。あの一期はなかなかにとっつきやすいし」

「雅は分からねえが、戦略について話すのも手だなあ」

「歌仙、薬研……!」

「彼には色々話を聞いてもらいたいものだねえ。長谷部さんのどの点を見て友達になりたいと思ったのか」

「石切丸まで……! 何で友達になる前提で――」

「――ちょ、おい、落ち着けって!」

 

 獅子王の面を食らった様な大声に、隊員達の会話が止まる。電話先で何かあったのか、ちらちらと長谷部の方を見やっている。長谷部は涙目のまま、獅子王に近付いた。

 

「どうした、獅子王」

「いや、蒼穹の一期からだったんだけど……何か『妹が』とか『蜂須賀が』とか言ってて訳分かんなくて……」

「――スピーカーフォンに切り替えろ。そのボタンだ」

 

 涙を拭い、真剣な顔付きになった長谷部にそう言われて獅子王がボタンを押すと、焦燥に満ちた蒼穹の一期の声が聞こえて来た。

 

『もしもし、聞こえていますか!?』

「聞こえている。何の用だ」

『長谷部殿、良かった……! 今私は、氷雨の蜂須賀殿と共に歴史修正主義者に拉致されています!』

 

 隊員達がざわめき、そして氷雨の蜂須賀、と聞いた長谷部の目の色が変わった。強張った口調で一期に説明を請う。

 

「状況は?」

『今、私は電車内の厠にいます。蜂須賀殿は妹と名乗る歴史修正主義者と一緒です。……蜂須賀殿が持っていた機械を使えば、戻るまではできなくても、電話をすることは可能なのではと思いまして』

「連絡して来た、と。時空座標指定装置があったのか、流石蜂須賀だな」

『それで、長谷部殿なら何とかできるのではと考え、ちょうど春光隊のチラシがあったので、連絡しました。――がざにあのけーきを沢山用意します、どうすればいいかご指示を!』

「……分かった」

 

 長谷部が重々しく頷いても、隊員は声を出さない。ここからは、長谷部の独壇場だ。

 

「周囲に、何か地名の手がかりになりそうな物はあったか?」

『……先程、『鷲ノ原』と書かれていた駅を通り過ぎました』

「後は、時空座標指定装置のシリアルコードを。画面の裏側にある英数字十五文字の羅列だ」

『……6LTWSV4B4W89HK3です。合っているか、自信がありませんが……』

「合っているかは、これから調べる」

 

 そうして長谷部は端末を取り出して、画面を映し出す。数多の世界を映している画面に、長谷部は呟きながらタイプする。

 

「……時空座標指定装置、検索。……シリアルコード6LTWSV4B4W89HK3。……約五十件ヒット。『6LTWSV4B4W89HK3 鷲ノ原』で再検索。……三件ヒット。該当する時空座標は――これだ!」

 

 長谷部は画面に映し出された情報を見ながら、一期に問う。

 

「一期、今から時空座標指定装置に簡単なメッセージを送る。届いたら読み上げろ!」

『はい!』

 

 沈黙の時間が、あまりにも長く感じられた。息を呑みながら、その時を待つ。

 数十秒後、一期が報告する。

 

『……届きました! ……『がざにあのきかんげんていたると』、で合っていますか?』

「よし!」

 

 ――繋がった。長谷部は高速で時空座標をコピーし、その勢いのまま一期に捲し立てる。

 

「報酬はそれだ、いいな!?」

『は、はい! ……そろそろ怪しまれるのでこれにて!』

 

 そうして、電話が切られる。次に長谷部は、ある番号に電話をかけた。しばらくコール音がした後、相手が出る。

 

『……はい、雲霄が一振り、物吉です! 長谷部さん、忙しいので後で――』

「拉致された氷雨の蜂須賀と蒼穹の一期一振がいる時空座標を特定した! 今から送るから、後はそっちで何とかしてくれ!」

『ええ!? 一体どうやって特定を――』

「送った、後は頼んだ!」

『ちょ、はせ――』

 

 ガチャリ、と電話を切る。はあ、と大きく息を吐いてから、長谷部は床に寝そべった。

 

「……お疲れ様、長谷部。今回の功績に免じて、その行儀の悪さは見逃すことにするよ」

「あー、疲れたー……」

「長谷部さん、寝るならお布団で寝て下さい! 体冷えちゃいますよ!」

「動きたくないー……」

 

 拉致事件の陰の功労者は、腕で視界を遮りその場で寝転んでいた。

 

***

 

