「よーし、全員揃ったな! それじゃあ行くぞー!」
「待ちなさい厚!」
深夜〇時、士気高く城下町に進軍しようとする厚を一期は停止させる。
「どうしたいちにい、何か問題でもあったか?」
「いや、士気が高いのはいいことだが……この数は……」
「数? ああ、幽霊退治するって言ったら増えてた」
城下町前に集まった蒼穹隊の刀剣男士たち。その総数、三十一。蒼穹隊に所属する刀剣男士が三十三なので、ほとんどの男士たちが集まったこととなる。
「あれ、はせべさんとつるまるさんはどうしたんですかー?」
「長谷部は主さんの書類の手伝いで忙しくて、鶴丸はなんか体調悪いんだってさ。珍しいよな、鶴丸が体調崩すなんて。残念だよな、この祭りに参加できないなんて!」
長谷部はくれぐれも主に迷惑のかける行為をするなーって言ってたぜ、と愛染国俊は話す。今剣はふうん、とあまり関心を示さなかった。
長谷部と鶴丸がいなくても数は三十一いるのだ、ちょっとした遠足の集団のような賑やかさになっていた。
「高ぶるねえ……士気のことだよ?」
「城下町の平和のためにも、力を尽くしましょう」
一期が声のする方を見やると、にっかり青江や太郎太刀も、それぞれの意気込みを見せていた。幽霊切りの刀や御神刀がやる気を出しているのだ、もう彼らだけでいいんじゃないのか、という感想を抱く他ない。
「城下町では、手分けして幽霊を探す。城下町の噂が確かならオレたちでも倒せるけど、一応見つけたら青江や太郎さんにも支援に来てもらうようにしてくれ。それじゃあ皆、行くぞ!」
おお、と男士たちの鬨の声があがる。一期も力なく、腕を持ち上げたのだった。
***
時は遡り、午後一時。氷雨隊本丸の正門に、刀剣男士たちが集まっていた。へし切長谷部、小夜左文字、にっかり青江、堀川国広、鶴丸国永、次郎太刀の六振りである。
「よし、全員揃ったな。これより、『第八暗影研究所』の調査及び破壊作戦を行う」
「あ、長谷部さん、その前にいいですか?」
堀川が手を挙げた後、ぺこっと頭を下げる。
「新たに調査部隊に配属になった堀川国広です。
「よろしくな」
「……よろしくお願いします」
「フフ、新入りって響き、何度聞いてもいいよね」
「そーんなに畏まらなくたっていいよ! これから一緒にやってくんだ、仲良くしようじゃないか!」
堀川のあいさつに隊員がそれぞれの歓迎の意を示した後、隊長の長谷部が忠告する。
「この調査部隊は、危険な任務も多くこなす。当然、破壊されるのも覚悟の上で挑むことになる。政府のために、ひいては主のために、身を粉にして働いてもらうぞ」
「はい!」
「普通、逆じゃないのか? なあ、小夜坊」
「鶴丸さん、余計なことは言わないほうがいいですよ」
長谷部がひそひそと囁きあう鶴丸と小夜を睨む。おっと、と身を正し、鶴丸は作戦の説明を待った。
――調査部隊。それは、通常の任務である時間遡行軍の討伐以外の、反逆者の『処理』や政府の背後にある『闇』への協力など、いわゆる汚れ仕事を行う特殊部隊である。
政府は逆徒にならないと判断した者を選出し、『歴史改竄阻止計画』の妨げになる物たちを排除させるのだ。当然、任務内容には重要機密が含まれることが多い。破壊まで追いつめられることも多い調査部隊の中で、氷雨隊のそれは破壊数が圧倒的に少なく、非常に優秀な戦績を修めている。そのため、氷雨隊の審神者は計画を守るものとしての自負がとても強く、周囲と衝突することも少なくないのだが、それはまた別の話である。
おほんと、一つ咳ばらいをした長谷部が、ファイルを取り出し今回の作戦の概要を話し始める。
「先ほども言ったとおり、今回の任務は『第八暗影研究所』の調査及び破壊だ。どうも最近、ここの周囲に不審な物体が現れるといった報告が多いらしくてな。第八暗影研究所には重要機密を取り扱っている研究室もあった。物体が何であろうが、正体を見定め、排除し、重要機密にまつわる物を回収していけ。内容が分からないものでも回収せよとの命が出ているので、帰りは大荷物になるだろう。その点を留意しておくように」
「長谷部さん、質問です」
「堀川、なんだ?」
堀川が挙手をして、発言の許可を求める。長谷部の許可を待って、堀川は尋ねた。
「不審な物体について、もう少し詳しく知りたいです。政府から何か情報は届いていますか?」
「そうだった。その説明を忘れていたな」
堀川の指摘に、長谷部ははっとしたように付け加えた。
「物体は全身が黒く、手では掴むことができない。その姿は陽炎のようにゆらゆらと揺らめく、と書いてあるな」
「……ねぇ青江、これってさ……」
「どう考えても幽霊だよねぇ」
訝しげに呟く次郎太刀に、青江は肩をすくめて答える。鶴丸は、ぱあっと目の前が明るくなり、さらに機嫌が上昇するのを感じた。任務で幽霊の調査ができなくなったと思ったら、幽霊が任務として現れたのだ。頬が緩まずにはいられない。――ありがとう主、ありがとう政府!
「鶴丸国永、なにをにやけている」
「ん? いや、なんでもないぜ」
にやにやと笑みをこぼす鶴丸を、長谷部は鋭く睨みつける。そうして、お灸をすえんと鶴丸に向かいなおす。
「全く、貴様は気が緩みすぎている。重要機密が敵の手にでも渡ったら、戦況は大いに不利になるのだぞ。気を引き締めてかからんといかんのに貴様と来たら――」
「わかった、わかった。この鶴丸国永、きっちりと任務をこなさせていただくぜ。だから説教はもういい」
「貴様の軽い態度は信用ならんが……言質は取ったぞ」
――あ、これ現場でこき使われるやつだ。顔をひきつらせた鶴丸は先ほどの宣言を撤回したくなった。次郎太刀が大きく伸びて、のんびりした口調で言う。
「帰ったら酒が飲みたいねぇ」
「フフ、僕もご一緒させてもらっていいかな?」
「おっ、いいねぇ。俺も参加させてもらうぜ。小夜坊も呑もう!」
「えっと、僕は……」
「いいですね、宴会。僕おつまみ作りますよ!」
「貴様らぁ!!」
こうして、調査部隊は気が緩んでいるのか引き締まっているのか曖昧なまま、本丸を発ったのだった。