 電話を切られた雲霄の物吉は、呆然と廊下に立っていた。あんなに苦労しても見つからない二振りの位置を、ぽいっと送り込まれたのだ。そうなるのも無理はない。どうやって特定したのか、いやもう春光の長谷部ならそれくらいできそうな気がする。

 混乱の渦に飲み込まれそうになった物吉は我に帰ると、先程までいた部屋に飛び込み、報告された位置を確認しようとする。

 

「ちょ、物吉どうしたの?」

「電話で何かあったのか?」

 

 それに返事をする余裕も無く、物吉はタイプしながら画面を食い入る様に見ていた。時空座標を入力、そして該当機と接続し――ハッキングする。

 表示されたのは、時空座標指定装置の所有者情報。「氷雨隊蜂須賀虎徹」と映し出された。

 ――ビンゴだ。物吉は机を叩き、宣言した。

 

「氷雨隊蜂須賀虎徹及び蒼穹隊一期一振の位置を特定しました!」

「えっ、今の数分で一体何があったの!?」

「本当ですか、物吉さん!?」

「もしや、電話の相手からか?」

 

 三者三様の反応を見せる。物吉が画面を見せると、次第に三つの顔が真剣になっていく。勢いよく立ち上がり、加州が指示を飛ばした。

 

「平野、蜻蛉切と山伏に出陣の用意をって伝えて! 俺達も用意したら出陣するよ!」

「了解!」

「氷雨隊に伝えた方がいいか?」

「敵の数が未知数だ、戦力は多い方がいい! 氷雨隊にも出陣要請して!」

「分かった」

 

 四振りは部屋の外に出る。物吉と鶯丸は、同じ方向に歩きながら一言交わした。

 

「鶯丸さん。一期さんが無事で、本当に良かったですね」

「……ああ」

 

 鶯丸の手には、端末が握られている。画面に映し出されているのは、チャットアプリの通知だ。

 

『一:わたしもはちすかどのもぶじです。きゅうえんをおねがいします』

 

 鶯丸は安堵の息を吐く。しかし、本当に大変なのはこれからだ。二振りはそれぞれの部屋に飛び込み、出陣準備を始めた。

 

***

 

 次郎から頭を冷やす様にと部屋に放り込まれた氷雨の鶴丸は、ベッドの上に座りながら、激しい焦燥感と暗い不安に駆られていた。友達を助けに行きたい。それなのに、情報が全く入って来ないのだ。感情に任せて隊長と喧嘩してしまったのも、不安を掻き立てられる要因だ。

 ――もしかしたら、部隊から外されるなんてことは……。

 それは我慢ならなかった。蒼穹の一期の無事を、この目でしっかりと確認したい。例え審神者に言われても、それを譲る気はなかった。

 ――一期、破壊されてないよな?

 それはあり得ることだ。何せ相手は、蜂須賀のみに執着していた様なのだから。もし、一期が破壊されていたら? ――鶴丸は、きっと歴史修正主義者を地獄に落ちるよりも無残な目に遭わせるだろう。

 ――長くこの世にあったのに、何て様だろうな。

 ふつふつと湧き上がる憎悪に気が付き、鶴丸は自嘲する。自分がこんなに感情的になるなんて考えもしなかった。他の本丸の自分は、もっと上手く感情を操れるだろうか。

 ピロン、と端末から電子音がした。しまってある引き出しからのろのろと端末を取り出す。調査をしている鶯丸からか、それとも何も知らない江雪からか。そう思いながらチャットアプリを開き――鶴丸は目を見張ることになる。

 

『一:わたしもはちすかどのもぶじです。きゅうえんをおねがいします』

 

 それは、間違いなく蒼穹の一期からのメッセージだった。鶴丸は画面を食い入る様に見つめる。その時、バン、とドアが開いた。

 

「鶴丸、至急執務室に集合! ――蜂須賀が見つかったよ!」

 

 ドアを開けた次郎は、鶴丸にそう言い残して足早に去っていく。ぽかんと口を開けた後、鶴丸は端末をしまおうと立ち上がる。

 

「……くっ、ふふふ、ははははは!」

 

 口から笑い声が突いて出る。緊張と不安から解き放たれた鶴丸は、狂った様に笑い続ける。

 ――よかった、一期は無事だった!

 その気持ちのまま一通り笑った後、鶴丸は頰を叩き、表情を引き締めた。

 恐らくこれから出陣の命が下されるだろう。犯人には、ある程度痛い目を見てもらわなければならない。

 刀を握り、鶴丸は力強く廊下へ踏み出した。

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